注目の運用戦略

PIMCOインカム戦略アップデート:今後の投資機会

利回りの上昇、スプレッド拡大、市場ボラティリティの高まりで環境は魅力的になりつつありますが、クレジットの選択には慎重さが求められます。

ンフレと景気後退リスクが高まり、市場ボラティリティが上昇する中、投資家は多大な不確実性に直面しています。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノとともに、現在の環境下でアクティブ運用に投資機会を見い出している理由と、現時点のポートフォリオのポジショニングについてご説明します。

問:今後の債券を取り巻く環境を、どのように特徴づけていますか。

アイバシン:低利回りとタイトなスプレッドが長年続きましたが、環境が好転しつつあり、債券投資家にとって魅力的なリターンを生み出すことは以前ほど難しくなくなっているとみています。スプレッドが拡大し、利回りは上昇しています。長期的な投資価値を見出しはじめています。金利は上昇しているものの、過去よりは低い水準にとどまり、1970年代後半から1980年初頭の水準に戻ることはないはずです。現在の市場ボラティリティは、アクティブ運用会社にとって魅力的な機会だと捉えています。PIMCOでは、ボラティリティと不確実性から生じるミスプライスを活用すべく、ポートフォリオにかなりの柔軟性を積み上げてきており、前向きに考えています。アセットアロケーションの決定を左右する、いかなるタイプのベンチマークの制約を受けることなく、幅広いグローバルな投資機会を持つことが有利になると考えています。

問:第1四半期は、米国債券総合インデックスが1980年以来最悪を記録し、リスク資産が売られましたが、PIMCOのインカム戦略はどのように乗り切れたのでしょうか。

アイバシン:第1四半期は、ほとんどの金融資産にとって非常に厳しい環境でした。投資家は、持続的な高インフレ、金融政策の期待の変化、地政学的ショックに見舞われました。先進国、途上国両方の政策当局は現在、長年の緩和策を反転させており、それが債券全般の強い売りにつながっています。イールドカーブはフラット化し、クレジットは若干軟化しています。

インカム戦略では、金利リスクとアセットアロケーションを中心に防御的なポジショニングを取ることで、こうした難局を乗り切ってきました。今期に入ると、中央銀行の引き締めがボラティリティの上昇につながると予想していました。クレジットは非常に好調でしたが、より流動性の高いクレジットに移行し、キャッシュを調達することで、全体的な柔軟性を大幅に向上させました。

こうしたポジショニングによって、当面続くと見られるボラティリティを活用し、年間を通じて魅力的な機会をもたらすとことができると考えています。

問:今後12~24ヵ月の世界経済を、どのように見ていますか。

アイバシン:投資家は、多大な不確実性とボラティリティに備える必要があります。ウクライナ戦争は供給サイドの圧力を悪化させ、コモディティ価格を押し上げています。欧州で戦争がエスカレートした場合、ボラティリティはさらに上昇し、インフレが高騰する可能性があるとみています。

現時点ではPIMCOの基本シナリオではありませんが、インフレ抑制のために中央銀行が積極的な引き締めを余儀なくされるため、今後数年で景気が後退する有意なリスクが存在すると考えています。市場は米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げを3%強まで織り込んでいます。過去に中央銀行がこの水準まで引き締めた際は、金融市場の大幅な下方リスクにつながりました。これが、弱体化した企業クレジット・リスクの積み増しに慎重になっている理由の1つです。

今は、時が進むにつれて年内に浮上するであろう魅力的な投資機会を活かすべく態勢を整えながら、元本保全、柔軟性、流動性の確保を優先すべきだ時であると考えています。まだクレジット・リスクを拡大すべき時ではないとみています。

問:世界の中央銀行の金融政策についてはどうみていますか。

アイバシン:今年、世界の中央銀行は支援を縮小していますが、その度合いは経済状況に基づき地域間で異なっており、それによって各国間、通貨間、金利間で多くの相対バリューが生まれています。

例えば、FRBは欧州中央銀行(ECB)よりも積極的に動くと予想しています。ECBは、新型コロナウイルスの流行とウクライナ戦争の中で景気の急減速と戦っているためです。同様に、デフレが数年続いた日本の中央銀行は、諸外国よりも忍耐強いだろうとみています。ブラジルをはじめとする中南米諸国など、途上国の一部地域の政策当局は、より迅速かつ積極的に動いており、魅力的な機会を提供しています。

問:インフレ圧力が高まり続けるリスクをどうみていますか。

アイバシン:PIMCOの基本シナリオでは、インフレ率は年末に近づくにつれて低下傾向に転じるものの、引き続き苛立たしいほどの高さで、中央銀行のコンフォートゾーンを大幅に上回る水準にとどまるとみています。インフレリスクに対抗するため、PIMCOでは金利エクスポージャーを低水準に留めています。デュレーション(金利リスク)は、一般的なインデックスに見られる6年超のデュレーションとは対照的に、約3年で実行しています。

防御的なデュレーションのポジション内では、米物価連動債(TIPS)をはじめとするインフレ連動型商品への配分を多くしています。また、現在のような価格高騰期の恩恵を受ける立場にある、コモディティ輸出国の一部に照準を合わせています。

問:インカム戦略のクレジットのポジショニングについて教えてください。

アイバシン:金利ボラティリティが高まる時期に典型的な現象ですが、債券市場のほとんどのセクターで、スプレッドが拡大しています。インカム戦略では、市場の他のセグメントに歩調を合わせてスプレッドが拡大しているものの、デフォルトリスクや格下げリスクが有意に大きくないセクターへの配分を増やしています。ポートフォリオは、この不確実な時期を乗り越えられるだけの堅固な流動性プロファイルを持っていると考えています。

政府系MBSを徐々に追加し始めていますが、FRBによるMBSエクスポージャーの削減を控え、忍耐強くあることが肝要だと認識しています。このセクターは、米国政府の直接的または強力な間接的保証の恩恵を受けており、企業クレジットに比べてきわめて流動性が高くなっています。相対バリューに基づいて、これらのポジションを積極的に取引することによってリターンを生み出す柔軟性を与えてくれます。FRBの売却の影響を受けにくい、高クーポン債を選好しています。

非政府系MBSは、引き続き確信度の高いテーマの1つです。このセクターは、高利回り社債と比べて魅力的な利回りをもたらし、かつ広く保有されていないため、私共がかなりの規模のリスクプールを調達できます。また多くの場合、コストを最小限に抑え、コントロールを強め、信用プロファイルを高めるストラクチャーにすることが可能です。資産配分は、引き続き発行時期の古い債券が中心です。これらは長年の住宅価格上昇の恩恵を受けて自己保有部分が拡大し、今では資産価値負債比率(LTV)が低く、住宅価格の下落リスクを緩和しています。

問:住宅関連資産のほかに、PIMCOが魅力的だと考えるクレジット市場は何ですか。

アイバシン:企業クレジットの投資機会については、最近のスプレッド拡大の多くは妥当だと考えています。クジレットのポジショニングにおいては引き続き流動性を重視しており、より防御的な市場分野をターゲットにしつつ、同等の利回りと大幅に高い柔軟性をもたらす流動性の高いインデックス・クレジットに移行して、エクスポージャーをシフトさせています。PIMCOが注目している主要な機会がいくつかあります。金融は、米国にやや重点を置いていますが、インカム戦略ポートフォリオにおける中心的なオーバーウエイトセクターです。多くの銀行は歴史的に高い資本水準を維持しており、スプレッドはファンダメンタルズが示唆する以上に拡大しているとみています。

また、経済活動再開の恩恵を受けている業界にも注目しています。航空会社、宿泊施設、レジャー等のセクターで、再開のプロセスが軌道に乗るにつれて今後数ヵ月は好調に推移するとみられます。これらのセクターは、魅力的な利回りとトータル・リターンを提供する可能性のみにとどまりません。セクターの混乱により、発行体は投資家に対して魅力的なコベナンツ上の保護やその他の形態の実物資産担保の提供を余儀なくされており、それが経済が悪化した場合の下支えになります。

問:エマージング市場における国選びの重要性が増している現在、この資産クラス内でのポジショニングをどのように考えていますか。

アイバシン:PIMCOのエマージング・エクスポージャーは、引き続き信用力が高く、ソブリンおよび準ソブリンで構成されるエクスポージャーであり、ポートフォリオの重要な分散手段として機能しています。投資開始時点のバリュエーションを踏まえると、魅力的な相対リターンが見込まれますが、エクスポージャー全体は数パーセント・ポイント削減しました。ロシア・ソブリン債の小規模なポジションはパフォーマンスが低調でしたが、資産減損リスクの大半は峠を越えています。しかしながら、ロシア・ルーブルは先月の暴落後に反発しており、今年は概ね横ばいです。PIMCOではこのリスクを軽減しており、向こう数ヵ月、魅力的な水準で軽減を継続することを検討します。東欧市場については、ウクライナおよびロシアの直接的なリスクを含めて引き続き慎重な姿勢を取る方針です。

パフォーマンスが非常に好調なエクスポージャーの中で、削減したものがあります。一例がアジアで、ウクライナ戦争に関連して政治摩擦が激化した場合、二次的制裁リスクが懸念されることがその理由です。また、きわめて堅調なコモディティ生産国におけるエクスポージャーも小幅削減しています。

問:通貨、特に米ドルとユーロについて、大局的な見地からの見方を聞かせてください。

アイバシン:米ドルに対しては若干マイナスの見方に傾いており、エマージング市場、先進国市場の両方で、一部のコモディティ輸出国の通貨を重視しています。先進国市場内では、カナダドル、一部の北欧諸国の通貨、豪ドルを選好しています。エマージング市場のエクスポージャーは、インドネシアや南アフリカをはじめとするアジアや中南米諸国の一部の通貨など、小型の分散バスケットで構成されています。

問:現在の市場環境を活かせる、インカム戦略独自のポジショニングについて教えてください。

アイバシン:金利が上昇し、スプレッドが拡大し、ボラティリティが急騰する中で、多くの魅力的な投資機会が見え始めています。こうした動きは、久しぶりに公開市場に好機を生み出しており、これらの機会は、同じように調整されていない非公開市場と比べても極めて魅力的です。柔軟でグローバルに投資するPIMCOのインカム戦略は、国、通貨、クレジットのイールドカーブ全体にわたる多くの相対バリューの機会など、インデックス構成銘柄に限定された戦略ではアクセスできない幅広い投資機会にアクセスすることが可能です。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Esteban Burbano

債券ストラテジスト

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