PIMCOブログ

FRBに対する不満:米ドルにとっての意味

トランプ大統領がひらいた通貨冷戦の新局面

トランプ大統領によって、通貨冷戦は新局面を迎えました。大統領は最近、インタビューやツイッターの投稿で、ドル高は米国を不利にするものであり、中国や欧州連合(EU)は為替を操作して金利を低く抑えていると非難しました。さらに、大統領就任後初めて、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ路線を公然と批判し、利上げは「われわれが成し遂げてきたことを台無しにする」ものだと主張しています。7月20日の大統領のツイートを受けて、米ドルはほとんどの通貨に対して下落を余儀なくされました。

これは、年初来のドル高の終わりと、ドル安の新たな局面の始まりを意味しているのでしょうか。

米ドルを支える要因

昨年のドル安や足元での条件反射的な市場の反応が示すように、為替市場は米政権の口先介入を真剣に受け止めているとみられるため、米ドルが下落基調に転じる可能性がないわけではありません。為替レートが流行やモメンタム戦略の影響を受けやすいことを踏まえれば、大統領の一連のツイートによって引き起こされた市場の動きが、継続したトレンドになる可能性もありえます。

しかしながら、様々な理由から、今後もドル高が進む可能性が高いとPIMCOではみています。

1.トランプ大統領とムニューシン財務長官の発言を受けてドル安基調になった2017年初めと違って、足元の米ドルは強過ぎるわけではありません。ドル指数(DXY)は今年2月以降6%上昇しているものの、依然として2016年12月のピークの水準を8%下回っています。

2.成長格差:昨年のドル安は、諸外国の景気が米国にキャッチアップしていたことが一因でした。今年、米国は財政刺激策により堅調な景気を維持する見通しですが、中国経済は減速しており、ユーロ圏については、高い水準からとはいえ急減速した後、安定に向かう気配が見えているに過ぎません。

3.FRBは大統領の"口撃"に怯むことなく、独自の「適切な政策経路」であるドット・プロットに沿って進むとみられます。FRBの独立性を廃止できるのは議会の法律だけですが、そうした大胆な試みに対して過半数の支持が得られる見込みはありません。また、パウエルFRB議長と連邦公開市場委員会(FOMC)は、政権からの批判にいささかでも屈したように見えるような事態を避けるべく、細心の注意を払うはずです。結果として、米国と他の先進国の金利格差は一段と拡大する見通しで、これが米ドルの支援材料になるでしょう。

4.中国は債務削減(デレバレッジ)のプロセスを円滑化し、景気と資産市場を下支えするため、金融緩和を継続するとみられます。これは、対米ドルでの人民元のさらなる下方圧力になります。中国当局としては、米政権をさらに刺激することになるため、大幅で急激な通貨の下落は避けたいところですが、人民元の下落は一段と進む見通しです。

5.最後に、11月の米中間選挙を控え、通商政策での米国と諸外国の緊張が続くとみられる点が挙げられます。世論調査でも、トランプ大統領の強硬な発言は共和党の支持基盤に受けがいいことが示されています。中国からの輸入品に対する2,000億ドルの追加関税と、すべての自動車部品に一律25%の関税は課すというのは、脅しではなく、しばらくの間、金融市場のボラティリティは高まることになるとみられます。リスク回避姿勢の高まりは、一般に米国資産の支援材料になりますが、主要国通貨に対する米ドルもこれに含まれます。(日本円は顕著な例外です。)また、(仮に全面的な貿易戦争が起きた場合)勝者は存在しませんが、巨額の貿易黒字を抱える国に比べると、米国の損失は相対的に小さく、この点も米ドルの支援材料になります。

要約すると、トランプ大統領が通貨の冷戦に参戦し、批判の矛先にFRBを含めたことで米ドルは下落基調に転じる可能性がないわけではありませんが、これに対抗する強力なトレンドが存在するため、年内はドル高が一段と進む可能性が高いとみられます。

ヨアヒム・フェルズはPIMCOのグローバル経済アドバイザー。短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)及び、長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)の議長を務める。

著者

Joachim Fels

グローバル 経済アドバイザー

プロフィールを見る

Latest Insights

関連コンテンツ