本稿の英語での原文は2008年4月25日付英フィナンシャル・タイムズ紙に掲載されたものです。
モハメド・エル・イーリアン 2008年4月25日
この数週間、市場参加者の間では、昨年夏に勃発し、金融システムの内外に被害をもたらしてきた混乱の終息を予想する声が高まりつつある。こうした予想は理解できるものであるが、時期尚早と言わざるを得ない。この混乱をもたらした元凶は姿を変えつつあり、再び市場と政策対応双方の先を進んでいる可能性がある。
危機の終息を予想する楽観的見方は2つの異なる判断に拠って立っている。第一に、バリュエーションが安定し、金融機関が損失の処理と資本増強を進めるに伴い、レバレッジの解消プロセスが終息に向かっているとする判断であり、第二に、過去には考えられなかった一連の政策対応が、効果的に金融システムの流動性回復に機能したという判断である。
どちらの見方にも頷ける点はある。金融機関、特に米国の金融機関は問題の大きさを認識し、資本力の回復に取り組んでいる。最近のシティグループやメリル・リンチ、JPモルガン、ワコビアによる資本増強はそうした取り組みの具体例である。同時に、欧州と米国の中央銀行は公定歩合での直接融資枠を拡大し、融資金額を引き上げ、利用可能な金融機関と適格担保の種類を拡大させてきた。
それでも、昨年夏以降に我々が目にしてきた混乱は収まる様相を見せず、新たな局面に入りつつある。そして、政策当局の大胆な対応はまたしても不十分で、時機を逸したものとなる可能性が出てきた。
金融の混乱が続いてきたことで、今では実体経済自体が潜在的な混乱の源泉となりつつあり今後数ヵ月間で、因果関係の方向性は逆転する可能性があろう。すなわち、これまでは、金融セクターが源泉となって、実体経済に悪影響を及ぼす、これまでにあまり例のない因果関係がみられたが、今ではこれがより一般的な景気後退に変化しつつあり、それが金融システムに悪影響を与える可能性が出ている。
米国の経済指標は明らかに悪化している。特に、広範囲にわたる在庫の積み上がりと収益性の低下により、すでに悪化していた雇用見通しにさらに下方圧力がかかってきていることは重要な事実だ。過去の例からすると、在庫の積み上がりと収益性の低下は大規模な雇用の喪失につながる。
これは米国の消費者にとって憂慮すべき事態である。金融機関の貸し渋りや、住宅価値の下落による逆資産効果、エネルギーおよび食品価格の上昇とドル安による生活水準の低下により、米国個人の消費能力は低下している。そこに雇用の喪失が加わることで、消費者はさらに厳しい状況に陥り、所得は落ち込み、消費者信頼感は一層低下することになる。
金融システムではバランスシート強化策が打ち出されているが、基本的にこれはこれまでの過剰なレバレッジへの対応をするためのものであり、実体経済が大きく悪化した場合には新たな混乱が生じる可能性がある。そうなった場合、今度は中小金融機関にも悪影響が及ぶことになろう。
こう考えると、昨年夏に始まった混乱の終息を宣言することはできない。むしろ、今後数ヵ月の間に、今度は実体経済が主導する形で、この混乱は新たな展開をみせる可能性がある。責任の擦り合いはさらに酷くなり、政治的圧力は上昇し続け、金融システムの内外で金融取引に対する規制強化の気運が高まることになる。
また、政策当局の対応も注目されることになる。この点について、見通しは混沌としている。好材料として、この危機は従来型の政策手段の効力が高くなる領域に入りつつある。これは過去数ヵ月間の状況と対照的である。過去数ヵ月間、中央銀行は目の前の問題に対し、効力の乏しい政策手段で対抗せざるを得なかった。
しかし、懸念される材料もある。米国経済が急激に悪化する一方で、世界的にインフレ圧力の高まりは継続するであろう。そのため、FRBの2つの政策目標、すなわち物価安定と力強い経済成長の維持はこれまで以上に相反するものとなり、両立させることが難しくなる。実際のところ、米国の政策対応の大部分が再びFRBの肩に掛かってくる場合、すでに悪い状況が更に悪化することを回避するには、インフレを抑制しようとするFRBに対する信認が低下する、好ましからざる状況を生み出してしまう可能性がある。
投資家や政策当局にとって、先走った安心は禁物である。反対に、状況が再び流動化することに備えるべきであろう。
筆者はPIMCOの共同CEO兼共同CIO。6月には著書『When Markets Collide: Investment Strategies for the Age of Global Economic Change』が6月に米マグロウヒル社から刊行予定。
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