経済見通し

地政学的な不確実性と世界経済

FRB前議長のベン・バーナンキ氏をはじめ、世界的に著名な外部専門家から構成されるグローバル・アドバイザリー・ボード(GAB)のメンバーが、グローバル経済の見通し及び地政学的な変化について議論しました。

界的に著名なマクロ経済の専門家や政策当局の経験者で構成されるPIMCOグローバル・アドバイザリー・ボード(GAB)は、最近の会合で世界経済および市場に影響を与えている要因について議論しました。GABの見識は、PIMCOの投資プロセスにおいて貴重な判断材料となります。本資料では、多岐にわたる議論の概要をご紹介します。

質問:最も懸念される地政学的リスクは何ですか。

GAB:国家と非国家双方の役者が、これまで以上の波乱と脆さが標準化しつつある国際環境を生み出しています。

国家においては多極化が進んでいます。米国が外交、安全保障、通商の各分野で、世界的なリーダーの地位から降りつつあるなか、その隙を突いて中国やロシアが攻勢を強めています。また、特に中東において新たな勢力が台頭しつつあり、米国の後退でイランとロシアがより積極的な役割を果たすようになり、トルコもその座をうかがっています。

北朝鮮情勢は引き続き重大な懸念材料です。中国も米国も外交的な解決策を見い出す必要があることは認識していますが、中国には解決を遅らせるインセンティブがあり、ロシアの存在が状況を複雑にしています。瀬戸際政策は誤算のリスクを高めます。

状況をより複雑にしているのが、国家以外の役者です。特にテロリスト集団のネットワークは今後も脅威であり続けるとみられ、サイバー攻撃は常態化しつつあります。さらに、(2017年のハリケーン・シーズンに目の当たりにしたような)異常気象と伝染病は、国際社会が対応しきれない広範な影響を及ぼす恐れがあります。

質問:こうしたリスクは、過去10年でどのように変化したのでしょうか。

GAB:最大の変化は、反グローバル化、ポピュリズムの高まりです。こうした動きは、政治的にはナショナリズムを推進し、国際協力を弱体化させます。経済的には、貿易、移民、経済統合を阻害する一方、政治目的を達成するために財政政策が多用され、その必要がない循環局面でも財政出動が行われることになります。

波はあるでしょうが、ポピュリズムは今後も先進国と一部の新興国で、重要な政治的潮流であり続けるとみられます。

質問:第19回共産党全国大会を終えた中国経済の見通しについてお聞かせください。

GAB: 習近平総書記は、中国の国家主席としての地位を固めています。既存の政治指導体制を尊重しつつも、実際には権力を集中しており、経済や金融市場に大きな影響を与えています。

習政権は2つの重要目標を掲げています。2035年までに中国がイノベーションで世界をリードし、法の支配に基づくソフトパワーを発揮すること、(中華人民共和国の創立100周年)の2049年までに、中国が完全な先進国となり、豊かな強国になることです。経済成長目標の重要性は変わりませんが、これらのより広範な定性的目標の優先順位が高くなっています。

これらの目標の達成は、「トゥキディデスの罠」を避けられるかどうかにかかっています。トゥキディデスの罠とは、新興国家は従来の覇権国家(この場合は米国)との衝突が避けられないとする考え方です。中国が平和裏に台頭することは、中国にとっても国際社会にとっても利益に適うことであり、経済と政治の安定に寄与します。貿易の不均衡は引き続き政治的な障害とはなりますが、全面的な貿易戦争に発展する可能性は低いでしょう。実は、米国が内向きの姿勢を強める中、中国が世界貿易体制を支持する主要国となりつつあり、気候変動抑制などの分野でも存在感を発揮しています。

中国の高い債務水準と、広範なシャドーバンキングのシステムがリスクになる可能性がありますが、足元では、信用の伸びの鈍化と合理化が進み、国有企業の改革が進展するなど、前向きな兆候が見られます。また、中国指導部は、安定的な為替レートの維持にも注力しているように見えます。これらを総合すると、向こう10年の中国経済は安定的に推移するとみられます。ただし、経済のデレバレッジが進み、重工業中心からサービス中心へと調整が図られることから、成長率は低下するでしょう。

質問:米国経済が拡大する余地はどのくらいあるのでしょうか。

GAB: 現在9年目の景気拡大がまもなく終了するという明白な理由は見当たりません。最近、ハリケーンに見舞われましたが、米経済は堅調です。雇用創出は力強く、住宅市場は引き続き健全で、実質資産価値は金融危機前のピーク時を大幅に上回っており、これらすべてが家計を支える材料になるとみられます。よく言われる ことですが、期間が長くなったからといって、それだけで景気拡大が終わるわけではないのです。

歴史的にみると、米国の景気拡大を 終わらせたきっかけとして2つの要 因が挙げられます。1つはインフレであり、利上げによる対応で景気後退 を招きました。もう1つが金融の不安 定性です。現状では、コア・インフレ率は依然としてFRBの目標を下回っており、(利上げとバランスシートの縮小による)金融政策の正常化に対するFRBの慎重かつ漸進的なアプ ローチは、新体制になっても継承されるとみられます。

金融不安定性は予測が難しいものですが、全体的にみて米経済は過度 な借入に依存しているわけではあり ません。そのため、たとえば株式市場が下落した場合、景気はやや減速するでしょうが、深刻な景気後退につながる可能性は低いと考えられ ます。

質問:現時点で、米国の減税や税制改革が景気拡大に及ぼす影響を教えてください。

GAB: 前述のように、財政政策は世界的に経済サイクルよりも政治サイク ルに引きずられているのが現状で、米国もそうなっています。しかしなが ら、政治的な制約から、税制の抜本的な改革や大幅な減税を実現することは困難だとみられます。したがって、短期的な景気とFRBの政策運営方針への影響は軽微にとどまるでしょう。

質問:ポピュリズムは欧州でピークに達したのでしょうか。

GAB: ポピュリスト政党は、オランダ、 ドイツ、フランスの主要な選挙で敗北したものの、過去に比べて得票率 を伸ばしています。短期的には期待に応えられなかったかもしれませんが、これらの政党を支持する根本的 な理由がなくなったわけではありま せん。ポピュリストが多くの政府をコ ントロールする可能性は低いでしょ うが、当面、影響力を持ち続けるで しょう。

欧州大陸のポピュリズムは、必ずしも 欧州連合(EU)を標的にしているわ けではありません。たとえばドイツでは、反EUとして始まった動きが、今ではもっぱら反移民運動になっています。同様に、フランス大統領選の第2 回投票でも明らかになったように、通 貨ユーロやユーロ圏への国民の支 持は依然として底堅いものがあり ます。

質問:通貨同盟は次の景気後退局面を生き延びることができるでしょうか。

GAB:ユーロ圏の将来に対する懸念 は行き過ぎです。通貨同盟は、金融危機とその後の不況を乗り越え、この間、加盟国を増やして来ました。現状では、構造改革と金融政策を支えに、持続的な経済成長と雇用創出が見込まれています。インフレ率は依然として低いものの、デフレのリスクは過去のものになりました。

だからといって、何の問題もない、というわけではありません。今後、景気が後退した場合、欧州中央銀行(ECB)が政策金利を引き下げる余地はほとんどありません。さらに、銀行同盟は完全にはほど遠く、預金保険制度や不良債権問題を巡って課題は山積しています。欧州の指導者は、さらなる構造改革と財政統合の拡大を引き続き慎重に進める必要があります。

質問:英国のEU離脱は、英経済にどのような影響を与えるのでしょうか。また、EU離脱が実現しない可能性はあるでしょうか。

GAB:国民投票以来、経済情勢はやや悪化し、政治的に不安定になったにもかかわらず、EU離脱の是非について意見を変えた国民がほとんどいないように見受けられるのは興味深いことです。英国のEU離脱が見直されるには、EU加盟をめぐる4つの主要課題――移民政策、EU予算、EU裁判所および規則の役割、貿易協定――のうちの1つについて、形勢を一気に逆転する「ゲーム・チェンジャー」、つまり妥協ないし新たなアプローチが見られる必要があります。ただ、こうしたゲーム・チェンジャーが見つかる可能性はかなり低いでしょう。その間にも、移行計画は今後数カ月のうちに明確になるはずで、英国は「ルールの制定者」ではなく「ルールの受容者」になる可能性が高いでしょう。

英国のEU離脱は、イングランド銀行の政策に明らかに影響を及ぼしています。2016年の国民投票後、イングランド銀行は経済が縮小するとみて、利下げを実施しました。しかし、現在のイングランド銀行は、利上げの根拠として、景気拡大と、目標水準を上回るインフレ率、労働市場の緩みの縮小を挙げることができます。とはいえ、利上げがあるにしても、利上げサイクルの始まりではなく、再調整の意味合いが強いとみています。EU離脱がイングランド銀行と英経済に及ぼす長期的な影響は、依然として極めて不透明です。

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