寄稿文 新政権は家計の資産形成の促進を 日本経済新聞夕刊十字路(2021年10月7日付)消費の回復傾向が米国でみられるなか、日本での消費をコロナ禍以前の水準まで戻すには、家計資産の増加がカギとなるでしょう
岸田新政権がスタートした。国民一人一人の生活をより豊かにする政策を誰もが願う。豊かさはもちろんお金だけで測れないが、自然災害、感染症大流行、金融危機などのたびに蓄えの有無が将来を左右しうることも事実だ。 コロナ禍初期の2020年4〜6月期には世界同時に個人消費が大きく落ち込んだ。各国政府・中央銀行は家計への財政支出と金融緩和を大胆に行ったが、今年に入って個人消費の回復に各国で大きな差がみられる。回復が最も顕著なのは米国で実質個人消費は21年4〜6月期にすでに新型コロナウイルス前(19年10〜12月期)水準を3%上回る。対照的に日本の消費は依然として同水準を3%下回る。 ワクチン接種の進捗差が日米の消費動向に影響したことは間違いなく、日本でも接種の加速によって消費は今後回復に向かおう。しかし、コロナ禍での米国消費を支える要因として、運用益による家計資産の蓄積が見逃せない。不動産を除く金融資産だけでも、過去20年間に米国家計の資産残高は3.3倍にも増加。日本では1.4倍にとどまる。米国家計金融資産の株式などリスク資産への傾斜は周知のとおりであり、エコノミストの菅野雅明氏によれば、保有資産の値上がり益が資産増加額の63%を占めた。 資産運用による家計の所得分散と資産形成が急務だ。経済の自動化・グリーン化が潮流となるなか、先端技術への投資を通じてこれに備えることも考えられよう。 公助である公的年金に加えて確定拠出年金(DC)など自助による資産形成も進めたい。DCは、税制優遇にもかかわらず日本では拠出限度額の低さもあって利用がいまだ限られる。資産形成の啓発や大胆な税制改正による家計のリスク資産保有への働きかけが望まれる。
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