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世界の足かせ:ジャクソンホールからの知見

金融政策を著しく制約するファンダメンタルズ上の「世界の足かせ」が、両大戦間期の制度としての「金の足かせ」に取って代わっています。

連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長が先週のジャクソンホール経済政策シンポジウムで行った講演は、市場がすでに織り込んでいる目先の追加利下げの見通しを確認するものにすぎませんでした。しかし、同シンポジウムで発表された数編の学術論文や、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁による昼食会での講演では、米国や米国以外の中央銀行にとってますます頭痛の種になりつつある、グローバル金融リンケージに関する深い洞察がみられました。ブログの短い投稿だけではこれらの洞察のすべてを十分に説明することはできませんが、重要と考えられるポイントを以下に述べます。

まず、歴史を振り返ると、カリフォルニア大学バークレー校の経済学者バリー・アイケングリーン氏による、1992年出版の名著「Golden Fetters: The Gold Standard and the Great Depression, 1919–1939」に集大成された研究のおかげで、第一次世界大戦後に復活した国際金本位制が参加各国の国内金融政策の足かせとなり、1920年代後半、米国の不安定要因が米国以外の地域に波及し、1930年代の大恐慌につながる背景となった経緯は広く知られています。

「Global fetters(世界の足かせ)」が「Golden fetters(金の足かせ)」に取って代わる

当然ながら、不換通貨と変動為替相場から成る今日の国際金融システムにおいては、そのようなルールに基づく金融政策の足かせは存在しません。したがって理論的には、各国の中央銀行は自国経済を安定させるべく、相互に独立して国内金融政策を実施することができます。  

しかし実際には、今日の中央銀行はそれ以外の制約に直面することが多くなっています。つまり、金融政策を著しく制約するファンダメンタルズ上の「世界の足かせ」が、両大戦間期の制度としての「金の足かせ」に取って代わっているのです。

この「世界の足かせ」は、(1)支配的な国際通貨としての米ドルの役割と、(2)グローバルの均衡金利(r*)が国内のr*に及ぼす影響の拡大を意味しています。 「世界の足かせ」は「金の足かせ」とは異なり、大恐慌を引き起こす可能性は低いものの、特にFRBが「世界の足かせ」を十分かつ速やかに考慮に入れない場合、世界経済と米国経済両方のさらなる重石となる可能性があります。

ジャクソンホール会議で発表された数編の論文や、マーク・カーニー氏の講演(これらはすべてこちらからアクセスできます)では、米国の金利サイクルやドルのサイクルが米国以外の地域に及ぼす経済面や金融面の波及効果について述べられています。米ドルが今なお、世界の貿易、証券発行および保有、外貨準備において支配的通貨であることから、それらの波及効果は、世界GDPに占める米国経済の(低下しつつある)割合が示唆するものよりはるかに大きくなっています。ここで特別な意味を持つ数値は3分の2です。具体的には、世界の証券発行高や外貨準備高の3分の2は米ドルで、新興国(EM)の対外債務も3分の2はドル建てであり、世界のGDPの3分の2を占める国々の準備通貨もドルとなっています(マーク・カーニー総裁の講演内容をご参照ください)。

つまり、世界の金融サイクルは、実際には米国金利と米ドルのサイクルだと言えます。昨年の動きはその典型でした。米国の金利上昇とドル高に伴う制約が、ドル建て債務が大部分を占める国を中心に多くのEM経済に深刻なダメージを与え、貿易戦争の拡大と相まって、世界貿易やいまだ機能している製造サイクルの急減速を招いたのです。米国の政策が米国以外の地域に及ぼす波及効果が、明らかに米国経済への逆波及効果を醸成し、その兆しが輸出、企業投資、企業収益、製造業生産、(今週発表されたベンチマークの大幅改定後の)雇用統計といった米国の経済指標に表れつつあります。  

強まるグローバル均衡金利r*の支配

しかし、かつての米大統領のように、「責任は俺がとる」というわけにはいきません。世界の支配通貨であるドルの発行国の米国でさえ、「世界の足かせ」がますます金融政策の制約となっているのは、強まるグローバルな均衡金利r*の支配とも呼べる状況が大きな理由です。サンフランシスコ連銀のエコノミストであるオスカー・ジョルダ氏とカリフォルニア大学デービス校のアラン・テイラー教授(PIMCOのシニア・アドバイザーでもあります)は、ジャクソンホール会議で発表した論文で、主要国の金融政策を主導しているのはr*などの「*(スター)付きの」指標だと主張しています。すなわち、動きが緩やかで、概して低下しつつある世界や自国の自然利子率であり、それらの国は過去20~30年間で同調性を高めています。そして、論文のタイトルを引用すれば、中央銀行は今やそうした世界的な動きの「Riders on the Storm (嵐のライダー)」であると説明しています。

幸いにも、米国の経済効果や金融政策による世界的な貯蓄超過の結果として、世界から米国への逆波及効果の重要性や低下しつつあるグローバルr*の重要性を、FRBはかなり以前から認識しており、徐々に受け入れるようになっています。米国内に注目する経済評論家が理解に苦しんでいるのに対し、これらの世界的な要因を考慮すれば、失業率が過去50年間の最低水準にあってもなおも顕在化しないインフレ圧力や、(長期金利が世界的な低金利やマイナス金利の影響を多大に受けている関係で)現在見られる逆イールドは、はるかに理解しやすいと言えます。

不幸な点は、FRBの政策立案者はこれらの世界的なファクターを認識し、受け入れているにもかかわらず、世界各地で散見される政治不安のほか、米中の貿易および技術戦争の急拡大が世界や米国の経済成長に深刻なダメージを与える可能性から、急速に低下しつつある世界や自国のr*への対応が後手に回るというリスクを依然として冒している点です。

念のために言えば、これはFRBの批判ではありません。貿易戦争で最近見受けられる動きに遅れずについていくのは、誰にとっても極めて困難であり、そうした動きが及ぼしうる影響やその適切な政策対応について、米連邦公開市場委員会(FOMC)のような委員会がコンセンサスを醸成するのには時間が必要です。しかし、当面は「世界の足かせ」が妨げとなってr*は低下し続けます。

経済や市場を動かすさらに詳しい洞察については、最近発行したPIMCO長期経済見通し創造的破壊」をご参照ください。

「創造的破壊」を読む

ヨアヒム・フェルズ はPIMCOのグローバル経済アドバイザーであり、 PIMCOブログの定期的寄稿者です。

著者

Joachim Fels

グローバル 経済アドバイザー

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