経済見通し

エマージング市場では二極化がさらに進む見通し

PIMCOでは基本シナリオとして、2016年第1四半期までの期間については、ブラジル、ロシア、インド、メキシコの経済成長率は全体として前年比1.5~2.5%となり、特にブラジルとロシアでは需給ギャップがマイナスになると予想しています。PIMCOでは基本シナリオとして、米連邦準備制度理事会(FRB)が予見可能な範囲で段階的に出口戦略を進めた場合には、エマージング市場全体としてこれを乗り切ることができる公算は大きいものの、途中、ボラティリティが上昇したり突発事由が発生したりする可能性は否定できないとみています。PIMCOでは、さまざまな国、クレジット、市場に関連する厳選した投資機会に注目しています。

PIMCOでは四半期に一度、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルがニューポートビーチに集まり、世界経済と金融市場の見通しについて議論をします。以下のインタビューでは、PIMCOのエマージング市場の短期見通しについて、ポートフォリオ・マネージャーのマイケル・ゴメスとルピン・ラーマンが語ります。

問:エマージング市場の経済成長とインフレについてのPIMCOの見通しを教えてください。
ラーマン:エマージング諸国の間には、初期条件、コモディティへの依存度、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策や米ドルの変動に対する感応度などの点において違いが存在していることを踏まえると、向こう数四半期の間に経済成長がさらに二極化する可能性が高いと考えられます。PIMCOでは基本シナリオとして、2016年第1四半期までの期間については、ブラジル、ロシア、インド、メキシコのBRIM4カ国全体の経済成長率は前年比1.5~2.5%となり、特にブラジルとロシアなど、ほとんどの国では需給ギャップがマイナスになると予想しています。また、BRIM諸国のインフレ率は前年比6.0~7.5%程度になると予想していますが、この予想には上振れリスクが伴います。全体としては、国ごとの違いが拡大する見通しであり、アジアや東欧のコモディティ輸入国がエネルギー価格の下落に起因するディスインフレに直面する一方で、コモディティ輸出国は自国通貨安を背景にインフレが高止まりする中でスタグフレーション的な圧力を受ける可能性が高いとみています。

問:米国の経済政策の正常化と米ドル高の流れは、エマージング市場にどのように影響するのでしょうか。
ゴメス:歴史的に見ると、FRBの引き締めサイクルにおいてはエマージング市場のボラティリティが上昇する傾向があり、2013年の「テーパリング癇癪(量的緩和縮小に対する市場の過剰な反応)」に際してエマージング市場が極めてネガティブに反応したことを思い起こすと、FRBが最終的に利上げに着手した場合に同市場はどの程度の耐久性を発揮するのかと、投資家が考えるのも当然のことでしょう。PIMCOでは基本シナリオとして、FRBが予見可能な範囲で段階的に出口戦略を進めた場合には、エマージング市場全体としてこれを乗り切ることができる公算は大きいものの、途中、ボラティリティが上昇したり突発事由が発生したりする可能性は否定できないとみています。

このような見方を裏付けるのは、今回のサイクルの入口時点において、ほとんどのエマージング諸国では、従来よりも外貨準備高のバッファーが大きく、対外債務残高が小さく、為替レートの柔軟性が高いため、「リスク・フリー金利」の上昇や米ドル高の長期化見通しに対する備えが比較的整っていたという現実です。また、政策の枠組みは以前に比べて全般に堅固になっていることから、いくつかの国では、自国通貨が弱含み、FRBによる利上げが予想される中でも、中央銀行が循環的な動きに対処するための利下げを実施する余地が残されています。この点は、過去の事例とは大きく異なります。

とはいえ、近年、世界中で流動性が潤沢に供給された結果、一部ではバブルの兆しも見受けられます。たとえば、2008年以降、中国経済のレバレッジは拡大しており、また、より一般的には、エマージング企業のバランスシートでは財務レバレッジが上昇しています。このような側面には注目する必要があり、PIMCOでは、脆弱性が潜む分野をはっきりと見極めるため、ボトムアップ分析に注力しています。また、欧州とアジアのエマージング諸国が欧州中央銀行(ECB)と日本銀行の量的緩和政策に下支えされる可能性が高いのに対して、ラテンアメリカのコモディティ輸出国は脆弱な状態が続くなど、地域間格差が拡大すると予想しています。

問:メキシコ経済と米国経済の間には従来から高い相関関係が存在しています。メキシコはFRBがゼロ金利政策から脱却する動きをどのように乗り切るとPIMCOではみているのでしょうか。
ラーマン:メキシコは、金融危機以降の期間を比較的うまく乗り切っており、足元では構造改革計画を着実に進めています。経済活動の弱さや物価の下落、一貫した緊縮財政政策の持続的な影響を示す最近の経済指標を背景に、中央銀行はハト派的なスタンスをとっています。これらの国内要因に加えて、ペソの下落や金融システムの安定化に対する配慮が、メキシコ中銀による政策金利の判断を左右する可能性が高いでしょう。PIMCOでは基本シナリオとして、メキシコ中銀は、最近のコメントからもうかがえるように、政策を転換する際には市場に対して適切なメッセージを送り、FRBとも足並みをそろえるとみています。それにもかかわらず市場がネガティブに反応した場合にも、メキシコ政府は、為替介入の拡大、国際通貨基金(IMF)やFRBの融資枠の利用、国内債務の買い戻し、その他の政策手段などの政策面でのバッファーを十分に確保しています。

問:エマージング市場はコモディティ価格の下落に対応できたのでしょうか。
ラーマン:PIMCOのボトムアップ分析では、すでに多くの輸出国が、当初のショックをある程度緩和するために自国通貨の下落を許容するとともに、2015年度予算においてコモディティ価格をより保守的な水準に設定するなど、財政収支の改善に着手している様子がうかがえます。もっとも、一部には、コモディティ価格の下落をより長期的な衝撃として認識するには至らず、財政支出や為替レートに関する厳格な方針を緩和することに前向きではない国も存在します。

一方、コモディティ輸入国の中では、多くの国がコモディティ価格の下落に素早く対応してきたようであり、一部では、国内のエネルギー消費向けの補助金が財政収支に与える悪影響を緩和するため、価格の下落局面を積極的に活用する動きも見受けられます。これらの国は、原油価格の下落に起因する経常赤字の縮小や財政収支の改善という恩恵をすでに享受しており、その結果、通貨を下支えする力が強まっています。

この先数四半期にわたって、輸入国、輸出国ともさらに対応を進めるとPIMCOでは予想しています。一方では、コモディティ価格の下落を困難な構造改革を行う好機としてとらえようとする国と、他方では、より近視眼的な観点から価格下落の衝撃を短期的な現象として和らげようとする国に分かれるでしょう。

問:PIMCOでは全般にロシアについてどのようにみているのでしょうか。楽観できる分野は存在するのでしょうか。
ゴメス:原油価格の下落や地政学的な緊張に起因する制約を踏まえると、ロシアは引き続き困難に直面する可能性が高く、これらの問題が近い将来に解決する兆しはほとんど見られません。PIMCOでは、ロシアは深刻な景気後退に陥り、インフレ率は10%台半ばまで上昇すると予想しています。もっとも、経常黒字と既存の外貨建て資産を活用することによって、ロシアは今後も対外債務の返済を続けることができるでしょう。この基本シナリオは、ロシアの金融環境が比較的落ち着いた状態で推移し、ウクライナ東部の情勢が、時として軍事衝突が発生するにしても、現状のまま続くことを前提としています。このシナリオには、ポジティブ、ネガティブ両方のテール・リスクが伴うことは認識していますが、ロシア関連の資産の価格を見る限り、市場の見方はレフト・テール・リスク(ネガティブ・シナリオ)に偏っているようです。このため、フリーキャッシュフローの創出能力が高い発行体を中心に、投資機会が存在するとみています。

問:ブラジルは先行きに多くの課題を抱えつつも改革を進めているようです。新しい経済チームによる改革に向けた取り組みによって、2016年には経済成長を回復することができるのでしょうか。
ラーマン:PIMCOでは、ブラジルにとって2015年も困難な年になると予想しています。電力消費量割当制度が導入される可能性、ペトロブラスの経営危機、コモディティ価格の下落への対応といったマイナス要因がマクロ経済リスクに重なるためです。基本シナリオとして、0.5~1%程度のマイナス成長を予想していますが、コモディティ価格の下落を背景にエネルギー・セクターにおける投資や外需が縮小する可能性に鑑みると、この予想には大きな下振れリスクが伴います。一方、規制価格を引き上げる動きが続き、また、最近の通貨安が物価に影響を与える中で、インフレ率は政策目標の上限である6.5%を上回る水準で高止まりする見通しです。このようにマクロ経済情勢が厳しいことに加えて、政治情勢もさらに困難であることから、2016年以降もブラジル政府に対する信任を強めてビジネス環境を改善するためには、財政再建計画の重要性がさらに高まるでしょう。

ジョアキン・レヴィ財務相は、裁量的支出の削減などの短期的な政策に合わせて歳出、税制改革を推進することによって、当初発表した内容に近い財政再建策を進めるとPIMCOでは予想しています。中央銀行に対する信頼が改善して、為替レートが柔軟かつ合理的な水準に向けてシフトする中で、財政再建が実現すれば、足元で積み上がった不均衡は大きく改善され、中期的な経済成長にいずれは大きく寄与することになるでしょう。

問:PIMCOのエマージング市場の短期見通しは投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか。
ゴメス:総じていえば、現在の環境を踏まえると、今後は、エマージング市場という資産クラスへの投資を検討する際には厳格に差別化する姿勢が必要であり、PIMCOでは、さまざまな国、クレジット、市場に関連する厳選した投資機会に注目しています。なかでも、通貨には、マクロ経済の調整機能としての役割に鑑みると、今後も大きな脆弱性が伴う見通しですが、投資妙味があると考えるのは、米ドルのリスクを排除するために米ドル以外の主要通貨建てで調達した資金を用いて構築された、複数のエマージング通貨、なかでもすでに大幅に調整の進んだ通貨のロング・ポジションから構成される、配分を厳選した通貨バスケットです。一方、現在のバリュエーションを踏まえ、全般にデュレーションには引き続き慎重であり、その代わりに、諸材料が価格に完全に織り込まれた印象のある中核国の債券のショートとエマージング債券のロングを組み合わせるポジションを選好しています。このほか、堅固なバランスシートを有するソブリンや民間企業は、コモディティ価格の下落や各国の中央銀行の政策の二極化に象徴される現在の世界情勢の中で、比較的安定しているとみていることから、そのクレジットには引き続き注目しています。

著者

Michael A. Gomez

エマージング市場ポートフォリオ・マネジメント・チームの統括責任者

Lupin Rahman

ソブリン・クレジットのグローバル統括責任者

ご留意事項

「リスク・フリー」金利とは、理論上はリスクを伴わない投資におけるリターンと見なすことができます。従って、追加的なリスクには追加的なリターンが伴うということを暗に示しています。

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。

言及されている特定の証券及びその発行体については、売買や保有継続の推奨を目的としたものではありません。PIMCO商品および戦略に言及された証券を保有している場合がありますが、その場合においてかかる証券を保有し続けることを表明するものではありません。