2017年の大きなテーマであった世界経済の足並みを揃えた景気拡大は、年の終わりにかけてピークを迎えたのに伴い、過去の出来事となりました(2017年12月「短期経済予測:成長のピークへ」を参照)。今年に入って、経済成長が頭打ちすると同時に、地域間の格差が広がっています。その結果、市場では現在、複数の資産クラスの間で、そして各資産クラスの内部において、バリューの二極化や差別化の動きが広がっているとの見方が強調されています。これは景気拡大局面の最終段階において典型的な動きであり、日頃からPIMCOのレポートをお読み頂いている読者の方々はご存じのように、PIMCOもこのような市場の見方に同意しています。
足元の動向から、向こう6~12カ月間のマクロ経済と金融市場の見通しに話題を変えましょう。PIMCOが3月の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)において総括したように、現状は依然として景気拡大局面の「終わりの始まり」なのでしょうか。むしろ、米国における税制改革の効果や企業利益およびGDPの底堅い伸びを踏まえて、経済成長見通しに対してより楽観的になるべきなのでしょうか。また、エマージング市場の下落や、クレジット市場および欧州周縁国市場におけるスプレッド拡大をうけて、投資機会が浮上しているのでしょうか。
足並みを揃えた景気減速
これらのテーマやその他の問題について議論するため、PIMCOの投資プロフェッショナルとPIMCOが信頼するシニア・アドバイザーは、ニューポートビーチにて開催された9月のシクリカル・フォーラムに集結しました。冒頭で一部の参加者が指摘したように、5月に開催された年次のセキュラー・フォーラムにおいて長期的なテーマとして浮かび上がった「市場の急変」のいくつかが、この数カ月間にすでに顕在化しています。具体例を挙げると、米中間の貿易摩擦、イタリアのポピュリスト政権とEUとの間の対立の深まり、そして言うまでもなく最近のエマージング市場の混乱であり、これらはいずれも、慎重な姿勢と流動性の確保を長期的に重視するPIMCOの方針を裏付ける動きと言えます。
フォーラムでは、最近の政治情勢や金融市場の動向は、世界的に金融環境を引き締め、政治経済の不確実性を高めることによって、世界中で企業と個人の「アニマル・スピリット」に悪影響を及ぼす可能性が高く、短期見通しに影響すると結論づけました。
「PIMCOの短期的な基本シナリオとして、年初来の景気の二極化の動きは、来年にはより足並みを揃えた経済成長の減速に向かうと考えています。」
このような環境において、来年は米国における財政政策の効果が剥落し始めます。このためPIMCOでは、米国の経済成長が加速する一方でその他の諸国の成長が鈍化するという年初来の二極化の動きは、来年には足並みを揃えた経済成長の減速に転換するという基本シナリオを形成しました。PIMCOでは、来年は米国、ユーロ圏、中国という3大経済圏のGDP成長率は今年を下回ると予想しています。経済成長は持続するものの、そのペースは減速する見通しです。
中央銀行の動き
とはいえ、主要国の経済活動は減速するものの、トレンドを上回るペースで引き続き拡大し、短期経済予測の対象期間において労働市場に残存するスラック(需給の緩み)をさらに吸収する可能性が高いでしょう。このような動きに対応するため、主要な中央銀行は、引き続き金融緩和を緩やかに縮小するとPIMCOでは予想しています。
- 米連邦公開市場委員会(FOMC)は、9月にフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標レンジを予想通り2.0%~2.25%に引き上げた後、2019年末までにさらに3回利上げを実行するとPIMCOでは予想しています。その結果、FOMCの委員による長期的な中立金利の予想の中央値と一致することになります。
- 一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は、PIMCOの短期経済予測の期間においてはバランスシートの縮小を続ける可能性が高いものの、縮小のプロセスを2019年末までに終了することも考えられます。
- PIMCOでは、欧州中央銀行(ECB)は今年末までに資産のネット・ベースでの買い入れを終了するものの、当面は償還資金の再投資を継続すると予想しています。現在マイナス0.4%である中銀預金金利の初回の利上げのタイミングは、2019年下期以降になる見通しです。コアインフレ率がECBの現在のスタッフ予想ほど上昇しなければ、さらに先送りされることも考えられます。
- 日本銀行は、従来通り翌日物金利をマイナス0.1%、10年国債利回りを0%に誘導するという内容の、最近導入したソフトなフォワードガイダンスを、短期経済予測の期間内は継続する公算が大きいでしょう。一方、来年のどこかのタイミングで、イールドカーブのさらなるスティープニングを促進して国内の金融機関をサポートするため、イールドカーブ・コントロールをさらに調整する可能性が高いとみています。
二方面のリスク
フォーラムでは、「経済成長は続くもそのペースは減速」という基本シナリオに伴うリスクはおおむね対称的であると考えました。短期的には貿易政策が重要な波乱要因であり、ポジティブな結果もネガティブな結果も考えられます。
- PIMCOのマクロ経済チームの基本シナリオには、最近発表された米中の関税引き上げの応酬(米国による2,000億ドル相当の中国製品に対する追加的な関税賦課と、中国による600億ドル相当の米国製品に対する追加的な関税賦課)が織り込まれています。
- 米国が中国から輸入する全製品とさまざまな国から輸入する自動車および自動車部品に対して関税を賦課し、相手国がこれに報復措置で対抗するなど、貿易戦争がさらに深刻化すると同時に、人民元が大幅に下落するシナリオでは、米国および世界の経済成長は大幅に減速すると予想していますが、全面的な景気後退入りは回避される可能性が高いでしょう。
- 反対に、友好的な貿易関係が回復し、貿易協定が締結され、最近賦課されたすべての関税と既存の関税の一部が撤廃されるシナリオでは、短期経済予測の期間において、世界経済が現在と同水準の成長率を維持する可能性はあります。
「短期的には、通商政策は重要な波乱要因です。」
このほかフォーラムでは、イタリアにおけるポピュリズムの広がりに起因して欧州内部で対立が深まるリスクや、利益の堅調な伸び、規制の緩和、設備稼働率の上昇を背景とする米国企業の投資の上振れリスクについても検討しました。
さらに、国際貿易の伸び悩み、米金利の上昇、国内政治の不確実性といった要因を踏まえると、多くのエマージング諸国の見通しは依然として厳しいという見方でも一致しました。エマージング市場の状況が悪化し続けた場合、行き過ぎた米ドル高と国際貿易の伸び悩みを通じて、最終的には米国にも影響が波及する可能性が高いでしょう。
タイブレークなしのファイナルセット
フォーラムでは、景気サイクル後期に関するテーマを再確認しました。また、シニアな参加者の1人は、「テニスのウィンブルドン選手権のファイナルセットではタイブレークはない」という比喩を用いて、景気サイクル後期の環境が長期化しうることを強調しました。過熱感と政策判断の誤りが回避されるのであれば、景気サイクル後期の環境は長続きする可能性があります。このため、サイクルが早期に終了するリスクを念頭に置く必要はあるものの、質への逃避に徹するには時期尚早であると考えました。
実際、PIMCOでは基本シナリオとして、来年は景気後退局面は到来せず、景気サイクル後期の環境が当面続くと予想しています。これまでのところ、過剰消費、過剰投資、住宅バブル、賃金の過度な伸びといった、景気後退局面の直前に見られることの多い国内経済の不均衡は、確認されていません。とはいえ、景気の動向は、FRBが中立金利を大きく超える水準まで政策金利を引き上げるかどうかに依存する部分が大きいでしょう。前述のように、PIMCOの基本シナリオでは、少なくとも来年に関しては、FRBは利上げに前のめりになることはなく、政策金利を2.75%~3.0%程度という中立金利の水準まで引き上げた後、利上げプロセスを一旦停止し、年後半にはバランスシートの縮小プロセスを終了するとみられます。このためPIMCOでは、景気後退入りのリスクは、向こう3~5年間については非常に高いものの、短期経済予測の期間については現実的でないと引き続き考えています。
投資の結論
ここまでで、PIMCOの短期経済見通しの基本シナリオが、相応に安定的であることをご理解頂けたこと思います。しかしながら、マクロ経済と金融市場の動向に関しては、基本シナリオに伴う一連のリスクを注視したいと考えています。
向こう数カ月間を展望すると、米国では、FRBは中立金利に近い水準で利上げサイクルを終了するのか、金融政策の引き締めにシフトするのかが明確になるでしょう。欧州では、ECBは予想通り量的緩和を終了するとともに、おそらく2019年下期から利上げサイクルを開始することによって、引き締めに転じる見通しです。日本銀行はすでに、日本国債の買い入れを大幅に縮小しました。加えて、金利の上昇とイールドカーブのスティープニングを促すために、イールドカーブ・コントロールをさらに調整すると予想しています。
「過熱感と重要な政策判断の誤りが回避されるのであれば、景気サイクル後期の環境は長続きする可能性があります。」
PIMCOでは基本シナリオとして、世界の経済成長は続くもそのペースは減速するとみていますが、マクロ経済の不確実性やボラティリティが高まる可能性は残存しています。米国では、労働市場が逼迫した状況において、コア・インフレ率はFRBの政策目標を上回る見通しです。また、米国、イタリア、システム上重要な多くのエマージング諸国の見通しにおいて、ポピュリズムはリスク要因となっています。
多くの市場においてボラティリティが低く、バリュエーションに割高感が存在するタイミングにおいて、このようなマクロ経済や金融市場のボラティリティは顕在化しています。景気サイクルが持続する可能性はあるものの、この先、市場環境が一段と困難になり、特にクレジット市場において、市場の流動性や構造が試されるリスクが見受けられます。
PIMCOではポートフォリオを構築する際に、慎重なスタンスを保ちつつ、基本シナリオでは想定されない一連のリスクについても軽視すべきでないと考えています。また、ポジティブおよびネガティブなショックに対応可能な柔軟性を維持する方針です。5月に公表した長期経済見通しにおいて指摘したように、たとえば流動性が非常に高い短期金融商品の保有を通じて柔軟性を確保する代償として、ポートフォリオの利回りがある程度犠牲になったとしても、現在の環境においては合理的なトレードオフであると思われます。PIMCOでは、企業クレジットのオーバーウェイトに依存することなく、幅広い投資対象からインカムを獲得する方針です。信用サイクルが転換する時期を正確に予測することはできませんが、今後の展開に備えようと試みることは可能です。
デュレーション:小幅アンダーウエイト
引き続き、低水準の均衡政策金利が世界の債券市場をつなぎとめる「ニュー・ニュートラル」の枠組みを維持することが適切であると考えています。PIMCOでは基本シナリオとして、世界の金利市場はレンジ圏内で変動するとみていますが、利回りが大幅に上昇する確率の方が大幅に低下する確率よりも高いとみて、デュレーションの小幅アンダーウエイトを継続します。
英国の利回り水準は、従来の水準や、とりわけ米国の水準を大幅に下回っています。ニュース報道により市場が大きく変動するリスクや、実際のテールリスクはあるものの、EU離脱(Brexit)のプロセスは秩序ある形で進むという見通しを踏まえ、英国のデュレーションに関してはアンダーウエイトが妥当であると考えています。世界的にはデュレーションを引き続きベンチマーク並みとする一方で、日本のデュレーションをアンダーウエイトとすべき根拠があると考えています。今後、イールドカーブ・コントロールの調整が予想されることに加え、各国の金利が予想外に大幅に上昇した場合、時間差を伴って日本にも反映される可能性があり、そのことに対するヘッジ効果が期待されるためです。
イールドカーブのスティープ化
米国のイールドカーブは、過去の形状や他の先進諸国の形状と比べてフラットであるように見受けられます。見通しには大きなリスクが伴うものの、来年、米国経済が景気後退入りするリスクは非常に限定的であるとPIMCOでは考えています。FRBの利上げサイクルが最終段階に入ったこと、一部の中央銀行がボラティリティの抑制を後退させたことを背景にボラティリティが上昇する見通しであること、米国においてインフレの上振れリスクが存在することを根拠に、PIMCOのポートフォリオでは、構造的にカーブのスティープ化を予想するポジションをとっています。カーブの中期ゾーンをオーバーウエイトとすることによって、インカムの確保を目指しています。大きなデュレーションのポジションをとるよりも、カーブのポジションをとる方が、分散効果の観点からリスク対比のリターンが魅力的であると考えています。
企業クレジットには慎重
バリュエーションの割高感、市場の流動性に関する懸念、数年間続いたクレジット市場への投資資金の流入によって生じたポジションの偏りを念頭に、企業の信用リスクは小幅アンダーウェイトとする方針です。クレジットのパフォーマンスは短期経済予測の期間においては良好に推移する公算が大きいものの、質への逃避の局面において流動性の状況が極めて不透明であることや、与信基準が次第に悪化していることを踏まえ、アンダーウエイトとすることが保守的であると考えています。信用サイクルの転換期に、ポジションの売却を強いられるのではなく、流動性を提供することで強みを発揮したいと考えています。当面の間、一般的な投資適格債とハイイールド社債を回避する方針です。代わりに、PIMCOのグローバルなクレジット・アナリスト・チームが最適な相対価値の観点から選別し、状況が悪化した時でも良好なパフォーマンスが期待される、短期年限の「曲がっても折れない」クレジットのポジションを幅広く優先する方針です。
ストラクチャード・クレジットをオーバーウエイト
引き続き、バリュエーションの割安感、エクスポージャーの保守的な性質、元本損失リスクの低さを根拠に、確信度の高いスプレッドのポジションとして、非政府機関系モーゲージ債(MBS)を始めとするストラクチャード・クレジットを広範にオーバーウエイトとする方針です。政府機関系MBSについても、価格は妥当な水準であり、インカムを獲得する手段として有望だと見ています。
為替市場およびエマージング市場:小幅なポジションに調整
米ドルはG10通貨(米ドルを除く)に対して総じて均衡した水準にあるとみています。その根拠として、各市場のバリュエーションに目立った違和感が存在しないことや、年初来、二極化傾向が見られる先進諸国の経済成長がより均衡するようになるという見通しが挙げられます。エマージング通貨に関しては小幅オーバーウエイトを維持する方針ですが、バリュエーションに割安感があることと、エマージング諸国の見通しが極めて不透明であることを踏まえて、ポジションを小幅にとどめています。PIMCOがエマージング通貨およびエマージング市場全般に対してさらに前向きになるためには、各国の政治動向やその他の個別のリスクの評価に加えて、割安なバリュエーションや、貿易摩擦が深刻化せず、FRBの利上げサイクルが終了することを示す根拠が確認されることが、重要なポイントになるでしょう。
欧州の周縁国とクレジットには慎重
長期経済見通しにおいて概要を示したように、長期的に中央銀行の政策に不透明感が増していることから、中央銀行のサポートに大きく依存するセクターに対するエクスポージャーを限定する方針です。ECBによる量的緩和政策の終了と、民間の投資家が吸収する必要のある供給の増加は、今後も課題になるでしょう。イタリアにおいて予測不能なポピュリスト政党が連立政権を形成していることも、問題をさらに深刻なものにしています。バリュエーションの水準に鑑みると、イタリアを始めとする欧州周縁国および欧州の企業クレジットに対しては、慎重なスタンスで臨むことが合理的であると考えています。
株式:景気循環銘柄よりもディフェンシブ銘柄を選好
アセットアロケーションの観点からは、FRBによる金融政策の引き締め、インフレの上昇圧力、保護主義の高まりに象徴される景気サイクル後期の環境は、株価収益率の伸びを抑制する要因になると予想しています。このような「経済成長は続くもそのペースは減速」するという短期見通しは、リターンの期待値が低下する方向性を示唆しています。このような環境においては、成長の持続性を重視しつつ、景気循環的なベータに対するエクスポージャーを削減することによってポートフォリオの質を高め、保守的なスタンスを前面に出すべきでしょう。PIMCOでは、相対的に景気循環性が低く収益性の高い米国の株式市場を、他地域の株式市場対比で選好しています。また、景気サイクルの現段階において、質の高い大型株を選好しています。
コモディティ:景気サイクル後期における魅力的な投資機会
景気拡大局面の最終局面において、コモディティという資産クラスは従来から高いパフォーマンスを上げてきました。関連して、経済活動が活発な状況において、政治的な動きなどを背景に供給に制約が加わったことが、リターンの見通しを下支えしています。また、担保付きコモディティへの投資から得られるインカム収入は、2014年以降で初めてプラスに転じています。供給の制約はコモディティの種類によって異なるため、コモディティの見通しが全面的に明るいわけではありません。米国がイランに対して制裁を再発動した結果、世界の原油市場に残存する余剰生産能力が実質的に消滅する見通しを踏まえて、PIMCOでは石油に対して前向きな見方を維持しています。
地域別の経済予測
米国
米国の実質GDP成長率は、年初来3%近い水準で推移していますが、2019年はコンセンサスを下回る2~2.5%のレンジに低下すると予想しています。根拠として、財政政策による浮揚効果の縮小、金融緩和の縮小継続、米ドルの上昇、貿易環境や対外環境の悪化が挙げられます。
もっとも、潜在成長率(約1.8%)を上回る経済成長が続くため、月平均で15万人程度の雇用が創出され、失業率は3.6%程度に向けてさらに低下する見通しです。コア消費者物価指数(CPI)(直近の数字は2.2%)は、関税賦課の影響が遅れて顕在化する結果、前年同月比+2.5%程度まで上昇するものの、インフレ期待が安定的に推移する見通しであり、(インフレの)フィリップス曲線が相応にフラットであることから、その後はいくぶん低下すると予想しています。
このような環境において、FRBは9月にFF金利を予想通り2.0%~2.25%に引き上げた後、2019年末までにさらに3回利上げを実行するとPIMCOでは予想しています。その結果、FOMCの委員による長期的な中立金利の予想の中央値(約3%)と一致することになります。
また、FRBの理事会が年内にカウンター・シクリカル・バッファーの引き上げを決定することも、十分考えられるとみています。その場合、金融システムの安定性に対する懸念に対応するため、大手銀行は1年以内に自己資本の積み増しを要求されることになります。
ユーロ圏
PIMCOでは、ユーロ圏の実質GDP成長率は向こう1年間は1.5%から2.0%のレンジで推移し、2017年の水準(2.5%)を大幅に下回るものの、引き続き潜在成長率を上回ると予想しています。最近発表されたPMI(購買担当者指数)は、ユーロ圏内で経済の二極化の動きが進み、イタリア経済が後れをとっていることを示しています。これまで表面化していなかったものの、反体制派の現政権が反ユーロに傾斜していることを踏まえると、イタリアの経済情勢は注目に値するでしょう。
コアインフレ率は、近年1%近辺で推移していますが、失業率の低下が続く可能性が高いこと、ドイツを中心に賃金の伸び率に上昇の兆しが見られること、ユーロ高に一服感が生じたことを念頭に、来年には1.4%に向けて上昇すると予想しています。それでもなお、ECB自身の予測や、「2%未満だが2%に近い水準」という政策目標には、程遠い水準です。
しかしながら、ECBは、すでに示唆したように、今年末までに資産のネット・ベースでの買い入れを終了すると予想しています。また、初回の利上げは2019年下期に実行される可能性が高いと考えています。FRBは来年のいずれかの段階で利上げサイクルを中断し、2019年末までにバランスシートの縮小プロセスを終了する可能性があるというPIMCOの見方と合わせて考えると、興味深いことに金融政策は異なる方向に進み、為替レートに重要な影響が生じうるでしょう。
英国
PIMCOでは、2019年の名目GDP成長率はコンセンサス予想並みとなるものの、実質GDP成長率とインフレ率の比率は改善すると予想しています。
Brexitを巡る交渉が前進して「ハードBrexit」は回避されるとの見通しに基づいて、実質GDP成長率はコンセンサス予想を上回る1.5%から2%のレンジに達すると予想しています。その結果、来年は1年を通して内需が下支えされる見通しです。
一方、来年は、輸入品価格の上昇圧力が弱まるとともに、賃金の伸び悩みによってサービス業のインフレが抑制される結果、インフレ率は2%の政策目標を下回ると予想しています。これは、コンセンサス予想を下回る水準です。
このような環境において、イングランド銀行は来年、政策金利を1~2回引き上げると予想しています。
日本
労働市場の逼迫と緩和的な財政政策を背景に、実質GDP成長率は1%から1.5%のレンジで堅調に推移すると予想しています。
しかしながら、低水準のインフレ期待に改善の兆しが見られないことや、賃金は増加傾向にあるものの労働生産性の改善が単位賃金コストを抑制し続けていることを踏まえると、コアインフレ率の上昇は非常に限定的となり、野心的な政策目標(2%)を大きく下回る0.5~1%のレンジにとどまる可能性が高いでしょう。
短期経済予測の期間において、日銀は利上げを実行しないものの、水面下で国債の買い入れをさらに縮小すると予想しています。10年超の国債買い入れが縮小する結果、イールドカーブはさらにスティープニングする見通しです。これは、低金利環境が金融セクターに及ぼす副作用の一部を緩和することを目標とするものです。
中国
PIMCOでは基本シナリオとして、2019年の実質GDP成長率は5.5%から6.5%のレンジの中間近辺に落ち着くと予想しています。この予想には、米国との貿易摩擦や、相反する政策目標の充足を目指した経済政策(一方で経済成長や雇用拡大を目指し、他方で金融システムの安定化やレバレッジ削減を目指す方針)に起因して生じる、見通しの不確実性が織り込まれています。PIMCOの基本シナリオには、最近発表された米中の関税引き上げの応酬が織り込まれていますが、さらに深刻化する展開は織り込まれていません。また、公共投資の拡大や個人向けの減税を中心とする、GDPの1%程度に相当する財政政策の拡大が織り込まれています。
一方、エネルギー価格や食料品価格の上昇を背景に、消費者物価指数(CPI)は2.5%へと緩やかに上昇すると予想しています。また、2016年以降に実施した引き締め政策を軒並み反転させた中国人民銀行は、短期経済予測の期間において、政策金利と預金準備率を据え置くとみています。また、PIMCOの基本シナリオでは、人民元は米ドルに対して緩やかに下落する見通しです。一方、全面的な貿易戦争に発展するシナリオでは、金融緩和政策の導入と人民元の10%程度の大幅な下落が予想されます。