短期経済予測

脆弱な移行期 (追加的)緩和政策が下支え

9月に開催した短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)では、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルがニューポートビーチに集まり、向こう1年間の投資に重要な意味を持つとPIMCOが考えるトレンドを見出すべく、グローバルな市場と経済の状況を議論しました。アジア地域は、PIMCOが描く多速度の世界において、成長ペースが遅い地域に明確に分類されます。中国などの一部の国では経済成長率の絶対水準が依然として比較的高いものの、アジア地域全体は脆弱な移行期に入り、多くの国では経済成長率が低下したり潜在成長率を下回ったりしています。このような状況を踏まえると、政策当局が利下げや通貨安政策を通じて短期的な経済成長を下支えしようとする中で、地域全体の金融環境はさらに緩和される可能性が高いでしょう。

下のインタビューでは、9月にPIMCOの投資プロフェッショナルがグローバル経済や金融市場の見通しについて議論した、四半期に1度の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)からの結論について、ポートフォリオ・マネージャーのアダム・ボウ、アイザック・メン、覚知禎がご説明します。また、PIMCOの向こう1年間のアジア・パシフィック地域の経済および投資に対するインプリケーションについてもご紹介します。

問:PIMCOでは、グローバル経済は多速度の成長軌道に入ったと評価しました。この枠組みの中で、アジア地域の見通しはどのように位置づけられるのでしょうか。
ボウ:アジア地域は、PIMCOが描く多速度の世界において、成長ペースが遅い地域に明確に分類されます。中国などの一部の国では経済成長率の絶対水準が依然として比較的高いものの、アジア地域全体は脆弱な移行期に入り、多くの国では経済成長率が低下したり潜在成長率を下回ったりしています。中国が輸出、投資主導型の経済成長モデルからの移行に引き続き取り組んでいるのに対し、その他の諸国は新しい環境に経済成長モデルを適合させるのに苦労しています。中国は、金融自由化の推進が株式市場や外国為替市場のボラティリティを幅広く押し上げるなど、追い風的な存在から向かい風的な存在に変わっています。

経済の移行期がこのように脆弱であることを踏まえると、政策当局が利下げや通貨安政策を通じて短期的な経済成長を下支えしようとする中で、地域全体の金融環境はさらに緩和される可能性が高いでしょう。日本についても、2014年の消費増税の影響で落ち込んだ消費が回復する結果、向こう1年間に経済成長率が上昇するとPIMCOでは予想しているものの、低インフレの長期化、中国経済の低成長軌道入りおよび人民元の切り下げの影響を受けて、アベノミクスが向こう1年以内に拡大される可能性が高まっています。

問:PIMCOの中国についての短期的な見通しを詳しく説明してください。株式市場の急落および人民元の切り下げのインプリケーションを教えてください。
メン:中国経済は、「ニュー・ノーマル(新常態)」に伴う複数年にわたる調整局面を経験しています。政策当局が投資主導型経済から消費主導型経済への転換を試み、借り入れの大きな債務者がバランスシートを修復し、過大評価された資産価格が下落する環境において、経済成長率の鈍化は避けられないでしょう。

実際、7~9月期の調整局面は、過剰な信用に支えられた株式バブルがはじけ、上海A株指数が6月12日のピークから40%近く下落するなど、非常に波が大きいものでした。その厳しい影響は、保有資産、期待、バランスシートという3つの経路を通じて波及しました。PIMCOでは、株式市場急落の影響によって、向こう1年間に国内総生産(GDP)成長率は最大1%下押しされると予想しています。

8月11日に中国人民銀行(PBOC)が米ドルに対する人民元の事実上のペッグ制度を緩和したことを受けて、人民元は1週間に約4%下落しました。その結果、やや過大評価されていた人民元相場は修正され、中国の輸出にとってはその分だけプラスに作用したものの、政策変更が想定外だったため、政策手段の枯渇感や通貨切り下げ競争に対する懸念が広がりました。この影響はネガティブな衝撃を増幅し、他のエマージング市場、コモディティ市場、グローバルな経済見通しにも波及しました。それにより、中国から資本が流出する傾向が強まったため、PBOCは通貨安定のために大規模な市場介入を余儀なくされました。

レバレッジが高く資産価格が過大評価された国において、景気を緩やかに減速させつつ構造改革を実行することが容易でないことは明らかです。具体的には、PBOCが厳格な外国為替制度の下で金融政策の効果を生じさせるという難題に直面する一方で、地方政府(負債残高はGDPの約40%に相当)の財政再建の必要性を考えると、財政刺激策の余地も限定的になるでしょう。今後も経済や市場に深刻なショックが生じるリスクは高いとみられます。

このような状況において、PIMCOでは、中国の向こう1年間のベースライン・シナリオとして、経済成長率を5.5~6.5%のレンジと予想しています。これは3月時点の予想より0.25%低く、市場のコンセンサス予想を引き続き大きく下回っています。また、民間部門の設備投資や不動産価格がさらに弱含み、雇用や個人消費に悪影響が及ぶ恐れがあるとみています。この影響は、純輸出の小幅な改善や制約の大きい公共投資による刺激だけでは、十分に補い切れないでしょう。一方、総合インフレ率を1.5~2.5%のレンジと予想しています。これらの予想に基づき、PBOCは、政策金利を0.75%、預金準備率を2.00%引き下げ、人民元を1ドル=6.80人民元まで切り下げるなど、金融政策を積極化させるとみています。

問:最近の中国の動向はオーストラリアの見通しにどのように影響するのでしょうか。
ボウ:中国およびアジアのエマージング諸国全般の動向は、3つの経路を通じてオーストラリアに影響します。第1の経路はコモディティ価格が下落する可能性であり、それは、オーストラリアの交易条件と国民所得の伸びにマイナスに作用します。第2の経路は輸出量の変化です。オーストラリアは、先進国の中でアジアのエマージング諸国(中国を含む)に対するエクスポージャーが最も大きい国です。そして第3の経路は金融環境であり、これまでのところ、プラス(豪ドル安の影響)にもマイナス(株価下落の影響)にも作用しています。これら3つの経路からの影響がオーストラリアにとって総合的にはマイナスだったことは確実であり、このことは、市場のコンセンサス予想を下回るPIMCOの経済成長およびインフレの見通しにも反映されています。

しかし重要なことは、オーストラリアは資源セクター依存型の成長モデルからの脱却を図る上で、様々な課題に取り組んでいる点です。このような構造転換がペースは遅いものの確実に進んでいることから、PIMCOでは、同国の先行きを必要以上には悲観的にみていません。例えば、鉱業を主体とする州の経済は縮小する一方で、鉱業を主体としない、より大きな州の経済成長率がここ数年最高水準で推移するなど、地域的な構造転換がみられます。また労働市場でも、鉱業における雇用の減少を観光業などの業種における増加が吸収するなど、構造転換の動きが確認されています。実際、今年は1~8月の雇用全体の増加ペースが2%に達し、2011年以降の同時期としては最も速いペースとなりました。このほか、民間投資の構成と外需の伸びにおいても構造転換が生じており、サービス業の輸出額は鉄鉱石の輸出額を2011年以降では初めて上回りました。

このように鉱業主導型の経済成長からの構造転換が緩慢ながらも進んではいますが、PIMCOでは、今後1年間の環境下では、オーストラリア準備銀行(RBA)は追加的な政策支援の提供を余儀なくされる公算が大きいと予想しています。最近の株式市場の調整と外国為替制度の変化を織り込んだPIMCOのコンセンサスを下回る中国の成長見通しを考え合わせると、オーストラリアのマクロ経済リスクは確実に下振れ方向に偏った状態が続いています。

問:日本についてはどうでしょうか。日本経済はアジアのエマージング諸国の成長鈍化によってどのような影響を受け、また、どのような政策対応が予想されるのでしょうか。
覚知:オーストラリア経済と同じように、日本経済もアジアのエマージング諸国の経済成長鈍化による向かい風の影響を受けることが予想され、日本銀行は、向こう1年間という時間軸において追加緩和に踏み切る可能性が高まっているとみています。

日本からの輸出の半分以上はアジアのエマージング諸国向けであり、同地域において最終製品の売り上げが減少すれば、輸出の伸びは当然のことながら抑制されるでしょう。また、競争力の低下も下方リスクの要因です。これまで人民元が切り下げられたケースでは、日本円よりもアジアのエマージング諸国の通貨の方が大幅に下落しました。なかでも、韓国ウォンに比べて円がより強くなれば、日本製品と韓国製品の類似性を考えると、日本の輸出にとってマイナス要因が増えることになるでしょう。このように、アジア地域で需要が落ち込み、日本の競争力が低下すれば、日本経済にマイナスの影響が及ぶとみられます。

また、アジアのエマージング諸国の成長鈍化は日本のインフレ率を押し下げる見通しです。日本は製品の半分程度を同地域から輸入しているため、同地域の通貨安は日本経済にデフレ圧力を生じさせるでしょう。輸入製品の70%近くが米ドル建てで取引されているとはいえ、中国の鉄鋼セクターの事例にみられるように、過剰な在庫を抱える企業は輸出価格を引き下げる可能性が高いでしょう。

それでは、どのような政策対応が考えられるでしょうか。財政政策面では、外的なマイナス要因を緩和するために、より緩和的なスタンスがとられるとPIMCOでは予想しています。また、来年7月に参議院選挙が予定されていることから、安倍政権にはより緩和的な財政政策を採用する強いインセンティブがあります。一方、金融政策面では、日銀は年間純発行額の2倍近くの国債を買い入れるなど、量的緩和政策を非常に積極的に推進しています。PIMCOでは、基本シナリオとして、日銀は現在の非常に緩和的な金融政策を維持すると予想していますが、外部環境がGDP成長率やインフレ率に対する下方リスクを生じさせているため、追加緩和が実施される可能性が高まっているとみています。

問:アジアに関するPIMCOの短期見通しは、投資に対してどのようなインプリケーションを持っているのでしょうか。
ボウ:PIMCOでは、アジア地域全体において政策主導で金融環境が緩和されるという見通しをベースに、アジアの運用ポジションを構築しています。金利のポジションに関しては、日銀のバランスシートがさらに拡大するリスクが高まったことを踏まえ、円のイールドカーブのフラット化を予想するポジションをとっています。量的、質的緩和プログラムの範囲拡大によって、長期ゾーンの債券を中心に買い入れる必要が生じる結果、円金利の期間構造はフラット化すると予想しています。

また、PIMCOでは、オーストラリアの見通しには慎重ですが、市場がすでにRBAによる追加緩和を織り込んでいることから、豪ドル金利のデュレーションに対しては中立で、豪ドル通貨のショート・ポジションを通じてマクロ経済の下方リスクをポジションに反映させることを選好しています。また、人民元がさらに切り下げられる結果、すでに世界的な需要の低迷や輸出の伸び悩みに苦しむアジアのエマージング諸国の通貨には、追加的な下落圧力がかかると予想しています。このような見通しを踏まえ、韓国ウォン、マレーシア・リンギット、タイ・バーツ、シンガポール・ドル、新台湾ドルなどから構成される通貨バスケットのショート・ポジションをとっています。

著者

Adam Bowe

債券ポートフォリオ・マネージャー

Isaac Meng

エマージング・マーケット担当のポートフォリオ・マネージャー

Tadashi Kakuchi

ポートフォリオ・マネージャー

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全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。金融市場の動向に関する記述は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。