本稿はCFAの機関紙に掲載される予定です。 環境・社会・ガバナンス(ESG)指標は、PIMCOのソブリン債評価に不可欠なものであり、投資判断に活かされています。では、実際にPIMCOでは、ESGに関する評価を投資判断にどのように取り入れているのでしょうか。 ESGや様々なリスク・ファクターについての厳密な分析に加え、現地における対話が重要だとPIMCOでは考えています。対話を通じて全体的な状況を把握し、当該国固有のリスクを見極め、政府職員や経済界のリーダーとの積極的な対話を通して見方を共有し、ESGの目標達成に関する政府の実績を評価します。PIMCOのアプローチについては、最近のレポート「ソブリン債投資にESG分析を導入」で詳述していますが、積極的な対話と綿密なESG分析がどうポートフォリオ戦略の構築に活かされているかをご理解いただくための具体的な事例として、南アフリカのソブリン債評価のケーススタディが挙げられます。 ESGのソブリン債リスクのケーススタディ:南アフリカ共和国 2015年から2017年の南アフリカの政治動向をみると、従来のソブリン債分析にESGの要素を取り入れ、タイムリーに対話を行うことで、リスク評価が向上し、ポートフォリオを大幅なダウンサイドリスクから守れる可能性があることがよくわかります。 2015年7月、南アフリカのジェイコブ・ズマ前大統領の汚職疑惑が浮上しました。批判が集中したのは南アフリカとロシアの原子力協定で、ズマ前大統領が私腹を肥やし、同国の電力会社に損害を与える枠組みだとみなされました。ズマ前大統領と、同国の著名な財閥グプタ家との癒着にも批判が集中しました。与党アフリカ民族会議(ANC)内の権力闘争に発展し、南アフリカの制度的基盤は弱体化、財務相が頻繁に交代し、財政が悪化、政局が混乱する事態となりました。 PIMCOでは、疑惑が最初に表面化した時点で南アフリカの政治的リスク、ガバナンス・リスクの見直しに着手し、詳細な調査を実施すべく、シニア・チームが現地に赴きました。目的は、財源が健康や教育分野から他に転用されることによる経済的・制度的影響および社会的影響を把握することでした。 評価結果により、社内格付け引き下げへ 政府との徹底的な議論や詳細な分析を踏まえ、PIMCOでは、大手格付け会社より数四半期前に、南アフリカの社内格付けを引き下げました。(図表を参照)。PIMCOのソブリン格付けのガバナンス指標の比重、政権の弱体化が経済成長や政府債務に及ぼす影響の評価、政府高官との対話は、いずれも格下げを促しました。 PIMCO社内の格下げにより、南アフリカのソブリン・リスク及び準ソブリン・リスクにさらされたポートフォリオを再評価することになり、その結果、PIMCOのお客様へエクスポージャーを減らすよう連絡することになりました。PIMCOでは、標準的なソブリン・リスク評価の枠組みにESGの要素を取り入れることで、早期に問題を突き止め、市場が依然として南アフリカに有利なシナリオを織り込んでいる時点でエクスポージャーを減らすことができたわけです。政権の腐敗ぶりが明るみになるにつれて、市場や格付機関の評価がPIMCOの評価に追いついてきたのです。 継続的な分析と対話 2015年から2017年にかけて、PIMCOでは、南アフリカ政府や主要な利害関係者との対話を続けました。これによって、政治力学への理解が深まり、投資家の懸念を意思決定者に直接伝えることができました。 世界的にマクロ経済環境が改善するにつれ、市場は再び南アフリカを高く評価し始めましたが、ガバナンスや透明性に問題があるとの見方からPIMCOでは慎重な姿勢を崩しませんでした。特に、ズマ前大統領の元妻のヌコサザナ・ドラミニ=ズマがANCの代表権を掌握した場合、前政権の政策が継続する可能性が高いと判断しました。 2017年12月にシリル・ラマポーザ大統領がANCの議長に選出され、2018年2月にズマ前大統領が辞任したことを受け、PIMCOでは、新政権による国営企業の経営改革の進捗状況や、ガバナンスや透明性の向上に関する改革の進展を注視しています。腐敗撲滅に向けた措置が講じられていることは、南アフリカがようやく回復に向けた長い道のりに踏み出したことを示す、有望な兆しです。 債券市場はESG関連の取り組みに対して資金を提供すると同時に、利益獲得の機会も提供する独自の地位を築いていると考えています。 「ESG投資と債券:新たなニューノーマル?」を読む
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