「この道のほかに道なし」。イギリスのマーガレット・サッチャー元首相は1980年代、唯一機能するシステムとして市場経済を推進するため、このスローガン(「There is no alternative (頭文字をとってTINA)」を掲げました。最近の支持率低下は安倍政権の退陣の可能性も示唆していましたが、10月22日に実施された総選挙での安倍首相の勝利は、他により良い道がないこと、あるいは単に道を変える必要がないことを明示しました。

圧勝

安倍首相率いる自民党と公明党の連立与党は、今回の解散総選挙で圧勝しました。最近の世論調査で勝利は予想されていたものの、最終的な選挙結果は、我々も含めてコンセンサス予想の上限に近いものでした。

連立与党は313議席を得て、衆議院の定数465議席のうち3分の2以上を確保しました。3分の2議席は憲法改正の国会発議に必要なことから、これは重大な意味を持ちます。

結果に至った背景

今回の総選挙の最終結果は、政策にとっても市場にとってももちろん重要ですが、同じくらい重要なのが、この結果に至った背景です。

第1に、安倍首相は、主要な政策論争に決着をつけるために解散総選挙に打って出たわけではありません。むしろ、首相の関与が取り沙汰された今年前半の森友・加計問題の疑惑に関して、自身に対する批判をかわすために賭けに出たと言えます。第2に、支持率は低下しているとはいえ、最近の2つの追い風が安倍首相に有利に働きました。1つは足元での北朝鮮の脅威で、安倍首相が掲げる安全保障政策と米国のトランプ政権との強固な関係確立への支持を強化することになっています。もう1つは、リフレ的な金融・財政政策、いわゆる「アベノミクス」のもとで、潜在成長率を上回る景気拡大が続いていることです。第3に、安倍首相の逆風になりえた動きが、短期間で追い風に変わりました。小池百合子東京都知事が率いる希望の党は、当初こそ連立政権の脅威になるとみられていましたが、結局、野党陣営をさらに分裂させただけでした。

今回の選挙結果でカギを握った無党派層のなかには、ほかに良い選択肢がないことから連立与党を選択した人たちがいたものとみられます。ただ投票率は53.7%にとどまり、2014年の総選挙を若干上回ったものの、戦後2番目に低い結果となりました。多くの有権者にとって、強い台風が投票所に足を運ばない良い口実になったと言えます。

政策の見通し

自民・公明の連立与党の勝利は経済政策にとって、どのような意味を持つのでしょうか。

安倍自民党総裁(首相)の下での国政選挙における5連勝は、政権を運営するうえで向こう1年あまりの間、大いに有利に働くとみられます。政権基盤を固め、歴代最長内閣となる可能性のある安倍首相のもと、以下のような政策がとられるとPIMCOでは予想しています。

  1. 日銀の量的・質的緩和(QQE)とイールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組みは継続される可能性が高いとみています。日銀の黒田東彦総裁が来春、再任される可能性が少なくとも若干高まった、というのが市場およびPIMCOの基本シナリオです。
  2. 財政政策は引き続き緩和的に推移し、早計な引き締めは回避されるものとみられます。連立政権が掲げる(2019年10月に8%から10%へ)消費税率引き上げは異論がありますが、安倍首相は選挙期間中、2018年の財政措置による穴埋めを示唆し、増税先送りの選択肢を残しています。重要なのは事実上、金融ファイナンスによる財政刺激策が既に行われている、ということです。安倍首相は最近、プライマリーバランス(基礎的な財政収支)の黒字化を2021年度以降に先送りすることを決めましたが、今回の選挙結果はこの決断にお墨付きを与えるものであり、より柔軟な財政運営が可能になります。
  3. 財政政策は、労働者や若い世代の支援と生産性向上に重点を置いたものになるとみられます。これにより経済成長率が予想を上回る、アップサイドの確率が高まります。
  4. PIMCOの基本シナリオではありませんが、安倍首相は、論議を呼んでいる憲法改正という悲願を達成するため、財政政策を支持率獲得の手段に使う可能性があります。
  5. 投票率が低いなかで得られた勝利であるがゆえ、政権が支持率を維持できなかった場合や、状況が悪化した場合は、ダウンサイド・リスクが高まります。

投資へのインプリケーション

政治的安定と政策の継続性は、リスク市場の支援材料になります。総選挙前に日経平均が14日連続で上昇したのは、選挙結果をある程度織り込んでいたからですが、企業のファンダメンタルズの改善と相対的な割安感から、日本株は今後も堅調に推移するとみられます。リスク資産が上昇すると、通常、円安が進行しますが、円は既に割安な水準にあります。

日銀の量的・質的緩和策とイールドカーブ・コントロールが定着する中、日本の債券市場の利回りとスプレッドは引き続き抑えらるものとみられ、世界市場についてもある程度同じことが言えます。しかしながら、政策の枠組みの継続は、政策が変わらないことを意味するわけではありません。世界経済が足並みを揃えて成長するとの予想を踏まえると、日本のコア・インフレ率は1%に達する可能性が高く、日銀はこれを受けてイールドカーブのターゲット(可能性が高いのは10年物国債)を引き上げる可能性があるとPIMCOでは予想しています。また2%の物価目標に関しては、日銀はより柔軟なアプローチをとり、経済・財政状況に基づいて、イールドカーブ・コントロールを調整し始めるとみています。

日本のマクロ経済の見通しについては、最新の短期経済予測「これ以上は望めない」をご覧ください。

「これ以上は望めない」を読む

正直知哉は、東京を拠点とするアジア太平洋共同運用統括責任者。PIMCOブログの定期執筆者。

著者

Tomoya Masanao

アジア太平洋共同運用統括責任者

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