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インフレリスクでFRBは試練に直面

米連邦準備制度理事会(FRB)は、市場ボラティリティを高めることなくテーパリングの発表を乗り切りましたが、インフレリスクが高まる中で、金利予想を管理するという困難な課題に直面しています。

米連邦準備制度理事会(FRB)は予想通り、11月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、量的緩和の段階的縮小(テーパリング)を開始し、毎月の債券購入額を減額すると発表しました。一方で、インフレ見通しが一段と不透明になったことを認めています。このニュースに対する市場の反応は落ち着いているものの、インフレリスクが高まる中で市場の金利予想を管理するという、より困難な課題にFRBの政策立案者は今後直面することになります。

足元の高インフレは収束する可能性が高いとのFRBの見方に、PIMCOも同意していますが、収束するまでには当初の想定より時間がかかるとみています。一時的な要因によるものであっても、高インフレの状態が長引けば、長期のインフレ期待も上方修正されるリスクが高まります。これはFRBが避けたい事態です。実際、今後数ヵ月は政策当局の忍耐力が試される可能性が高く、12月に発表されるFRBの次期経済予測で利上げ予想がさらに前倒しされるリスクは十分にあるとPIMCOではみています。

長らく予想されていたテーパリングは波乱を起こさず

FRBは、米国債およびモーゲージ債(MBS)の購入を段階的に縮小していく計画を発表しました。特に、11月中旬と12月中旬に月間の購入額を150億ドルずつ減額することを明らかにしています。こうした月間の購入額の縮小は2022年6月まで継続される可能性が高いものの、FRBは経済状況に応じて月次の縮小ペースを変更する用意があるとも明確に述べています。FRBはこうした流通市場での購入を終了した後も、満期が到来した資金を米国債の入札やMBS市場に戻す形でロールオーバーを続け、残高を維持するものとPIMCOでは予想しています。

その他の点では、FOMCは声明にわずかな変更を加えただけにとどまりました。経済活動が今夏の軟調から回復し始めたとの認識を示すとともに、インフレについては依然として一過性だと「予想」されるものの、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的流行)に関連した需給の不均衡が一部のセクターで「かなりの」価格上昇をもたらしたため、高止まりしているとしています。一方パウエルFRB議長は記者会見で、インフレは一過性である可能性が高いとの見解を繰り返しながらも、必要とあらばインフレを抑制するために行動する意思と能力がFRBにある点を強調しました。

市場は金利の軌道を見直し

9月のFOMC以降、中央銀行の政策金利に対する市場の予想は大幅に見直されています。現時点で市場が織り込んでいる予想では、米国では早ければ2022年6月のFOMCで利上げが開始される確率が高まっています。イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁の発言がきっかけになったとみられますが、市場が織り込んだ変化が元に戻らないのは、米国および世界のインフレの上振れリスクを反映していると考えられます。

この数週間、多くの国で短期国債の利回りが急激に上昇する一方、長期国債の利回りは小幅に低下しています。こうしたイールドカーブのフラット化は、一部の先進国の中央銀行がこれまでの想定よりも早い時期に、より速いペースで引き締めを開始すると投資家が予想していることを示しています。

インフレリスクの高まり

過去1年、消費者の旺盛な商品需要に加え、サプライチェーンの様々な供給制約によりインフレ率が上昇しましたが、こうした問題が顕著に表れているのが自動車セクターです。パンデミックからの回復に伴い、この問題は解消されると予想されていました。しかし、最近の動向を見ると、来年に予想されている解消前に、インフレ圧力がさらに高まる可能性があります。

実際、異常気象や製造業の需要増、政策の変更などの要因が重なり、天然ガスや石炭の在庫は少なくなっています。これにより米国および世界の市場で光熱費が上昇しており、今後、ヘッドライン・インフレ率(総合インフレ率)の上昇が見込まれます。これら在庫の減少を受けて、中国では電力供給が完全に制限され、欧州などでは利益率の低い多くの製造業者が生産を停止しています。幅広い商品の生産が阻害されており、企業は既に払底した在庫の回復に苦労していることから、一時的に、コア・インフレ率にも影響を与える可能性があります。

こうした世界的なインフレ圧力に拍車をかけているのが、ハリケーン・アイダによる米国内の被害です。このハリケーンで、メキシコ湾の産油量が大幅に減少しただけでなく、多数の自動車車両が被害を受けました。自動車の在庫が品薄になっている中での買い替え需要による影響は、既に中古車の卸売価格に出ているようです。今後数ヵ月は、一般消費者向けの中古車価格を一段と押し上げる要因になると考えられます。

これらの要因により、第4四半期の米国のインフレ率は再び年率5%以上に高まるものと予想されます。PIMCOでは、こうした要因は一時的なものであり、インフレ率は2022年には落ち着くとの見方は変えていませんが、2022年の第3四半期にかけて前年比のインフレ率は3%超に押し上げられる可能性があります。

FRBにとって今後数ヵ月は試練の時

PIMCOでは、米国のインフレ率が2022年末までにFRBの目標水準に戻るとの予想を継続していますが、目標を上回るインフレ率がさらに数ヵ月続くと、インフレ期待がFRBの目標値の2%に見合うレベルを越えて加速するリスクが高まります。これはFRBが回避したい事態です。こうした理由や後述のいくつかの理由から、今後数四半期の金融政策の見通しを効果的に伝えることは、FRBにとって困難なものになりそうです。

第一に、FRB高官はインフレ期待が意図せず「急激に高まる」リスクを管理したいと考えているでしょうが、このリスクを、インフレが自然に収束するという最も蓋然性が高いシナリオと比較検討する必要があります。金融政策は効果が表れるまでに時間がかかり、様々な遅れを伴うことから、早期の利上げに経済が適応し始める頃には、既にインフレが収束している可能性も否めません。

第二に、まだ未確定ではあるものの幹部数名の交代により、FOMC指導部の政策見解が変わる可能性があり、それにより不確実性と市場ボラティリティが高まる可能性があります。PIMCOではパウエル議長の再任を予想していますが、民主党左派が懸念を表明しており、その行方は不透明感を増しています。

最後に、カナダ銀行とイングランド銀行は、FRBに先駆けて利上げの方針を伝えています。規模のより小さい他の先進国の中央銀行の早期利上げがFRBの政策に直接影響を与えることはないとみられますが、当局は、米国経済に影響を与える広範な金融状況との関連で、海外の政策調整が米国の金利と米ドルに与える影響を注視していくことになります。

PIMCOのFRBの金利見通しは依然として市場予想を下回るも、アップサイド・リスク有り

PIMCOではパンデミック後のFRBの最初の利上げは2023年第1四半期になるとの予想を維持していますが、リスクはより早期の利上げに傾いているともみています。利上げ開始後の道筋について、様々なシナリオを想定した場合のPIMCOの平均予想では、2023年末までの利上げ回数は市場予想より1回から1.5回程度少なくなっています。最新の長期経済展望「変革への備え」で述べたように、金利上昇に対する市場の感応度により、中央銀行の金利見通しがゼロ下限から大きく離れることが再び妨げられる可能性があります。

ティファニー・ウィルディングアリソン・ボクサーはエコノミスト。PIMCOブログの定期的寄稿者。


(2021年11月3日発行)

著者

Tiffany Wilding

エコノミスト

Allison Boxer

エコノミスト

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