経済見通し

2015年も経済成長の向かい風が吹き続けるアジア

​アジアでは、予想される更なる政策支援、コモディティ価格の大幅な下落、米ドルの大幅な上昇という3つの共通のテーマが、地域全体に影響するとPIMCOではみています。日本が引き続き流動性の罠からの脱却に取り組み、中国が信用拡大や投資への依存度の低い成長モデルへの移行を試みているのに対し、オーストラリアでは依然として所得と内需が鉱業セクターに強く依存しています。PIMCOの短期見通しを踏まえると、豪ドルのイールドカーブの中期ゾーンのポジションは比較的金利リスクが限定的なようであり、また、日本ではイールドカーブのフラット化を予想するポジションが選好されるほか、2015年は、円と豪ドルを対米ドルでアンダーウエイトとするポジションが、ファンダメンタルズ面やテクニカル面から下支えされるでしょう。

下のインタビューでは、エグゼクティブ・バイス・プレジデントでシドニーを拠点とする債券ポートフォリオ・マネージャーのアダム・ボウ、マネージング・ディレクターで日本の運用統括担当者の正直知哉、マネージング・ディレクターでオーストラリアの運用統括担当者のロバート・ミードが、12月に開催された四半期に1度のPIMCO短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)からの結論と、その結論がPIMCOのアジア・パシフィック地域の見通しと投資戦略に与える影響についてご説明します。

問: アジア地域で2015年に注目しているテーマを教えてください。
ボウ: PIMCOでは、アジア地域を取り巻く環境は、各国が引き続き国内の経済問題に取り組む中で、厳しい状況が続くと予想しています。日本が引き続き流動性の罠からの脱却に取り組み、中国が信用拡大や投資に対する依存度の低い成長モデル(および経済成長率)への移行を試みているのに対し、オーストラリアでは依然として所得と内需が鉱業セクターに強く依存しています。一方、今後も各国がそれぞれに直面するこのような長期的な課題に加えて、来年は3つの共通のテーマがアジア地域全体に影響するとPIMCOではみています。

第1のテーマは、政策当局が引き続き経済成長を後押しする中、アジア地域で予想される更なる政策支援の効果です。第2のテーマは、2014年後半にコモディティ価格が大幅に下落したことの副作用です。第3のテーマは、米ドルが大きく上昇した影響です。これらのテーマに起因して、アジア諸国は勝者と敗者に分かれました。最大の勝者と言える日本では、さらに積極的な財政、金融面での拡大政策、原油の輸入価格の下落、大幅な円安を背景に、これらのテーマの恩恵を短期的に強く受ける可能性が高いようです。これに対して、最大の敗者と言えるオーストラリアでは、緊縮財政の継続、追加利下げに対する中央銀行の消極的な姿勢、鉄鉱石の輸出価格の大幅な下落に起因して継続する国民所得の減少圧力が豪ドルの下落によって部分的にしか相殺されていない状況を背景に、ほとんど恩恵が享受できない見通しです。

問: 中国はどうでしょうか。来年は中国人民銀行(PBOC)が金融政策による支援を積極化すると期待するべきでしょうか。
ボウ: PBOCは11月に政策金利を引き下げましたが、これは2012年以降で初めてのことであり、また、成長鈍化とインフレ低下に対する政策当局の対応は、引き続き慎重かつ事後的な対応に終始しています。実際、中国における2014年後半の重要な出来事は、政策当局が(1)経済成長トレンドの鈍化を許容すること、(2)大規模な刺激策を控えること、(3)構造改革に注力することという3つの政策のテーマを明示的に掲げたことでした。

また、PIMCOでは、中国は2015年の国内総生産(GDP)の成長率の目標を7.5%から7.0%に下方修正することによって、このような新たな現実を受け入れると予想しています。このような慎重な政策スタンスは、マクロ経済の下方リスクの緩和を目標とするものです。PBOCは来年、金融を緩和するために政策金利をさらに引き下げる見通しであり、また、財政を追加的に拡大する余地はあるものの、信用拡大サイクルの鈍化を反転させることを目指した大規模なリフレ政策は予想されません。

世界最大のコモディティ消費国である中国にとって、原油と鉄鉱石価格の急落が総合的にプラスに作用することは明らかであり、このように交易条件が改善することによってインフレは低下し、国民所得は増加するでしょう。これに対して、政策当局は人民元の対米ドル相場を高い水準に固定し、為替介入を概ね控えてきました。その結果、人民元は実質実効ベースで大きく上昇し、交易条件が改善した効果をいくぶん帳消しにするとともに、輸出競争力を制限しています。

政策当局が経済成長の緩やかな鈍化を容認するようになってきたことから、不動産市場の調整局面が長期化し、企業のレバレッジが過大な水準にある状況に鑑み、来年の中国のGDP成長率はコンセンサスを下回る6~7%になるとPIMCOでは予想しています。

問: アベノミクスの成果は概ね功罪相半ばといったところですが、2015年はどのような展開が予想されるのでしょうか。
正直: PIMCOでは、日本のGDP成長率は短期的には潜在成長率を超える水準まで回復するものの、依然としてコンセンサス予想である1.5%程度に近い水準にとどまると予想しています。また、インフレ率は日本銀行の政策目標である2%を大きく下回る状態が続き、年末時点では、今年4月の消費税増税の影響を除くベースで1%に近い水準になると予想しています。

最近では、4つの出来事が日本の短期見通しの改善に寄与しています。第1に、日銀は10月の政策決定会合において大胆な追加緩和を決定し、インフレ・ターゲットに対する強いコミットメントを示しました。その後の大幅な円安によって、最近の原油価格の下落や消費税増税後の経済成長率の低迷の影響を受けて低下していたかもしれないインフレ期待は、押し上げられる見通しです。第2に、12月14日の解散総選挙において安倍首相が勝利を収めたことも、日本の経済成長にとってプラス材料です。政治の安定は政策や経済成長にとって重要な条件であり、安倍首相はこの条件をクリアしました。

第3に、安倍首相は、2回目の消費税増税のタイミングを当初予定された2015年10月から2017年4月に先送りしました。消費税増税はアベノミクスに基づく政策ではなく、前政権の政策だったことに留意することが重要です。安倍首相は、今回の選挙で勝利を収めた結果、経済がより安定するまでは、財政当局がさらに政策を引き締めようとする動きを拒否できるようになるでしょう。長期的には、財政の持続可能性を回復する必要があることは論を俟ちませんが、そのためにはまずはデフレを克服しなければなりません。このため、リフレ政策が柱となって来年の経済成長を下支えする見通しであることは、日本にとってプラス要因と言えます。第4に、最近のコモディティ価格の下落は、交易条件の改善を通じて日本の経済成長をさらに下支えするでしょう。

問: このように良好な環境の中で、PIMCOの日本の経済成長見通しはなぜコンセンサスよりも楽観的ではないのでしょうか。
正直: 短期的なリフレ政策が総動員されていることは事実ですが、構造的かつ長期的な向かい風や困難な初期条件の存在を背景に、民間セクターの反応は依然として限定的です。労働需給が逼迫しているにもかかわらず、労働生産性の改善ペースが遅いことを反映して、賃金の伸びは引き続き緩慢です。また、家計の資産運用スタンスが非常に保守的であることから、株価上昇に起因する資産効果も限定的です。さらには、輸出企業にとっての円安効果も、製造業のかなりの部分が生産設備を海外に移転し、空洞化が進んでいるため、従来よりも限定的なようです。

問: オーストラリア経済と、オーストラリア準備銀行(RBA)の向こう数カ月間の政策スタンスの見通しを教えてください。
ミード: オーストラリア経済は、コモディティ価格の下落が交易条件の悪化を通じて名目GDP成長率を押し下げていることや、鉱業以外への分野へのシフトが近年ほとんど進んでいないことを理由に、急速に悪化しています。豪ドルは、コモディティ価格の下落と足並みを揃えて、9月のピーク時から対米ドルでは13%近く下落したものの、貿易加重指数(TWI)対比では8%の下落にとどまったため、輸出競争力の改善は限定されています。

オーストラリア経済では、住宅建設が明るい分野の1つでしたが、首都圏の地価が大幅に上昇したことを受けて、持ち家の購入ではない、不動産の投機的なレバレッジ投資の抑制を目的とするマクロ・プルデンシャル政策が導入されました。PIMCOでは基本シナリオとして、RBAは政策を据え置くとみていますが、豪ドルの下落が止まり、マクロ・プルデンシャル政策の効果が表れた場合には特に、追加緩和が実施される可能性も残されています。足元の市場価格から判断すると、金融市場は現在、追加緩和を期待しているようです。

問: アジアに関するPIMCOの短期見通しは、投資にどのような意味を持っているのでしょうか。
ミード: グローバル債券を短期的にアンダーウエイトとすることが望ましい環境において、オーストラリア経済が短期的に直面する向かい風について考えると、豪ドルのイールドカーブの中期ゾーンのポジションは比較的金利リスクが限定的なようです。また、日本では、現在の円金利の水準と日銀の買い入れプログラムの想定される性質を考慮すると、イールドカーブのフラット化を予想するポジションが選好されます。

通貨に関しては、2015年は、円と豪ドルを対米ドルでアンダーウエイトとするポジションが、ファンダメンタルズ面やテクニカル面から下支えされるでしょう。日銀の政策に加えて、日本の投資家がポートフォリオをリバランスする動きが、引き続きテクニカル面で円安要因になるでしょう。また、交易条件の悪化を背景に豪ドルが下落することが、オーストラリア経済に不可欠な再編と輸出競争力の改善の前提条件になるでしょう。

著者

Adam Bowe

債券ポートフォリオ・マネージャー

Tomoya Masanao

アジア太平洋共同運用統括責任者

Robert Mead

アジア太平洋共同運用統括責任者

関連コンテンツ

ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。本資料で紹介した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。