「PBOCは、FRBの追加利上げに起因する大幅な米ドル高 を 避 け る た め 、米 ド ル / 人民 元 の 為替レ ートから注目を そらそうとしてい るとPIMCOではみています。」

界の金融市場では、年初から中国の動向を背景にボラティリティが上昇し、アジア・パシフィック地域の経済の移行を支える上で政策が担うことになる重要な役割が浮き彫りになりました。以下のインタビューでは、このテーマに加えて、昨年12月にPIMCOの投資プロフェッショナルがグローバル経済や金融市場の見通しについて議論した、四半期に1度の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)からのその他の結論について、ポートフォリオ・マネージャーのアダム・ボウ、ルーク・スパイッチ、覚知 禎がご説明します。また、PIMCOの向こう1年間のアジア・パシフィック地域の経済見通し、および投資に対するインプリケーションについてもご紹介します。

問: 2016年のアジア市場では何が重要となってくるのでしょうか。
ボウ:
 米連邦準備制度理事会(FRB)が12月に歴史的な決断としてゼロ金利政策を解除したのに対して、アジア地域のほとんどの中央銀行は、脆弱な内需と低調な域内貿易という問題に対処するために、引き続き追加的な刺激策を検討しています。2016年は、政策当局はどのような政策手段を組み合せて採用するのか、政策当局は経済成長とインフレ率を押し上げることができるのか、金融市場にはどのような影響が及ぶのか、という3つの重要な疑問が残されています。

2015年と同様に、投資家はこれら3つの疑問すべてに正しく答える必要があります(昨年の例を考えてみても、中国の経済成長率を正確に予想することは簡単でしたが、それだけでは投資損益にはほとんど影響しませんでした)。多くの場合、政策手段自体は次善の選択肢であり、その波及経路や結果は決して確実なものではないことから、運用にあたってはこれら3つの疑問すべてに対する明確な答えが重要になります。しかしながらアジア地域の国々は、過剰債務とその過度な増加、困難で微妙な政治環境、潜在的な資産バブル、既に上限に達しつつある政策手段など、政策上の制約に直面しています。実際、中国、日本、オーストラリアなどの多くの国は、経済のさまざまな分野において、これらのすべての制約に同時に直面しています。

問: PIMCOの中国についての短期的な見通しを、金融政策と為替レートの見通しを含めて詳しく説明してください。
スパイッチ:
 2015年に中国は、過去最大規模の株式バブルを経験する一方で、人民元を唐突に切り下げるとともに、積極的な金融緩和政策を打ち出しました。2016年申年の不吉な始まりは、前年の問題が数多く尾を引いていることを示唆しており、中国の政策に対して、より一層の注意を払う必要があります。昨年10月に、中国の政策当局は2016年から始まる5カ年計画において、国内総生産(GDP)成長率の目標を6.5%へと引き下げましたが、PIMCOでは、2016年のGDP成長率は、市場のコンセンサスを下回る5.5~6.5%になると予想しています。中国は現在、インフラや輸出が主導する経済成長モデルから、国内消費やサービスに特化したモデルに移行しようとしています。とはいえ、世界貿易においては、今後も中国の存在感は色濃く残るでしょう。

PIMCOでは、中国人民銀行(PBOC)は政策金利をさらに0.50%、預金準備率を少なくとも1.50%引き下げると予想しています。しかしながら、1月初旬の人民元の下落が示したように、中国の政策において為替レートは今後も最も重要で注目の高いテーマになるでしょう。昨年8月の人民元相場の切り下げに伴い、リスク・プレミアムは世界中で大幅に上昇しました。また、昨年11月に国際通貨基金(IMF)が、特別引き出し権(SDR)として知られる国際準備通貨の価値を算出する際に用いるバスケット通貨として、人民元を採用する画期的な決定を行なったことが情勢を一変させました。国際的な決済、貿易金融、外国為替市場、中央銀行による外貨準備管理において、人民元の利用は急増しています。一方中国が、どの程度徹底的に、どの程度速く、資本勘定の完全自由化を達成するのかは依然として不明です。しかしながら、長期的にみると、人民元のSDR通貨バスケットへの採用は、世界第2位の株式市場と同第3位の国債市場から構成される中国の資本市場への扉を開く鍵になると、PIMCOでは考えています。

中国にとって、人民元のSDR通貨バスケットへの採用はさらなる改革の契機とみなされる可能性が高く、金融セクターを中心に市場関連の構造改革がさらに後押しされることが考えられます。中国にとっての長期的な「恩恵」は、世界中の中央銀行や政府系ファンドからの人民元への資金流入という形で最も明確に現れ、その結果、資本流出に対する懸念はある程度緩和されるとみられます。

PBOCは、FRBの追加利上げに起因する大幅な米ドル高を避けるため、米ドル/人民元の為替レートから注目をそらそうとしているとPIMCOではみています。また一方では、PBOCは、その他の貿易相手国の通貨に対しては人民元の上昇を回避することにも、同じように積極的です。昨今では、本当にハードカレンシーを持ちたい国を探すことは難しくなっています。

PIMCOでは、PBOCは人民元相場への介入削減を「正当化」し(米ドルリンク離れの)変化を強調した、「ダーティー・フロート(管理された変動為替相場制)」に移行しているとみています。実際、昨年11月30日に人民元のSDR通貨バスケットへの採用が発表されて以来、ボラティリティの上昇や、人民元のより急速な下落を以前よりも許容する姿勢が確認されています。

問: 中国の景気減速、コモディティ価格の下落、住宅市場の頭打ち感というマイナス要因は、オーストラリアの見通しにどのように影響するのでしょうか。
ボウ:
 2016年のオーストラリアの見通しには、過去数年間にマクロ経済情勢に影響を与えてきた要因が引き続き反映されています。国外の状況をみると、中国の経済成長は、政策当局が経済成長エンジンをコモディティ集約的なインフラ投資から軌道修正をするなかで、引き続き減速しています。また、中国経済の減速は、鉄鉱石のようなバルク・コモディティの供給が、オーストラリアが以前同セクターに投資した経緯もあり、世界的に急増するタイミングと重なっています。オーストラリアによるコモディティの輸出価格は2016年も軟調に推移する見通しであり、その結果、交易条件や国民所得の伸びは低迷する公算が大きいでしょう。また、鉱業関連投資の減少は、引き続き内需を下押しするとみられます。

従って、何が鉱業セクターの穴を埋めるのかがまた問題になります。昨年は、住宅建設が穴埋めの重要な役割を果たしましたが、今後はその役割が後退する見通しです。家計では債務が依然として大きいことに加えて、住宅価格はすでに非常に高い水準に達しており、また、マクロ・プルーデントな規制によって銀行の貸出意欲が制約を受けるなかで、住宅ローン金利は最も低い水準から上昇しています。PIMCOでは、住宅市場が大きく調整するとは想定していませんが、プラス要因が後退するとみていることは事実です。要約すると、オーストラリア準備銀行が追加的な政策支援を提供する可能性が高い環境において、鉱業セクターへの傾斜を是正する動きが少しずつ緩やかに進むと引き続き考えています。

問: ここ最近、日本では政策の優先課題が賃金の伸びにシフトしたようです。この変化は、政策見通しにどのように影響し、マクロ経済にどのような意味合いを持つのでしょうか。
覚知:
 労働市場の逼迫化にもかかわらず賃金の上昇圧力は依然として弱いため、賃金の伸びが政策の重要な優先課題になりました。PIMCOでは、これはすぐに変えることが困難な構造要因による部分が大きいと考えています。たとえば、労働市場に復帰するシニアの退職者は増えているものの、賃金の低いパートタイムの仕事が中心となっています。このような状況は、インフレを加速させない失業率(NAIRU、この水準以下ではインフレ率は上昇する)の低下を示唆しています。このため、雇用の堅調な伸びにもかかわらず物価上昇圧力が停滞する結果、インフレ率は日本銀行の目標(2.0%)を大きく下回る0.5~1.0%のレンジにとどまると予想しています。

PIMCOでは、2016年に日本の経済成長率は1.0%に向けて緩やかに上昇すると予想しています。アジア地域の成長見通しは依然としてマイナス要因ですが、財政政策はプラス要因になるとみています。安倍政権は最近、デフレ克服に特化したアベノミクスの第1段階とは明確に異なる新しい取り組みを発表しました。これは、富を現金の形で高齢者と貧困層に分配することと、育児施設や介護施設の建設を増やすことを柱とするものです。衆参二院制を採用する日本では、参議院選挙を7月に控えて政策は拡張的となり、富の分配に軸足が置かれる結果、2016年の経済成長率は潜在成長率を超える可能性が高いでしょう。

その一方で、インフレ率が2%を大きく下回る水準にとどまる見通しを踏まえ、日銀は非常に積極的な量的緩和政策を維持し、半年から1年のうちに金融政策を追加的に緩和する可能性が高まっていると予想しています。現在の量的緩和政策には技術的な限界があるという懸念が存在し、一部では、日銀が日本国債(JGB)を買いつくしてしまうのではないかという懸念も聞かれます。しかしながら、日銀は昨年12月18日に、政策を円滑に実行するために先手を打ち、買い入れるJGBの平均年限のレンジを延長するとともに、適格担保の範囲を拡大しました。この動きは、日銀は非常に積極的な量的緩和政策を維持することが可能であり、現在の量的緩和政策の枠組みの下で追加緩和を実行する可能性もあるというPIMCOのベースライン・シナリオを裏付けるものでした。

問: アジアに関するPIMCOの短期見通しは、投資に対して主にどのようなインプリケーションを持っているのでしょうか。
覚知: 
PIMCOのアジア関連のポジションは、この地域において政策支援が強化されるという見通しを引き続き反映しています。政策手段と、それが金融市場に与える影響を予想することが重要になるでしょう。

デュレーション・リスクに関しては、円のイールドカーブのフラットニングを予想するポジションをとることによって、日銀による積極的な量的緩和プログラムの恩恵を享受しようとしています。量的緩和政策が拡大されれば、JGBのイールドカーブの長期ゾーンに対して好材料となるでしょう。拡大されない場合でも、現在のベースマネーの拡大ペースを維持するために、日銀は買い入れるJGBの平均年限を延長する必要に迫られるとPIMCOでは予想しています。

スパイッチ: 外国為替市場では、米ドル高傾向が継続する一方で、中国の通貨体制の変化に伴い、人民元には向こう半年から1年の間にさらに下落する余地があるとPIMCOではみています。実際、予想の時間軸が長期化するほど、政策当局は資本フローを均衡させるために人民元の変動を許容するようになると予想しています。このため、人民元およびその他のアジアのエマージング諸国の通貨バスケットに対する米ドルの上昇を予想するポジションをとっています。

中国経済の減速見通しについての理解は深まり、マクロ経済予想には概ね織り込まれています。既にコモディティ市場や国際貿易を通じて大きな影響が生じています。とはいえ、特に今年になって、為替レートのボラティリティがさらに高まったことを考えると、マクロ経済の「波及効果」が完全に理解されたかどうかを判断するのは、時期尚早かもしれません。

このほか、アベノミクスは引き続き日本の金融機関による資産の国外シフトを後押ししているため、米ドル/円の通貨のベーシスの歪みが継続するとPIMCOでは予想しています。日本人による米ドルの借り入れ需要が強い状況に鑑みると、日本の3カ月物短期国債を米ドルにヘッジするような、ドル建ての短期資産に対する合成的な投資を通じて米ドルを貸し出すポジションを構築することによって、米国短期国債に対して魅力的な上乗せスプレッドを獲得することが期待できます。

著者

Adam Bowe

債券ポートフォリオ・マネージャー

Tadashi Kakuchi

ポートフォリオ・マネージャー

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