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長短金利差の逆転:市場は景気後退リスクの高まりを正しく織り込んでいます

景気後退リスクは高まっていますが、景気後退が確定しているわけではありません。

8月14日、米国債の2年物と10年物の利回り格差がマイナスとなり、長短金利差が逆転しました。これは2006年2月以来の現象です。その後、利回り格差はプラスの領域に戻っていますが、この動きは重要でした。短期債の利回りが長期債の利回りを上回る、こうした利回りの「逆転」現象は、1950年代まで遡るほぼすべての景気後退期に先駆けて起こっているからです。また、当然のことながら、この動きを受けて投資家は経済見通しへの警戒を強めています。

今回の長短金利差の逆転の背景には何があるのでしょうか?また、投資家の懸念は正しいのでしょうか?

歴史的に長短金利差の逆転が景気後退の前兆となっている理由はよくわからず、研究者はいまだに解明を続けています。多くの研究者は、投資家が目先の景気後退が起こりそうだと考えると、より期間の長い債券を保有することを選好するため、結果として利回り曲線の逆転が起こる、という仮説を立てています。他方、利回り曲線がフラット化ないし逆転すると、銀行やノンバンクにとって新規貸出の限界収益率が低下し、それによって新たな信用創造が妨げられ、経済活動が抑制されると考える人もいます。

因果関係の根底に何があるにせよ、市場が景気後退のリスクの高まりを織り込んでいる点は正しいとPIMCOは考えます。米国は、世界の工業生産と貿易量の深刻な落ち込みと無縁であったわけではありません。米国の製造業セクターは、(2四半期連続のマイナス成長という定義では)既にミニ不況に陥っており、(製造業、輸出、卸売業、輸送など)世界経済に連動するセクターの弱さは、米国の労働市場に影響を及ぼし始めています。7月には、生産労働者および非管理職労働者の総労働時間の6カ月変化がマイナスになりました。実質消費の伸びを表す指標は堅調を維持していますが、労働時間の減少と雇用の伸びの鈍化はいずれ所得と消費の打撃になるはずです。

こうしたトレンドに加え、米中間の緊張が、ビジネスの不確実性を高め、世界貿易を混乱させています。さらに、一部の米連邦準備制度理事会(FRB)高官の最近の発言は、起こりうる景気後退に対してFRBの対応が遅くなる可能性を示唆しています。ただし、様々な研究では、「より迅速な」中央銀行の対応が経済的な恩恵をもたらす可能性があることが示されています。

FRBはどんな手を打つのでしょうか?

数四半期にわたって議論してきたことですが、FRBの金融政策の戦略は、経済状況が良好な場合は2%を超えるインフレ率を容認し(場合によっては目標とし)、時期が悪い場合は積極的に緩和する方向にシフトしています。金利を抑えてきた長期トレンドと、中央銀行が伝統的な手段を通じて金融政策を緩和する余地が狭まっていることを踏まえると、中央銀行はインフレ期待が2%の目標を下回らないようにすることをより重視するはずです。

また、インフレ率と金融安定性リスクが管理可能であることから、足元の景気減速に対してより積極的に緩和を行なうことは、よりリスクの低いアプローチであるとPIMCOでは主張してきました。しかしながら、7月のFRBの会合以降のジェローム・パウエルFRB議長や、様々な地区連銀総裁の発言は、こうした政策アプローチに対するFRBのコミットメントに疑問を投げかけています。パウエル議長は7月の会合後、金利に関するフォワードガイダンスの提供を控え、代わりに「データ次第」だとするFRBの姿勢を強調しました。一方、ボストン連銀のエリック・ローゼングレン総裁は7月の利下げに反対し、労働市場のモメンタムの強さと2%近くのインフレ率を、景気サイクルの後手に回っている兆候として挙げました。さらに、同じく7月の利下げに反対したカンザスシティ連銀のエスター・ジョージ総裁は、様子見の方針への支持を表明しました。またサンフランシスコ連銀のメアリー・デーリー総裁は最近、追加緩和が確実かを記者から問われ、言質を与えない姿勢を示しています。

景気後退は確定しているわけではない

これらをすべて念頭に置いたうえで、市場が高い確率で景気後退を織り込んでいることは意外ではありません。ただPIMCOでは、リスクが高まっていることには同意しますが、今後1年程度で確実に景気後退入りするとまだ決まったわけではないとみています。

過去の米国の景気後退に先立つ期間とは違って、現在の金融安定リスクは落ち着きを見せており、銀行の財務体質は堅固であり、家計の負債比率は管理可能で、個人貯蓄率は高水準にあります。こうした基礎的な要素がすべて、景気後退のバッファーとして役立つはずです。

また、年初来の債券利回りの低下と、依然として緩和的な金融環境も、今後数四半期の米国の成長の支援材料となると考えられます。そして、やや躊躇はあるものの、FRBは年後半に政策金利を引き下げることにより、最終的に金利を低い水準で固定することになるとみています。8月22日~24日開催の主要中央銀行関係者が集う年に1度のジャクソンホール会議では、パウエルFRB議長が「金融政策の課題」をテーマに講演を行う予定ですが、ここで議長はFRBのメッセージを明確にし、追加緩和を求める現在の市場の期待を確認するものと予想しています。

著者

Tiffany Wilding

米国のエコノミスト

Anmol Sinha

債券ストラテジスト

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