PIMCOブログ ブレグジットのその先:英国経済の見通しとリスク 市場は2016年の英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)の国民投票後に大きく揺れましたが、PIMCOは2021年以降の基本シナリオにおいて、ブレグジットの大きな経済的影響はないとみています。より重要なのは新型コロナウイルスや財政政策、および将来の生産性向上の課題です。
2016年6月の国民投票から4年、イギリスの欧州連合(EU)離脱がようやく完了しました。あれほどの注目、議論そして混乱を引き起こしたイギリスのEU離脱(ブレグジット)は、短期的には経済活動にほとんど影響がないとPIMCOではみています。企業は概ね準備を終え、英政府はほとんどのEU域外諸国とのロールオーバー(継続的協定)を完了しています。国境ではある程度一時的な摩擦は発生するかもしれませんが、目の前の新型コロナウイルスが経済に与える影響や、ワクチン配布スピードの不確実性に比べれば、大きな問題ではないと言えるでしょう。 重要なのは生産性 ブレグジットは、確かに長期的には多くの疑問が残りますが、経済のほとんどの分野でそれほど大きな影響はないでしょう。その一例が労働力の供給です。ブレグジットにより今後は英国が国境を管理することになりますが、英国への移民流入が減少するかは全く明らかではありません。国民投票以後、国内に流入する正味の移民の数はほぼ変わっておらず(EU域内からの移民は減少、EU域外からの移民は増加)、今後この傾向が変わるという明白な理由も見当たりません。 最大の不確実性は生産性です。貿易障壁が増えることで、比較優位性の高い分野への特化によって得られるメリットが希薄化するため、ブレグジット後の新たな貿易関係が生産性の成長を限界的に引き下げるかもしれません。これは、英国とEUとの今後の関係に依存する部分もあります。英国経済の大半を占め、2020年12月31日の合意対象外のサービス分野を中心に、交渉は今後何年も続くと予想されます。その交渉の過程において、両者の間にある程度の乖離が生じるかもしれませんが、PIMCOの基本シナリオでは、規制の枠組みの違いとサービス貿易への摩擦はほとんどないと考えています。サービス分野の輸出入における変化は重要なリスクであり、多少の抵抗はあるものの、過激な結果になることは予想していません。 しかし、大きな流れのなかでブレグジットを捉えると、将来のより大きな懸念は英国の生産性の向上です。英国の生産性は、既に何十年にもわたって長期的な低下傾向にあります。これは世界的な傾向でもありますが、英国においては、2008年~2009年の世界金融危機以降の生産性の鈍化が特に顕著です。これには計測誤差、イノベーションに対する収穫逓減、金融危機の傷跡、反競争的規制など、数多くの要因が考えられます。確かに新しい技術が効率性を高め、今後は生産性が上昇することも考えられます。しかし、新型コロナウイルスの傷跡も含め、それ以外の要因が生産性を一層低下させることも十分考えられます。これらの大きな問題に比べれば、ブレグジットが生産性に与えるインパクトは限界的と言えるでしょう。 景気の反発 最新の短期経済展望でご説明した通り、PIMCOでは、世界の生産と需要は今年力強く回復すると予想しています。英国経済は、冬から春先にかけての停滞期を経たのち、ワクチン接種の拡大と継続的な財政・金融政策による支援によって2021年第2四半期から加速するとみています。しかし、2022年より前に、経済活動がパンデミック前のピークに戻ることはないでしょう。 この見通しに、ブレグジットが多少影響を与える可能性はあります。前述の通り、今後英国とEU間の交渉過程で発生する可能性のある「サービス貿易戦争」がその一つとしてあげられます。これが重要な貿易障壁に進展するかもしれません。もう一つは政治リスクです。ブレグジットがスコットランドの独立主義者を後押しする可能性があります。現状では、これら二つのリスクは抑えられています。 また、財政政策は大きな変動要因です。これまでのところ、イングランド銀行からの金融政策による後押しもあり、財政政策はパンデミックにおける自動安定装置として、重大な役割を果たしています。英国政府は、北部の保守党の選挙区に有利になるようなインフラ投資やその他のプロジェクトを再開するなど、今後も経済を刺激するために、米国には及ばないまでも他の欧州諸国以上に、財政政策をさらに推し進める可能性もあります。パンデミック関連の緊急支援策による大規模な財政コストによって、一時的に財政疲労の兆候も見られていますが、英国が2008年~2009年の金融危機後に導入された緊縮政策に戻ることはないとみています。 投資への意味合い 2016年の国民投票直後の大きな反動とは全く異なり、EU離脱合意後の市場の反応は緩やかな資産価格の見直しにとどまりました。現在ではブレグジットのリスクプレミアムはほとんど無くなりましたが、まだいくつかの投資機会があります。 英国の住宅ローン担保証券(RMBS)をはじめとする、住宅関連のエクスポージャーを引き続き選好するほか、過去数年間でバランスシートを強化してきた英国の銀行も選好しています。また、英国ポンドは中期的にはさらに強くなるとみています。デュレーションに関しては、向こう数年、英国債の利回りはおしなべてレンジ内で推移するとみています。大局的に見れば、市場や投資家にとって、進行中のブレグジットに関する仮定的な議論よりも、新型コロナウイルスからの回復、財政政策、生産性の動向、世界市場の背景など、ブレグジットとは関係のない問題の方がより重要だと考えています。 世界経済の展望と投資への意味合いの詳細については、2021年1月の短期経済展望「現実的な楽観論」をご覧ください。 ペダー・ベックフリスは、グローバル・マクロ経済動向の担当ポートフォリオ・マネージャー、ケティッシュ・ポタリンガムは英国クレジット投資担当ポートフォリオ・マネージャーで、両者はPIMCOブログの定期的寄稿者。 (2021年1月20日発行)
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