注目の運用戦略

インカム戦略アップデート:新たな債券サイクルの幕開け

債券市場はここ数年にない高い利回りと魅力的なバリュエーションを提供するとみています。PIMCOのインカム戦略では、ボラティリティが依然として高く、緩やかな景気後退の可能性が高まる中で、さらなる恩恵を期待できるポジションを取っています。

券市場は、利回り、スプレッド、およびトータルリターンにおいてここ数年で最高となる可能性があります。以下では、PIMCOインカム戦略を運用するダン・アイバシン、アルフレッド・ムラタ、ジョシュ・アンダーソンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノと共に、良好な環境、市場ボラティリティ、予想される軽微な景気後退を追い風にすべく、現在、ポートフォリオでどのようなポジションを取っているかをお伝えします。

問 : 2022年は、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げサイクルを開始し、10年物米国債の利回りが2倍以上の4%に達するなか、ブルームバーグ米国総合債券インデックスは13%、同米国ハイイールド社債インデックスは11%それぞれ下落しました。昨年、こうした市場の動きを主導した要因は何でしょうか。

アイバシン : 経済および地政学上の極端な不透明感、インフレの加速、世界の中央銀行が積極的に政策引き締めを行ったことが、信用力の高い分野、景気に左右されやすい分野に関わらずほぼ例外なく、債券市場の下落を主導しました。2022年に入ると、新型コロナ関連のサプライチェーンのボトルネックが長引く中で、インフレ率が上昇しました。さらに、戦争の勃発でコモディティ価格が急騰してインフレに拍車がかかり、中央銀行が深刻な景気後退を引き起こすことなくインフレを引き下げられるかについて不確実性が高まりました。

問 : 今後6カ月から12ヵ月の債券投資を取り巻く環境を、どのように見ていますか。

アイバシン : 今年は米国が緩やかな景気後退に入る可能性がありますが、債券市場はここ数十年になかった良好な投資価値を提供しうるとPIMCOでは考えています。利回りは1年前のゼロ近辺から大幅に高まり、インフレは緩和しつつあるように見えます。短期米国債は4%超の利回りを提供しており、質の高い資産で6%から7%の利回りを提供できる可能性があります。インフレ調整後ベースの実質利回りでも、2007年から2008年の世界金融危機以来の水準に達しています。

リスク・リターン特性は魅力的であり、様子見していた人々が投資の再開を検討する時期ではないかと考えています。

経済成長、インフレ、地政学的緊張をめぐる不確実性は引き続き高い状態にとどまり、それが現下の市場ボラティリティを増幅し、過去数年に見られた世界同時成長のディカップリングが進むと予想しています。しかしながら、このボラティリティは、アクティブ運用会社には好機であり、幅広く柔軟な投資機会をもたらすはずです。

問 : 2022年末時点で米国では引き続き粘着性のあるインフレが続いており、総合インフレ指数は6.5%から7%前後で推移しました。今後のインフレリスクをどう見ているか聞かせてください。

ムラタ : 中央銀行の引き締め効果が行き渡るにつれて、インフレは緩和に向かうと見ていますが、インフレ率がFRBの目標を上回る状態が市場予想よりも長く続くと考えています。2022年にインフレを牽引した要因は、今年は解消されるはずです。供給のボトルネックは緩和され、コモディ価格は下落し、鉱工業受注は減少し、消費者は積み上がった貯蓄を使い果たしました。その結果、(食品とエネルギーを除いた)コア・インフレ率は2023年末時点で約3.5%になると予想しています。それでも、賃金、住宅、家賃をはじめ、いくつかの主要なカテゴリーのインフレは引き続き「粘着的」であり、インフレ率がFRBの目標の2%に近づくには、時間がかかると見ています。

とはいえ市場は、インフレの急速な低下を織り込んでおり、今夏には2%をわずかに上回る水準まで低下するとみています。予想を上回るインフレをヘッジするため、PIMCOでは米物価連動国債(TIPS)を保有しており、実際のインフレ率が市場が現在織り込んでいる水準を上回った場合に恩恵を受けられる可能性があります。

問 : 市場は、今年上半期のFRBの追加利上げを織り込んでいます。市場が織り込んでいる政策金利に対して、PIMCOの政策金利の行方に関する見解を聞かせてください。

アンダーソン : 市場は現在、FF金利が足元の4.25%~4.5%から年半ばには4.9%~5%に上昇し、その後、約1年後に約4.25%に低下すると予想しています。これは概ねPIMCOの見方と一致しています。PIMCOでは、インフレが緩和し、債券投資に好ましい環境が生まれると予想しています。

問 : どのような投資テーマに注目していますか。また、債券ポートフォリオにおけるマクロリスクをどう見ているか聞かせてください。

アイバシン : PIMCOのマクロ経済見通しでは、インフレの緩和と緩やかな景気後退を予想していますが、地政学上および経済の不確実性から、この見通しには大きなテールリスクがあります。PIMCOでは、幅広いテールシナリオを念頭に置いて投資する一方、好機が訪れた時に資金を振り向けられるように流動性を維持しています。

具体的には、インカムポートフォリオの流動性と質を重視しています。質が高く、流動性の高い市場セグメントは利回り水準が非常に魅力的で、予想以上に深刻な景気後退に陥った場合にレジリエンス(強靭性)を発揮するはずです。PIMCOでは、その流動性を活用して、今後数カ月に市場全般で予想されるバリュエーションのオーバーシュートを好機にする予定です。

問 : 世界的に金利が上昇する中、金利リスクに対するインカムポートフォリオのポジショニングについて教えてください。

アンダーソン : PIMCOでは、金利上昇と緩やかな景気後退の可能性を踏まえて、金利エクスポージャーを高めています。インカム戦略全体ではデュレーション(金利感応度)を4年弱にしており、その大部分は米国です。日本のデュレーション(金利感応度が高い証券)では引き続きアンダーウエイトのポジションを維持していますが、日銀が過去よりも長期金利の変動を容認したため、ここ数ヵ月は恩恵を受けています。

問 : インカム戦略では、年間を通じて高クーポンの米政府系モーゲージ債(MBS)の組み入れを増やし、ポートフォリオに質の高いエクスポージャーを追加してきました。米政府系モーゲージ債セクターの見通しと、より広い不動産市場の見通しを聞かせてください。

ムラタ : 政府系モーゲージ債市場のセグメントは、非常に魅力的だと考えています。この資産クラスは歴史的にも流動性が高く、暗黙の政府保証が付されており、様々な景気シナリオでレジリエンスを発揮するはずです。スプレッドは、2020年の新型コロナに伴うロックダウン時や2008年から2009年の世界金融危機の崩落など、通常は危機の際に見られる水準まで拡大しています。PIMCOでは高クーポンを選好していますが、低クーポンについてはより慎重です。低クーポンは過去にはFRBの買い入れで十分に支えられていましたが、FRBのバランスシートの縮小に伴いよりリスクにさらされる可能性があります。

住宅価格の急上昇に続く最近の住宅ローン金利の急激な上昇により、住宅は2020年や2021年に比べてはるかに手の届きにくいものになっています。米国の住宅価格は(2022年半ばにピークに達した後)、さらに下落する可能性があると見ていますが、世界金融危機後の融資基準の厳格化や住宅供給の不足により価格の下落は抑えられ、2008年ほど深刻にならないはずです。さらにインカム戦略では、シニア担保付きのレガシー(発行時期の古い)・モーゲージ債を重視しています。過去10年間に積み上がったホームエクイティのクッションにより、住宅価格の軟化の影響をより受けにくいと考えられるからです。多くのローンで、足元の時価LTVは50%を下回っています。

問 : 非政府系モーゲージ債セクターについてはどう見ていますか。

アンダーソン : 質の高いストラクチャード・クレジットは、バリュエーションが非常に魅力的だと考えています。スプレッドは昨年に比べて約50~75ベーシスポイント拡大し、証券利回りは世界金融危機前後以来となる水準に近づいています。非政府系モーゲージ債では、長年の価格上昇でエクイティをかなり積み上げてきたレガシー・モーゲージ債と、200ベーシスポイント前後のスプレッドで新規に発行されるトリプルA格債の両方を選好しています。

同セクターの限られた供給は、投資家にとっても有利になります。昨年は新規発行が減少しましたが、今年も基礎となる貸出金利(6%~7%)の高さから、新規供給が抑えられると予想しています。銀行や他の資産運用会社が市場に参入して大きなポジションを取った場合、同セクターでは大幅な価格上昇がみられる可能性があると考えています。

問 : 企業クレジットは、開始時点で高い利回りを提供しますが、一部のセグメントは景気後退時に脆弱になる可能性があります。利回り確保と景気後退の可能性のバランスを、どのように取っているのでしょうか。

ムラタ : 企業クレジット全般については引き続き慎重な姿勢を取っていますが、景気後退下でもレジリエントな魅力的な投資機会があるとみています。ヘルスケアと通信セクターは選好する2つのセクターであり、スプレッドは2021年末から大幅に拡大しています。

引き続き注力しているのが金融のシニア債で、特に銀行です。クレジットの根本的な質が高いと考えています。世界金融危機後の規制の中で、銀行はTier1の自己資本比率を2007年のわずか3%~4%から13%~14%にまで引き上げました。また、ウエルスマネジメントなど、より安定した手数料ベースの事業に注力しています。スプレッドは昨年倍増し、約200~300ベーシスポイントになっています。これはファンダメンタルズが示唆するよりも高く、魅力的なリターンをもたらす可能性があると考えています。

また、スプレッドの拡大、流動性の向上、ポートフォリオのレジリエンスの強化に資する、特定の企業クレジット・インデックスも保有しています。例えば、ハイイールド・クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)インデックスは、現物債よりも流動性が高く、現在は現物債に対して約50ベーシスポイントのスプレッドで取引されています。一般にはもっとタイトなスプレッドで取引されるため、これは大きいです。予想以上に景気後退が深刻だった場合、現物債は株主の解約請求に応えようとするハイイールドファンドの売り圧力にさらされる可能性があり、ハイイールドCDSインデックスは現物債をアウトパフォームすると予想されます。

問 : インカムポートフォリオのエマージング市場のポジションについて教えてください。

アイバシン : 慎重な分散手段としてエマージング市場のエクスポージャーを引き続き保有していますが、昨年はポジションを小幅削減しました。PIMCOでは、エマージング市場の中でも質が高く、景気感応度が低い分野に注目しています。主にソブリンや準ソブリンへのエクスポージャーです。また米ドル以外の通貨、特に現在の高インフレ環境できわめて好調な一部のコモディティ輸出国の通貨へのエクスポージャーも視野に入れています。景気のソフトランディングは、これらの非ドル投資の一部がアウトパフォームし始めるきっかけになる可能性があります。

問 : 2023年に向けて、投資家は何を期待すべきでしょうか。

アイバシン : 2023年に入り債券市場は、ボラティリティと不確実性が残っているにもかかわらず、ここ数年にない優れた投資機会を提供しています。利回りは数十年来で最高です。スプレッドは非常に魅力的な水準に拡大しています。タイミングを正確に計るのは困難ですが、現在の債券市場には、魅力的なインカムとともにキャピタルゲインを確保できる可能性があります。こうした環境下で、インカム戦略の柔軟性は、ダウンサイドリスクを軽減しながら、ここ数年にない優れたリターンを追求できる可能性を秘めています。これまで様子見していた方も、再び債券投資を検討する時期が来たといえるのではないでしょうか。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Alfred T. Murata

モーゲージ・クレジットチームのポートフォリオ・マネージャー

Joshua Anderson

グローバルABSポートフォリオ・マネジメントチーム統括

Esteban Burbano

債券ストラテジスト

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