2016年秋以降、世界では通貨の冷戦が繰り広げられてきましたが、これまでのところトランプ大統領が勝利を収めています。大統領戦後のドル高の流れは終わり、先週のドルインデックス(主要通貨の加重平均バスケットに対するドル・レート)は、この1年来の最低水準にまで低下しています。トランプ政権も議会多数派の共和党も、政策目標のほとんどはまだ実現していませんが、ドルの競争力強化には成功していると言えます。どのような方法を取ったのでしょうか。長年掲げてきた「強いドルは国益」という公式見解を封印すると共に、時にあからさまに保護主義政策をちらつかせ、他国を脅すことで実現しました。要するに、貿易を盾に揺さぶりをかけることで、ドル高を抑えたのです。

金融政策と為替レート:最近の動向

2016年12月、私は、新たな通貨の冷戦が始まったと指摘しました。2016年2月のG20の“上海合意”によってドルは安定していましたが、それに終止符が打たれたのです。2016年秋には、日本銀行、中国人民銀行、欧州中央銀行(ECB)が揃って冷戦に参戦しました。世界的に金利が上昇する中、日銀は10年物国債の金利を0%で固定することで円安を促し、中国人民銀行は対米ドルでの人民元の一段の下落を容認、ECBは中銀預金金利の-0.4%を下回る債券も買い入れ対象にする「秘密の利下げ(stealth rate cut)」を実施することで、欧州の債券利回りを押し下げました。

しかしながら、トランプ政権は時をおかず反撃に出ます。年明け以降、トランプ大統領、大統領の通商顧問ピーター・ナヴァロ氏、スティーブン・ムニューシン財務長官が揃ってドル高に苦言を呈し、保護主義的行動を仄めかしたことで、通貨の冷戦は新たな局面に入りました。これ以降、中国は人民元相場を安定させ、日銀は金融政策を維持、ECBは緩和バイアスを解除し、債券買い入れの縮小に近づいています。こうした動きを受けてドル安が進む中、トランプ政権としては積極的に保護主義政策に訴える理由が見当たりません。ミッションは達成されたのです。

主要通貨の今後は?

ドル安が行き過ぎた現在、日銀やECBは対抗措置を取るのでしょうか。世界的にインフレ圧力が弱い中、円高、ユーロ高が歓迎できないのは明らかです。日本の景気はそれなりに回復しているにもかかわらず、日銀は19日~20日の金融決定会合で、物価見通しを再び引き下げざるをえませんでした。またマリオ・ドラギECB総裁は20日の記者会見で、理事会の議論でユーロ高に「関心が集まった」と発言しました。ただ、市場の反応は鈍く、ユーロは対ドルで2年ぶりの高値に上昇しました。ユーロ高は欧州の株式市場を直撃し、輸出比率の高いドイツのDAX指数は3カ月ぶりの安値に下落しました。

ただ、ドル安は日銀やECBの頭痛のタネとはいえ、両者が積極的な対抗策を打ち出すのは難しい状況です。為替市場へのあからさまな介入は、米政権の保護主義的な報復措置を誘発しかねず、失敗するのが目に見えています。マイナス金利幅の拡大についても、特にECBは最近、マイナス幅拡大のバイアスを解除したばかりであることから、考えにくい状況です。さらに、ECBが債券買い入れの縮小を2018年初頭以降に先延ばしすることも、自ら課した制約(発行、発行上限額、ECBへの出資割合に基づいた買い入れなど)を踏まえると、買い入れる債券が枯渇することになり、難しいと言えます。

ドル安のトレンドを反転させうる要因は2つあるものの、いずれも可能性は低い

為替市場では常にトレンドに乗った方がよいと言われ、ECBや日銀になす術がない状況です。さらなるドル安を食い止める方法はあるのでしょうか。次の2つの可能性が考えられます。

第1に、FRBが市場の予想よりタカ派的な動きに出ることです。しかしながら、予想外にインフレ率が低いことに加え、利上げよりもバランスシートの圧縮を優先したいFRBは、早くとも12月までは利上げを実施しそうにありません。

ドル安反転の第2の可能性は、米国の財政政策です。大規模な財政改革への期待がほぼ消滅した今、議会とトランプ政権が、今後数週間から数カ月のうちに信頼に足る税制改革案や大型減税案を取りまとめれば、ドル高の材料になる可能性はあります。しかしながら、早期に大規模な税制改革や大型減税が実現する可能性は低く、来年前半に小規模減税が成立する可能性もせいぜい半々程度だとPIMCOでは見ています。

結局のところ、トランプ政権は通貨の冷戦を制したように見えます。確かにこれは、欧州や日本の輸出業者、さらには株式市場にとって痛手であり、インフレ率を目標水準に押し上げようとするECBや日銀の取り組みに水を差すものです。しかしながら、ドル安に代わるのは、貿易戦争を引き起こしかねないトランプ政権の保護主義政策であり、それがドル安以上にマイナスが大きいのは確実です。抵抗が少ないのは、やはりドル安容認だと言えるでしょう。

主要な政策転換が経済や為替レートに及ぼす長期的な影響については、PIMCOの2017年長期経済予測「転換点」をご参照ください。

「転換点」を読む

ヨアヒム・フェルズはPIMCOのグローバル経済アドバイザー、定期的にブログに寄稿している。

著者

Joachim Fels

グローバル 経済アドバイザー

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