トランプ政権がオバマケア(米医療保険制度改革法)廃止を目指して最初に提出した代替法案が、可決に至らずやり直しを迫られたことを受け、財政刺激策など政権の他の優先課題がどの位の時間軸でどの程度実現するのか、投資家は見直し始めています。世界的な景気浮揚への期待感が後退するにつれ、株式市場は伸び悩み、債券市場は上昇しています。

これらはいずれもひどく意外なことではありません。むしろ米国の政治情勢にばかり目を奪われていると、過去5年間、ほぼ間違いなく世界経済の最強の牽引役であった「中国の信用」の静かな変化を見落とす恐れがあります。この牽引役が現在、急激に重しになりつつあります。

注目すべきは、中国の「クレジット・インパルス」(GDPに対する与信の伸び率の変化)です。クレジット・インパルスは、中国の製造業購買担当者指数(PMI)に対しては1年(図表1を参照)、米国供給管理協会(ISM)の製造業指数に対しては14カ月先行する傾向が見られます。

 

中国のクレジット・インパルスと世界経済浮揚との関連は、強調し過ぎることはありません。(図表2を参照)。中国の大規模な信用拡大による景気刺激は2014年に始まりました。当初は、コモディティ価格を下支えし、エマージング諸国の成長を支えました。そこに中国の不動産投資が予想外に加速したことから、コモディティ価格が上昇し、需要量が増大しました。その後、エマージング諸国の景気が回復に転じると、それにつれて世界貿易の数量が回復しました。つまり、実際に世界経済を浮揚したのは中国であり、トランプ政権が公約に掲げた財政政策や規制緩和は、米国のマインドやそれ以外の弱い経済指標を押し上げる効果はあったものの、世界経済を浮揚したわけではありません。

2016年に始まった中国のクレジット・インパルスの急低下は、今後1年のうちに中国経済が減速する前兆と捉えられます。過去3年間を振り返ってみると、中国のクレジット・インパルスがプラスになったのは、2014年末から2015年半ばの間です。2015年8月に人民元レートが大きく変動したことから、信用の拡大には通常より時間がかかりました。中国のクレジット・インパルスは2016年3月にピークをつけ、第2四半期以降、急減速しています。信用拡大の縮小の影響は、実感され始めたばかりだと言えます。PIMCOではすでに、信用収縮をマイナス要因として中国の成長見通しに織り込んでいますが、クレジット・インパルスの低下は、大方の予想よりスピードが速く、厳しいものになっています。

今、問うべきは、中国経済が減速するかどうかではなく、減速のスピードがどのくらい速いかなのです。そして、コモディティ価格の調整がどこまで進み、下値がいくらになるかも同じくらい重要だと考えられます。特に世界の景気サイクルが強いとの見方が盛り上がる中で、この点は重要だとみられます。また、差し迫った中国の景気減速に拍車をかける可能性があるのが、中国政府による影の銀行システムの信用引き締めです。クレジット・インパルスがいったん逆回転を始めると、政策ミスのコストは上昇します。

中国の景気減速の見通しは、今秋に共産党第19回全国代表者大会を控えて、なんとしても安定を維持したい中国政府の意向と切り離すことはできません。コモディティ価格の動向はともかく、中国の景気が党大会までに失速する可能性は低いでしょう。米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派色の後退が市場ボラティリティの歯止めになるように、共産党大会を控えた中国経済の「プット」は、エマージング諸国やコモディティ関連のクレジット・リスクの歯止めとなります。

とはいえ、予想される中国経済の減速に対する警戒感のなさは、強さを見せていた米国のマインド関連指標がここに来て、冴えない実体経済の指標と足並みを揃える公算が高まったことと併せて、世界市場で最も成長志向の強いセグメントから小さな泡(フロス)が弾けることを示唆しているのかもしれません。

ジーン・フリーダは、PIMCOのロンドン・オフィスを拠点とするグローバル・ストラテジスト

著者

Gene Frieda

グローバル・ストラテジスト

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