寄稿文

「中国の成長戦略に残された道」(寄稿文)

日経ヴェリタス Market Eye(2019年2月10日付)

長年にわたり投資主導の成長を遂げてきた中国は、いま成長戦略を変えつつある。

ここ数カ月、中国は資本市場の一段の自由化策を講じる一方で、減税や各種優遇措置を打ち出し、投資より消費の拡大をめざしている。こうした姿勢の変化には、信用拡大に過度に依存するコストを認識し、時間をかけて自然な成長鈍化を受け入れようとしていることがうかがえる。だがこれまでの景気刺激策や金融緩和の副作用の抑制策を見る限り、安定成長路線に移るにはかなりの時間と忍耐が要る。

人民元の調整、影響大

財政面の景気刺激策を補う金融面の緩和策を含め、さらに踏み込んだ政策措置が必要だ。為替政策も従来以上に大きな役割を果たすことになりそうだ。世界貿易に中国が占める突出した比率からすると、人民元がどう調整されるかは世界にきわめて大きな影響をおよぼすだろう。

中国の新戦略への転換と成長減速は、多くの意味でアジア各国の困難を増幅しかねない。

1997~98年のアジア通貨危機は、固定為替レートは債務依存型の高度成長と相容れないという重要な教訓を残した。高度成長中だったアジア各国は、低利の借り入れを利用して適正水準を大幅に上回る投資を維持してきた。

だがドルペッグ制を採用していたため、ドル高で経常収支は悪化し、成長は減速する。そしてついには資本流出と外貨準備の急減に直面して自国通貨の切り下げを余儀なくされた。

その10年後の世界金融危機の直後には、中国が同じように低利の借り入れに頼り高水準の投資と成長率を維持した。中国の総債務残高は、2008年には国内総生産(GDP)比150%だったのが、2018年には270%に急増。同時期に経常黒字はGDP比9%から1%未満まで急減した。

中国の従来の戦略と新しい戦略との不一致が、同国の今後の成長見通しを不確実にしている。中国には財政・規制両面で経済を安定化する手段がまだ多く残されているものの、従来の戦略に執着すれば高い代償を払わされることになるだろう。

とはいえ従来のやり方を変えようとすれば、思わぬ事態を招くリスクは避けられない。為替レートの管理手法によっては景気刺激策の足を引っ張りかねず、今後の中国当局の出方が注目される。現時点で中国が金融緩和には気乗り薄なのは地政学的な理由と2015年8月の人民元大幅切り下げの苦い経験があるからだろう。だが債務返済コストが月間信用フローの70%相当に達する今、利下げは避けられまい。

ハイペースの信用拡大が長期にわたって続いた結果、中国の通貨供給量は外貨準備高に比して巨大に膨れ上がっている。アジア通貨危機は、この比率が高まるほど急激な為替調整リスクも高まるとの教訓を残した。通貨供給量の膨張は資本流出を食い止め通貨安定に寄与するはずの外貨準備の不足を露呈する。そのことは、GDP成長率の顕著な減速に表れることが多い。

日欧、金融余力乏しく

中国が自国経済と金融システムを支える「代償」として大幅な通貨切り下げた場合、グローバル経済に与えるデフレショックはきわめて大きい。すでに伝統的・非伝統的金融政策を限界まで推し進めている日本やユーロ圏などは、そうしたショックに対抗する余地が乏しい。

中国が景気刺激策を補完するために現時点で金融緩和に踏み切らない限り、1990年代のアジア各国と同じ罠(わな)に落ち込む危険性が高い。人民元の思わぬ急落を回避する最善の方法は、いますぐ成長安定の手をうつことだ。たとえそのために、ただちに緩やかな通貨切り下げを実施しなければならないとしても。

著者

Gene Frieda

グローバル・ストラテジスト

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