投資家も政策立案者も、向こう5年は大きく変化するマクロ環境への対応を求められるでしょう。平均以下ながら安定した成長、目標以下のインフレ、抑制されたボラティリティ、魅力的なアセット・リターンで特徴づけられる「ニュー・ノーマル」と称した十数年は急速に失われつつあります。今後は不確実性が高まり、成長やインフレがばらつく環境となり、資本市場全般のリターンは低下し、変動が大きくなると見込まれます。 最新のPIMCO長期経済展望「変革への備え」では、足元の創造的破壊要因と共に、今後、世界経済と市場の大きな変革を主導するとみられる三つのトレンドについて論じました。この変革は、困難な領域を乗り越えていけるアクティブ運用を行う投資家には、優れた超過収益獲得の投資機会をもたらすはずです。長期経済展望は、世界各地のPIMCOの投資プロフェッショナル、グローバル・アドバイザリー・ボード(GAB)、著名なゲストスピーカーらが集結して行われる年に一度の長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)から導き出されています。このブログでは、PIMCOの長期経済展望と投資への意味合いについての要約をお届けします。 変革の原動力 2020年のPIMCO長期経済展望「加速する創造的破壊」では、新型コロナのパンデミック(世界的流行)触媒の役割を果たし、米中の対立、ポピュリズム、テクノロジー、気候変動という四つの長期的な創造的破壊要因が加速し、増幅されるだろうと論じました。この1年の動きは、こうした予想を裏付けるものでした。 これらの四つの創造的破壊要因は、2021年の長期予測会議で詳しく論じた以下の三つの長期トレンドとともに、「変革の時代」の経済や投資の成果に重要な意味合いをもたらすものとみられます。 ブラウン(化石燃料)からグリーン(再生可能エネルギー)への移行: 2050年までにゼロ・エミッション(炭素の実質排出量ゼロ)の達成を目指す政策により、今後数年にわたって再生可能エネルギーへの官民の投資が促進されることになります。もちろん、クリーンエネルギーへの投資拡大は、石炭や石油などブラウン産業の投資縮小や資本破壊によって完全とは言わないまでも部分的に相殺されることになります。こうした移行期には、エネルギーの供給途絶やエネルギー価格の急騰により、成長が阻害され、インフレが亢進する可能性があります。さらに、この過程では勝者と敗者が生まれるため、ブラウン産業における雇用の喪失、炭素税や価格の上昇、あるいは輸入品を割高にする炭素国境調整メカニズムなどに対して、政治的な反発が生じる可能性があります。 新技術の迅速な導入: これまでのデータによると企業のテクノロジー投資が大幅に増えています。1990年代の米国など、同様のテクノロジー投資の盛り上がりが見られた過去の例では、生産性の向上を伴っていました。最近のテクノロジー投資と生産性の向上が一過性のものなのか、より強力なトレンドの始まりなのかはまだ不明であり今後の見極めが必要です。デジタル化と自動化は、新たな雇用を生み出し、既存の雇用者の生産性を高めることで、全体として経済的な成果の向上につながります。しかしながら、仕事がなくなり、適切なスキルがないため他で仕事を見つけることができない人々にとっては破壊的な要因になります。グローバリゼーションと同様に、デジタル化と自動化の負の側面として、格差が拡大し、政治的に両極端なポピュリスト政策に支持が集まることが挙げられます。 成長の恩恵を幅広く分配: 現在進行中の変革の三つ目のトレンドとして、政策立案者や社会が、所得や富の格差拡大の問題に取り組み、成長をより包摂的なものにしようと注力している点が挙げられます。個別の事例を見ると、多くの企業で雇用主と被雇用者の関係におけるパワーバランスが雇用主から被雇用者へと傾き始め、労働者の交渉力が向上していることがうかがえます。このトレンドが続くのか、それとも企業がテクノロジーの恩恵を受けた在宅勤務の活用にとどまらず、よりコストの低い国内外の拠点に多くの雇用の移管を進めて交渉力を維持ないし高めることができるのか、今後の動向が注目されます。 投資の結論 「変革の時代」には、過去十数年の「ニュー・ノーマル」に比べて、投資家はより困難な環境に直面することになります。しかしながら、ボラティリティが高く、一般的な正規分布よりも「テールが太くなる」と予想されるこの期間を活かせる能力を持つアクティブ運用を行う投資家には、優れた超過収益獲得の投資機会がもたらされるともみています。 マクロ経済や市場ボラティリティが高くなると、債券市場や株式市場全体のリターンが低下する可能性が高くなります。起点となる現在のバリュエーションは、債券市場の実質・名目の利回りが低く、エクイティ・マルチプルが過去最高水準にあるなど、この予想を裏付けています。 PIMCOの基本シナリオでは、中央銀行の低金利が続き、世界の債券市場を下支えすると考えています。短期的には景気の継続的な回復に伴い、金利に上昇リスクがあるものの、長期的にはレンジ内にとどまるとみています。コア債券への資産配分ではリターンは低下しつつもプラスのリターンを確保できると予想しています。 継続的な高インフレ期はPIMCOの基本シナリオではありませんが、米物価連動債(TIPS)やコモディなど実物資産が、インフレのヘッジ手段として有効であるとの見方を維持しています。 一方、マクロトレンド、創造的破壊要因、牽引要因に債務水準の上昇が相まって、地域、国、セクター間で大きなばらつきが出ることが予想されます。アジアでは、中国の成長鈍化や地政学的緊張の継続に伴うリスクがあるものの、成長率改善や資本市場の発展の見通しから、優良な投資機会が存在するとみています。多くのエマージング諸国は長期的に難しい環境に直面していますが、エマージング市場については、常のごとくパッシブのベータ投資の対象としてではなく、幅広い投資機会としてアプローチすることが重要であり、PIMCOではエマージング市場全般で非常に良い投資機会を発掘できると考えています。 ブラウンからグリーンへの移行、新技術の迅速な導入、パンデミック後のサプライチェーンや嗜好の変化も、様々な勝者と敗者を生み出すことになり、社債市場におけるアクティブ運用の重要性が高まります。環境規制の改正は、不確実性と複雑性を高める反面、投資機会をもたらします。ブラウンからグリーンへの移行で損失を被る公算が高い国や企業の場合、高水準の債務が特に懸念材料になります。 最後に、アセット・アロケーション・ポートフォリオでは、株式に対する建設的な見方を継続しています。ポスト・コロナの回復期の現在、デジタル化や自動化、グリーン化の推進などのトレンドを背景に、長年にわたって投資が過小であった物理的インフラへの投資の重要性が浮き彫りになったとみています。過去十数年はソフトウエアへの投資が主でしたが、これからの十数年は、前述のトレンドに関連したハードウエア投資が前面に出てくるとみられます。各国間やセクター間でも、銘柄選択のレベルでも、回復期におけるばらつきと勝者・敗者というテーマが重要になってくるでしょう。特に半導体メーカー、FA機器メーカー、グリーンエネルギー、モビリティ関連企業が恩恵を受けるとみており、PIMCOのポートフォリオ構築において、これらのセクターが重要な役割を果たすものと期待しています。 実質および名目金利が低水準にとどまる可能性が高い「変革の時代」においては、伝統的な債券戦略の投資機会を最大限に活用しつつ、柔軟な投資一任契約ではグローバルな投資機会のフル活用を目指す方針が理にかなっていると考えます。また、お客様のニーズや期待に合致する場合には、不動産、プライベート・クレジットや発展途上にあるグローバルな資本市場を活用するなど、伝統的な債券以外のオルタナティブ投資を模索することも有意義だと考えています。 向こう5年のPIMCOの世界経済の展望と投資への意味合いの詳細については、長期経済予測「変革への備え」の全文をご覧ください。 ヨアヒム・フェルズは、PIMCOのグローバル経済アドバイザー。アンドリュー・ボールズは、グローバル債券担当最高投資責任者(CIO)。ダニエル・アイバシンは、グループCIO。
アセットアロケーション展望 プライムタイムを迎えた債券投資 PIMCOの2024年の見通しでは、傑出した資産クラスとして債券に注目しています。その堅調な見通しや強靭性、分散効果のほか、株式と比較しても魅力的なバリュエーションを提供しています。