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長期経済展望

アフターショック経済

世界経済が大規模な財政・金融支援の時期から脱却するにつれて、市場はより多くのボラティリティに見舞われる可能性があります。こうした「ポスト政策」時代において、投資アプローチは質の高い債券がもたらす魅力的な利回りにより強靭性(レジリエンス)を高めることができます。

著者

Richard Clarida

グローバル経済アドバイザー

Andrew Balls

グローバル債券担当最高投資責任者(CIO)

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

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長期経済展望の主な結論


2020年代に入ってからの数年間に、世界規模での経済、金融、地政学上の深刻な混乱が起こりました。その最終的な影響の全てを実感するまでには時間がかかるでしょう。最近開催されたPIMCOの長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、直近の短期の動きがいかに永続的な長期的影響をもたらす可能性が高いかについて議論しました。

世界経済は、大規模な財政・金融政策介入の時期を脱しつつあり、PIMCOの長期経済展望が対象とする向こう5年でこうした大規模介入が繰り返される可能性は低いでしょう。パンデミック後(世界的大流行)に世界のインフレが急伸したことを受け、非伝統的金融政策は利益をもたらすだけでなく、代償を伴うものであることを中央銀行は認識し始めています。一方、ソブリン債務水準の急上昇は、将来の景気後退に対処するうえで財政政策の余地を狭めることになるとみられます。

ボラティリティ抑制施策の時代が終わったとみられる中、市場はボラティリティが高い時代に突入し、経済ショックの余波は多岐にわたる可能性があります。向こう5年間、世界の経済成長に対するリスクは、下振れ方向に傾いているとみています。また、この新しい時代には、資産クラス間のリターンのばらつきが大きくなる可能性が高いと考えています。

中央銀行は既存のインフレ目標を堅持し、長期的なインフレ期待をその目標水準で固定することを優先するだろうとPIMCOでは予想しています。先進国における中立的な長期実質政策金利は、引き続き0%~1%のレンジにとどまるだろうとみています。政府債務が増加している現状と、インフレ・リスクプレミアムのリターンの可能性を踏まえれば、向こう5年は投資家が長期債に対してより多くの補償を要求することから、利回り曲線はスティープ化すると予想しています。

PIMCOが予想する低い中立金利と目標水準並みのインフレ率への回帰は、コア債券と質の高い債券に対する前向きな見通しを強めるものです。質の高い債券については、(歴史的に将来リターンと強い相関性がある)投資開始時点の利回りが昨年急上昇した後、株式リターンの長期平均に近づいています。さらに株式よりもボラティリティが大幅に低く、下落に対する防御力が強いと考えられます。これは、投資家が値上がりの可能性を放棄することなく、強靭性(レジリエンス)のある手堅いポートフォリオを構築するうえで役立つはずです。PIMCOでは、質が高く流動性の高い投資を優先する方針で、景気変動に敏感な分野については慎重な姿勢を継続します。特に銀行業を取り巻く環境の変化を踏まえると、今後はプライベート市場全般で魅力的な投資機会が増えていくと予想しています。

既存の超大国と台頭するライバル国間の地政学的緊張で特徴づけられる新時代は、世界経済に大きな影響を及ぼす可能性があります。米ドルについては、米国の財政ギャップが拡大し債務が増大しているものの、世界の基軸通貨としての地位を維持するとの見方を変えていません。ただ、他にも投資機会があると考えています。


長期経済展望の要旨

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長期経済展望のテーマ:アフターショック経済

2020年代の最初の3年を特徴づけるのは、現在も続く世界経済と金融秩序、地政学上のバランス、政府の政策介入の規模と範囲における混乱です。PIMCOでは、このような混乱は向こう5年、投資家が認識しておくべき新しい現実だと考えています。こうしたトレンドについてPIMCOの長期経済展望でも取り上げ、今年5月に開催された年に1度の長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)でも再検討しました。

昨年の長期経済展望「レジリエンスを求めて」では、分裂が進む世界においては、政府や企業が短期的な経済効率よりも安全性をより優先するようになるだろうと論じました。そして、企業がサプライチェーンを友好国に限定する「フレンド・ショアリング」や、政府がエネルギー政策や防衛関連支出を増やすことによる潜在的なインフレ圧力に注意を促しました。

こうしたテーマは概ね引き続き有効だと考えていますが、今後5年を見通すには、2022年5月のフォーラム以降の主要な進展をいくつか取り入れ、評価する必要があります。具体的には次のような進展が挙げられます。

  • 過去40年で最大の世界的インフレの持続的亢進に対する、タカ派的金融政策の転換
  • 中央銀行がインフレ率を目標水準に引き戻した後(あるいは、仮にそうなった場合)の中立政策金利の行方をめぐる議論
  • 米国史上最大規模の3行の銀行破綻と、欧州でのクレディ・スイスの破綻
  • 米国の新たな産業政策の推進を支えるための3つの野心的な財政政策、インフラ投資・雇用法、インフレ抑制法、半導体補助金法(CHIPS and Science Act) により、資金が実際経済に投入され、短期的にも長期的にも追い風になる点
  • 習近平国家主席が「3期目」に突入する中、中国の経済および地政学的な方向性について相反するシグナル

PIMCOの長期経済展望は、最新の短期経済展望「亀裂の入った市場、力強い債券」の結論を踏まえたものです。短期経済展望では、先進国市場全般での緩やかな景気後退と、信用収縮による下振れリスクの高まりを予想していました。また、主要中央銀行は政策の正常化や緩和には近づいていないものの、利上げサイクルの終了に近づきつつあると述べました。一方で、債務水準の高さとパンデミック(世界的大流行)後の景気刺激策がインフレ過熱の要因となったことから、将来の財政対応は抑制される可能性がある点も指摘しました。

多方面での混乱が続く現在の環境では、短期の動向が長期にわたって影響をもたらします。それにより生まれる状態を、PIMCOでは「アフターショック経済」と名付けました。本稿では、2023年のPIMCO長期経済予測会議の結論から、経済および投資への主要な影響をご紹介します。

継続する可能性が高い、マクロ経済のボラティリティと地政学的緊張

2010年代と比較して、2020年代の最初の3年がいかに特異であったかに留意するべきでしょう。

世界は100年に一度のパンデミック(世界的大流行)に直面し、当局は世界経済の大部分を停止し、大規模な金融・財政刺激策を取ることで対抗しました。やがて、その刺激策は世界経済の再開とサプライチェーンの回復の代償とともに、40年で最も急激なインフレに拍車をかけ、世界のインフレの高止まりを招くことになりました。これを受け世界の中央銀行は、過去数十年で最も積極的な利上げサイクルで対抗しました。その結果が、2022年の金融市場の暴落、銀行危機、そして今年か来年に広く予想される景気後退です(図表1を参照)。

図表1:前回の長期経済予測会議(2022年5月)の時点で、長い期間遡って観測されなかった事象

図表1は、2022年5月から(PIMCOが長期経済予測会議を開催した)2023年5月までの間に起きたマクロ経済上の重要な変化を取り上げています。2022年5月の時点では、市場ボラティティを計測するMOVEインデックスが180に達してからは13年、FF金利が5%を超えてからは15年、経済協力開発機構(OECD)加盟国全体の平均総合インフレ率が2桁に達してからは34年、米連邦準備制度理事会(FRB)が12ヵ月間に政策金利を4.75%引き上げてから42年が経過していました。これらすべてが、前回の長期経済予測会議が開催された2022年5月からの1年間に起こりました。 

 
出所:ICE BAML、FRB、OECD、2022年5月現在。

これらの出来事は、今後何年にもわたって影響を及ぼす可能性があります。PIMCOでは、景気サイクルの頻度が上がり、変動がより大きくなると予想しています。そうした中で、政府が反循環的な財政政策を発動する余地は狭まり、中央銀行は量的緩和(QE)の無制限の活用に消極的になっていくとみられます。

単なる需要不足ではなく、供給制約やパンデミック後の労働市場の変化が経済変動の大きな要因になり、世界の物価水準に継続的に上昇圧力がかかる時代の到来を予想しています。

PIMCOでは、向こう5年の世界経済の成長率はパンデミック前と比較して平均して期待外れなものになる、との一般的な見方で概ね一致しています。また、成長に対するリスクは明らかに下落方向に偏っていると考えています。その理由として、最近の銀行システムの混乱とその政策対応に起因する世界的な金融状況の急激かつ持続的な引締まりリスク、世界の中央銀行による同時利上げに伴う急激な収縮効果、ウクライナの戦争激化の可能性、中国の景気回復がもたつく可能性、そして台湾をめぐる米中対立のリスクの高まりなどが挙げられます。

フォーラムでは、今後5年間に予想される実質および名目中立金利の経路、中央銀行のインフレ目標の行方についてプレゼンテーションも行われました。向こう5年の先進国における中立的な長期実質政策金利は、人口の高齢化と生産性の伸び悩みという強力な長期要因を背景に、「ニュー・ニュートラル」で予想した0%~1%のレンジにとどまると予想しています。

米中関係は引き続き地政学的な動向を左右すると予想されています。フォーラムのゲストスピーカーの1人である歴史学者のニーアル・ファーガソンが示唆したように、既に「第二次冷戦」に入った可能性があり、同盟関係や貿易関係の見直しに伴い世界各国に影響が及ぶと考えられます。とはいえ、世界の貿易・投資パターンの傾向は「デカップリング(分断)」よりも「デリスキング(リスク低減)」に大きく左右されると予想しています。サプライチェーンは根本的に分断されたわけではありません。その大半は「フレンド・ショアリング」に沿った世界的な再構築のプロセスにあり、少なくとも米国では既に進行中です。

制約に直面し疲弊している政策立案者

パンデミック後に世界のインフレは急騰していますが、中央銀行は長期的なインフレ期待を既存のインフレ目標に固定するために必要なことを行うだろうとPIMCOでは考えています。先進国の中央銀行がインフレ目標を正式に変更するとは考えていませんが、2%を目標とする中央銀行は「オポチュニスティック・ディスインフレ(日和見主義的なインフレ抑制)」戦略の一環として、「2%強」程度のインフレは容認する意思があるだろうとPIMCOではみています。この戦略では将来の景気後退時に総需要が不足し、インフレ率は目標を上回る水準から目標水準に戻ると予想されています。PIMCOの基本シナリオに対し、インフレリスクは上振れしているとみています。

政策手段に目を向けると、現在の天文学的な対GDP比での債務水準(図表2を参照)を踏まえると、向こう5年の財政政策は、政治的にあるいは金融市場によって歯止めがかけられ、将来の景気後退時に財政出動で緩和する余地も限られるだろうとPIMCOではみています。

図表2:長期的に大幅な上昇が予想される米国の債務残高(対GDP比)

図表2の折れ線グラフは、1900年から2022年までの米国の連邦債務の対GDP比の推移を、2053年までの予測と合わせて示したものです。過去データおよび予測の出所は、議会予算局(CBO)。2023年2月現在。2020年には、新型コロナのパンデミックの中で財政対応によって経済と地域社会を支えようとしたことから、連邦債務の対GDP比が第二次世界大戦以来初めて99%に達しました。その間の数十年では、1974年に最低レベルの23%にまで低下しました。今後(主に金利コストと給付支出の増加を背景に)連邦債務の対GDP比は上昇を続け、2053年には195%に達するとCBOは予測しています。 

 
出所:米議会予算局(CBO)のデータと予測、2023年2月現在。

また、世界の中央銀行が「量的緩和(QE)疲れ」に苦しみ始める可能性も予想しています。他の経済決定もそうですが、数十年ぶりにインフレが急騰し高止まりしていることで、QEと財政拡張は恩恵だけなく代償をもたらすという事実が改めて浮き彫りになっています。

これは過去15年間に有効だった施策が通用しにくくなる可能性を示唆しているためで、将来の政策に重大な影響を及ぼす可能性があります。またQE疲れと財政政策の余地が限られる世界では、短期的な混乱が長引く可能性があります。

伝統的な財政政策を発動する余地が狭まる中で、政府は次第に規制による介入に傾く可能性があります。これにより、影響を受けるセクター全般で勝者と敗者が生まれる一方、アクティブな資産運用会社には好機がもたらされるでしょう。

クレディ・スイスの破綻、シリコンバレーバンク、シグネチャー銀行、ファースト・リパブリック銀行の相次ぐ破綻と煩雑な処理手続きを鑑みると、銀行経営を統括する金融構造の見直しと再設計を求める声が、ついに勢いを増すのではないかとみています。

これは少なくとも米国において規制が強化され、銀行は資本の積み増しとより多くの流動性の確保を求められることを意味します。銀行の流動性仲介機能はさらなる縮小が見込まれ、伝統的な活動の一部はプライベート市場やノンバンク融資に向かう可能性が高いでしょう。PIMCOでは、消費者金融、住宅ローンや様々な形態の資産担保融資など、かつては地方銀行が占めていた分野に、返済の優先順位が高い資金の貸し手(シニアレンダー)として参入する可能性を見い出しています。

混乱の可能性と多くの余波

フォーラムでの議論は、前述の見通しの基本シナリオに示唆を与えるものでしたが、同時に今後5年に顕在化するであろう経済ショックの余波が、いかに多岐にわたるかを浮き彫りにしました。

2024年の大統領選の結果と議会選挙で共和・民主のどちらが主導権を握るかは、米国の財政・金融政策、および外交政策に大きな影響を与えることになるでしょう。こうした政治の状況は、2025年に誰が大統領であろうと「中国に厳しい」圧力がさらに高まる可能性があることを意味します。

同様に、米中が構造的なライバル関係にシフトし、中国がアジア全域で覇権を強めようとする中、2024年1月の台湾の総統選挙が米中関係に極めて重要なものになる可能性があります。親中の国民党が、独立志向の現与党・民進党を破った場合は、台湾をめぐる長期的な対立のリスクが低下する可能性があります。

深刻な軍事衝突には至らずとも、他の面で米中間の対立が激化する可能性があります。その経済的影響として、需要の急増と供給ショック、サプライチェーンの近隣諸国への移転、友好国と供給網を再構築するフレンド・ショアリング、そして重複化が進む中での世界貿易環境のさらなる変化などが考えられます。中国ですら米国債の保有を見直す可能性もあるでしょう。一方、予想される資本流出に関する大統領令は、終わりではなく始まりになる可能性が高いでしょう。既に輸出管理を通じてその傾向がありますが、資本移動を制限する動きが長期にわたり強化される可能性があります。

インフレ見通しについては、米国と世界共にリスクがあります。PIMCOの基本シナリオではありませんが、米国のインフレ率は予想以上に粘着性が強く、中期的に4%を下回らない、または向こう5年間に3%近くにとどまる可能性があるとみています。

インフレ圧力への対応が、エマージング市場と先進国市場でどのような展開になるかについては不確実性があります。また、インフレ率がここ数十年経験のない水準にまで高まったことを踏まえると、高水準の実現インフレ率がインフレ期待に及ぼす長期的影響についても不確かです。

中央銀行は、2020年代の「狂騒のインフレ」から学んだ政策上の教訓を活かしながら、成長の維持、インフレ抑制、金融不安の最小化という相反する政策目標のバランスを取るという難題に引き続き直面することになります。中央銀行デジタル通貨(CBDC)や民間が提供するステーブルコインが広く採用される可能性も、世界の金融秩序を混乱させる要因になりえます。長期経済展望の対象期間である向こう5年ではその可能性は低いものの、世界の基軸通貨としての米ドルの地位を脅かす可能性もあります。

ロシアによるウクライナ侵攻以来、特に欧州はエネルギー需給に対するショックに直面しており、エネルギー安全保障と自給が最優先課題となっています。これにより一部の国は、エネルギー源への追加投資とグリーン・エネルギーへの迅速な移行を余儀なくされ、それによってインフレ圧力が高まる可能性があります。

人工知能(AI)の大規模な言語モデルの幅広い採用は、正真正銘の「ワイルドカード」
人工知能(AI)の大規模な言語モデルの幅広い採用は、まさに「ワイルドカード」

AIの大規模言語モデル(LLM)の導入が加速されたことは、正真正銘の「ワイルドカード」要因です。向こう5年では、生産性の伸びに大きなプラス効果をもたらす可能性があり、それがインフレの下押し圧力と実質金利の上昇圧力になる可能性があります。影響が見られる領域として、自動運転、消費者のスイッチング・コストの低減、情報フローの改善などが挙げられます。AIはまた、例えばナノテクノロジーを使った癌の免疫療法など医学的な飛躍を加速させることによって、人間の寿命を延ばす可能性も秘めています。

一方でAIは、昨今の急速な進展に伴って、ソーシャルメディアを通じた偽情報の拡散やサイバー攻撃のリスクなど、大きなリスクも抱えています。さらに、長期予測の対象期間である向こう5年内にも、所得格差拡大傾向を強め、政治の二極化やポピュリズムを助長する可能性があります。

関連コンテンツ

投資への意味合い:報われる強靭性

中央銀行によるQE、ゼロ金利、ボラティリティ抑制の時代が終わったとみられることを踏まえ、PIMCOでは長期経済展望で対象とする向こう5年は、質が高く流動性の高い投資を優先する方針です。景気変動に敏感な分野については慎重な姿勢を継続します。「アフターショック経済」とも言うべき新時代には、資産クラス間のリターンのばらつきが大きくなると考えています。

債券

(歴史的に将来リターンと強い相関性のある)投資開始時点の利回りに基づくと、質の高い債券は、長期的に株式並みのリターンをもたらす可能性があります。さらに株式に比べてボラティリティが大幅に低く、下落に対する防御力が強いという特徴を備えています。債券市場は、株式市場が織り込んでいない形で、予想ボラティリティを織り込んでいるとPIMCOではみています。さらに、物価の安定に関して中央銀行が信認を維持するだろうと予想しています。これは、分散型ポートフォリオにおいて債券を株式リスクに対するヘッジとみる考え方を支持するものだと言えます。

米国の政府債務残高の対GDP比が100%を超える水準に上昇し、インフレ・リスクプレミアムが再燃する可能性がある中、米国債のタームプレミアムは上昇する可能性が高く、利回り曲線をスティープ化させる長期的な要因になる可能性があります(図表3を参照)。現在、利回り曲線は長短が逆転し逆イールドになっていますが、インフレの不確実性が高まっていることを踏まえ、投資家はいずれ中長期債により高い利回りを要求することになるだろうと予想しています。そうなれば、債券の魅力がさらに高まります。

図表3:高止まりし、上昇する可能性が高い10年物米国債のタームプレミアム(上乗せ金利)

図表3の折れ線グラフは、2014年10月から2023年3月までの10年物米国債のタームプレミアム(上乗せ金利)の推移を示しています。タームプレミアムは、債券の残存期間中に金利変動リスクを負うことに対して投資家が要求する補償と定義されます(マイナスの値は、多くの場合、マクロ経済や市場のストレス時に、長期債の安定が見込まれることに対して投資家が追加料金を支払う意思があることを示しています)。図表に示された期間で、10年物米国債のタームプレミアムは、2015年1月に-1.02%で底をつけた後、上昇し2018年11月には0.62%に達しました。その後、2020年3月には-0.94%に低下し、2022年11月には1.07%の高水準に達しました。2023年3月時点では0.76%となっています。 

 
出所:ニューヨーク連銀のプライマリー・ディーラー調査、2023年3月現在。タームプレミアム(上乗せ金利)は、債券の残存期間中に金利変動リスクを負うことに対し投資家が必要とする補償と定義されます。

昨年の英国での債務連動型運用(LDI)危機は、財政の安定性に対する懸念が自国通貨をもつ主要国だけでなく、ユーロ圏やエマージング諸国も脅かしかねないことを想起させました。市場価格は長期的な財政の安定性に対する懸念が高水準にあると示唆しているわけではありませんが、長期的な財政問題に関して、英国は炭鉱のカナリア(危険が差し迫っていることを知らせる前兆)と言えるかもしれません。

一方、ユーロ圏はソブリン債市場の安定性の観点から判断すると、危機が相次いだ10年前に比べて、一連の混乱とストレステストを比較的うまく切り抜けていると言えます。その背景として、マクロ経済ショックに対処するうえでの欧州中央銀行(ECB)の役割と、より一貫性のある財政手段が挙げられます。

しかしながら、銀行セクターの不確実性が高まる中、勝者と敗者の見極めに重点を置くことが重要になるでしょう。PIMCOでは、金融セクターについて個々の発行体、資本構造の両方の観点で質の高さを優先する方針です。ユーロ圏の銀行システムは、米国の地方銀行の混乱とクレディ・スイス破綻の余波にはかなりうまく対処しています。しかし、破綻処理と預金保険の面で既存の枠組みの欠陥を考えると、ユーロ圏は本格的な銀行危機への備えがいまだできていないようにみえます。

パブリック市場とプライベート市場

近年、多くのプライベート・クレジットのボラティリティがパブリック市場と比較して低い水準にとどまっていますが、油断することがないよう警戒を呼びかけます。パブリック市場での価格の見直しがより速いペースで進む中、景気変動に敏感な分野での様々な形のプライベート・クレジットに対して、まずはパブリック市場の質の高い債券がリスクに対する補償の上乗せが期待できるとみています。

プライベート・クレジットは、銀行業界の最近の劇的な変化の恩恵を受ける立場にあります。向こう5年は、正常なプライベート・レンディング戦略とオポチュニスティック運用スタイルの両方において、投資対象が豊富な環境が続くと予想しています。

2008年から2009年の世界金融危機を脱し、長期間にわたり低金利が続いたことが、利回り追求につながりました。プライベート・クレジットの分野では、極めて高い成長を享受した一方で、引受基準が緩和されました。経済ショックの余波の1つとして、同セクターでの信用損失の増加が予想されます。そうなれば既存の資産全般に困難が生じる可能性がありますが、長期的には好機を生み出す傾向があります。

プライベート・クレジットの成長の多くは、非公開の企業融資によるものです。このことからPIMCOでは2つの重要な結論を導きました。第1に、厳しさを増す経済環境において、プライベート市場の企業クレジットの在庫は投資家を失望させる可能性が高いと考えられます。第2に、投資家はプライベート・クレジット・ポートフォリオの分散を進め、不動産やスペシャリティ・ファイナンス関連のクレジットなど、様々な形態の優良プライベート・クレジットを組み入れることでメリットが得られると考えています。

企業クレジットや商業用不動産市場が直面している課題は、資本構造全般への投資が可能な柔軟性のあるプライベート資本に投資機会が生まれる可能性があります。忍耐は必要ですが、堅固な資本形成と自己満足の時代から、資本入手がより困難になりファンダメンタルズが弱体化する時代に移り変わる中で、魅力的な長期的機会が出てくると予想しています。

通貨およびエマージング市場

米ドルについては、米国の財政ギャップが拡大し債務が増大しているものの、世界の基軸通貨としての地位を維持するとPIMCOではみています。ただ、それ以外にも投資機会があると考えています。世界貿易体制が競合する地域圏へと分裂するにつれて、貿易決済通貨としての米ドルの地位は緩慢なペースとはいえ浸食され続ける可能性があります。これは「アメリカ例外主義」の衰退の予兆ともみられ、米国以外の投資がアウトパフォームする期間が続く可能性があります。

米ドルは引き続き基軸通貨であり続けると考えていますが、他にも投資機会があるとみています。
米ドルは引き続き基軸通貨であり続けると考えていますが、他にも投資機会があるとみています。

世界の準備通貨であることの必然的な帰結の1つとして、世界が危機に瀕した際に米ドル買いが増え、それによって過大評価される可能性があります。米ドルは引き続き短期的な資本フローに悩まされると予想されます。また、時間の経過とともに、特定のエマージング通貨、特にオンショアリング(海外に業務を一部又は全部を移転)やフレンド・ショアリングのトレンドの恩恵を受ける態勢にある通貨に対して下落する可能性があります。

多極化が進む中、向こう5年にエマージング諸国が世界経済に占めるシェアは加速度的に高まると予想されます。主な推進力は既に顕在化しており、ニアショアリング(近隣国への事業移転)およびフレンド・ショアリング、リチウム・コバルト・希土類など主要なコモディティの争奪戦、グリーン経済への移行といったサービスのグローバル化が挙げられます。これにより多様なエマージング世界が生まれ、グローバル・ポートフォリオのリスク分散手段として役立つことになるでしょう。

足もとの混乱と調整が長期にわたって続くと予想される中、強靭性があり流動性の高い資産の組み入れと、タイムリーなプライベート投資との的確なバランスを見極め、エマージング市場と先進国市場の両方で価値を見い出すうえで、PIMCOのグローバルな体制が大いに役立つと考えています。PIMCOでは、リスクの高い分野への集中に過度に依存することなく、幅広い投資ユニバース全般で、分散、相対価値、リスク調整後リターンの機会を見い出すことを目指しています。



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PIMCOの経済予測会議(フォーラム)におけるプロセス

PIMCO経済予測会議の舞台裏

ウォールストリートで経済予測会議(フォーラム)が主流になる以前より、PIMCOの投資プロフェッショナルはフォーラムでの議論を通じ、お客様のために経済や市場動向の把握に努めてきました。数十年後の現在、PIMCOの投資プロセスの礎であるフォーラムは、より堅固で、これまでに以上に重要なものになっています。


2023年PIMCO長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)ゲスト・スピーカー略歴

ティム・アダムス

国際金融協会理事長兼CEO

アレハンドロ・ディアス・デ・レオン

元メキシコ銀行総裁

エリザベス・エコノミー

スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェロー、米商務省中国担当上級顧問を務めるため休職中

ニーアル・ファーガソン

作家、スタンフォード大学フーバー研究所ミルバンク・ファミリー・シニアフェロー、ハーバード大学科学と国際問題ベルファーセンター上級教授職フェロー

キャサリン・ジャッジ

コロンビア大学ロースクール、ハーベイ・J・ゴールドシュミット法学教授

アディ・クマール

マッキンゼー・アンド・カンパニー シニアパートナー、「経済への再投資」のグローバル統括責任者

ナンシー・ラザール

パイパー・サンドラー チーフ・グローバル・エコノミスト

マイケル・ペティス

北京大学光華管理学院(ビジネススクール)教授(財政・金融)、カーネギー国際平和基金シニアフェロー

エレーネ・レイ

ロンドン・ビジネス・スクール、バグリ卿寄付講座経済学教授

PIMCOグローバル・アドバイザリー・ボード

経済や政治問題に関する世界的に著名な専門家で構成されるチームです。

PIMCOの経済予測会議について

PIMCOは債券アクティブ運用のグローバルリーダーとして、パブリック、プライベート両市場に関する深い専門知識を有しています。ほぼ半世紀にわたって磨かれ、様々な市場環境で実証されてきたPIMCOの投資プロセスは、長期経済予測会議と短期経済予測会議を基盤としています。年に4回、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルが集結し、世界の金融市場と経済の状況について議論、討論を重ね、投資に関して重要な意味合いを持つと考えられるトレンドを特定します。広範囲にわたる議論を通じて、投資アイデアを最大限に出し合い、仮定に疑問を投げかけ、認知バイアスに反論し、包括的な洞察を生み出せるよう、行動科学を取り入れています。

年1回開催される長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、世界経済の構造変化やトレンドを捉えたポートフォリオを構築するため、向こう5年間の見通しに焦点を当てます。毎年セキュラー・フォーラムには、ノーベル賞受賞経済学者、政策当局者、投資家、歴史家などの著名なゲスト・スピーカーを迎え、有益で多面的な知見の提供を受けることで、議論を深めています。また、世界的に著名な経済、政治問題の専門家から構成されるPIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードも積極的に参加しています。

年3回開催される短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)では、向こう6~12ヵ月月間の見通しに注目し、主要先進国やエマージング諸国の景気サイクルのダイナミックスを分析し、金融政策、財政政策、ならびにポートフォリオの構成に影響しうる市場リスクプレミアムや、相対価値における潜在的な変化を見定めます。

ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場 への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。プライベート・クレジットは、流動性リスクを伴う可能性のある非公開有価証券に投資する可能性があります。プライベート・クレジットへの投資ポートフォリオにはレバレッジが利用される場合があり、投資の損失のリスクを増加させる可能性のある投機的な投資行動を伴うことがあります。不動産及び不動産に投資するポートフォリオの価値は、災害または収用による損失、地域経済または経済全般の状況の変化、需給、金利、固定資産税率、家賃に関する規制、都市計画法また運営費などにより変動します。マネジメント・リスクとは、PIMCOが用いる投資手法およびリスク分析が望んだ結果を生まないリスク、また、政策や変更等が戦略の運用においてPIMCOが利用可能な投資手法に影響を及ぼしうるリスクを指します。特定の証券や種類の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が確保されるわけではありません。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。

本資料に含まれる予測や推計及び特定の情報は独自のリサーチを基としており、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。予測や推測は本質的な限界があり、実際のパフォーマンス・レコードとは異なり、現実の取引や流動性の制約、手数料およびその他の費用が反映されていません。さらに、将来の成果に関する記述は、お客様のポートフォリオの運用成果の見込みや保証をするものではありません。

金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に相応しいという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。

特定の有価証券及びその発行体への言及は、売買や保有継続の推奨を目的とするものではなく、そのように解釈すべきではありません。PIMCOの商品及び戦略では言及された有価証券を保有する場合がありますが、その場合でも、かかる有価証券の継続保有を表明するものではありません。 本資料には、本資料作成時点でのPIMCOの見解が含まれていますが、その見解は予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。

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