PIMCOとシカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの意思決定研究センター(Center for Decison Research, CDR)は、2018年9月に行動経済学と行動ファイナンスの研究を含め、CDRによる行動科学の研究をサポートするパートナーシップを結ぶことを発表しました。この研究に対する投資を記念して、シカゴ大ブース・スクールのCDRは「PIMCO意思決定調査研究所(Decision Research Laboratories)」と改名されました。また、調査研究の対象者の多様性を高め、広く一般社会と深く結びついた研究を行うため、新たに「店頭」行動科学研究所も併せて開設される予定です。

以下のインタビューでは、2017年ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学ブース・スクールのリチャード・セイラ―教授とPIMCOの最高経営責任者(CEO)のエマニュエル・ローマンが、行動ファイナンスが投資の意思決定や資産運用業界社会にもたらす恩恵についてご説明します。

問: 投資家が行動ファイナンスに注目すべき理由を教えてください。


エマニュエル・ローマン:行動ファイナンスは素晴らしい研究分野で、資産価格形成に新しい視点を提供しています。意思決定における人為的な失敗やバイアスを可能な限り排除し、意思決定者がより良い結果を達成するためのツールを提供してくれます。研究成果を活用することより、誰もがより優れた長期投資家になれる可能性を秘めています。

資産運用業界で我々がお客様に提供すべきサービスは、リスク調整後リターンの向上です。市場は全体として新しい情報を即座に織り込み、教科書的に言えば十分「効率的」です。しかし一方で、債券市場には長期的な構造上の非効率性が存在し、それにより株式より幾分か容易に超過収益が獲得できると考えています。従って資産運用会社は、景気サイクルを通して市場をどのように安定的にアウトパフォームし、競合優位が何であるかを、折に触れて見直す必要があります。

PIMCOでは、アウトパフォームする可能性を一層高める2つの分野があると考えています。より適切で賢明な意思決定をすること、そして差別化されたより良質なデータを保持していることです。2018年にPIMCOが発表した2つのパートナーシップは、これらの分野に取り組むためのものです。CDRとの革新的なパートナーシップでは、人々の行動と意思決定を一層深く理解するため、確固とした研究を支援し協力していきます。これによって、既にPIMCOの投資プロセスにあるバイアス排除の仕組みをさらに強化し、ポートフォリオにとって、ひいてはお客様にとって、より賢明な意思決定ができるような知見が得られることを期待しています。自ら想定した仮定を再検証する精神は、PIMCOの企業文化の中心に長く根付いています。例えば四半期ごとの経済予測会議では、投資、ビジネス、学術界、公共政策などの分野から幅広く傑出したゲスト・スピーカーを招待します。日々の投資委員会(インベストメント・コミッティー)を含め、その後の社内会議での活発な議論は決して異例ではなく、むしろ通常のプロセスであり、その議論にはあらゆる分野の最新の研究が採り入れられています。

また2018年7月には、AIによる投資プロセスの支援方法に関する研究のため、科学や工学分野で世界的に有名なカリフォルニア工科大学(カルテック)とのパートナーシップを発表しました。同大学のComputing and Mathematical Sciences(計算および数学サイエンス)学科の優秀な博士課程修了者および大学院生に対し、「PIMCO Postdoctoral Fellowship in Computing and Mathematical Sciences」と「PIMCO Graduate Fellowship in Computing and Mathematical Sciences」の奨学金制度を創設しました。この奨学金制度のスポンサーとなることで、PIMCOとデータ・サイエンス、機械学習、経済学の3分野を修めた同大学の研究者との重要な結びつきを築きつつあります。何十年もの間、定量分析はPIMCOの投資プロセスの中で重要な地位を占めてきました。急成長を遂げているこの分野におけるさらなる研究は、これからもPIMCOが最先端を走り続ける原動力となるでしょう。

問: セイラ―教授にお聞きします。退職に向けた貯蓄について重大な研究をしてこられましたが、あらゆる人に影響を与える行動ファイナンスのこのテーマについてご説明下さい。今後はどのような方向に進むのでしょう。


リチャード・セイラ―教授:退職に関する議論は金融リテラシーに関するより広い話題のなかから生まれたものです。全ての人ではないにせよ、多くの人にとって金融は非常に難しい問題です。退職に関する議論には多くの研究の裏付けもあり、私も金融教育は有益だと感じていますが、実際にはそのような教育は一定程度の価値しかないというのが私の主張です。それは人が愚かだからではなく、問題が難しいからです。

私を含めて学者や業界関係者は、自動加入と自動積立によって被雇用者が以前よりも貯蓄しやくなるよう、20年以上にわたって研究を続けてきました。また雇用者側でも、目的に合ったターゲットデートファンドを紹介してきました。これらの効果は明らかで、何年もかかりましたが、このような方法が広く普及し始めたことで、退職に向けた貯蓄は明らかに増加してきました。

これらのアプローチの共通点は、解決策をあまり深く考えなくて良いことです。退職に関して次に取り組むべき大きな問題は、実際に退職した後に資金をどうするかです。私たちはこれを「取り崩し(decumulation)」と呼んでいます。これまでは、退職に向けていかに貯蓄するかが注目されてきました。しかし一旦退職したあと、その後予想できない残りの人生において、貯蓄をどのようにつないでいくのでしょうか。もし70歳で退職した場合、あと10年、20年、さらには30年以上分の貯蓄が必要になるかもしれません。70歳よりも前に退職すれば、あるいは若い配偶者がいれば、その期間はさらに長くなります。「取り崩し」は「積み立て」よりもさらに難しい問題だと考えています。べビーブーマーである私の世代が退職の時期を迎えていますが、将来に向けてなんとか備えができた人も、それをどのように維持するかに対する答えを見つけるには、大きな手助けが必要となるでしょう。これは少なくとも私には研究テーマとして興味ある問題です。

問: 資産運用会社にも関係のある問題で、おそらく働くすべての人に関連する分野が、組織管理の問題です。組織をより効果的に機能させるために、(行動ファイナンスを含む)行動科学の研究はどのように役立つのでしょう。


セイラ―教授:行動科学の知見の恩恵を最も受けるのは、一般的には人事部ではないかと私は考えています。組織の問題は惰性を打破することです。例えば採用を考えてみましょう。採用担当者はなぜ従来通りの面接を続けているのでしょう。伝統的な面接では、候補者が採用後にどのような働き方をするかについて、(ゼロではないにせよ)ほとんど予想できないという証拠は、既に40年近くも前から数多く挙げられています。例えば面接官が、「10年後あなたはどうなっていますか」などの質問で30分間面接しても、働きぶりの有益な予測材料とはなりません。これは現状維持バイアスです。これまで常にそうしてきたという理由で同じことをする例は数多くあり、変えることは非常に難しいものです。面接に関する私の提案は、有望な候補者には面接時間を、この会社でぜひ働きたいと思わせるリクルートの場として使うことです。

コーチングを含めて、採用後にもその人物が学習したりスキルアップする機会はあります。チームスポーツでは、パフォーマンスの計測にデータを使用することは良く知られています。データを正しく使用すれば、その選手の強みをチームに活かすことができます。例えばバスケットボールでは、コートのどのポジションからどれだけ多くのシュートを放ったかなど、選手の試合の中のパフォーマンスについて、秒刻みで信じられないほどのデータがあります。PIMCOのような運用会社であれば、トレードやトレーダーに関し、どのような材料で判断を行ったのか、その結果がどうなったかのデータを集め、検証することができます。バスケットでフリースローシュートの決め方を教えることができるのであれば、もっと優秀なトレーダーになることを教えることも可能なはずです。コーチングはほぼすべての分野において十分に行われていないというのが、私の率直な考えです。

問: PIMCOとして何か付け加えることはありますか。


ローマン:退職後の資産の取り崩しの話題に戻りたいと思います。PIMCOは、単にお客様に卓越した運用パフォーマンスを提供することを目指すだけではありません。お客様のパートナーとなり、複雑な問題に対し革新的なソリューションを見つけるお手伝いをします。十分な退職資金を蓄えることは個人にとって最も大きな課題の一つです。この問題について、PIMCOのクライアント分析グループは、「Income for the Retirement Years(退職後の収入)」と題した論文を米国のお客様向けに発表し、いつ社会保障制度の給付金を受け取るのか、どのような資産配分を行うのか、年金保険を購入すべきか否かなどの問題について分析しています。退職時に保有すべき債券と株式の組み合わせは個人の保有資産レベルに大きく依存するものの、年金として一定額を受け取るか否かの決定は、資産配分が異なっても保有資産額の多寡に関わらず比較的一定していると結論付けたモデルを公表しました。この論文のご一読をお勧めするとともに、「取り崩し」について、これからもお客様を支援していきたいと考えています。

最後に、運用会社にとって、またすべての投資家にとっても、自らが注目する分野に関する最新の研究情報を十分知ることが非常に大切である点を強調したいと思います。単純にこれまでやってきたことをいつまでも繰り返したり、確証バイアスに陥ったり、新たな機会を見逃したり、拡大しつつあるリスクに不意打ちされる可能性を避けるためには極めて大切なことです。PIMCOとCDRは、さまざまな行動科学の分野の研究プロジェクトで協力し、連携する予定です。市場をアウトパフォームし、お客様に革新的なソリューションを提供する力をさらに高めたいというのが、PIMCOの思いです。

意思決定への投資

シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのPIMCO意思決定調査研究所は、人々が実際に生活し働く場において、最も強い影響力のある行動科学上の調査・研究ができる機会を研究者に提供します。シカゴ大学とのこの画期的なパートナーシップを通じて、PIMCOは人間の行動や意思決定のメカニズムをより深く理解することを一層推し進める、様々な研究を支援し、ビジネスのみならず社会において、各リーダーたちがより賢明な意思決定を下せるよう支援していきます。

著者

Emmanuel Roman

最高経営責任者(CEO)

Richard Thaler

シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス 経済学・行動科学専門特別教授

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