市場参加者の間では、米連邦準備制度理事会(FRB)が2017年後半にバランスシートの縮小
を開始するとの予想が強まっており、その結果、政府機関系モーゲージ債(MBS)市場――
広い意味では米国の住宅市場――が打撃を受ける可能性があるとの見方が広がっています。
この背景として、FRBが保有する政府機関系MBSの残高が約1兆7,500億ドルにのぼっている
ことがあります。これは市場の約29%にあたり、取引可能な浮動証券(市場で活発に取引さ
れ、銀行や政府関連機関が保有していない政府機関系MBS)に占める割合で見れば、さらに
高くなります。巨額には違いありませんが、以下の主な4つの理由により、FRBが未曾有の規
模となった残高を減らし始めても、政府機関系MBS市場が大きく変動する可能性は低いとみ
ています。
FRBによる配慮
FRBは緩和縮小にあたって、金融市場の混乱を回避しようと努めており、
この点は、短期金利の引き上げを細心の注意を払って予告し、慎重なペースで進めているこ
とからも明らかです。バランスシートの縮小についても、FRBは同様のアプローチを取ると
予想しており、動きを事前に予告し、きわめて緩慢なペースで縮小を進めるとみられます。
再投資を全面的に打ち切ったり、債券を売り切ったりするのではなく、再投資を徐々に縮小
する形を取るとみられます。
適正な現在のバリュエーション
政府機関系MBSは2年近くにわたって大幅に割安になった
結果、足元のバリュエーションは⻑期的な適正⽔準に近づいています。現在のMBSのバリュ
エーションを評価するに際しては、FRBがMBSの買い増しや再投資を始める前の2010年を
ベンチマークとするのが有用だと考えられます。2010年の市場環境では、政府機関系MBSは
現在よりも20〜35ベーシスポイント割安でした(オプション調整後スプレッド・ベース)。
だとすると、今はショート・ポジションにするのが賢明なのでしょうか。おそらく、そうで
はありません。なぜなら、「無リスク」金利と比べた政府機関系MBSの追加的なキャリーは
年間35ベーシスポイント前後だからです。ショート・ポジションの規模とタイミングが完璧
でないかぎり(それは困難ですが)、現在の⽔準で利益を確保できる可能性は低いと言える
でしょう。
相対的に魅力的なバリュエーション
MBSが過去2年で割安になっただけでなく、この間、他のスプレッド・セクターの大半は大幅に割高になっています。たとえば米国投資適格債のクレジット・スプレッドは、2010年に比べて約60ベーシスポイント縮小しています(ブルームバーグ・バークレイズ米国クレジット・インデックスベース)。さらに、米国の景気拡大局面は7年以上に及んでいますが、政府機関系MBSは、景気拡大局面の後半(さらには後退局面)でクレジットをアウトパフォームする傾向が見られます。
良好なテクニカル要因
FRBのバランスシート縮小にあたって、主要なテクニカル要因はMBSにプラスに働くとみています。
- 昨年の政府機関系MBSの純発行額は約3,000億ドルで、今年もこの⽔準をうかがうペースの発行が続いています(現時点で約2,200億ドル)。重要なのは、昨年の発行額のうち約1,100億ドルはキャッシュアウトを伴う借り換えである点です。金利が現在の⽔準から上昇すれば、このペースは持続しないと見られます。
- 政府関連機関であるファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)やフレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)は2009年以降、年間700億ドル前後の政府機関系MBSを売却してきましたが、それも終わりに近づきつつあります。FRBの売却のペースは、政府関連機関のこれまでの売却ペースを上回る見込みですが、ある意味では市場は何年も「段階的縮小」をこなしており、売り手が政府関連機関からFRBに代わるだけとも言えます。
- 信用力の高いスプレッド資産に対する需要が旺盛なことから、海外勢の買い需要により市場は現在の⽔準で安定ないし上昇するとみられます。たとえば、米国外の政府機関系MBSの保有残高は2008年の8,900億ドルをピークに2,550億ドルまで低下しており、外貨準備に占める割合も縮小していますが、FRBがバランスシート縮小についてより明確な姿勢を打ち出せば、このトレンドは鈍化し、反転する可能性があります。
- 銀行の需要も増加する可能性があります。FRBがバランスシートを縮小すると、銀行システムの超過準備は低下する見通しで、銀行は⻑期的に信用力の高い適格流動資産(HQLA)の購入を迫られることになります。この点で、政府機関系MBSが大きな役割を果たすとみられます。
結論
MBSの足元のバリュエーションは適正だと見ています。現在の環境でクレジット比率が高いポートフォリオにとって、政府機関系MBSは、米政府の公的管理、流動性の高さ、キャリーといった点で、分散対象として魅力的でメリットがあると考えられます。FRBがバランスシートの縮小を開始する時期は近づいていますが、MBSセクターのリスク・リターン構成を評価する際には、あらゆる要素を考慮することが重要です。FRBの配慮、現在の適正なバリュエーション、相対的に割安なバリュエーション、良好なテクニカル要因、といった前述の4つの要因を踏まえると、FRBのバランスシートが縮小すると「バブルが破裂する」と予想する人々は、大いに失望することになるかもしれません。
FRBの政策とMBS市場に及ぼす影響についてのより詳しいPIMCOの考え方については、最新の⻑期経済予測「転換点」をご覧ください。
ダニエル・ハイマンはPIMCOの政府機関系MBSポートフォリオ・マネジメント・チームの共同責任者であり、PIMCOモーゲージ債オポチュニティーズ・ストラテジーのポートフォリオ・マネジャーのリーダー