短期経済予測

​欧州は転機を迎えたか

向こう1年間において、ユーロ圏では内需が主な原動力となり実質国内総生産(GDP)成長率は1.75%に、インフレ率は1.25%近辺まで上昇すると予想しています。英国では、向こう1年間の実質GDP 成長率は2.25%~2.75%、インフレ率は1.25%~1.75%のレンジで推移するとみています。ユーロ圏における短期経済見通しを踏まえ、金利に関しては、利回りがマイナスとなっている短期ゾーンと、ボラティリティの上昇やECB(欧州中央銀行)が中長期的にリフレに成功する可能性を十分に反映していないように思われる長期ゾーンのアンダーウエイトを据え置いています。一方で、ECBの量的緩和プログラムが2016年9月以降まで延長される可能性を十分に織り込んでいない中期ゾーンや、欧州周縁国(イタリアとスペイン)のスプレッドをオーバーウエイトとします。外国為替市場では、対米ドルでのユーロのアンダーウエイトを据え置いています。

下のインタビューでは、9月にPIMCOの投資プロフェッショナルが集結してグローバル経済や金融市場について議論した、四半期に1度の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)からの結論について、マネージング・ディレクターのマイク・エイミー、アンドリュー・ボゾムワース、ロレンツォ・パガーニがご説明します。また、PIMCOの欧州の中期見通しと投資戦略に対する重要なインプリケーションについてもご紹介します。

問:最近のボラティリティの上昇は、投資家がアジアの動向に注目する一方で、欧州情勢については比較的安心感を抱いている可能性を示しています。今後半年から1年間のユーロ圏の経済成長とインフレについて、PIMCOの見通しを教えてください。状況は改善しているのでしょうか。
エイミー:アジア市場ではボラティリティが上昇し、欧州では困難なギリシャ情勢に関連して混乱もみられますが、PIMCOでは、3月のシクリカル・フォーラム時の予想を小幅に上方修正し、ユーロ圏の実質国内総生産(GDP)成長率は1.75%となり、趨勢的な成長率を上回ると予想しています。また、低水準の政策金利と欧州中央銀行(ECB)による量的緩和プログラムを背景に市場金利が低下したことを受けて、民間セクターで融資が拡大する結果、内需が経済成長の主な原動力になるとみています。一方、財政政策は中立的になりつつあり、経済成長のマイナス要因にはならない見通しです。アジア向けの輸出に下押し圧力がかかるなかで、ドイツを中心に輸出セクターが難局を迎えることは確実ですが、足元の景気回復は内需主導型になるとみています。

ユーロ圏のインフレ動向に注目すると、総合消費者物価指数(CPI)は、エネルギー価格下落という要因の剥落に伴い向こう1年間に1.25%まで小幅に上昇し、コアCPIも、ユーロ安の影響が物価に波及する結果として1%から上昇するとPIMCOでは予想しています。今年の早い段階ではデフレの長期化が幅広く懸念されていたことを考えると、状況が改善したことは明らかですが、「2%未満だが2%に近い水準」というECBの政策目標からは依然として一定の距離があります。

要約すると、状況は改善しているものの、ECBがインフレ目標の実現に自信を持てるようになるまでには、依然として長い時間を要するということです。

問:インフレの抑制、企業向け融資の拡大、経済成長の促進を目標とするECBの対応をどのように評価していますか。欧州の景気回復は二極化した状態が続くのでしょうか。
ボゾムワース:ECBの政策効果は表れ始めています。ECBは今年3月に、毎月600億ユーロ相当の債券を2016年9月まで買い続けることを柱とする量的緩和プログラムを開始しました。このプログラムを通じて経済に注入される総資金は、ユーロ圏のGDPの約10%に相当し、米連邦準備制度理事会(FRB)、イングランド銀行、日本銀行のプログラム(これまでの累積買い入れ額の対GDP比はそれぞれ25%、21%、65%程度)よりは小さいものの、大規模な刺激策と言えるでしょう。量的緩和とマイナス金利の組み合わせは非常に強力であり、プログラムの開始後、半年が経過した現在、不確かとはいえ成功の兆しが既にうかがえます。

たとえば金融市場に注目すると、ユーロ圏諸国では借り入れコストが軒並み低下しているほか、銀行は貸出基準を緩和しています。企業、家計による新規の融資や住宅ローンが増加傾向にあるなど、信用は再び拡大し始めています。5年後の5年ブレーク・イーブン・インフレ率をみる限り、投資家の間ではインフレ期待が高まっています。また、ユーロは下落し、株価は上昇しています。このような状況はいずれも金融情勢の緩和を示すものであり、企業や消費者の景況感が改善して経済成長が安定するなど、その影響が波及しつつある実体経済にも改善の兆しがみられます。

前述の4つの主要な量的緩和プログラムを比較することによって何らかの教訓が得られるとすれば、量的緩和政策は、財政政策も緩和的であり、労働、生産市場がともに柔軟で障壁が低い場合に、うまく機能するということでしょう。PIMCOでは、ユーロ圏の財政政策はもはや経済成長のマイナス要因ではないとみています。アイルランド、ギリシャ、ポルトガル、スペインでは、そしてこれら4カ国ほどではないもののイタリアでも、財政の構造改革に大幅な進捗がみられます。このような改革は、政治的には実行が難しいものの、成果はあがるものです。たとえば、スペインの経済成長率はユーロ圏でも最高水準に達しました。重要な点として、ユーロ圏では、欧州ソブリン債務危機の直後にみられたような経済成長の二極化傾向は解消されつつあります。

問:短期的に政策リスクになり得る要因を教えてください。政策当局はどのように対応するのでしょうか。
ボゾムワース:直観には反しますが、構造改革によって、インフレ率を2%に向けて押し上げるというECBの目標の実現が困難になる可能性があります。歴史的に失業率とインフレ率は逆相関の関係にあることを示したフィリップス曲線は、直近の景気後退を受けてスティープ化が進んでいます。このような状況では、賃金とCPIは失業率の変動に、より反応しやすくなります。2008年には7%を超える水準に過ぎなかったユーロ圏の失業率は、2014年には12%まで上昇し、現在でも10.9%と高止まりした状態がなかなか解消されていません。失業率の水準に対する賃金の感応度が高い状況で、失業率が高止まりしていると、CPIはなかなか上がりません。失業率が非常に低いドイツにおいても、失業率が高い他のユーロ圏諸国からの移民が増えたことなどから、賃金はそれほど増加していません。インフレ率をECBの目標に向けて押し上げるためには、失業率を押し下げることが必要であり、そのためには経済成長の拡大が不可欠です。

失業率に対するインフレ率の感応度の上昇、高水準の失業率、エマージング市場における経済成長の鈍化といった潜在的な外部リスクを合わせて考えると、インフレ率は低水準で推移する公算が大きく、短期的にはこのような状況が継続するとPIMCOではみています。ECBは現在、2017年までにユーロ圏全体のCPIが1.7%に上昇すると予想していますが、この予想には下振れリスクが伴うというのがECB政策理事会の見解でもあり、PIMCOも同じ見方です。従って、さらなる金融緩和が必要になる可能性は高いでしょう。具体的には、現在の毎月600億ユーロの債券買い入れ額を100億ユーロ増やして700億ユーロにすることが考えられるでしょう。あるいは、PIMCOの想定通り、2016年9月になってもインフレ率が依然として低迷し、また、ECBのインフレ目標が変わっていなければ、量的緩和プログラムを2017年まで延長することも考えられます。

問:欧州に流入する難民の増加は、向こう1年間の経済や金融市場の動向に影響する可能性は高いのでしょうか。
パガーニ:現在進行中の難民危機が欧州経済に与える短期的な影響は、難民支援のために財政支出が拡大すると考えると、その分だけポジティブですが、向こう1年間にGDPやCPIに与える影響は小さいでしょう。長期的には、難民が就労を認められて労働力人口に組み込まれた場合により大きくなるとも考えられます。しかしこのようにポジティブな影響は、難民危機に端を発する政治的混乱によって相殺される可能性があります。全般に、市場に与える短期的な影響は限定的になる公算が大きいとPIMCOではみています。

問:英国に注目すると、英国経済は短期的にどのように推移するのでしょうか。また、イングランド銀行の金融政策をどのように予想しているのでしょうか。
エイミー:現在の英国の景気回復は、住宅ローン金利が低下し、消費者信頼感が改善し、住宅関連を中心に消費の動きが活性化し、企業が設備投資や雇用を拡大するという典型的な回復局面に見えます。ここしばらくは、生産性の伸び悩み、公共投資の減少、ポンド高など、景気回復の底堅さには懸念が生じていたものの、生産性の向上や実質賃金の増加を示す証拠が増えている現状に鑑みると、英国の景気回復は十分に下支えされているようです。PIMCOでは、向こう1年間に実質GDP成長率が引き続き2.5%と趨勢的な成長率を上回ると予想しています。

インフレ率に関しては、総合CPIがゼロ近辺で推移し、コアCPIが1%近辺で安定するなど、2%というイングランド銀行の政策目標を大きく下回った状態が続いています。コアCPIは、労働市場の逼迫化と内需の拡大によって押し上げられる結果、1年後には1.5%近辺に達すると予想しており、総合CPIもそれに近づいて行くでしょう。このシナリオでは、イングランド銀行はようやく金融引き締めサイクルを開始することが可能になり、そのタイミングは2016年5月になる可能性が高いとみています。総合CPIは2016年5月までの数カ月間にわたってターゲットの下限の1%を超えた水準で推移すことになり、イングランド銀行はその後2年という政策の時間軸内でインフレ率2%の目標を回復することを十分に確信するでしょう。今後1年で2度の0.25%の利上げが実施されると予想しています。

問:欧州における経済成長、インフレ、金融政策に関するPIMCOの見通しは、中期的な投資戦略にどのように影響するのでしょうか。
パガーニ:金利に関しては、ECBの量的緩和プログラムが2016年9月以降まで延長される可能性を十分に織り込んでいない中期ゾーンが割安であり、高水準のキャリーを確保する好機を提供するとPIMCOではみています。一方、利回りがマイナスとなっている短期ゾーンと、ボラティリティの上昇やECBが中長期的にリフレに成功する可能性を十分に反映していないように思われる長期ゾーンのアンダーウエイトを据え置いています。

また、量的緩和が継続するなかで、経済成長率がプラスを維持してインフレ率が比較的低い水準にとどまるというシナリオは、引き続き欧州周縁国のスプレッドを下支えする要因であることから、イタリアとスペインのオーバーウエイトを据え置いています。これらの周縁国のポジションは、ポートフォリオにおいて安定的にキャリーを確保する目的で保有しており、短期的にスプレッドが縮小し続けると予想しているわけではありません。

民間企業セクターにおいては、欧州以外の地域にも注目しています。たとえば米国では、ここ最近、欧州と比べてスプレッドの拡大が進んだため、投資のリスク・リターン特性が改善したとみています。

外国為替市場では、対米ドルでのユーロのアンダーウエイトを据え置いています。もっとも、ポートフォリオの構築に際しては、ユーロとその他のリスク資産の間に正の相関がみられるようになったことを念頭に、ポジションの規模に注意を払っています。

著者

Mike Amey

ポンド建てポートフォリオおよびESG戦略統括

Andrew Bosomworth

ドイツ債券ポートフォリオ・マネジメント統括責任者

Lorenzo Pagani

ポートフォリオ・マネージャー

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