経済見通し

PIMCOグローバル・アドバイザリー・ボード(GAB)のマクロ経済見通し - 政策転換期における経済成長​​​​​​​​​

世界的に著名なマクロ経済の専門家や政策当局の経験者から構成されるPIMCOグローバル・アドバイザリー・ボード(GAB)の5人のメンバーは、5月に行われたPIMCOの年次長期経済予測会議の議論に参加し、向こう3~5年間にグローバル経済に影響を与える可能性が高い重要な要因について検討しました。GABの見識は、PIMCOの投資プロセスにおいて貴重な判断材料となります。本資料では、多岐にわたる議論の概要をご紹介します。

問 : 長期的にみると、中国情勢がグローバル経済を左右する可能性が高いようです。中国の政策と経済成長の見通しについて説明してください。

GABメンバー : 習近平国家主席の政治的地位が、今秋の共産党第19回全国代表大会の後に強固なものになる公算が大きいでしょう。同主席は、自らの足跡を残すために2つの重要な超長期的目標を掲げています。すなわち、2022年の退任時までに低所得の先進国としての地位を確立することと、共産党結党100周年にあたる2049年までに、最先端の先進国としての地位を確立することです。目標を達成するためには、年率5~6.5%程度の経済成長が必要になるでしょう。その一方で、低コストの製造業主導経済からの転換、中所得国の罠からの脱却、金融システムにおけるレバレッジおよびリスクの削減、人民元の急速な下落の回避、政治的安定の維持、健康、住宅、教育、気候、雇用に関する国民の期待への対応が求められるでしょう。これらの目標を達成することは、いずれも容易ではないとみられます。

習国家主席は当面の間、改革への取り組みよりも安定性と、成長の質が低くても経済成長を優先する可能性が高いでしょう。しかしながら、GABの予想通り今秋に権力の集約に成功すれば、経済成長見通しの引き下げや改革の加速が可能になるとみられます。従って、中国経済が改革の推進や信用拡大の歯止めに伴う景気の下押し圧力を回避できないリスクは、依然として残されています。とはいえ、中国政府は、大規模な金融システムのリスクを抑制するための財政面での柔軟性を備えているようです。

中国の為替政策は、世界中の市場に影響する可能性があります。長期的には、中国政府は「人民元の安定」政策を堅持するとみられ、人民元の続落が幅広く予想されるようになった場合には、米国からの為替操作国認定と外貨準備高のさらなる減少を防ぐために、人民元高を容認することすら考えられます。

問 : 長期的な体制の転換期にあるもう一つの国として、英国の見通しを教えてください。

GABメンバー :  足元では、英国経済は良好な状態が続いていますが、欧州連合(EU)離脱やその他の動向が長期的なリスクとなっています。たとえば、EU離脱に伴い移民の流入が予想通りに減少すれば、トレンド並みの経済成長に対して下押し圧力がかかる見通しです。また、長期的にみると、借り入れを伴う個人消費主導型モデルから輸出主導型モデルへの経済の転換や、欧州大陸からその他の地域への輸出先の転換が不調に終わった場合には、景気後退に陥るリスクは特に高いようです。

EU離脱の手続きに関する議論は今秋にも加速する見通しですが、実践面で複雑性が非常に高いことから、英国が正式な離脱のタイミング(2019年3月)より前にEUを離脱する可能性は低いでしょう。移行期間が長期化するほど、新たな貿易協定の締結に必要な時間も長くなるでしょう。当面の間、自動車セクターと金融セクターを中心に、経済に深刻な影響が生じることも考えられます。

問 : 欧州の見通しを教えてください。

GABメンバー : 欧州経済は改善傾向にあり、大規模な経常黒字が一定の柔軟性を提供しているものの、景気サイクルは米国に数年程度遅れています。失業率が高水準で推移しているため、構造改革が欠かせません。長期的にみると、成長率が低い国では、貿易構成のバランス改善や競争力回復への取り組みが滞る可能性があります。また、一部の国では債務残高が大きく改革の必要性が高いために、ユーロ圏からの離脱リスクが高まることもあるでしょう。これはリスク要因であってPIMCOの基本シナリオではありません。PIMCOではユーロ圏は長期的にも現状を維持すると予想しています。

この先数年間は、引き続きポピュリズムの流れに注目するべきでしょう。イタリアではポピュリスト政党の「五つ星運動」が大統領選挙に狙いを定め、英国ではEU離脱の国民投票後にナショナリズムが高まり、フランスではルペン氏および国民戦線が活動を続けるとみられ、アイルランドなどの国でもナショナリズムが高まっています。とはいえ、仏大統領選におけるマクロン氏の勝利やオランダ、ドイツにおける最近の選挙結果を見る限り、少なくとも当面の間は、欧州大陸の大部分の地域ではポピュリズムの流れが停滞する見通しです。

問 : 欧州以外の地域におけるポピュリズムやナショナリズムの長期的な見通しについて教えてください。

GABメンバー :  ナショナリズムやポピュリズムの動きは、世界的に継続するでしょう。最近の選挙におけるポピュリズムの勝利によっても、勝利に大きく貢献した労働者の状況が根本的に改善されないのであれば、ポピュリスト的な感情や怒りの感情が高まることも考えられます。やや逆説的ですが、このような怒りの感情がナショナリズムや保護主義の動きを一段と強める結果、資本や人の移動が抑制され、世界経済の潜在成長率が下押しされる可能性があります。

米国では、トランプ大統領およびそのナショナリズム的な政策に対する反発が生じているほか、州を始めとする地方自治体の政治家がグローバリゼーションのメリットを強調するようになるなど、揺り戻しの兆候が確認されています。米国が無条件のグローバリゼーションの道に回帰する可能性は低いものの、現在のナショナリズム的な方向性とは異なる、「緩やかなグローバリゼーション」という穏健なアプローチに移行する可能性は否定できないでしょう。

問 : 長期的にはどのような地政学関連の動向やリスクに注目するべきでしょうか。

GABメンバー :  トランプ政権の外交戦略の最終形は非常に不透明です。トランプ大統領の政策は、(1)「積極的なアメリカ第一主義」というアプローチ(中国の為替操作国認定や北米自由貿易協定(NAFTA)からの離脱の示唆など)、(2)伝統的な「世界秩序のリーダーとしてのアメリカ」というアプローチ(北大西洋条約機構(NATO)の強化、シリアへの空爆など)、(3)「交渉役としてのアメリカ」というアプローチ(北朝鮮との交渉、ロシアとの合意模索など)という、3つの相反する要素から構成されています。

一般論として、トランプ政権下では明確な政策の枠組みが存在しないため、絶対的なリスクは低いものの、相対的には悲劇的な事象や大きな犠牲が伴う事象が発生するリスクは今までより高いと言えるでしょう。政策がより明確になるまでは、各地域で連携する動きや代理戦争の可能性が高まるでしょう。シリアやベネズエラの情勢、緊張が高まる米国とトルコの関係、アジア域内で貿易協定が締結される可能性などに、注目すべきでしょう。

北朝鮮情勢に関しては、中国や大統領選が終わったばかりの韓国が目立った動きに出る公算が小さいため、トランプ大統領が何らかの行動を起こす必要が生じる見通しです。しかしながら、米国に期待できることは、北朝鮮に核開発計画の凍結に合意させること(北朝鮮側が計画を完全に断念する合理的な理由はありません)やミサイル製造計画を中止させること(これまで米国がこのような妥協を引き出した実績はありません)くらいでしょう。とはいえ、米中間が協調体制にあることを多くの投資家が確認できれば、北朝鮮情勢が金融市場に与える影響は限定的となる可能性が高いでしょう。

問 : 主要な中央銀行の長期的な政策見通しを教えてください。金融政策手段は枯渇したのでしょうか。

GABメンバー : 米連邦準備制度理事会(FRB)は、米国経済の回復について自信を深めたようです。リスクがより均衡する一方で、労働市場の需給は逼迫しつつあります。FRBはフェデラル・ファンド・レート(FF金利)の誘導を主要な金融政策手段に位置付けています。また、4.5兆ドルに膨らんだバランスシートの縮小を2018年から目指すでしょう。FRBのバランスシートは2021年末までには2.8~3.4兆ドルの範囲まで縮小するものの、モーゲージ債の大量保有は継続するとみられます。

イエレンFRB議長の任期は来年初めに終了します。後任人事について、再任の可能性を含めてさまざまな観測が飛び交っているものの、金融政策の継続性は概ね保たれると予想しています。景気下降局面になっても、FRBには短期金利の引き下げ、フォワード・ガイダンスの活用、量的緩和の拡大など、必要に応じて利用可能な伝統的、非伝統的な政策手段があります。長期的には、政策手段を増やすために、柔軟な物価目標の設定など、その他の政策の枠組みを模索する可能性もあります。

欧州では、ドラギ総裁が2019年に退任した後も、欧州中央銀行(ECB)の政策の継続性は、当面は概ね維持されると予想しています。インフレやインフレ期待が依然として目標を下回っているため、現行の政策が変わる場合でも、緩やかで段階的な変化になるでしょう。マイナス金利は効果よりも副作用の方が大きいとみる向きがあるものの、利上げのタイミングは、ECBが量的緩和政策を縮小、終了したしばらく後になる公算が大きいでしょう。

経済成長が減速するシナリオやインフレ率が上昇しないシナリオに備えて、ECBは非伝統的な政策手段を用意していますが、金融緩和の余地は限定的であるとみています。その場合、とりわけ経常黒字が大きい国では、金融政策に代わって財政政策の役割が大きくなるでしょう。

主要な中央銀行のなかでは、日本銀行が最も早く金融政策手段の枯渇に直面する可能性が高いでしょう。世界情勢が引き続き良好であれば、この先数年間でインフレ目標を達成するには現在の政策スタンスで十分と思われますが、それでも不十分な場合には、財政政策と金融政策の連携が残された唯一の手段かもしれません。

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