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英国の総選挙:経済や市場の今後は?

英国は12月12日の総選挙に向けて動き始めています。経済と市場にとって重要なポイントは以下のとおりです。

国は12月12日の総選挙に向かって動き始めています。世論の分断と単純小選挙区制という英国の選挙制度を考慮すると、選挙の行方はかなり不透明です。現時点の世論調査では、保守党が過半数を獲得すると示唆されています。しかしながら、票差はわずかで、現在の政治的分断を踏まえると過去の勢力図はあてにならず、今後数週間で票は揺れ動くとみられます。そのため総合的に考えると、保守党が過半数を取る可能性がある一方で、またしても宙吊り議会になる可能性もあるとみています。

保守党が過半数を獲得した場合、議会はボリス・ジョンソン首相が欧州連合(EU)と合意した離脱協定案を批准するものとみられます。この合意により英国はEUを離脱することになりますが、2020年末まで、または来年夏までに英国、EU双方が合意した場合は2022年末まで、移行期間に留まります。その後、英国は単一市場と関税同盟を離脱し、北アイルランドについては関税同盟は離脱するものの、一部の領域でEU単一市場ルールが適用される可能性が高いとみられます。

保守党が過半数に達せず、宙吊り議会となった場合、不透明な状況が続くことになります。その場合は、英国のEU離脱(ブレグジット)はさらに遅れ、ジョンソン首相の離脱協定案が批准されるか、離脱の是非を問う2度目の国民投票に繋がる可能性もあります。いずれにせよ、合意なき離脱を公約に選挙戦を展開するのはブレグジット党だけに限られる中、合意なき離脱が現実になる可能性は極めて低いとPIMCOではみています。

経済と市場にとって重要なポイントは以下のとおりです。

1.英国経済の上振れの可能性は限定的

  • ブレグジットを巡る不確実性と外需の弱さが重しとなり、英国経済は年初来、減速しています。総選挙後、EU離脱がさらに明確になった場合、繰延需要や先延ばしされたプロジェクトが動き出すのに加え、企業の信頼感が高まることから、投資が増加する可能性があります。しかしながら、投資がV字回復して大幅に盛り上がり、長続きするかどうかは疑問です。EUと英国間の貿易協定が具体的にどのようなものになるのかは不確実性が残っており、それが企業投資を妨げる可能性があります。さらに重要なのは、英国の成長が引き続き世界経済の動向に左右されると見られる点です。特に英国の2大輸出市場である米国とドイツは今後数ヶ月で減速が見込まれ、その影響を受けることになるでしょう(PIMCOのニコラ・メイは、ドイツが景気後退の瀬戸際にあると述べています)。こうした弱さの一部を相殺するものとして、総選挙後の議会で政治的安定が高まり、2020年は財政緩和の道が開かれるかもしれません。以上を総合的に勘案すると、総選挙後の英国経済は短期的に回復する可能性がありますが、2020年の英国の成長率は、潜在成長率並みかそれを下回る水準にとどまると予想しています。
  • インフレについては、賃金の伸びが11年ぶりの高水準に近づき、生産性の伸びが落ち着いていることから、国内のコスト圧力が高まっています。ブレグジットの合意の如何にかかわらず、企業は賃金の上昇を消費者に転嫁するのではなく、利幅を削って吸収するとみています。こうした傾向は、欧州全般に見られるもので、それに沿った形です。全体として、英国のインフレ率は引き続き落ち着きをみせ、年内から2020年初頭にかけて、イングランド銀行の目標の2%をわずかに下回る水準で推移すると予想しています。ブレグジット合意を背景に英ポンドが大幅に上昇すれば、ディスインフレ圧力を高めることになるでしょう。
  • 中期的には、ジョンソン首相の離脱協定案は英国の潜在成長率を幾分低下させ、既に低迷している生産性をさらに悪化させる可能性があります。単一市場と関税同盟を外れると、英国とEUの間には関税障壁と非関税障壁が存在することになり、2つの地域間の貿易は減少すると予想されます。成長率がどの程度低下するかは、今後数年の交渉でまとめられる貿易協定の性格に左右されることになります。とはいえ、生産性はここ数年低迷しており、生産性がトレンドの平均へ回帰すれば、EUとの新たな貿易協定の悪影響を打ち消す以上の効果を持つ可能性があります。

2.イングランド銀行は様子見

イングランド銀行は最近、ブレグジットが円滑に実施される場合、政策金利を緩やかなペースで一定程度引き上げざるをえないだろうとの判断を示しました。PIMCOはこの見方に懐疑的です。欧州中央銀行(ECB)と米国連邦準備制度理事会(FRB)がいずれも緩和方針を取る中、イングランド銀行がポンド高を抑え、景気を過度に冷やすことなく、引き締めに向かうのは困難でしょう。総合的に見ると、イングランド銀行は中立的な様子見の姿勢を取り、今後数ヶ月は政策金利を据え置くと予想しています。景気に強さが見られる場合、イングランド銀行は政策引き締めの可能性を示唆しています。しかし、外需の弱さが続き、ブレグジットの不確実性が残る場合、イングランド銀行も来年、緩和政策を取る世界の中央銀行の一員に加わらざるをえないリスクが高まると見ています。

3.世界的なリスク意欲の改善

直近の「短期経済予測」で述べたとおり、地政学リスクは、世界の成長見通しを左右する要因の1つです。合意なき離脱のリスクが抑えられ、米中間の貿易摩擦が小休止する中、過去数週間で、景気の下方リスクはやや後退したように見えます。これは世界的な景況感にプラスになり、特に2020年の予測で上方リスクの源泉だと見ている製造業セクターの景況感が好転する可能性があります。

投資への意味合い

短期的な不確実性は依然として高いものの、過去数週間でブレグジットのリスクは大幅に減少したと見ています。そのため、投資家には以下のような機会があると考えられます。

  • 英国の銀行は、欧州主要国のライバルや、格付けが同等の英国以外の銀行に比べて、バリュエーションが魅力的です。以前から述べてきたことですが、英国の銀行はファンダメンタルズの価値を大きく外れて取引されているとの見方は変わっていません。
  • 通貨ポンドはブレグジットの行方の安全弁として、材料に素早く効率的に反応しています。足元では上昇していますが、それでもポンドは基本的に割安だとみています。とはいえ、今後のEUと英国の貿易協定の性格をめぐって不確実性が続くことを踏まえると、短期的にポンドが国民投票前の水準に戻ることはないでしょう。
  • 英国債は、ブレグジットの方針が決まった2016年6月の国民投票以降、米国債を大幅に下回る利回りで取引されています。中期的には、利回り格差は縮小すると予想しています。

英国やユーロ圏などの経済や市場の動向についての詳しい見解は、直近の短期経済予測「減速の先に」をご覧ください。

「減速の先に」を読む

ケティッシュ・ポタリガムは英国クレジット担当のポートフォリオ・マネージャー。ペーダー・ベックーフリースは、英国およびユーロ圏のマクロ経済担当のポートフォリオ・マネージャー。

著者

Ketish Pothalingam

英国クレジット投資担当ポートフォリオ・マネージャー

Peder Beck-Friis

ポートフォリオ・マネージャー、グローバルマクロ

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