短期経済展望

世界経済の同時減速

PIMCOでは2019年に世界経済の同時減速を予想しています。ポートフォリオのポジション構築については慎重ですが、先行きには有望な投資機会があるとみています。

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IMCOではかねてより、現状に対するリスクはボラティリティの高まりを一例として、金融市場に織り込まれているとの見方をとってきました。5月の長期経済見通し「急変に備えて」や9月の短期経済見通し「成長続くも減速」で論じたように、今回の景気サイクルにおいて世界経済は成長のピークを過ぎ、中央銀行のサポートは縮小を続け、政治リスクが各国で高まっているとみています。こうしたトレンドは、相対的に慎重なポジショニングと流動性の高い資産を重視するPIMCOの方針を後押しするものであり、これにより個別の投資機会や広範なスプレッドの拡大あるいはボラティリティの上昇に対応することが可能になると考えられます。

プラスのキャリー獲得を目指すポートフォリオの構築を継続します。現物社債を全般的にはアンダーウェイトしても、個別クレジットの投資機会、また非政府系機関系モーゲージ債(MBS)、政府系機関MBS、エマージング市場の為替の一部、イールドカーブのスティープ化を見込んだポジションがキャリー獲得の源泉となるとみています。これは、依然として相当程度前向きなPIMCOの基本シナリオに沿ったものであると同時に、ダウンサイドリスクをヘッジし、過剰なポジションが解消に向かった際のクレジット市場の構造と流動性を重視する方針にも合致しています。

以上が、PIMCO投資委員会(インベストメント・コミッティー)が12月に開催されたPIMCO短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)の議論を集約した結論です。短期経済予測会議には、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルが集結し、PIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードの議長を務めるベン・バーナンキ元FRB議長、2001年のノーベル経済学賞受賞者のマイケル・スペンス氏、元米国国家経済会議(NEC)委員長で、クリントン政権、オバマ政権で経済政策担当大統領補佐官を務めたジーン・スパーリング氏ら、信頼できるシニア・アドバイザー数名が参加しました。

2017年のノーベル経済学賞受賞者のリチャード・セイラー氏からも、集団思考と投資家の行動バイアスの落とし穴を避ける方法について、知見が提供されました。

また、カリフォルニア大学デービス校のアラン・M・テイラー経済学教授には過去150年間に世界各地で生じた信用ブームと逼迫からの教訓について、2017年のノーベル経済学賞受賞者でシカゴ大学のリチャード・セイラー教授には集団思考や投資家の行動バイアスの落とし穴を避ける方法について、知見をご提供いただきました。セイラー教授は、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス意思決定研究センター(CDR)のボードメンバーの議長であり、PIMCOはCDRとパートナーシップを結び、同センターの行動科学研究を支援しています。

フォーラムの議論は、2019年の景気および市場見通しを形成するとみられる5つのマクロ的課題を中心に展開されました。

議論1:景気サイクルはどの程度終盤なのか?

ここしばらくPIMCOでは景気拡大局面は終盤に入ったとの議論をしてきましたが、この見方はコンセンサスになっています。しかしながら、景気の最終局面はかなり長く続く可能性があります。現段階はどの程度終わりに近いのでしょうか。

議論の出発点として、PIMCOの最新の計量モデルをみると、米国が向こう12カ月に景気後退入りする確率は足元で約30%に上昇しており、9年に及ぶ今回の拡大局面のどの時点よりも高くなっています。とはいえ、モデルの点滅信号は赤色ではなくオレンジ色です。

同様のメッセージは、フォーラムで提示された新たな景気分類モデルからも発せられています。このモデルは、経済および金融市場の膨大なデータを解析し、景気拡大あるいは景気後退局面のどの段階にあるかを総合的に判断するものです。モデルでは、依然として景気拡大局面の半ば近辺にあることが示唆されています。しかしながら、1年先の予想では、景気拡大局面の終盤ないし景気後退局面入りする可能性が示されています。

この計量モデルに定性的な分析を合わせて検討した結果、過去のいくつかの景気後退期に先立ってみられた労働市場および財市場の過熱の兆候や、過剰消費や過剰信用は現時点ではみられないと考えています。つまり、景気後退が迫っていることを示唆する確実な証拠はありません。確かに景気拡大期間は長期に及んでいますが、これまでのところ順調に年月を重ねてきたと言えます。

しかしながら重要なのは、景気後退がなくても金融市場が動揺・混乱することを現在の市場環境が如実に示している点です。さらに一部の参加者からは、次の景気後退の引き金になるのは、伝統的なマクロ経済の過熱や過剰債務ではなく、金融資産の減価の可能性があるとの見方が示されました。

議論2:米国例外論の終焉か?

景気拡大局面は来年、節目の10年を超えて続く可能性は残っていますが、米国とそれ以外の先進国の成長率格差は縮小すると予想しています。

過去1年の米国は、様々な点で例外的な動きをみせました。財政面では、諸外国の景気が減速するなか、米国は巨額の財政支出を行い景気を加速させ、中央銀行は四半期ごとに果断に利上げを実施、株式市場は他国市場をアウトパフォームし、米ドルはトランプ大統領の抗議にもかかわらず上昇しました。

今後については、米国の景気も「同時減速」するとみています。その背景として、金融状況の引き締まりの影響が出始めること、財政刺激策の効果が剥落すること、足元での原油価格の急落は原油の純輸出国になった米国よりも欧州、日本、中国に恩恵をもたらすことが挙げられます。PIMCOでは2019年の米国の予想GDP成長率を、引き続きコンセンサスを下回る2.0%~2.5%と予想しています。景気は減速し、四半期の成長率は年後半に2%未満になるとみています。こうして米国とそれ以外の主要先進国は、潜在成長率に収斂していくことになるとみられます。

諸外国との成長格差は縮小しつつあるとはいえ、米国の株式については、企業の収益性が相対的に高く、景気循環セクターが米国株式市場に占める割合が小さいことから、引き続きアウトパフォームを予想しています。米ドルについては、フォーラムでの意見は分かれました。今年前半のフォーラムで際立っていた米ドルに対する楽観的な見方は明らかに後退しました。ただ、有利な金利差から現時点で米ドルが大幅に下落するとの見方は否定されています。

議論3:インフレは再来するか?

足元での原油価格の急落と、米国、欧州、日本でのコア・インフレ率の低迷を踏まえ、PIMCOでは2019年のインフレ見通しを引き下げました。PIMCOの基本シナリオでは、これら3地域のコア・インフレ率は横ばいないし小幅な上昇にとどまり、引き続き政策目標を下回ることになるとみています。

こうした穏当な見通しにもかかわらず、インフレについてはかなりの時間を割いて、我々の見方が間違っている可能性について検討しました。何と言っても、米国の賃金上昇率は今回の景気拡大局面で初めて3%に達し、欧州や日本でも賃金上昇率が上向きつつあるのです。

確かに、失業率の低下を受けて賃金の上昇ペースがそれ以上に加速し、失業率と賃金の関係を示すフィリップス曲線がより傾いていく可能性はありえます。しかしながら、生産性の伸び率改善で単位労働コストの上昇圧力が緩和されると共に、アマゾン効果によって財市場の競争が激化し透明性が高まることから、消費者物価の上昇は引き続き抑えられるだろうとの結論に達しました。

名目金利が高くなれば長期的にインフレ率が上昇すると予想する、非伝統的なインフレ理論についても検討を重ねました。「物価水準財政理論(FTPL)」では、政府の借り入れコストの上昇につながる中央銀行の利上げに対して、政府が将来、歳出削減や増税を実施することはない、つまり「無責任に」行動すると国民が考える場合、緩やかなインフレ・スパイラルが始まる可能性があると主張します。その理由として、こうしたポンジ・スキームのシナリオでは、将来の増税の裏付けのない国債の利払い増加で、民間セクターは豊かになった気になり消費を増やし、これに対して中央銀行が金利をさらに引き上げた場合に政府の借り入れコストは一段と上昇して、インフレのスパイラルが進む、と説明されています。

しかしながら、こうした状況は過去にエマージング諸国の一部でみられたものの、先進国の国民が自国政府の長期にわたる「無責任」な行動を予想するとは思えない、との見方がフォーラム参加者の大勢を占めました。前述のような影響が顕在化すること、つまり金利の上昇につれて消費者が支出を増やすには、政府が長期にわたって「無責任」な行動を取ると人々が予想することが前提になりますが、そうは思えないということです。

議論4:Fedは利上げを休止、次の一手は?

Fedは12月19日に今年4回目の利上げを実施する見込みですが、2019年の追加利上げは1回か2回にとどまると予想しています。金融環境と中央銀行のバランスシート縮小が引き締めの一部を担っていることから、追加利上げは2019年上期に休止する公算が高まっています。

しかしながら、Fedが利上げを休止した場合、その後、利上げを再開するのでしょうか。あるいは休止期間の長短はさておき、次の一手は利下げになるのでしょうか。

Fedの参加者の金利予測(別名ドットプロット)では、来年のどこかの時点で利上げを休止した後、追加利上げの実施が既に織り込まれている点に留意することが重要です。参加者の予想の中央値では、利上げのペースが2018年の4回から2019年には3回に減速した後、2020年に2回の利上げが予想されているためです。

しかしながらフォーラムでは、利上げの休止を市場に伝えるのは難しく、市場は利上げサイクルは今回で打ち止めで、次は利下げだとの結論に飛びつくのではないかとの見方が示されました。ベン・バーナンキ元FRB議長が想起させてくれたとおり、前回の利上げサイクルで同氏が休止のシグナルを発した時には、ボラティリティが大幅に上昇しました。イングランド銀行などでは、休止のサインを発した後に利上げを継続できる可能性もありますが、Fedの場合、その世界的な影響力の大きさを考えれば、同じことをするのは難しいでしょう。

こうした背景を踏まえ、今後、景気後退の確率が高まっていく中、Fedが利上げを休止した後、利上げを再開する可能性は相対的に低いとの見方が大勢を占めました。

議論5:米国対中国:休戦か和平か?

米中関係の見通しについて議論したのは、トランプ大統領と習近平国家主席が追加関税の実施を一時見送り、90日間の通商協議で合意した直後でした。一部の参加者からは、米中双方が高関税の経済への悪影響が顕在化する前に合意を目指したのだから、貿易摩擦の最悪な局面は過ぎ去ったとする見方が示されました。

しかしながら、米中対立の根は深く、貿易だけにとどまらない問題であり、貿易で合意が成立したとしても不確実性やボラティリティの火種は残るというのが大方の見方です。マイク・スペンス氏はこの紛争を「システムの衝突」と評しましたが、この見方は聴衆の共感を呼び、5月のセキュラー・フォーラムでの「トゥキディデスの罠」の議論、つまり、既存勢力と新興勢力の対立のリスクを想起させました。

投資への意味合い

既に述べたように、リスクに対する短期および長期の見方は金融市場に織り込まれているとみています。こうした環境の中、PIMCOでは、一般的な企業クレジット・リスクに頼ることなくキャリーの多様な源泉を幅広く模索し、ポートフォリオ構築において全般に慎重な姿勢を継続します。

トップダウンのマクロ・リスク要因の観点では、ベンチマークにごく近い水準を維持して投資余力を残しつつ、より困難な環境で個別の投資機会を模索していくことが理に適っていると考えます。

トップダウンのマクロ・リスク要因の観点では、ベンチマークにごく近い水準を維持し、投資余力を残しつつ、より困難な環境でファンダメンタルズに対してオーバーシュートしているとみられる個別の投資機会を模索していくことが、理に適っていると考えています。PIMCOのリスク・バジェットでは(キャッシュ比率を増やし、全般的なポートフォリオの利回り低下を容認するなど)大幅な選択余地が残されており、個別の機会や、幅広いスプレッド拡大ないしボラティリティの上昇に際して対応することができます。

マクロ経済状況から判断して、次の景気後退までにはいくらか距離があると若干の安心感を得ることは可能ですが、現在の市場環境は、景気後退入りしなくても金融市場が混乱しうることを如実に示しています。さらに、次の景気後退は、伝統的なマクロ経済の過熱ではなく、金融資産の減価が引き金になる可能性があります。

現在は、非流動性に対して相応の対価を受け取る特殊なケースを除いて、流動性の高い商品を選好すべき時期だと考えます。

デュレーションは小幅アンダーウェイト、市場では米国物価連動債(TIPS)をオーバーウェイト

最近の世界的な金利低下で、利回りはPIMCOの予想レンジの下限に近付いています。しかしながら不確実な環境のもと、デュレーションのポジションについてはベンチマークにかなり近づけたいと考えており、日本を除く各国のデュレーションを小幅アンダーウェイトとします。

日本のデュレーションはアンダーウェイトにすべき根拠があると考えています。各国のデュレーションが(予想外に)大幅に上昇にした場合にヘッジ効果が期待できること、日銀が資産購入の純減を続け、イールドカーブの上限を引き上げ、スティープ化を目指すと予想されることがその理由です。

基本シナリオでは引き続き緩やかなインフレを予想していますが、市場では物価連動米国債(TIPS)のブレーク・イーブン・インフレ率は引き下げられてきました。TIPSは相対的に割安であり、景気拡大局面の最終段階にある米国において、インフレ率が予想外に上昇した場合の有効なヘッジ手段になるとみています。

イールドカーブ:中期のオーバーウエイトと長期のアンダーウエイト

各国のイールド・カーブのスティープ化を予想したポジションは構造的なインカム確保の手段だとみており、現在の環境では、バリュエーションに基づきイールドカーブの中期部分を長期部分に対してオーバーウエイトとするポジションを選好しています。向こう12カ月の景気後退リスクをそれほど高くはみていないことを踏まえると、イールドカーフは既にかなりフラットだといえます。米国では中央銀行のバランスシートの縮小が進められており、欧州中央銀行(ECB)では量的緩和(QE)を終了する構えですが、これらはいずれターム・プレミアムの見直しにつながるとの見方を継続しています。また言うまでもないことですが、景気後退リスクに関する我々の見方が間違っていて、経済環境の大幅な悪化でFRBが利下げへの転換を余儀なくされた場合、イールド・カーブのスティープ化を予想したポジションには、プロテクション機能がある程度内蔵されています。

企業クレジット一般には慎重

企業クレジットはアンダーウエイトとする方針です。一般的な企業クレジット・リスクはアンダーウエイトとする一方、個別銘柄の投資機会を模索していきます。クレジットのバリュエーションは長期平均に近づいていますが、割安だとみているわけではありません。ボラティリティが上昇する中、レバレッジの点では景気減速で隠れた弱さが露呈する可能性があるとみています。市場におけるクレジットの過剰なポジショニングと、クレジット市場の構造および非流動性については引き続き懸念しており、クレジット市場全般の弱さが露呈した場合、大幅なオーバーシュートにつながる恐れがあるとみています。PIMCOでは質の引き上げと流動性の確保を重視し、グローバルなクレジット・アナリスト・チームが割安でデフォルト・リスクが低いと判断した銘柄にこだわる方針です。PIMCOでは、ダウンサイド・リスクと、過剰なポジションが解消に向かった場合のクレジット市場の構造および流動性を重視しています。

金融セクターとモーゲージ債(MBS)セクターにおける相対価値

前述のとおり、ボラティリティが高まる環境の中で本当に割安な優れた投資機会を発掘するよう努めており、そうした機会に備えて投資余力を残しておきたいと考えています。金融セクターはバリュエーションが相対的に魅力的であるとの見方を継続します。合意なきEU離脱(Brexit)で大混乱に陥る可能性は非常に低いとの見方に基づき、英国の金融セクターの現在のバリュエーションは魅力的だとみています。テールリスクが現実になった場合、英国の金融セクターのポジションが短期的にアンダーパフォームするのは明らかですが、英国の金融機関の資本基盤は堅固であるようにみえます。イングランド銀行が最近行ったかなり厳格なストレステストでも、そう結論づけています。

非政府系MBSについては、マクロ経済やクレジット市場が悪化した場合にダウンサイドのリスク特性が優れているというディフェンシブな性格から、投資適格社債の代替的な投資手段になるとの見方を維持しています。また政府系MBSについても、割安感があり、インカムを獲得する安定的な手段だとみています。

欧州周縁国のリスクをアンダーウエイト

イタリアが抱える財政不安や、次の景気後退局面でユーロ圏全般が直面する長期的リスクをふまえ、欧州周縁国のソブリン・クレジット・リスクと企業クレジット・リスクに対しては慎重なスタンスを維持します。とはいえ、ユーロ圏のクレジット・エクスポージャーについては、対価が十分な場合、個別の投資機会を引き続き活用していく方針です。

エマージング諸国の為替および債券の機会

各国経済が足並みを揃えて減速していく中で、米ドルはG10通貨に対して総じて均衡した水準にあるとみています。エマージング諸国の通貨に関しては、リスクが適切な戦略において小幅オーバーウエイトを目指す方針であり、より一般的には、難しい市場環境の中で、現地通貨建ておよび外貨建てエマージング債に有望な投資機会を見い出していく方針です。

株式:質の高いディフェンシブ銘柄を選好

より広い意味でのアセットアロケーションの観点では、景気サイクル後期の環境は株価収益率の伸びを抑制する要因になると予想しています。今後、追い風がなくなり、金融引き締めの影響が遅れて顕在化することから、予想収益の伸びに下押し圧力がかかるとみています。株式市場は引き続き変動の激しい展開になると予想しており、全般に慎重なポジショニングを選好しつつ、質が高く景気に左右されにくいディフェンシブ銘柄を優先し、景気循環的なベータのエクスポージャーは最小限にとどめる方針です。PIMCOでは、引き続き相対的に収益性の高い米国の株式市場を、他地域の株式市場対比で選好しています。また、景気サイクルの現段階においては、質の高い大型株を選好しつつ、循環を超えて厳選された機会が浮上するのを待ち構えています。

コモディティ:原油はやや前向き

コモディティのベータ・リスクについては全般に中立とし、原油についてはやや前向きな見方をしています。米国の予想外の増産にくわえ、世界的な需要の軟化で、原油市場は余剰に転じています。石油輸出国機構(OPEC)は最近、減産を表明しましたが、これは原油価格を60ドル台前半で維持し、2014年の安値水準まで下落する事態は避けつつ、シェールガスに市場シェアを奪われるほど需給は引き締めないとの意向を反映しています。原油以外では、天然ガスの価格は天候に左右されやすく、在庫は低水準にとどまっていますが、冬場の足元の価格水準が明らかに需要に影響し、生産が急増しています。余程の寒波でもない限り、価格の上昇余地は限定的だといえるでしょう。金については引き続き長期資産とみています。ほかに、現在のバリュエーションでの米国物価連動債(TIPS)も長期資産として選好しています。

地域別の経済予測

米国

米国の実質GDP成長率は、2018年中、3%近い水準で推移してきましたが、2019年は平均でコンセンサスを下回る2%~2.5%のレンジに低下するとの予想を継続します。この根拠として、最近の金融状況の引き締まり、財政政策による浮揚効果の縮小、中国をはじめとする各国の景気減速が挙げられます。2019年中、景気の勢いは鈍化し、2019年下期には2%弱の潜在成長率に収斂する見通しです。

2019年の雇用の伸びは緩やかなペースとなり、非農業部門雇用者の月平均の増加幅は15万人程度になると予想しています。これは引き続き、長期の安定的な失業率と一致する水準を上回っています。ベース効果と足元での原油価格急落を受け、総合インフレ率は向こう数カ月、大幅に低下する見通しです。一方、直近で約2%のコア消費者物価指数(CPI)は、インフレ期待が依然として安定的に推移していること、(インフレの)フィリップス曲線がかなりフラットであることから、横ばいを予想しています。

このような環境において、FRBは12月にFF金利の誘導目標を予想通り2.25%~2.5%に引き上げた後、2019年末までに1回か2回の追加利上げを実施すると予想しています。2019年上期には利上げを休止するか、利上げサイクルそのものを打ち止めにする公算が高いとみています。

ユーロ圏

2019年のユーロ圏のGDP成長率は、コンセンサスを下回る1.0%~1.5%のレンジで、2018年の2%弱から低下すると予想しています。9月の予想から引き下げたのは、イタリアの金融状況の引き締まりが景気の重しとなること、世界的に景気の減速が見込まれることがその理由です。

コアインフレ率は、近年1%近辺で推移していますが、失業率の低下が続く可能性が高いこと、ドイツを中心に賃金の伸び率に上昇の兆しが見られることを念頭に、来年には若干上昇すると予想しています。それでもなお、ECB自身の予測や、「2%未満だが2%に近い水準」という政策目標には、程遠い水準です。

しかしながら、ECBはすでに示唆しているとおり、今月末までに資産のネット・ベースでの買い入れを終了すると予想しています。また、初回の利上げは2019年下期に実行される可能性が高いと考えています。ただし、かなりの確率で見込まれているとおり、Fedが2019年上期に利上げを休止し、それにつれて対米ドルでユーロが大幅に上昇した場合、ECBが金利据え置きのフォワード・ガイダンスを翌年にまで延長する可能性は十分にあります。

英国

PIMCOでは、2019年の英国の名目GDP成長率はコンセンサス予想並みとなるものの、実質GDP成長率とインフレ率の比率は改善すると予想しています。

EU離脱の協定案を英国議会が承認するか、交渉期間の延長で合意なき離脱の混乱は回避される、との基本的な見通しに基づき、英国の2019年の実質GDP成長率は1.25%~1.75%のレンジを予想しています。

一方、来年は、輸入品価格の上昇圧力が弱まるとともに、賃金の伸び悩みによってサービス業のインフレが抑制される結果、インフレ率は2%の政策目標を下回ると予想しています。これは、コンセンサス予想を下回る水準です。

このような環境において、イングランド銀行は来年、政策金利を1~2回引き上げると予想しています。

日本

日本では労働市場の逼迫と緩和的な財政政策を背景に、2019年の実質GDP成長率は0.75%~1.25%の緩やかなレンジになると予想しています。2019年10月に予定される消費税率引き上げでは、家計が大型商品を前倒しで購入すると予想されることから、四半期ベースの個人消費の変動は大きくなると見込まれます。ただ、歳出拡大や消費税以外の減税などの形で、政府が増税分を上回る景気対策を打つと予想しており、財政政策は全般に緩和的になるでしょう。

しかしながら、低水準のインフレ期待に改善の兆しが見られないことや、賃金の伸びは上昇傾向にあるものの労働生産性の改善が単位賃金コストを抑制し続けていることを踏まえると、消費税を除いたコアインフレ率の上昇は非常に限定的となり、野心的な政策目標(2%)を大きく下回る0.5~1%のレンジにとどまる可能性が高いでしょう。

日銀は水面下で国債の買い入れをさらに縮小すると予想しています。10年超の国債買い入れが縮小する結果、イールドカーブはさらにスティープニングする見通しです。これは、低金利環境が金融セクターに及ぼす副作用の一部を緩和することを目標とするものです。

中国

PIMCOでは基本シナリオとして、2019年の実質GDP成長率は5.5%~6.5%のレンジの中間近辺に落ち着くと予想しています。この予想には、米国との貿易摩擦や、国内のレバレッジ削減圧力、さらには一部相反する政策目標の充足を目指した経済政策(一方で経済成長や雇用拡大を目指し、他方で金融システムの安定化を目指す方針)に起因して生じる、見通しの不確実性が織り込まれています。PIMCOの基本シナリオでは、利下げではなく準備率の引き下げという形での制約のある金融刺激策を見込みんでいます。また、企業や個人向けの減税を中心とする、GDPの1.5%程度に相当する財政政策の拡大が織り込まれています。

対米ドルでの人民元のさらなる下落は緩やかなものになるという見通しが、PIMCOの基本シナリオです。しかしながら、米中の貿易協議が頓挫して緊張が高まった場合、金融政策が緩和され、人民元は大幅に下落すると予想しています。

Growth Outlook 2019  


PIMCOのプロセス

PIMCOを支える多様な視点

PIMCOのトップダウンとボトムアップの観点に基づく独自の運用プロセスでは、新しい考え方や異なる視点を積極的にとり入れています。四半期に1度の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)では、向こう1年間のトレンドを予想し、ポートフォリオのポジションを構築する枠組みを提供しています。

PIMCOの運用プロセス

優れた運用成果を実現するには、第一に準備が必要であると考えています。PIMCOの投資プロセスによって、将来を見据えた革新的なソリューションをお客様に提供するために、世界の変わりゆくリスクと投資機会を継続的に評価することが可能になります。

フォーラムでは、今後予想される動向を展望するだけでなく、発生確率が低いと考える事象からポートフォリオを保護することを目標にします。基本シナリオから外れたシナリオに備えてポートフォリオを構築することによって、想定外のイベントや市場の混乱に対して速やかに対応することが可能になります。ファンダメンタルズの長期的な動向にきめ細かく注目することで、投資機会とリスクを特定し、長期的な投資戦略を実行するための指針となる重要なマクロ経済のトレンドを把握することができると考えています。

ご留意事項

過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。ソブリン証券は通常、発行体政府によって保証されています。米国政府機関の債務は米国政府からさまざまな形で支援を受けていますが、政府による全面的な保証は付与されないことが一般的です。こうした証券に投資するポートフォリオに対する保証はなく、ポートフォリオの価値は変動します。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。コモディティは市場、政治、規制、自然などの条件により高まるリスクを伴い、全ての投資家に適しているとは限りません。社債には、発行体が元利金の支払い不能に陥るリスクがあります。また社債の価格は金利感応度や発行体の信用力に対する市場の認識、市場の全般的な流動性といった要因の影響により、変動する可能性があります。

特定の証券や種類の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が確保されるわけではありません。分散投資によって損失を完全に回避できるわけではありません。

本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。 投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。

ここでの「割安」「割高」という用語は、当該証券や資産クラスの長期平均並びに運用担当者の将来予想価格を大幅に下回る、あるいは上回るという意味で使われています。将来の運用成果の保証や、証券の評価が利益の確保、または損失を回避する保証はありません。

ベータとは、市場変動に対する価格の感応度を計る指標であり、マーケット・ベータは1と定義されます。

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