下のインタビューでは、 3 月に開催された四半期に 1 度の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)での結論について、シンガポールを拠点とするエグゼクティブ・バイス・プレジデントでポートフォリオ・マネージャーのルーク・スパイッチ、東京を拠点とするエグゼクティブ・バイス・プレジデントでポートフォリオ・マネージャーの覚知 禎、シドニーを拠点とするエグゼクティブ・バイス・プレジデントで債券ポートフォリオ・マネージャーのアダム・ボウがご説明します。また、この結論が PIMCO のアジア・パシフィック地域の見通しと投資戦略に与える影響についてもご紹介します。

 中国の経済成長についての PIMCO の見通しを教えてください。

スパイッチ 中国はかつてないほど喫緊の経済問題に直面しており、今年の公式の実質国内総生産(GDP)成長率は、政府目標が6.5%であるのに対して、5.5~6.5%のレンジにとどまる可能性が高いと予想しています。

また、PIMCOでは、中国経済が不良債権処理を始めとする深刻な課題を抱えていることは認識していますが、このような問題が短期的(半年~1年)にシステミック・リスクに発展するとは考えていません。

 中国が直面する課題と今後の展開についての PIMCO の見通しを詳しく説明してください。

スパイッチ : フォーラムでは、中国の経済成長に対する4つの向かい風に注目しました。

1つ目はレバレッジの問題です。2007年以降、中国の債務残高は、世界全体の3分の1以上に相当する21兆米ドル増加しました。その一方で、借り入れによる景気浮揚効果は低減しているため、仮に今年の名目GDP成長率が政府目標近辺に達するとすれば、少なくともGDPの15%に相当する負債を積み増す必要が生じるでしょう。従って、レバレッジは上昇し続けるものの、新たな成長を生み出す効果は弱まっています。

2つ目は不良債権の問題です。中国の2015年末時点の不良債権比率は公表ベースで1.4%ですが、向こう3~5年間に上昇し続けると予想しています。PIMCOによる中国の経済成長率の基本シナリオの下で、中国の銀行に対して内部でストレステストを実施したところ、不良債権比率はピーク時には約6%に達し得るという結果になりました。更にストレスを強めた場合、銀行システムに増資の必要性が生じる見通しですが、これは短期的なリスクではないとみています。中国の不良債権はよく知られた長期的な問題で、対処可能です。向こう1年間に銀行システムに大量の資本が注入されるシナリオは想定されませんが、今後も政策の浸透を抑制する要因にはなると考えています。

3つ目は不動産市場の問題です。PIMCOでは、不動産投資が引き続き経済成長を抑制するとみていますが、全般に不動産価格は年末に向けて前年比小幅に上昇する可能性が高いでしょう。不動産市場は、中国の政策当局、なかでも中国人民銀行(PBOC)が特に注目している分野ですが、依然として懸念材料であり、短期的に経済成長を後押しする公算は小さいでしょう。

4つ目は株式市場の問題です。中国の株式市場は、時価総額ベースでは世界第2位に位置付けられます。昨年のバブル崩壊後、株式市場における当局の介入や実験的な政策は不調に終わり、株式市場を監督する立場にある中国証券監督管理委員会の首席交代が発令されました。このような変動期においても、中国の証券は年内にもMSCIエマージング市場インデックスに組み入れられると予想されています。

以上の4つの向かい風のなかでは、不動産市場の問題が最も幅広く懸念を生じさせているようですが、政策対応が最も難しいのは株式市場になるでしょう。

 中国政府にはどのような政策の選択肢があるのでしょうか。

スパイッチ : 金融政策としては、PBOCは政策金利と預金準備率を引き下げる可能性があり、財政政策では成長促進を目標とする政策が発表されています。しかしながら、構造改革や国有企業改革は大きく前進するとは予想していません。

全体的に言えば、政策の選択肢は枯渇してはいないものの、人民元が政策の大きな制約要因となっていることなどから、政策効果の低減が強く懸念されています。中国政府は、「為替レートの安定化・固定化」、「資本の自由な移動」、「金融政策の独立性」という3つの目標を同時に達成することが困難になったという意味で、「トレリンマ」に直面しています。

 人民元の先行きについての PIMCO の見通しを教えてください。

スパイッチ : 中国政府は、昨年8月11日に人民元を切り下げた結果、後戻りができなくなりました。株式市場のバブル崩壊と不動産市場の低迷に伴い、金融政策と財政政策を緩和し続けることが不可欠となり、また、資本の流出ペースが加速するなかで、介入額は大幅に増加したため、外貨準備高は記録的なペースで減少しました。一方、PBOCは、対米ドルレートに対するストレスを分散させるため、3種類の通貨バスケットを導入しています。

今後、為替政策は予期せぬ方向に転換する可能性がありますが、考えうる4つのシナリオとしては、放任主義で「成り行き任せ」のアプローチ、投機筋対策として資本管理と口先介入の強化、人民元の変動幅拡大を通じた緩やかな切り下げ、1回限りの早期切り下げ、が挙げられます。PIMCOの2016年の基本シナリオでは、この先段階的かつ整然とした切り下げを予想しています。

 日本では、日本銀行が 1 月に投資家の予想に反してマイナス金利政策を導入しました。日本経済についての PIMCO の見通しを教えてください。

覚知 2016年の日本の実質GDP成長率は0.25~0.75%とトレンド並みになると予想しています。日銀は民間需要を刺激する目的で超過準備にマイナス金利を適用しましたが、その効果は限定的になるとみています。日本では、借入金利はすでに非常に低く、民間セクター(家計および企業)はネット・ベースで貯蓄超過状態にあるため、マイナス金利が民間需要を刺激する可能性は低いでしょう。

実際、高齢化社会において住宅ローンに対する需要が低調であるほか、企業による長期的な成長見通しが改善して設備投資につながる兆しも見られません。このため、円安要因になり得るという点を除いては、マイナス金利の効果は非常に限定的であるとみています。

 その結果、インフレと政策にはどのような影響が生じるのでしょうか。

覚知 総合インフレ率は2015年の平均(0.8%)から0.25~0.75%のレンジに低下すると予想しています。また、日銀のインフレ目標(2%)の達成が依然として非常に難しいことと、アジア地域からデフレ圧力が波及する見通しを踏まえ、日銀は、1月にマイナス金利政策を導入したように、負の圧力に対抗すべく金融政策をさらに緩和すると予想しています。

しかし、日銀は政策手段として利下げのみに依存することはないと考えています。市場はマイナス金利の導入を好意的に評価せず、金融環境は想定外に逼迫しました。国民全般の受け止め方も、せいぜい賛否両論といったところでしょう。更に-1%を超えるような大幅なマイナス金利は地方銀行の収益性を損ない、日本の金融システムに深刻なリスクを生じさせる可能性があるため、マイナス幅は限定的になるでしょう。このため、追加緩和政策は、(1)利下げ、(2)マネタリーベース拡大の加速、(3)買い入れ資産の種類拡大を通じた、金融政策における信用緩和の側面の強調、という政策の組合せになる公算が大きいでしょう。

一方、財政政策は、向こう1年間は拡張的となり、経済成長を下支えする可能性が高いと考えています。マイナス金利の影響を最も強く受けるのは、毎年GDPの20%近くの国債を発行する日本政府であり、マイナス金利に伴う財政改善効果によって、政策の柔軟性は高まる見通しです。G7会合と参議院選挙を控え、財政政策の拡大によって政府と日銀の協調姿勢が鮮明になるとPIMCOでは予想しています。

 

 

 

 オーストラリアの経済成長についての PIMCO の見通しを教えてください。オーストラリア準備銀行(RBA )は追加的に利下げを実行するのでしょうか。

ボウ : オーストラリアにとって、中国と日本は最大の貿易相手国であることから、両国の経済成長と政策の環境が引き続き複雑であることは、短期的には厳しい外的環境が続く可能性が高いことを意味します。

国内経済に注目すると、ヘッドラインの実質GDP成長率は堅固な水準を維持しているものの、内訳を見ると、鉱業主導型の成長モデルからの転換を模索する過程で不均衡が拡大している様子がうかがえます。鉱業向け投資が減少する一方で、資源セクター以外では、政府部門を含めて、支出スタンスは比較的抑制的な状態が続いています。

残念ながら、各部門のバランスシートのなかで金融緩和政策に反応しているのは、規模が最も小さい家計部門のバランスシートだけです。経済成長の原動力として家計と住宅市場への依存が進んだ結果、既に高騰している家計のレバレッジと住宅価格はさらに上昇し、長期的には持続しがたいやっかいな不均衡が生じています。PIMCOでは、この先住宅市場からの追い風が弱まり内需が低迷するとみていますが、直近の豪ドル高の影響も相まって、RBAが追加的に金利を引き下げる可能性は残るでしょう。

 アジアに関する PIMCO の短期見通しは、投資に対してどのようなインプリケーションを持っているのでしょうか。

スパイッチ 中国のマクロ経済見通しを考えると、金融と財政の両面における追加的な政策支援は今後も必要で、それ故、人民元にはさらなる下落圧力がかかる見通しです。短期的には、政策当局は人民元の安定性を維持する意思と資金を持ち合わせていますが、1カ月あたり500~1,000億ドルのペースでの資金流出が継続すれば、為替相場が調整される可能性が一段と高まるとPIMCOでは予想しています。実際、長期的にみるほど、人民元が中国経済の調整により大きな影響を与える公算が大きくなると考えられるため、米連邦準備制度理事会(FRB)が最近では利上げのペースに対してより慎重になっているものの、米ドルが対人民元で上昇する見通しを前提とするポートフォリオのポジションを維持しています。しかし重要なことは、人民元が段階的かつ整然と切り下げられるというPIMCOの見通しは、グローバルなクレジット市場に対する前向きな姿勢およびFRBが緩やかに利上げを実行するという見通しと合わせて、ポートフォリオのポジション構成全般に影響する点であり、それだけを切り離して考えるべきではありません。

覚知 : 日本の金融機関が為替リスクをヘッジした上で資産を国外にシフトする現在の流れは、日銀によるマイナス金利政策を受けてさらに加速する可能性が高く、日本人による米ドルの借り入れ需要は持続するでしょう。このためPIMCOでは、米ドル/円の通貨のベーシスの歪みが継続すると予想しています。その結果、日本の3カ月物短期国債を米ドルにヘッジする合成的なドル建ての短期資産に投資することによって、米国短期国債に対して魅力的な上乗せスプレッドを獲得することが期待できると考えています。

著者

Luke Spajic

ポートフォリオ・マネージャー

Tadashi Kakuchi

ポートフォリオ・マネージャー

Adam Bowe

債券ポートフォリオ・マネージャー

ご留意事項

ピムコジャパンリミテッド
105-0001
東京都港区虎ノ門4-1-28
虎ノ門タワーズオフィス18階
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第382号
加入協会/ 一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人投資信託協会

ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。

過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれていますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。

運用を行う資産の評価額は、組入有価証券等の価格、デリバティブ取引等の価値、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況や信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。弊社が行う金融商品取引業に関してお客様にご負担頂く手数料等には、弊社に対する報酬及び有価証券等の売買手数料や保管費用等の諸費用がありますが、それらの報酬及び諸費用の種類ごと及び合計の金額・上限額・計算方法は、投資戦略や運用の状況、期間、残高等により異なるため表示することができません。

全ての投資 にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。外貨建てあるいは外国籍の証券 への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。