連邦準備制度理事会(FRB)は3日午前、市場の意表を突いて0.5%の緊急利下げを実施しました。新型コロナウイルスが中国以外に拡大を続ける中、主要7ヵ国(G7)は先進国経済を下支えするための協調行動を打ち出しましたが、今回のFRBの動きはその第1弾で、こうした動きが続くとみられます。FRBが緊急利下げを実施したのは、G7の財務相・中央銀行総裁が新型コロナウイルスの世界経済への影響を協議した緊急電話会議の翌日です。先進国、エマージング諸国双方が世界的に共同歩調を取るとしても、経済の不安定な状況が変わらなければ、FRBは近い将来、追加的な行動を取る可能性があるとみられます。

衝撃と畏怖を呼び起こすFRBの手法は、株式市場の動揺を抑え、広く金融状況を安定化させる狙いがあるのは明らかです。利下げ自体ではウイルスの拡大を止めることはできませんし、サプライチェーンの混乱の対策として特に適しているわけでもありません。しかし、金融状況を緩和し環境を改善することで、経済ショックを和らげる可能性があります。

何よりFRBは、クレジット市場を混乱させ銀行融資の突然の引き揚げに繋がりかねない信認の危機を回避したいと考えています。FRBが市場のパニックを落ち着かせる行動を取らなければ、製造業や貿易の世界的な混乱や、国内の旅行やサービス消費の減退に伴い、体力の弱い企業がキャッシュ・フローの枯渇問題に直面し、まさに同じ時期に信用が引き締まる恐れがあります。旅行・観光業が米経済に占める割合は約3%ですが、大都市統計地域に該当する主要都市の経済規模を合わせると、国内総生産(GDP)の30%超を占めています(米経済分析局)。新型コロナウイルスの感染拡大で、これら地域の活動が大幅に低下すれば、成長率は大きく落ち込む可能性があります。また、直近の「短期経済展望」でも強調した点ですが、企業のプライベート・クレジット市場の大部分は、景気の全般的な悪化に特に脆弱です。プライベート・クレジット、レバレッジド・レンディング、ハイイールド市場では、景気循環に左右されやすいセクターに多額の債務が集中しています。さらに、米国内で新型コロナが拡大すれば旅行や観光が制限されることになりますが、エネルギー、輸送、ゲーム、接客サービス、航空の各セクターはいずれもその打撃を受けやすいセクターです。

市場の反応

歴史振り返ると、感染症が経済や市場に与える影響は一時的な傾向が強いことがわかります。とはいえ、一時的にみえる売上ショックも仮に長引いた場合は、倒産や失業率の上昇など経済へ悪影響を及ぼすことになり、それが出尽くさないと回復には転じないでしょう。とりわけ信用状況の引き締めや景気減速の影響を受けやすいのが、(ADP統計で)米国の雇用の約70%を占める中小企業です。

これらを踏まえると、FRBの緊急声明に対する株式市場とクレジット市場の反応は厄介だと言えます。当初は条件反射的に好反応を示しましたが、その後、米株式市場は急落し、クレジット・スプレッドは拡大しました。利下げ後の会見でFRBのジェローム・パウエル議長は、金融政策の現在の方針に満足していると述べました。しかしながら株式市場の下落が止まらなかったことは、金融状況を落ち着かせるために、FRBは早ければ3月18日に予定される会合で、さらなる措置を講じる必要があることを示唆しています。最終的には、銀行を支え、銀行セクター全般に十分な流動性を確保する追加的な措置を講じる必要が出てくるかもしれません。FRBによる連銀貸出は短期資金調達の最後の砦となるでしょうが、銀行の資金調達市場の圧力が高まった場合、FRBはさらなる手段を講じる必要性に迫られる可能性があります。

世界的な協調行動

また今後、世界各国の協調的な政策行動と、的を絞った財政行動が見込まれ、また必要とされています。パウエル議長が述べたように「新型ウイルスの感染拡大は、多面的な対応を迫られる」ものです。このため、世界の財政当局および中央銀行の迅速な対応が予想されます。

欧州中央銀行(ECB)は資産購入のペースを加速させ、(銀行貸出の改善を目的とする)長期資金供給オペ(LTRO)を緩和させるとみられます。ECBは利下げもできないわけではありませんが、利下げのメリットがコストを明確に上回る状況とは到底言えません。

カナダ中央銀行は、4日に予定される定例会合で政策金利を0.5%引き下げる見通しです。イングランド銀行も、市場の圧力に対応するため、0.25%~0.50%の利下げを実施する可能性があります。

財政面では、欧州各国の政府は財政緩和を若干拡大する可能性がありますが、ユーロ圏の政治制約から財政面で多くの対策を期待することには慎重な見方をしています。

エマージング市場では、とりわけ中国の景気失速による影響が大きいことから、いくつかの中央銀行がディスインフレ・ショックに対抗するため、政策を緩和するとみられます。エマージング諸国の(インフレの影響を除いた)実質金利はプラスで、先進国に比べて相対的に高いことから、中央銀行の利下げ余地は相対的に大きいと言えます。また、PIMCOの見方では、エマージング諸国の経済は依然として長期的な潜在成長力を下回っており、今後もこの状況は続き、中国の減速の影響を踏まえれば悪化する可能性すらあるとみています。さらに重要な点として、エマージング諸国のインフレ・ダイナミクスは引き続き抑えられています。

また、ほとんどのエマージング諸国は過去に比べて体質が改善し、金融政策の自由度が高くなっています。為替変動に対するインフレの感応度が総じて低下し、安定化してきたことから、マクロ経済ショックに際して、中央銀行が政策金利を引き下げる余地が大きくなっています。また、一部の例外を除いて、エマージング諸国全般の財政政策は、相対的に制約が多く、出動までに時間がかかる傾向があります。こうした要因から、世界的な景気減速に対抗策を打ち出さざるをえないエマージング諸国にとって、最も効果的な手段は金融政策になるとPIMCOではみています。

グローバルレベルでは、協調的な刺激策は相互に効果を高めると共に、為替変動を抑える効果があります。このため、世界各国の財政および金融当局は迅速な行動を取るものと予想しています。

ティファニー・ワイルディングはPIMCOの米国担当エコノミスト。ニコラ・マイはポートフォリオ・マネージャーで欧州のソブリン・クレジット・リサーチを統括。ルピン・ラーマンは、ポートフォリオ・マネージャーでエマージング・マーケットのソブリン・クレジットを統括。いずれもPIMCOブログの定期寄稿者。

著者

Tiffany Wilding

北米担当エコノミスト

Nicola Mai

ソブリン・クレジット・アナリスト

Lupin Rahman

ソブリン・クレジットのグローバル統括責任者

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