注目の運用戦略

インカム戦略アップデート:利回り上昇、スプレッド拡大、拡大する投資機会

市場の収縮で、ここ数年にはなかったインカム創出の好機が訪れています。景気後退時に必要とされる強靭性とのバランスを考慮して運用を行っています。

ラティリティと景気後退リスクは高まっていますが、市場の急落で、アクティブ運用の債券投資家には魅力的な投資機会が訪れています。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノとともに、現在の環境下でアクティブ運用の相対バリューを見い出している分野と、現時点のポートフォリオのポジショニングについてご説明します。

問 : 2022年第2四半期のブルームバーグ米国総合債券インデックスは4.7%下落し、ブルームバーグ米国ハイイールド社債インデックスは9.8%下落しました。急落の主な原因、また、それによって見通しは変わったのか教えてください。

アイバシン : ボラティリティと不確実性が、第2四半期の売りを主導しました。年初から第2四半期にかけて、投資家が注目したのは、インフレと米連邦準備制度理事会(FRB)の政策でした。しかしながら、第2四半期が進むにつれて、投資家の懸念は、政策の引き締めと地政学が経済成長と信用セクターのパフォーマンスに与える影響に移りました。この懸念が現在も続いています。ただ、市場の劇的な価格調整は、アクティブ運用の投資家に、ここ数年にはなかった優れた長期的な投資機会を提供するとPIMCOでは見ています。利回りが大幅に上昇し、スプレッドが拡大し、キャリーが増加しており、潜在的に強力なリターンの源泉となっています。

問 : インフレリスクは、今回の価格調整の重要な要因の一つです。現在および短期(向こう6カ月~1年)のインフレリスクへの考え方を聞かせてください。

アイバシン : PIMCOの基本シナリオでは、米国のインフレ率は6月にピークをつけた可能性が高いものの、2023年、おそらく2024年まで高止まりが続き、その後、中央銀行の目標水準に向かって低下基調をたどるだろうとみています。一部の主要なコモディティの価格は下落しており、その他の価格圧力も解消され始めていますが、ウクライナ戦争やその他の地政学的リスク、新型コロナの動向をめぐる不確実性を主な背景とするインフレは投資家にとって引き続き重要なリスクファクターであると考えています。

また、インフレ抑制を目的とした中央銀行の引き締めと、その結果としての経済成長、雇用、信用ファンダメンタルズの軟化とのトレードオフも強まっています。このトレードオフが、軽度から中程度の景気後退に陥る可能性をますます高め、金利とクレジット・エクスポージャーに対するPIMCOの見方に影響を与えています。

インカム戦略全般で金利リスクには防御的なポジションを取っており、物価連動米国債(TIPS)など直接的な形でのインフレ防御手段を組み入れています。

問 : FRBの金融政策についてはどうみていますか。

アイバシン : 今年年末時点で市場が織り込んでいるFF金利は3.5%近くで、来年第1四半期にはピークをつけるとみられています。これはかなり妥当だと考えています。PIMCOでは、FF金利が3%台前半から半ばのどこかの水準でFRBは目標を達成する可能性が高いと考えていますが、環境の不確実性が高いことから、金利やFRBの政策について大きなリスクは取っていません。

問:不確実性が増し、ボラティリティが高まっていますが、インカム戦略ポートフォリオのポジショニングを教えてください。

アイバシン : PIMCOでは、強靭性に重点を置いてポートフォリオを微調整しました。ターゲットにしているのは、信用感応度の高い資産に釣られてスプレッドが拡大した、より質の高い資産です。最近の下落を受けて、イールドカーブの短期部分にクレジット・リスクを再度追加する投資機会が生まれました。ただ、過去の基準に比べてやや防御的な姿勢は維持しています。また、金利上昇を利用して、小規模な金利エクスポージャーを徐々に追加しています。

結果として、米国の企業クレジット市場の大規模なエクスポージャーを重視しがちな他のインカム志向戦略とは一線を画したポートフォリオとなり、これが差別化要因となり、より良いポートフォリオにつながると考えています。

問 : インカム戦略における金利のポジショニングについて教えてください。

アイバシン : 今回の売りを好機と捉え、イールドカーブの中期部分のデュレーション(金利リスク)を追加しました。ただ、中立的なポジションに対してやや防御的であることには変わりありません。ポジションをイールドカーブの短期部分に傾けることが、ポートフォリオ内の信用感応度が高い資産の一部を相殺するのに役立つと考えています。利上げで経済がハードランディングに陥った場合には、FRBは方針転換し金利を引き下げ、それによりイールドカーブの短期部分の価格が押し上げられると予想されます。PIMCO全体では、米国や欧州のデュレーションを小幅選好する一方、日本、中国、さらには英国をアンダーウエイトとしています。

問 : FRBによる支援終了を市場が織り込む中、インカム戦略における政府系モーゲージ債(MBS)のポジショニングは変更しましたか。

アイバシン : 政府系モーゲージ債の価格は、回り回っています。2020年第1四半期に市場が抑えられ、政府系モーゲージ債の価格が非常に割安になったため、平均以上のエクスポージャーを追加しました。このポジションが、2020年第1四半期以降に奏功しました。FRBが政府系モーゲージ債の供給のかなりの割合を積極的に買い入れ、スプレッドがタイトな水準に縮小したところで、エクスポージャーの多くを(少なくとも間接的に)FRBに売却しました。

最近では、中央銀行がモーゲージ債を市場に売り戻すことが懸念される中、スプレッドが拡大しており、PIMCOではこのリスクを着実に回復させています。また積極的に売買し、銘柄、クーポン、満期の選択を通じて、別の形でのリターンの押し上げを模索しています。インフレが高止まりした場合、政府系モーゲージ債のスプレッドはさらに拡大する可能性があると考えています。このセクターは、投資価値を生み出し、ポートフォリオのダウンサイド・リスク特性を改善し、積極的な売買を通じてリターンの押し上げを目指すという魅力的な投資機会を提供します。

問 : 証券化クレジット市場については、どのようにみていますか。

アイバシン : PIMCOでは、バリュエーションが同等の仕組み商品の投資機会のなかで、信用感応度の高いセクターから質の高いセグメントへリスクを移しています。資産配分は、引き続き発行時期の古い非政府系モーゲージ債が中心です。これらは長年の住宅価格上昇の恩恵を受けて自己保有部分が拡大し、今では資産価値負債比率(LTV)が低く、住宅価格の下落リスクを緩和しています。PIMCOの基本シナリオでは、住宅価格が全国レベルでかなり安定していることを前提としていますが、たとえ価格が下落したとしても、非政府系モーゲージ債のシニアのポジションには強靭性があると考えています。

仕組み商品市場の他の主要分野(商業不動産担保証券、消費者ローン債権資産担保証券(ABS)、学生ローン、AAA担保ローン債権シニア)においても、裏付けとなるクレジット・リスクが示唆する以上にスプレッドが拡大しており、相対バリューがあると見ています。インカム戦略のポジションは、相対的にボラティリティが低く、魅力的な流動性プロファイルを備えたシニア・リスクに集中しています。

問 : 企業クレジットへの投資において、拡大するスプレッドと高まる景気後退リスクのバランスをどのようにとっているのか教えてください。

アイバシン: 非常に防御的です。引き続き注力しているのが金融のシニア債で、特に銀行です。多くの銀行は(世界金融危機後の規制で求められた)歴史的に高い資本水準を維持しており、過去数ヵ月でスプレッドはファンダメンタルズが示唆する以上に拡大しているとみています。企業クレジットへの投資において、機動性の維持に役立つ流動性インデックスのエクスポージャーも保持しています。これは、よりストレスのかかる環境において企業市場の他の分野をアウトパフォームできる、防御的なエクスポージャーの形だと考えています。

また、企業市場で貸し手が得られるコベナンツ(財務制限条項)の保護と価格が大幅に改善したことを生かすべく、全体のリターンにプラスの影響を与える特殊な状況への投資に、比較的小規模な戦術的に配分しました。

問 : 地政学的リスクが高まっていますが、ポートフォリオのエマージング市場への配分について教えてください。

アイバシン : エマージング市場のアセットクラス内では、分散や追加リターンの点で手堅い源泉を探していますが、通常はソブリンリスク、準ソブリンリスク、信用力の高い国の通貨など、より質が高く流動性が高いセグメントで運用しています。エマージング市場の企業クレジットへのエクスポージャーはほとんどなく、特に流動性の低い地域の現地通貨建ての金利エクスポージャーはほぼありません。

過去数ヵ月間に、エマージング市場のエクスポージャーを減らしました。具体的には、アジア、特に中国、中南米のエクスポージャーを減らしています。東欧のエクスポージャーはほとんどありません。戦略の流動性やボラティリティ特性と相反するため、この地域は引き続き回避する方針です。資産配分では、ブラジルやメキシコなど信用力が相対的に高い地域に力を入れており、南アフリカ、イスラエルにも小規模なポジションを保有しています。

問 : 今後5年の長期投資において、投資家がインカム戦略に期待できる点はなんでしょうか。

アイバシン : 市場の価格調整を受けて、今後数年にわたってこの戦略がインカムを創出できるであろう点については、非常に楽観的に見ています。とはいえ、今後もボラティリティが一時的に高まり、景気が後退する可能性があるなど、紆余曲折が予想されます。ポートフォリオのポジションは、この点を考慮しています。引き続き注力しているのは、キャッシュフローの優先順位と、政府系モーゲージ債、仕組み商品、質の高い銀行など強靭性の高いセクターの追加、そして様々なマクロ志向の相対バリュー戦略です。多くの他社のパッシブな戦略と比べ当戦略は引き受け基準が緩和されたとみられる低格付けの企業クレジット・リスクなど、景気に敏感な市場セグメントへのエクスポージャーは減らしています。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Esteban Burbano

債券ストラテジスト

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