寄稿文

「金利上昇懸念は行き過ぎ」(寄稿文)

日経ヴェリタス Market Eye(2018年11月11日付)

このところ米国の金利上昇懸念が世界の金融市場で高まっている。投資家は前例のない世界的な低金利時代が今後も持続するのかどうか疑問に感じ始めているが、そうした懸念は行き過ぎのようだ。日本と欧州では人口動態面の逆風、高水準の負債、低水準の公的・民間投資が経済成長を大きく下押ししており中央銀行が政策金利を当面ゼロ%付近にとどめるとみられるからだ。

利上げは想定済み

米国では連邦準備理事会(FRB)が利上げを続ける見込みだが、それは概ね想定済み。利上げがもたらすとみられる影響はすでに市場に織り込まれている。しかも、現時点で市場が予想している利上げ回数は、FRBが利上げサイクルに着手した2015年12月時点よりも少なくなっている。そのため、債券や他の資産を評価する上では、金利がしばらく低水準にとどまるとの見方を前提とするのが適切だ。

株価が下がっている理由が金利でないとすれば、何なのだろうか?つい最近まで投資家が直面しているリスクとの綱引きで楽観論が勝っていた。しかし現在は多くの懸念材料が金融市場に覆いかぶさっている。米中の貿易摩擦、世界的なポピュリズムの台頭、企業業績がピークアウトする懸念、各国間の地政学的緊張、FRBがインフレを阻止するため、利上げを強いられかねない米経済過熱の可能性などだ。

欧州財政問題は注意

欧州を中心に、負債を巡る懸念も広がっている。ある投資家は欧州のある国がいわゆる「ケインズ財政の破綻」(ケインジアン エンドポイント)に近づきつつあると懸念する。破綻は、新たな債務による資金調達を通じ債務問題を解決できないと国家が認識した時に現実のものとなる。それがまさに今起きているのがイタリアだ。イタリアの新政権は欧州連合(EU)ルールに触れる水準まで財政赤字を拡大させる予算案を提出、EUと対立している。イタリアはギリシャや以前のスペイン及びアイルランド同様に困難な決断を迫られている。彼らは欧州の財政ルールを守るのか、破るのか。もし彼らが後者を選択すれば、すでにドイツ連邦債を3%ポイント上回る水準にあるイタリア国債の利回りが、さらに跳ね上がることになる。それは今の市場が直面している最大のリスクの一つである。

株式市場のボラティリティも景気サイクル終盤の動きを反映している。景気サイクルの終盤には、資産価格がサイクルの初期段階とは異なる動きを示す。たとえばサイクルの初期段階には株式と債券が足並みをそろえて上昇することがある。だがサイクルの終盤にはそうはならず、どちらも同時に下落したり株価の下落を債券が十分に相殺できなかったりする可能性がある。

景気サイクルの終盤では、キャッシュを積み上げ、流動性やクレジットの質を重視することが投資家にとって最善となる傾向があるのはそれが理由である。また、様々な資産価格が一斉に上昇することにポジションを取るベータ重視型の戦略に依存しすぎないことが賢明である。むしろ、ボトムアップ型のポートフォリオを構築し、ポートフォリオに組み入れた内容すべてを精査することが、良好なパフォーマンスにつながる可能性がある。それはレラティブ・バリュー型のアプローチと呼ぶことができる。

貿易に関して市場が懸念しているのは、それが世界経済、とりわけ世界のサプライチェーンに及ぼす影響の不確実性だ。それは、各国が財やサービスを生み出す上で、部品、原材料、労働力に関してお互いに依存しあっているという認識に基づいている。実際のところ、貿易を巡る緊張がさらにエスカレートした場合、それは貿易戦争がもたらす最も深刻な問題となる可能性がある。

こうした懸念が漂う中、世界経済は鈍化するものの、当面はこれらの懸念が現実にならない限り、ダウンサイドリスクを限定するのに十分なペースで成長することが予想される。

著者

Tony Crescenzi

マーケット・ストラテジスト

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