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短期経済展望

ニュー・ニュートラル継続

世界経済が同時減速を続ける中、米国の短期金利はニュー・ニュートラルのレンジ内にとどまるとみています。

年12月初旬に開催された前回のPIMCO短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)以降、金融市場は乱高下し、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げ判断に忍耐強くなれると政策方針を転換しました。こうした流れの中で3月初旬にシクリカル・フォーラムが開催され、PIMCOの投資プロフェッショナルとベン・バーナンキ氏を議長とするグローバル・アドバイザリー・ボードのメンバーがニューポートビーチに集結しました。会議では、向こう6カ月~12月のマクロ経済見通しを再検討し、以下の3つの主要なテーマについて議論を重ねました。

  • 過去3カ月の世界経済は昨年12月時点の予測通りに「同時減速」を続けてきましたが、中国の景気刺激策の強化が牽引役になり、年内に中国および世界経済の成長モメンタムが安定し、さらには回復に転じる可能性はどのくらいあるのでしょうか。
  • 金融政策について、FF金利はピークをつけ、次の一手は利下げになるとの市場の想定は正しいのでしょうか。それともFRBは利上げを休止しているだけで、いずれ利上げを再開するのでしょうか。関連してFRBでは、これまでインフレ率が目標を下回っていることへの「埋め合わせ戦略」の検討が行われる見込みですが、これはどの程度重要なのでしょうか。
  • 第3に、貿易政策と財政政策は、どの程度、破壊的あるいは建設的なものになるのでしょうか。貿易戦争は過ぎさったのでしょうか。また、現代貨幣理論(MMT)が注目を集め、ポピュリズムが勢いを増す中、景気と物価を下支えする点で、財政政策は新たな金融政策になるのでしょうか。

以下では、PIMCOの結論と、それを踏まえてどのようにポートフォリオを構築するかをお伝えします。

グローバルなサイクル:中国が変動要因

過去1年、米国で大規模な財政刺激策が取られ、先進国の金融政策は依然として緩和的であるにもかかわらず、世界経済は減速してきました。これは、かつてないほど中国が世界の景気サイクルを左右する大きな要因になっていることを示しています。中国政府が進める債務削減は企業の投資や不動産投資の重しになり、米中貿易摩擦の煽りを受けて世界貿易の伸びが急低下した結果、世界各地、とりわけ欧州、アジア、エマージングの輸出指向の国々で、企業マインドが悪化し、投資が減退しました。

これまでのところ、世界の貿易サイクルに底入れの兆しは見られず(図表1)、当面、世界経済の同時減速が続くとみられます。しかしながら、中国が景気刺激策を強化し、米中貿易協議が続く中、今年後半に世界経済が安定し、さらに緩やかな回復に転じる可能性は十分にあります。

図表1:世界貿易の伸びは急低下

クレジットの「灌漑」から「洪水」への動き

今年後半の世界経済成長の底入れに関して、PIMCOが慎重ながらも楽観的な見方をする理由の1つは、1月にFRBがハト派へと方針転換して以降、世界的に金融環境が緩和されていることがあります。もう1つの理由として、中国が最近、財政・金融の緩和ペースを加速させていることが挙げられます。

確かに、中国の財政緩和のほとんどは、減税を通じた消費者や中小企業向けであり、その大部分が支出ではなく貯蓄に回される可能性があります。ただ、信用の伸びに関する最も広義な指標である社会融資総量の反発からもあきらかなように、年初以降、中国の政策当局は方針を転換したように見受けられます。フォーラムの参加者の1人の言葉を借りれば、将来の成長セクターに重点的に資金を配分する慎重な「灌漑」から、「洪水」のように経済全体に信用を供給する体制へと転換して、ハードランディングを防ごうとしています。(図表2)

図表2:中国のクレジット・インパルスは、経済成長が年後半に底入れすると示唆

出所:米経済分析局、中国人民銀行、ヘイバーアナリティクス 2019年1月31日現在

中国の成長指標は以下による。フェルナルド、スー、シュピーゲルの2015年の論文「中国は数字を捏造しているのか? 貿易相手国のデータに基づく証拠」サンフランシスコ連銀ワーキングペーパー

中国のクレジット・インパルスは、GDPに対する経済全体の負債の前年比伸び率を平準化したもの。経済全体の負債の伸びは、UBSの計算による。

刺激策の規模も、それによって得られる経済の牽引力の量も未確定ですが、PIMCOの基本シナリオでは、中国の成長とそれに伴う世界貿易の伸びは年内には安定する見通しで、それにより世界経済は軟着陸できるとみています。ただし、その過程で一時的に落ち込むことはあるとみています。

FRBはニュー・ニュートラルを支持

12月のフォーラム以降、グローバル市場にとって最も重要な展開は、FRBの方針転換でした。FRBは漸進的に利上げを実施するとみられていましたが、忍耐強く様子見する姿勢へと転換し、資産縮小の年内終了を示唆しています。ここ数カ月、FRB高官が説明してきたとおり、忍耐強さへと方針転換の引き金となったのは以下の3つの要因です。2018年末の金融環境の引き締まり、世界経済の急減速、失業率が50年来の低水準にあるにもかかわらず、消費者物価に上昇圧力が見られないことです。

「いまではFRBも、(FF金利の誘導目標を2.25%~2.5%とする)現行の政策金利が、中立かそれに近い水準であると認めています。」

より広い意味では、現在の政策金利(FF金利の誘導目標2.25%~2.5%)が中立かそれに近い水準であると、FRBも認識したと言えるでしょう。これは、かねてよりPIMCOが提唱してきたニュー・ニュートラルのレンジが2%~3%であるとの見方に沿っています(図表3)。もちろん、この評価は、中立金利(r*)や自然失業率(u*)など基礎的(観察不可能な)主要変数に関するFRBの見方を示唆する将来のデータによって再度変化する可能性があります。とはいえ、現時点では、FRBはニュー・ニュートラルを支持しているようにみえます。

図表3:FF金利はPIMCOが提唱するニュー・ニュートラルのレンジに

出所:ブルームバーグ、ニューヨーク連銀、ホルストン、ローバッハ、ウィリアムズ、2017年「中立金利の計測:国際的なトレンドと決定要因」、PIMCOによる計算、2018年12月31日現在。

「労働市場が比較的タイトであるものの、短期経済予測の対象期間中、インフレ圧力は引き続き抑制されると予想しています。」

先行きについては、労働市場が比較的タイトであるにもかかわらず、短期経済予測が対象とする期間においては、インフレ圧力は引き続き抑制されると予想しています。このため年初来、金融環境は緩和されており、第1四半期に落ち込んだとみられる米国の経済成長率は、今後潜在成長に近い水準をたどる可能性が十分あるにもかかわらず、当面、FF金利は現在の水準でほぼ横ばいで推移すると予想しています。年内は、利上げ、利下げのどちらも比較的ハードルが高いとみています。

埋め合わせの利点を検討する

フォーラムでは、FRBが当面金利を据え置くとの見方には比較的、異論は出ませんでしたが、FRBが発表した年後半に予定される金融政策の戦略レビューについては、激しい議論が戦わされました。パウエル議長やほかのFRB高官が説明しているように、戦略レビューでは、金利の実効下限に金融政策が制約されていた時期にインフレ率が目標を下回った分を、平常時にインフレのオーバーシュートを目指すことで穴埋めすべきかどうかが焦点になります。

フォーラムの見方は分かれ、FRBは常々2%のインフレ目標に対称性があると強調しているため、小幅なオーバーシュートはアンダーシュートと同様に容認される、ただし「平均インフレ・ターゲティング」や「物価水準ターゲティング」型への移行を全面に押し出すことは避けるであろう、とする見方が1つの陣営を形成しました。

一方で、パウエル議長/クラリダ副議長/ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁/デーリー・サンフランシスコ連銀総裁の新FRBは、平時に2%のオーバーシュートを目指すことによって、不都合なほど低いインフレ期待を2%前後に再度固定することを真剣に模索しているようにみえる、それには戦略レビューを受けて新たな改良アプローチを取るというシグナルが必要になる、とする論者もいました。

結論は出ていませんが、FRBの枠組みが変更されるとしても、革新的なものというより漸進的なものになるとみています。いずれにせよ、インフレの小幅なオーバーシュートが起きるとすれば、FRBはそれを容認するだけにとどまらず、歓迎することになるでしょう。

貿易摩擦:全面戦争に至らずも、火種はくすぶる

FRBが中立へとシフトし、中国が刺激策を強化して、持続的な世界経済の成長の見通しが好転する中、市場のレフトテールを規定するのは、経済や金融政策よりむしろ政治であるとの見方で一致しました。

特に、市場は米中貿易協議については完全に織り込んでいるものの、これ以外の貿易摩擦が再燃する可能性を過小評価しているように見受けられます。北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国・カナダ・メキシコの新協定(USMCA)協議は、議会承認という難関に直面しており、今後数カ月の攻防が予想されますが、トランプ大統領は議会に圧力をかけて承認を迫るため、NAFTAからの離脱を決断する可能性があります。

さらに、このほど、商務省が通商拡大法232条に基づき自動車・自動車部品が安全保障上の脅威になっているかどうかを調査した報告書がまとまり、大統領に提出したことで、欧州連合(EU)や日本との幅広い貿易交渉の梃子として、トランプ政権が自動車・自動車部品に追加関税をかけると脅す可能性、さらには課税にまで踏み込む可能性は十分あり得ます。政権の措置の期限は5月18日ですが、期限が延長される可能性があります。

「全面的な貿易戦争に発展する可能性は低いものの、貿易摩擦はくすぶり続け、市場ボラティリティが突発的に高まる可能性があるとみています。」

全面的な貿易戦争に発展する可能性は低いものの、摩擦の火種はくすぶり続けており、向こう1年は市場ボラティリティが突発的に高まる可能性があるとみています。これがリスク資産に対して慎重な姿勢を取る理由ですが、市場が過剰反応した時には投資の好機が生まれるともみています。

財政は新たな貨幣

貿易政策に次いで、良くも悪くも、これまでの常識が通用しない分野が財政政策です。昨年5月のPIMCO長期経済予測(セキュラー・アウトルック)では、投資家にとって「急変に備えて」と題して、将来、財政政策がかなり拡張的になる可能性と、税制や規制を通じた資本から労働への再分配を目指して急進的なポピュリストの反動が強まる可能性を重点的に取り上げました。

その後、どちらのリスクも現実味を増しており、欧州と米国では、富裕税の賦課や、所得税・法人税の限界税率の引き上げ、最低所得保障(ユニバーサル・ベーシック・インカム)の導入、巨大IT企業の分割案など、より急進的な政策が提案されています。これらの政策提案の多くは、市場ボラティリティを高め、リスク資産のバリュエーションを試練にさらす可能性があるものです。

フォーラムでは、曖昧ながら最近注目を集めている現代貨幣理論(MMT)と、その意味合いについても話し合いました。批判的な論者は、MMTは現代的でもなければ、貨幣の問題でもなく、理論でもないと断じています。フォーラムの参加者の1人が皮肉ったように、この理論で正しいことは新しくはなく、新しいことは正しくはない、とも言えます。

MMTの提唱者の主張は、以下のように要約できます。完全雇用を達成するために積極的な財政政策を活用すべきであり、財政政策が選択するいかなる水準の赤字も、金融政策は(マネタリー・ベースの拡大を受け入れることで)直接ファイナンスするべきである。拡張的な財政政策は、自動的に債券の供給ではなく、マネーサプライを増やすことになるため、赤字のファイナンスが問題になることはない。インフレが問題になったとすれば、緊縮的な財政政策が適切な手段であり、中央銀行にマネーサプライの削減を迫ればいい。

こうした政策の枠組みは、財政が支配的であった戦時中や戦争直後のそれに似ていますが、PIMCOでは近い将来、現実になる可能性は低く、公開討論の場で最近MMTが目立っているのは、大きなパラダイムシフトが進行している兆候だとみています。つまり、財政緊縮論から、経済を刺激し、世界的な貯蓄余剰に対抗し、所得・富の格差拡大に対応するための手段として、財政政策を積極的に活用するべきとの見方が主流になるパラダイムシフトが起きていると考えています。このシフトについては5月に開かれる年に1度の長期予測会議(セキュラー・フォーラム)でも議論を続けるつもりですが、現時点では、より積極的で拡張的な財政政策への支持の拡大は、イールドカーブのスティープ化につながり、将来のインフレリスクを上方に押し上げると結論づけています。

投資への示唆

金融市場は「同時減速」のテーマと中央銀行のハト派の姿勢を織り込んでおり、世界の利回りは低下を続ける一方、リスク資産は概ね12月初旬の水準に戻っています。景気後退リスクの顕在化、金融政策と財政政策のバランスの変化、貿易摩擦の激化、政治的ポピュリズムの台頭で、長期的に予期せぬ急変が起き、市場が混乱する可能性については引き続き懸念しています。したがって現在の環境で理に適った戦略としては、トップダウンのマクロ・リスク要因の観点では、ベンチマークにごく近い水準を維持し、企業クレジットに過度に依存することなくインカムを確保し、ポートフォリオ構築では柔軟性と流動性を重視し、ボラティリティが高まり、市場が調整局面を迎える際に使える資金を確保しておくことである、との考え方を継続しています。

イールドカーブのスティープ化とブレークイーブン・インフレ率の拡大を見越す

景気減速の見通しとFRBの方針転換で利回りが低下するとの見方に基づき、デュレーションについてはベンチマークに近づけるつもりです。現行サイクルにおけるFRBの利上げは打ち止めの可能性が十分にあるとみていますが、同じように、市場が利下げを織り込むのは時期尚早ともみています。

イールドカーブについては、小幅なスティープ化バイアスを予想しています。これは、イールドカーブのスティープ化を予想したポジションを構造的に優先する方針に沿ったものです。また、我々の見方が間違っていて、マクロ・リスクが悪化し、FRBの利下げが一段と織り込まれた場合、イールド・カーブのスティープ化を予想したポジションにはプロテクション機能があり、逆に我々の予想通り、マクロが好転した場合、FRBがタカ派に戻すハードルは高くなる、との見方にも沿っています。これに関連して、米国物価連動国債(TIPS)は、インフレ率が予想外に上昇した場合の割安なヘッジ手段になると考えています。平均インフレ率の様々な埋め合わせ戦略をめぐるFRBの議論が、金融政策の枠組みの大幅な見直しに繋がらないとしても、インフレ圧力の高まりに対するFRBの動きは鈍いであろうとの見方が強化されることになります。

一般的な企業クレジットではなく個別銘柄の投資機会を模索

スプレッド物については、ボトムアップの見方とクレジット市場の構造及び流動性に対する懸念を反映して、一般的な企業クレジットに頼ることなく、インカムの確保を目指します。企業クレジットの基本的な見通しは良好ですが、市場が大幅に拡大し、クレジットにおけるポジショニングが過密になり、セルサイドのバランスシートと見合ってない現状を踏まえ、クレジット市場の軟化が続いた場合にポートフォリオが過度にさらされる事態は避けたいと考えています。また、そうした状況で訪れる投資機会は積極的に活かしていきたいと考えています。

スプレッド物の中では、バリュエーション、流動性リスクへの対価、資本構成上の優位性の点から、米国の非政府系機関モーゲージ債を引き続き選好しています。米国以外の商業不動産担保証券(CMBS)、住宅ローン担保証券(RMBS)の一部にも投資機会があるとみています。米国の政府系機関モーゲージ債も、魅力的なキャリーの源泉です。

企業クレジットについては、デフォルト(債務不履行)リスクが非常に低い企業の短期債を重視します。さらに、金融セクターは、バリュエーションが相対的に魅力的であるとの見方を継続します。全体としては、一般的な企業クレジットはアンダーウェイトとしつつ、グローバルなクレジット・ポートフォリオ・マネージャーやアナリスト・チームが推奨する銘柄を活かしていく方針です。

エマージング諸国の通貨の機会

先進国通貨のバリュエーションに大きな不均衡があるとは見ていません。したがって、G10通貨で大きなポジションを取ることは想定していません。しかしながら、エマージング諸国の通貨については、バリュエーションと、エマージング諸国の他の資産に比べて相対的に魅力的であるとの見方に基づき、運用目的に合致するポートフォリオでは小幅オーバーウェイトを見込んでいます。

イタリアには慎重、コア・デュレーションをオーバーウエイト

イタリア国債については、バリュエーション、資産購入の終了、短期的な政治リスク、ユーロ圏の長期的な脆弱性に鑑み、引き続きアンダーウェイトとします。ユーロ圏のデュレーションについては、利回りは低いものの、イールドカーブの形状と、欧州中央銀行(ECB)が現行のサイクルで金利をマイナスからゼロに戻すのは相当に困難であるとの見方から、中期部分が相対的に魅力的なキャリーの源泉になるとみています。

英国の金融セクターに魅力

ブレグジット(英国のEU離脱)をめぐる不確実性は根強いものの、無秩序で混沌としたブレジットになる可能性は低いとの見方を継続しています。こうした中、バリュエーションの観点から英国のデュレーションをアンダーウェイトとする十分な根拠があるとみています。また、英国の金融セクターについては、たとえ無秩序なブレグジットが起きたとしても、資本基盤が堅固であるとの見方に基づき、魅力があると考えています。

株式:質の高いディフェンシブ銘柄を選好

株式市場の変動の激しさが引き続き目立つことになると予想していますが、今後は中央銀行の流動性の状況よりも、収益や世界経済の見通しが材料になるとみられます。実際、株式市場の反発を招いたFRBの大幅な政策転換は、いまや完全に織り込まれています。引き続き慎重なポジショニングを選好しつつ、質が高く景気に左右されにくいディフェンシブ銘柄を粘り強く拾い、景気循環的な株式リスクのエクスポージャーは減らす方針です。

コモディティ:原油はレンジ内にとどまり、天然ガスは上昇

コモディティ市場は2018年末の安値から回復しており、バリュエーション上の魅力は減退しています。石油輸出国機構(OPEC)の減産は、自発的なもの、強制的なものを合わせて、米国の急激な生産の伸びを十分に相殺できる規模であり、市場は引き続き均衡を保っているとみています。米国の総生産の伸びが世界需要の伸びを上回らないかぎり、原油市場は現在のレンジ内にとどまるとみられます。天然ガスについては、現在の市場価格よりも上昇するとの見方を継続します。天然ガス生産に規律が導入され、需要と輸出が着実に伸びていることが、その理由です。

地域別の経済予測

米国

今年の実質GDP成長率は2%~2.5%で、昨年の3%弱から減速するとの予想を継続します。景気減速の要因として、財政刺激策の効果の剥落、過去数年の金融政策の引き締めの遅行効果、中国及び世界経済減速に伴う逆風が挙げられます。中国が景気刺激策を強化しているものの、予測対象期間の後半まで、米国の経済成長に対する逆風が緩和されることはないとみています。中国の緩和・引き締めサイクルは、遅れて米国経済に影響を及ぼす傾向があります。こうした遅行効果を踏まえると、最近発表された財政や金融緩和策が米国経済に波及するのは、2019年末から2020年初めだと予想しています。

年内は基調としては減速が続く見込みですが、四半期単位でみると起伏が予想されます。第1四半期の成長率は現時点の計測で0%前後と弱いものの、第2四半期には、税還付が個人消費を下支えし、中国向け輸出が正常化するとみられることから、成長率の回復を見込んでいます。

賃金上昇圧力はある程度上昇するものの、年内の消費者物価指数(CPI)コア指数は概ね横ばいを予想しています。景気が減速し、インフレ率が目標を下回る状態が続く中、FRBは忍耐強い姿勢を保ち、年内は金利を据え置くものとみられます。

ユーロ圏

世界貿易の弱さが引き続き大きな下押し圧力となり、イタリアが景気後退入りしていることから、ユーロ圏の今年の経済成長率はトレンド並みの0.75%~1.25%に低下するとみています。一方で、小幅な財政刺激策と、実質所得の堅調な伸びを背景に、圏内の需要は比較的底堅いとみています。今年1年を通じた世界貿易の改善を受けて、ユーロ圏経済は緩やかに回復に転じるとみています。

コア・インフレ率はこのところ1%前後で横ばいですが、賃金の伸びの底堅さを反映して、年内の小幅な上昇を見込んでいます。ECBが最近延長したフォワード・ガイダンスに呼応して、政策金利については据え置きを見込んでおり、資産の残高維持を目的とする現行の再投資政策が、短期予測の対象期間中に変更されるとはみていません。

英国

無秩序な合意なき離脱の可能性は低いとの見方を継続しています。EU基本条約第50条に基づく交渉期限の3月末を小幅延長した期間内にEUと英国の妥協が成立するか、新たなEU委員会と英国の可能性としては新たな首相のもとでの協議を見据え、交渉期限の大幅な延長が合意されるであろうとみています。

この基本シナリオのもと、英国の今年のGDP成長率は、政府支出と消費支出の伸び、約1.5%の実質所得の伸びに支えられ、トレンドを小幅下回る1.0%~1.5%と予想しています。

コア・インフレ率については、輸入物価上昇圧力が収まり、国内の物価上昇圧力が引き続き落ち着いていることから、2%のターゲット近辺で推移するとみています。年央に軟着陸のブレグジットが実現した場合、年後半にイングランド銀行が利上げする可能性が出てきます。

日本

今年の日本の経済成長率は0.5%~1%のレンジの小幅な伸びを予想しており、2018年の0.7%から大きな変化はないとみています。外需の急減速という逆風は収まり、財政刺激策と堅調な労働市場が内需を支える見通しです。

CPIのコア・インフレ率は、年半ばに(一時的要因ながら)マイナス圏に落ち込む見通しですが、短期経済予測の対象期間中、日銀が短期金利や10年国債の利回りの目標を変更することはないとみています。

中国

中国の経済成長率は5.5%~6.5%のレンジの半ばとなり、2018年の6.6%からの減速を予想しています。ただし年後半には、財政・金融の刺激策がある程度の牽引力となり、米中貿易協議の進展でマインドが支えられることから景気は安定化するとみられます。対GDP比で1.5%~2%にのぼる財政刺激策が、家計支出、インフラ投資、設備投資を支えることになると予想しています。インフレは引き続き落ち着いており、中国人民銀行の追加利下げと銀行の預金準備率の引き下げを見込んでいます。FRBが忍耐強い姿勢を示し、米中貿易協議に必要な要素だと認識されていることから、中国人民元は安定しています。

図表4:2019年の成長見通し
PIMCOのプロセス

PIMCOを支える多様な視点

PIMCOのトップダウンとボトムアップの観点に基づく独自の運用プロセスでは、新しい考え方や異なる視点を積極的にとり入れています。四半期に1度の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)では、向こう1年間のトレンドを予想し、ポートフォリオのポジションを構築する枠組みを提供しています。

PIMCOの運用プロセス

優れた運用成果を実現するには、第一に準備が必要であると考えています。PIMCOの投資プロセスによって、将来を見据えた革新的なソリューションをお客様に提供するために、世界の変わりゆくリスクと投資機会を継続的に評価することが可能になります。

フォーラムでは、今後予想される動向を展望するだけでなく、発生確率が低いと考える事象からポートフォリオを保護することを目標にします。基本シナリオから外れたシナリオに備えてポートフォリオを構築することによって、想定外のイベントや市場の混乱に対して速やかに対応することが可能になります。ファンダメンタルズの長期的な動向にきめ細かく注目することで、投資機会とリスクを特定し、長期的な投資戦略を実行するための指針となる重要なマクロ経済のトレンドを把握することができると考えています。

ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。ソブリン証券は通常、発行体政府によって保証されています。米国政府機関の債務は米国政府からさまざまな形で支援を受けていますが、政府による全面的な保証は付与されないことが一般的です。こうした証券に投資するポートフォリオに対する保証はなく、ポートフォリオの価値は変動します。コモディティは市場、政治、規制、自然などの条件により高まるリスクを伴い、全ての投資家に適しているとは限りません。

金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。

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