短期経済予測

グローバルな相互依存と国内政治がエマージング市場の重石に

​エマージング市場は、中国経済の減速、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策スタンス、コモディティ価格の下落を始めとするグローバルな要因によって左右されており、国内の政治情勢やこの先の総選挙に対する注目の高まりがさらに特異なリスクを高めています。最近10年間は、エマージング市場のマクロ要因に対する依存度の変化が大きなテーマとなっており、現在、アジアに限らずほとんどのエマージング市場のマクロ見通しにおいて、中国の重要性が高まっています。先進国と比べて経済成長率が高く債務負担が小さいことから、エマージング市場への投資は引き続き妥当なものだと言えますが、最近の一連のショックによって、コモディティ市場のサイクル転換、政治の混乱、市場におけるボラティリティやリスク回避姿勢の強まりなど、多くのエマージング諸国がまだ依然として抱えている短期的なリスクが浮き彫りになりました。

下のインタビューでは、9月にPIMCOの投資プロフェッショナルがグローバル経済や金融市場の見通しについて議論した、四半期に1度の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)の結論について、エマージング市場ポートフォリオ・マネジメント・チーム統括責任者のマイケル・ゴメスと、ソブリン・クレジットのグローバル統括責任者のルピン・ラーマンがご説明します。特に、PIMCOの向こう1年間のエマージング市場の見通しについてご紹介します。

問: 最近、エマージング市場は世界的に注目を集めています。PIMCOの同市場についての見通しを教えてください。
ゴメス:足元では、エマージング市場のパフォーマンスやファンダメンタルズは、中国経済の減速、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策スタンス、コモディティ価格の下落を始めとするグローバルな要因によって左右されています。これに国内の政治情勢やこの先の総選挙に対する注目が高まり、全体の見通しに対してさらに特異なリスクが加わっています。このためエマージング市場は、経済成長の鈍化と、政策運営に当たって一層困難なマクロ経済情勢の背景を抱えるなど、多くの向かい風に直面しています。向こう1年間にわたって、BRIM諸国(ブラジル、ロシア、インド、メキシコ)の平均経済成長率は、現在の水準(対前年比0.3%)から同2~3%に上昇するとPIMCOでは予想していますが、中国経済が減速し、エマージング市場全体が輸出やコモディティ市場以外を柱とする成長モデルの確立に苦労するなかで、下振れリスクは無視できません。一方、インフレに関しては、BRIM諸国の消費者物価指数は、通貨安による影響が限定的であることや、コモディティ価格下落に起因するディスインフレ的な影響を踏まえると、現在の8.4%から5~6%程度に低下すると予想しています。今後については、最近の生産者物価の低下は、PIMCOのベースライン・シナリオに追加的な下振れリスクが伴うことを示唆しています。

問:中国経済の減速や人民元の切り下げは、中国以外のエマージング市場に対してどのような影響があるのでしょうか。
ラーマン:最近10年間は、エマージング市場のマクロ要因に対する依存度の変化が大きなテーマとなっており、現在、アジアに限らずほとんどのエマージング市場のマクロ見通しにおいて、中国の重要性が高まっています。中国の影響が波及する経路としては、国際貿易やコモディティ市場などでの中国の実体経済面での連動性、中国情勢がグローバルなリスク・センチメントを左右する金融市場での連動性、そして人民元の国際化が進むなかでの物価の連動性などが挙げられます。

中国経済の減速がコモディティ市場や貿易相手国であるエマージング諸国の経済成長率に与える影響は、すでに顕在化しつつあります。PIMCOでは、人民元の切り下げによって中国に対する競争力を失ったアジア通貨には、下落圧力が残存すると予想しています。より広範にみても、中国情勢からのリスク・オフのセンチメントや米ドル高の傾向が、マクロ経済の調整機能を持つ大半のエマージング通貨を押し下げる可能性が高いでしょう。需給ギャップが大きいことを合わせて考えると、ほとんどのエマージング諸国の中央銀行は、政策金利を据え置いたままか、むしろ脆弱な国内経済に対応するためには利下げを実行することも考えられます。

問: ブラジルに注目すると、PIMCOでは、グローバル経済に関する最近のレポートのなかで、同国のマクロ見通しにおいて国内政治が重要な役割を果たしていると指摘しました。ブラジルの見通しが改善するためには、政治などの情勢がどのように変わる必要があり、また、その可能性はどの程度あるのでしょうか。
ラーマン:ルセフ大統領の支持率の低さや、「洗車作戦」と呼ばれる汚職疑惑の捜査が立法府としての議会の日々の運営に影響を及ぼしている現状を考えると、ブラジルの政治情勢は非常に流動的だと言えるでしょう。PIMCOでは基本シナリオとして、ルセフ大統領は政権を維持するとみていますが、政権が安定する可能性は低く、問責決議が成立するリスクや政権担当能力が失われるリスクも無視できません。

このような状況を踏まえると、すでに脆弱なブラジルのマクロ経済見通しは、国内政治に大きく依存することになると考えられます。スタンダード&プアーズがソブリン格付けをBB(アウトルックは「ネガティブ」)に引き下げたことに伴う、市場のネガティブなテクニカル要因を合わせて考えると、ブラジル関連資産のボラティリティは高止まりし、向こう1年間は両方向に大きく動きやすい状況が続く可能性が高いでしょう。

ブラジル経済を引き続き下支えする主な要因は、堅固な対外バランスシート、低水準の対外債務比率、期限が到来する対外債務に対する高水準の外貨準備カバレッジ比率を背景に、同国の対外債務のデフォルト・リスクが低いことです。また、ブラジル中銀は、マクロ経済運営や外国為替市場の円滑な機能維持という政策面において、引き続き重要な役割を果たしています。ブラジルが直面するハードルはそれほど高くないものの、国内政治がまずは安定することが最も重用です。

問: 最近、経済ウォッチャーの間ではロシアに対する注目が低下しているようです。ロシアは市場をどのように安定させたのでしょうか。また、その他のエマージング市場に対する教訓はあるのでしょうか。
ゴメス: ロシアでは、中央銀行が今年の早い時期に実施した外貨建てのレポ・オペレーション(レポ)が、「ロシア株式会社」の米ドル建て債務の返済能力に対する不確実性を取り除くこととなり、対外債務を力強くサポートしました。

このレポにより、実質的に、銀行は社債(大半は予め決められ
たリストにある、内外の影響が大きい企業の、米ドル建てを含む社債)を担保に、ロシア中銀の外貨準備から非常に低いコストで外貨を調達することができるようになりました。その結果、それらの銀行を通じて、債務の返済負担の大きい企業は、自社の国内債を担保に外貨を低コストで調達して対外債務の返済に充当することが可能になりました。また、多くの銀行にとっても、ロシア中銀からロンドン銀行間貸出金利(LIBOR)+50ベーシスポイントで借り入れた米ドル資金で、ロシア企業のユーロ債をLIBOR+500ベーシスポイントで購入するなど、レポをキャリー・トレードの手段として利用することができました。

このレポは危機抑制のための重要な政策手段であり、実際の信用力とは関係なくネガティブなテクニカル要因の影響を受けているブラジルのような国においても、適切な形で活用できるとPIMCOでは考えています。

このほか、ロシアでは、大統領や議会が強力にサポートするなど、すべての主要な政策当局が足並みをそろえて対応したことが好材料でした。つまり、全当事者が、状況の悪化を放置することのリスクを認識した上で、金融市場と経済の安定化という共通の目標に向けて努力していたことになります。ブラジルではこのような状況はまだ見られず、それが実現するまでは、ブラジルのマクロ経済情勢や金融市場は悪化し続ける可能性が高いでしょう。

ロシアの先行きに関しては、国内総生産(GDP)成長率が2015年は-4.0~-3.5%程度、2016年は-0.5%程度になるとPIMCOでは予想しています。一方、ディスインフレ傾向は続く見通しです。ルーブル安の影響が比較的小さいため、ロシア中銀は緩やかなペースで利下げを継続することができるとみられます。重要な点として、経常黒字の拡大や企業が財務レバレッジを引き下げる動きが続くなかで、ロシアの対外バランスシートは改善し続けると予想しています。

問:BRIMの最後の国、メキシコに対するPIMCOの見方はいかがでしょうか。
ラーマン:メキシコについては好意的に見ており、現在のグローバル経済の中で吹いている向かい風に上手く立ち回ると見ています。通貨ペソの為替の動きによる影響は少なく、向こう一年間で2~3%のGDP成長率、3%程度のインフレ率を予想しています。これにより、米国との経済、及びローカル金融市場での強い結び付きを背景に、メキシコ中央銀行はFRBとぴったり歩調を合わせることが出来るでしょう。最近のエネルギーセクターの改革ペースはPIMCOの期待を下回るものでしたが、政府は財政緊縮に向けて動き出しており、これはメキシコ経済の信用力の源泉となり、メキシコ中央銀行の金融政策スタンスに対する信任に繋がるでしょう。

問:エマージング市場に関するPIMCOのマクロ見通しは、投資に対してどのようなインプリケーションを持っているのでしょうか。また、どのタイミングでエマージング市場への投資を再開するべきなのでしょうか。
ゴメス: 先進国と比べて経済成長率が高く債務負担が小さいことから、エマージング市場への投資は引き続き妥当なものだと言えます。また、長年にわたって諸制度が改善された結果、多くのエマージング諸国では、通貨の柔軟性、金融緩和策、財政刺激策、国内における消費の傾向の改善を通じて、グローバルなマクロ経済ショックに対する備えが強化されています。

しかし残念ながら、最近の一連のショックによって、コモディティ市場のサイクル転換、政治の混乱、市場におけるボラティリティやリスク回避姿勢の強まりなど、多くのエマージング諸国が依然として抱えている短期的なリスクが浮き彫りになりました。

このため、PIMCOでは短期的にはエマージング市場を慎重にみています。しかし一方で、まだ投資に回していない余裕資金(ドライ・パウダー)を確保しているため、リスク・リターン特性が魅力的と考えられる時には、エクスポージャーを機動的に積み増すことが可能です。すでに一部のエマージング市場では割安感が生じ始めているため、世界情勢の不透明感の高まりを念頭に、タイミングを見極めながらポジションを調整していく方針です。総じて言えば、対米ドルでのエマージング通貨のショート・ポジション、エマージング・クレジットのアンダーウエイト、為替レートや金利の水準調整が大きく進み、向こう1年間の政策金利の大幅な引き上げが織り込まれた一部のエマージング諸国の金利のロング・ポジションを選好しています。

著者

Michael A. Gomez

エマージング市場ポートフォリオ・マネジメント・チームの統括責任者

Lupin Rahman

ソブリン・クレジットのグローバル統括責任者

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