現在はこれまで誰も経験したことがない状況にあります。資産価格が実体経済からかけ離れ、健康危機の出口が見えないなかで、投資家はいかにポートフォリオを構築するべきかが問われています。
詳しくはアセットアロケーション展望の中で説明していますが、金融緩和と緩やかな景気回復を前提にすれば、リスク資産(株式とクレジット)のバリュエーションはほぼ妥当な水準だと、PIMCOでは分析しています。しかしながら、今後1年で起こりうる経済シナリオの振れ幅は極めて大きくなっています。
従って、マルチアセットのポートフォリオにおいては、緩慢なマクロ環境においても確固たる業績を上げ、長期的に力強い成長もしくはテーマに沿った成長が見込まれる企業に注目し、適度なリスクオン姿勢のポートフォリオを維持すべきだと考えています。堅固な分散は常に重要ですが、この達成にはさまざまな側面からのアプローチが必要となります。デュレーション、実物資産、通貨など、すべてが重要な役割を果たします。
ボラティリティと不確実性には大いなる投資機会が付き物であることは、不幸中の幸いともいえます。景気回復の本質やペースによって多くの勝者と敗者が生まれることが予想されるため、アクティブ運用会社にとっては、これからの数四半期がまさに腕の見せ所になるでしょう。セクターの選別や戦術的アセットアロケーションによって、付加価値を生み出す機会が数多く生まれることが見込まれます。入念に構築され、分散され、十分な機動性を持つポートフォリオが、今後数カ月を乗り切るにあたり最もふさわしいポートフォリオといえるでしょう。
投資への意味合い
グローバル株式:質が高く、大きな成長が見込める企業が比較的多いことから、米国株式をオーバーウエイトします。また日本についても、質を改善している企業が多く、バリュエーションも魅力的で、景気循環エクスポージャーがPIMCOの選好するセクターに比較的大きいことから、オーバーウエイトとします。一方、景気循環の影響がより大きく、ダウンサイドシナリオに対する耐性が相対的に弱いため、エマージング市場と欧州株式はアンダーウエイトとします。
セクターについては、イノベーションが生まれつつあるヘルスケアやハイテクセクターを選好しています。ともすれば低成長の環境において、この業界で創造的破壊をもたらす企業には高い収益が期待できると考えています。
伝統的クレジット:さまざまな景気回復シナリオにおいて、魅力的なリスク調整後のリターンが期待できる、高格付けの投資適格企業を選好しています。他方、高レバレッジの企業に対するエクスポージャーについては慎重姿勢とします。厳選した一部の金融セクターのシニア債やバンクキャピタル、非循環セクターのBB格のハイイールド債にも投資機会があるとみています。
その他のクレジットセクターでは、政府機関系モーゲージ債(MBS)をオーバーウエイトしています。政府系(エージェンシー)パススルーMBSは割安な水準で取引されており、政策による下支えが引き続き期待できます。同水準の利回りの他の証券に比べて流動性が高く、ポートフォリオ全体の信用力も高まる可能性があります。また、現在スプレッドが魅力的な水準にあり、政策による支援の継続も期待できることから、欧州周縁国も魅力的だと考えています。
非伝統的クレジット:市場のゆがみによって、その他のクレジット市場においても、魅力的なリスク・リターンが期待できる投資機会が見られます。
商業不動産担保証券(CMBS)、住宅ローン担保証券(RMBS)、ローン担保証券(CLO)といった分散された資産プールを担保にしたAAA格のシニア証券を中心に、ストラクチャード・クレジット市場にも引き続き魅力があると考えています。また、米国の住宅ファンダメンタルズが好調なことから、非政府系MBSのレガシー証券は、バリュエーションの点で引き続き魅力的です。
エマージング市場については、その国の景気に大きく左右される株式、通貨、現地通貨建て債券よりも、外国通貨建て債券を重視しています。
プライベート・デット:私募市場には、公開市場よりも遅れて市場ストレスの影響が表れます。CMBSやプライベートローンなどの分野では非常に魅力的な投資機会が出現しつつあります。プライベート・デット市場においては、景気低迷と貸し手同士の競争軟化により、今後1年は価格調整が進むとみています。また、これまで伝統的な資金調達が可能だった企業も、プライベート市場を通じた資金に目を向けざるを得なくなるかもしれません。
PIMCOでは、投資家が求める長期のリターン目標を達成するため、多くのポートフォリオにおいてオポチュニスティックな戦略の重要性が一層高まってくると考えています。
ポートフォリオの分散:マルチアセットポートフォリオにおいて、現在の環境下では、順景気循環の保有と同様にリスク緩和のための保有についても、細心のアプローチが要求されます。市場の難局に向けて単にデュレーションだけに頼るのではなく、例えば政府の明確または暗黙の支援がある多様な資産や、リスクオフ時に強い通貨、オルタナティブ資産や戦略など、幅広い対策ツールを活用する必要があると考えています。
期間プレミアムは世界的に低い状況ですが、相対的に利回りが高く、それゆえ「質への逃避」が起こった場合に金利低下余地のある、米国やオーストラリアを選好しています。同時に、分散を効かせ、デュレーションを的確に絞ったポジションをその他のリスク緩和のための資産で補うべきだと考えています。
投資機会の組み合わせとしては、円やスイスフランなどのリスクオフ通貨、エージェンシーMBSやAAA/AA格の投資適格社債などの政策支援を受けている高品質の資産、さらには様々なオルタナティブ戦略などが考えられます。また、根強い耐性を持ち、過去の景気後退時やマクロの不確実性が高い時期に分散効果を発揮した金への配分も十分に検討の余地があります。
各資産クラスに対するPIMCOの詳細な見方については、近日発行予定の2020年7月のアセットアロケーション展望「不確実下での耐性強化」をご覧ください。
エリン・ブラウンはマネージング・ディレクターで、ニューポートビーチ・オフィスを拠点とするポートフォリオ・マネージャー。マルチアセット戦略担当。ジェラルディン・サンドストロムはマネージング・ディレクターで、ロンドンオフィスを拠点とするポートフォリオ・マネージャー。アセットアロケーション戦略担当。