行動科学からの洞察

キャッシュと短期運用において構造的バイアスを克服する方法

行動科学は、特に今日の景気サイクル終盤の局面で誤った投資判断に陥りがちとなる、バイアス(先入観)の特定に役立つ可能性があります。

行動科学者は人間がなぜ間違いを犯すのかを分析することを得意としており、金融、投資判断は彼らにとって格好の研究対象となっています。特に今日の緩やかな経済成長と劇的に変わる市場ボラティリティ、低い長期金利に象徴される景気サイクルの後期の環境下では、結果的に誤った判断をするバイアスを排除することは困難です。以下のQ&Aでは、PIMCOのショート・ターム・ポートフォリオ管理チーム統括責任者のジェローム・シュナイダーとポートフォリオ・リスク・マネージャーのジャン・フォラーが、主要なバイアスについて述べたあと、キャッシュと流動性管理について、個人投資家や機関投資家が改善できると考えられる点についてご説明します。

問:行動科学をどのように投資に応用していますか。

ジェローム・シュナイダー:投資の最も基本的な前提のいくつかは人間が持つ生来のバイアスに根差すもので、その点で行動科学は私たちにとって魅力ある分野です。PIMCOは運用会社としてさまざまなバイアスを論じることができますが、なかでも最も多く投資家に見られるのが、現状維持バイアス、損失回避バイアス、そして確証バイアスです。これらはすべて投資目的の達成とポートフォリオの阻害要因となり得るものです。

個人のバイアスについては多くの詳細な研究が見られますが、組織としてバイアスを持つ可能性も大きく、これについてはPIMCOでも措置を講じています。単に特殊で古い組織や投資フレームワークのなかのバイアスのことではなく、金融の一部の分野で確証バイアスが非常に深く根付いているため、構造的なバイアスとして確立してしまった根本的な考え方に関するものです。

これらのバイアスについての認識と行動科学がもたらす洞察は、多くの資産が割高となり、成熟しつつある景気拡大期にある現在、非常に有効だと考えています。アクティブ運用会社として、自らのバイアスに気付きそれらに対処するだけでなく、市場で多く見られるバイアスにも配慮すべきです。そうすることで、運用成果を抑制するバイアスにしっかり注意を向け、お客様に価値あるサービスを提供できると考えています。

問:最近損失回避に関するレポートが発表されましたが、その内容と、PIMCOがどのように対応しているかを教えてください。

ジャン・フォラー: PIMCOでは、行動ファイナンス理論を投資プロセスとリスク管理のプロセスに組み込んでいます。特に、損失がもたらす精神的苦痛から、リスク・リターンに関する適切な判断を誤り、投資目的の達成を危うくする損失回避の概念を重視しています。2002年のノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマン氏と同僚のエイモス・トベルスキー氏が初めてこのヒューマン・バイアスについて論文を発表し、2017年のノーベル経済学賞受賞者のリチャード・テイラー氏が、そのバイアスの応用に関する理解促進に貢献しました。

投資成果の分布図を見る場合、リスクを取る人は同額の利得よりも損失に強く反応するはずですから、正規分布は誤解を招きます。カーネマンとトベルスキーは、損失回避の比率は、気持ちの上では、平均値の左側に約3分の2、右側に3分の1偏っていると推定しました。この2対1の関係は一般的な法則であり、この比率は個人によって、あるいは潜在的な損失の規模によって、さらには被験者が「トレーダーのように考える」ことを求められる(その場合、普段より損失回避的でなくなる)か否かによって変わります。

レポート「損失回避バイアスを認識し、管理する」では、このバイアスに対するPIMCOの取り組みを説明しています。簡単に言えば、PIMCOでは投資判断の前と後に措置を講じています。事前的な損失回避バイアスの管理では、明確に分布の左側に焦点を絞って、取引またはポートフォリオの潜在的な損失に対処します。「この取引でどれだけの損失が許容されるか」を確認します。また将来、投資戦略にとって市場が不利な結果となった状況を仮定した悪化シナリオを想定し、ストレステストを実施します。リスク・バジェット(予算)では、悪化シナリオが現実になった場合に発生しうる損失の規模を考慮します。

事後的な損失回避バイアス管理は、パフォーマンス分析の1)計測と2)再認識という2つの要素で構成されます。計測では下落幅が期待値からどれだけ乖離しているか、またその下落幅がどれくらいの確率で起こるのかを比較します。再認識はさらに困難です。ポートフォリオを検証し、初期投資時点でそのリスク・プロファイルを許容できる、適切に補償されていると認識していたことを確認する必要があります。損失回避バイアスを克服する明確な行動が必要になる可能性があります。つまり、将来の潜在的な損失という仮説を受け入れることと、実際に下落を乗り切ることのギャップを埋める必要があるのです。

シュナイダー:ショータ・ターム・ポートフォリオ管理について言えば、損失回避バイアスを含め、チームによる運用アプローチでバイアスの抑制をはかっています。ショート・タームの運用チームの各メンバーは、キャッシュやショート・ターム運用に止まらず、セクターについてもしばしば異なる見解と経験を提示します。アナリティクス・グループからの情報も取り入れ、チームアプローチにより常に市場の常識に挑戦し、必要に応じてポートフォリオを修正することができます。また、リスク・マネジメント・グループの役割も重要で、客観性を向上させ、ポートフォリオのポジショニングの潜在的なバイアスを発見するために、ポートフォリオ・マネージャーに疑問を投げかけます。

ショート・ターム運用では、お客様の元本保全だけではなくボラティリティ抑制も目指しており、損失回避バイアスなどに対処することで、二つの目標達成に近づけると考えています。



短観:ポートフォリオのリスク削減によりリターンも改善されるのか


ショート・ターム運用は、インカムの獲得とポートフォリオのリスク削減を望む投資家に魅力的な投資機会を提供してくれるでしょう。ポートフォリオ・マネージャーのジェローム・シュナイダーが、ショート・ターム運用が消極的なアセットアロケーション以上の意味がある理由をご説明します。



問:損失回避は非合理的なものですか。

フォラー : 必ずしもそうではありません。損失がもたらす困難な状況は、利得から生じる有利な状況とは非対称的です。たとえば投資家は、大幅な下落分を取り戻す難しさを認識しているかもしれません。数字を使って、この点を説明しましょう。仮に100ドルのポートフォリオが10%下落して90ドルになったとします。元に戻すには、10%ではなく11%上昇する必要があります。下落幅がさらに大きくなれば、より大きなプラスのリターンを確保しなければ損失を穴埋めすることはできません。たとえば、50%の損失を取り戻すには100%のリターンを生まなければなりません!

投資家が直感する損失に関しては、実務上の別の懸念もあります。デリバティブを使ったポートフォリオのリターンがマイナスになった場合、証拠金の差し入れを求められる可能性があり、その場合、ポートフォリオ・マネジャーが魅力的で保有を継続したいと考える銘柄でも売却を迫られる可能性があります。損失管理に基づくポートフォリオ行動は、当然ながら、利益を実現する取引ほど楽しいものではありません。極端な場合、レバレッジの高いポートフォリオでは、戦略をすべて解消しなければならないほどのパフォーマンスの大幅な悪化に見舞われるリスクがあります。マンデート・リスク、つまり、アンダーパフォーマンスによりアドバイザーが戦略の責任者としての地位を追われる懸念から、ポートフォリオのリスク・プロファイルがリスク回避的になる可能性もあります。以上のような状況はすべて、損失回避バイアスを示している潜在的な結果が不合理とは言えないことを意味しており、今日投資の世界で構造的な構成要因の一つとなっています。

問:構造的だと考えられるバイアスの例を教えてもらえますか。

シュナイダー: 流動性を管理する際、実際には短期資産の運用において実績のある戦略は数多くあるにもかかわらず、ただひとつの選択肢しか考慮しない場合が良い例です。前回の景気後退期に比べ、現在は数多くの選択肢があるにも関わらず、投資家は相変わらず当然のように、資金を伝統的な短期国債やマネー・マーケット・ファンドに預けています。ブルームバーグによれば、マネー・マーケット・ファンドは今年3月末で3兆ドルを超え、この10年で最高のレベルの資産額となっています。10年前、世界金融危機に直面した資家は、マネー・マーケット・ファンドに資金を移しました。

投資家が今回マネー・マーケット・ファンドに資金を集中したのは、過去半年から1年見られたような市場ボラティリティの劇的な変化によって、景気サイクルのこの終盤の局面で流動性を保持したいという強い希望が生じたためです。現状維持バイアス(そのままの状態を好むこと)や損失回避バイアスといった構造的なバイアスによって、投資家はそれらのファンドに入れた資金を、当初意図した期間よりも長く保有し続け、状況が改善した際より高いリターンが得られる潜在的な投資機会を失う可能性が高くなります。PIMCOの経験では、同日流動性に対する投資家の要求は、実際に必要な同日流動性よりもはるかに大きい場合が多いことが分かっています。

問:キャッシュと短期運用に関するバイアス克服に向けてアドバイスをお願いします。

シュナイダー:すべての投資家に、何らかの行動バイアスに陥っていないか考えてみることをお勧めします。私たちは、自分たちの考え方や行動に影響を与えるバイアスに、往々にして気付かないことがよくあり、時折自分たちの動機を見直してみることは良いことです。フォラーが述べたように、PIMCOでもそのバイアスに対処するための手立てを講じており、またそうすることが、アクティブ運用会社が提供できる価値であり、重要な責務のひとつでもあります。

ポートフォリオの流動性に関していえば、マネー・マーケット・ファンドなどの運用手段は、市場の混乱を回避しながらキャッシュを運用するには確かに魅力的です。しかし、これらのファンドのリターンが利回りと値上がり益の合計ではなく、一般に主として利回り――大抵はベンチマーク以下――だけによるものであることに、投資家は目を向ける必要があるかもしれません。また、損失回避バイアスからも現状維持バイアスからも、資産をそのような運用手段に長い期間放置する結果になり得ることを考える必要があります。

PIMCOでは、キャッシュと短期運用を受け身の運用ではなく、真に構造的なアロケーションの一部として捉えることが重要だと考えています。そのためにはまず、投資期間の違いによって、実際にどれほど流動性が必要なのか、投資家がどれほどのリスクをとれるのかを考えることから始めます。PIMCOでは通常、投資家の流動性ニーズを、時間の長さで3段階に分類しています。第1段階は即時または日次の資金ニーズです。第2段階は、向こう数カ月から数四半期の中期ニーズです。そして第3段階は、向こう数年の長期ニーズです。アクティブ運用によるショート・ターム戦略(第2、第3段階に当たる)は、伝統的なキャッシュ運用よりも高いリターンを目指すもので、このように流動性管理を積極的に分類することで、魅力的なリスク調整後のリターンを上積みできる可能性があります。

流動性を段階付けすることは、与えられた投資期間やリスク許容度に最も適応した資産に焦点を絞ることを可能とし、投資家の目標の達成を阻害しかねない、現状維持バイアスと構造的バイアス克服に役立つ可能性があります。

 

意思決定への投資

シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの PIMCO意思決定調査研究所 は、人々が実際に生活し働く場において、最も強い影響力のある行動科学上の調査・研究ができる機会を研究者に提供します。シカゴ大学とのこの画期的なパートナーシップを通じて、PIMCOは人間の行動や意思決定のメカニズムをより深く理解することを一層推し進める様々な研究を支援し、ビジネスのみならず社会において、各リーダーたちがより賢明な意思決定を下せるよう支援していきます。

 

ショート・ターム戦略を使用したインカム獲得とリスク削減についてさらに知りたい方は、「短観:ポートフォリオのリスク削減によりリターンも改善されるのか」をご覧ください。

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著者

Jerome M. Schneider

ショートタームおよびファンディング・デスクの統括責任者

Jan Faller

ポートフォリオ・リスク・マネージャー

ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。ショート・ターム運用は伝統的なキャッシュ運用よりもボラティリティは高く、価値は増減します。当運用は総資産の一部をジャンク債で運用する可能性があります。ショート・ターム戦略は連邦政府による保証は無く、損失が発生する可能性があります。

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