経済見通し

欧州中央銀行の政策で「欧州病」を克服できるか

向こう1年間に、ユーロ圏の実質国内総生産(GDP)成長率は1.5%程度に、CPIは1.0%にそれぞれ上昇すると予想しており、経済成長率の上昇とユーロ安がコア消費者物価指数(CPI)の低下に歯止めをかけるのに十分な要因となると考えます。英国では、経済成長率は2.5~3%となり、インフレ率は中央銀行の公式目標である2%近辺の1~2%のレンジ内で推移すると予想しています。欧州中央銀行(ECB)のプログラムの規模に鑑みると、この先数カ月間も、このテクニカルな資金フローが引き続き投資戦略を策定する上で中心的なテーマになる可能性が高いでしょう。デュレーションの長期化により収益が発生するカーブ上の最適なポジション、周縁国のスプレッドのオーバーウエイト、厳選した民間企業のクレジット、米ドルに対するユーロのアンダーウエイトなどを選好していく見込みです。ECBによる資産買い入れの結果生じる超過準備金の金利が-0.20%となっている状況から、投資家がマイナス金利を敬遠して他の資産などにシフトしようとする結果、貨幣の流通速度は上昇するかもしれません。そのような動きはグローバルな資本市場に重要な意味合いを持つ可能性があります。

下のインタビューでは、3月に開催された四半期に1度のPIMCO短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)からの結論と、その結論がPIMCOの欧州投資戦略に与える影響について、マネージング・ディレクターのマイク・エイミー、アンドリュー・ボゾムワース、ロレンツォ・パガーニがご説明します。また、欧州中央銀行(ECB)によるバランスシート拡大の政策が経済成長とインフレに与える影響について検討した上で、改善基調にある欧州経済について考察します。

問:今後半年から1年間のユーロ圏の経済成長とインフレについて、PIMCOの見通しを教えてください。
エイミー:昨年12月の短期経済予測会議以降に、PIMCOでは、欧州の経済成長とインフレの見通しを上方修正し、向こう1年間に実質国内総生産(GDP)成長率は1.5%程度に、消費者物価指数(CPI)は1.0%にそれぞれ上昇すると予想しています。ユーロ圏は、原油価格の下落、ユーロ安、欧州中央銀行(ECB)による予想を上回る規模の量的緩和プログラムの効果など、数多くの短期的なプラス要因の恩恵を受けるとみています。

原油価格の下落によって恩恵を受ける国と悪影響を受ける国とがはっきりと分かれる中で、ユーロ圏は、エネルギー価格の下落前には原油輸入額がGDPの3%に相当していたことから(出所:欧州連合統計局、2014年12月31日現在)、大きな恩恵を享受する見通しです。ユーロ安や緩和的な金融環境が長期的に輸出を押し上げる効果を合わせて考えると、2015年のユーロ圏の経済成長率はトレンドを上回るとPIMCOでは予想しています。

また、コアCPIは、経済成長率の上昇とユーロ安を背景に下げ止まり、ユーロ安の効果が実体経済に反映される過程で小幅に上昇する可能性もあるとみています。一方、総合CPIに関しては、2015年末にかけて食料品価格とエネルギー価格の下落による影響が逓減する中で、コアCPIの水準に収斂すると予想していますが、それでも1%程度にとどまり、「2%未満だが2%に近い水準」というECBの長期目標を下回るでしょう。

問:3月に本格的な量的緩和プログラムが始まったことを踏まえて、景気回復を確実なものにして経済成長を促進しようとするECBの対応をどのように評価していますか。
ボゾムワース:ECBは、量的緩和がユーロ圏の経済成長とインフレを再び押し上げるために必要なステップであると判断するまでに長い時間を要しましたが、最終的には非常に強力な政策を実行しました。

ECBは、今年の1月22日に量的緩和プログラムを発表するまでに、中銀預金金利を-0.20%に引き下げるなど、金融を緩和するために画期的な政策を数多く実行してきましたが、インフレも景気も思うようには反応しませんでした。量的緩和の決定までに時間がかかったため、景気回復の遅れやインフレ期待の低水準での固定化といったコストが発生した可能性はありますが、決定の遅れを評価するにあたっては「19の加盟国から構成される通貨同盟」と「財政政策を共有する単一国家」の間には政治的、財政的な相違点が存在することを考慮する必要があります。ECBによる量的緩和政策の実行が遅れた背景には、当該政策によって各国政府の構造改革が不十分に終わるのではないかというモラルハザードに対する懸念がありました。ECBによる量的緩和プログラムと英米などで実施されたプログラムとの潜在的な相違点として、資産買い入れの結果生じる超過準備金の金利が-0.20%となっている状況が挙げられます。つまり、ユーロ圏では、銀行がマイナス金利を敬遠して預金を他通貨建ての資産などにシフトしようとする結果、貨幣の流通速度は上昇するかもしれません。PIMCOでは、そのような動きはグローバルな資本市場に重要な意味合いを持つ可能性があるとみています。

問:PIMCOの見通しは欧州の中核国と周縁国ではどのように異なるのでしょうか。また、継続中のギリシャ政府とECBを初めとする債権者の間の交渉は、より広範にはどのような意味合いを持つのでしょうか。
ボゾムワース:欧州周縁国の多くは、経済の再建に伴う恩恵や金融政策による追加支援が経済成長を後押しする恩恵を享受しています。アイルランドやスペインなどの国々や、1月の政権交代前まではギリシャでさえも、多くの欧州中核国を上回る経済成長率を達成していました。また、イタリアでは、2014年末の雇用法の改正に伴い、労働市場が一時的とはいえ改善するという前向きな動きが確認されています。PIMCOでは、ファンダメンタルズが良好であることや、マイナス金利に後押しされた利回り追求の動きが継続している状況を踏まえ、欧州の周縁国と中核国の債券のスプレッド格差は縮小に向かうと引き続き予想しています。

ギリシャ情勢に注目すると、ギリシャ政府と債権者との間の交渉においては、解決策を見出すことは難しくなりつつあるもののいずれは見つかることを示唆する2つの側面が見受けられます。一方では、ECBはその使命として、設立法に基づき各国政府に融資を行うことが禁じられています。この財政ファイナンスの禁止規定を踏まえると、ギリシャ政府が資本市場へのアクセスを遮断される中で国債や短期国債(Tビル)の発行を増やせるようになる可能性は低いでしょう。資本市場にアクセスすることも国債を増額発行することもできないギリシャ政府は、最終的には、現行の融資枠に基づく資金支援を求めて欧州の同盟国に頼らざるを得なくなるでしょう。他方では、欧州としても、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であるギリシャを欧州連合(EU)にとどめ置く戦略的かつ地政学的なインセンティブを有しています。ギリシャをEUにとどめ置く必要性とユーロ圏の結束を維持することに対する政治的なコミットメントを踏まえると、継続中のギリシャとの交渉が前向きな結果に終わる可能性が示唆されます。

問:PIMCOの欧州の見通しは、グローバルな経済や市場にどのように影響する可能性があるのでしょうか。
パガーニ:PIMCOでは、向こう数年間は欧州の金利は低い水準にとどまり、ECBによる量的緩和政策が利回りとスプレッドの上昇を制限する状態が続くと予想しています。その結果、投資家が相対価値の高い代替の資金運用先を模索する中で、ポートフォリオのリバランス効果が発揮され、欧州からその他の地域へ投資資金がシフトする動きが加速する可能性が高いでしょう。また、直接的な影響は為替相場に及び、ユーロ安・米ドル高傾向が続くと引き続き予想しています。このほか、投資家が資金配分をリバランスする分だけ、英米を初めとする先進国のイールドカーブの中長期ゾーンが下支えされる見通しです。

問: 英国に注目すると、英国経済はこの先どのように推移するのでしょうか。また、5月の総選挙は経済見通しにどの程度影響するのでしょうか。
エイミー:PIMCOでは引き続き、英国の経済成長率は2.5~3%となり、CPIはこの先1年間は1~2%のレンジで推移して、中央銀行の公式目標の2%か、それ以下にとどまると予想しています。英国も原油の純輸入国ですが、原油に起因する貿易赤字額はGDPの0.5%に過ぎないため、短期的な恩恵はユーロ圏諸国を大きく下回ります。とはいえ、英国の労働市場は非常に堅固であり、スラック(需給の緩み)も小さいため、2015年を通して賃金の伸びが経済成長を下支えすると予想しています。ポンド高がディスインフレ効果を持つ反面、堅固な内需と需給ギャップの縮小という相殺し合う要因の影響を受け、コアCPIはこの先1年間は概ね横ばいで推移すると予想しています。一方、総合CPIについては、コモディティ価格の下落の影響が年率の数字に反映されるようになれば、コアCPIに収斂するとみています。

PIMCOでは、英国では近い将来に総選挙が少なくとも1回は実施されるとみており、現状に鑑みると、新政権の顔ぶれは極めて不透明であると考えています。保守党と労働党という2大政党に対する支持が弱く、他政党に対する支持も分かれているため、過去数十年間で最も予想が難しい選挙の1つと言えるでしょう。このため、基盤の弱い政権、おそらくは他政党の暫定的な支持に依存する少数派政権が誕生する可能性が非常に高いでしょう。このため、政治関連のヘッドライン・ニュースが増えることは確実ですが、そのことが比較的安定的な印象を受ける英国経済の回復を著しく阻害するとは予想していません。

問:欧州における経済成長、インフレ、金融政策の方向性に関するPIMCOの短期見通しは、中期的な投資戦略にどのように影響するのでしょうか。
パガーニ:短期的には、投資家はファンダメンタルズに基づく価値とテクニカルな資金フローを区別できるようになる必要があるとPIMCOでは考えています。

ECBは本格的な量的緩和政策に着手し、国債を中心とする資産を毎月600億ユーロ買い入れることにコミットしました。これは、ユーロ圏全体の国債の純発行額を上回る水準に相当します。ECBのプログラムの規模に鑑みると、この先数カ月間も、このテクニカルな資金フローが引き続き投資戦略を策定する上で中心的なテーマになる可能性が高いでしょう。

PIMCOでは、0.65%程度というドイツ30年国債の利回りには(出所:ブルームバーグ、2015年3月14日現在)、ファンダメンタルズの観点からはほとんどバリューがないとみていますが、量的緩和関連の購入はその規模の大きさから、金利には引き続きサポートとなる見通しで、金利は今後も低い水準で推移する見通しです。投資家は、バリューを求めて利回りの高い資産から順に投資先を探すだろうとみています。具体的には、まずは投資年限を長期化し、その結果としてイールドカーブがフラット化する可能性が高く、次に潜在的に利回りが高い周縁国の発行体に注目し、最終的には民間企業のクレジット(社債など)や欧州以外での投資機会を追求するでしょう。このような見通しは、足元の市場動向を先取りしようとする投資戦略、すなわちデュレーションの長期化により収益が発生するイールドカーブ上のポジション、周縁国のスプレッドのオーバーウエイト、厳選した民間企業のクレジット、ユーロのアンダーウエイトなどに結びつきます。

著者

Mike Amey

ポンド建てポートフォリオおよびESG戦略統括

Andrew Bosomworth

ドイツ債券ポートフォリオ・マネジメント統括責任者

Lorenzo Pagani

ポートフォリオ・マネージャー

ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。