2007年夏まで、ほとんどの債券投資家は保有するマネーマーケット商品やエンハンスト・キャッシュ商品について疑問を持つ必要はありませんでした。いずれも期待通りの成果を収めていたからです。マネーマーケット戦略は持続的にリターンをあげて流動性と元本確保を提供し、エンハンスト・キャッシュ戦略はマネーマーケットを上回る安定したリターンを実現し、価格ボラティリティも緩やかでした。
投資家は両戦略で保有するリスクは非常に小さいと考えており、安心していられたのです。しかも、この二つは概ね信用格付が高く、国債やLIBORに比べてまずまずの利回りを提供していました。債券の中でもマネーマーケット商品と短期債は安定した投資対象であり、投資家はそうした状態が続くとみていました。残念ながら、多くの投資家にとって結果は大きな見込み違いとなり、巨額の損失を被る例が出てきています。
何が起こったのか、そしてその原因は?
ここ数カ月、一部のエンハンスト・キャッシュ商品のボラティリティは極めて高く、価格は低下しており、信用格付けが平均でもトリプルA格となっているような高格付けのものも例外ではありません。同様の資産価値の低下を防ぐためにマネーマーケット商品を保証する銀行が対策を講じてはいますが、これらの商品に対する不安感は高まる一方です。投資家は、突如として元本確保と適正な流動性維持を目指す戦略が元本割れをもたらしかねない現実に直面することとなったのです。
どうしてこのような状況になったのでしょうか。マネーマーケットやエンハンスト・キャッシュ戦略が従来投資してきた証券の利回りとリスク・プレミアムは、ここ数年間にわたり過去の水準を下回っていました。そこで運用会社は、キャッシュポートフォリオに組み入れられる高格付で高利回りを提供する代替商品を物色する中で、資産担保コマーシャル・ペーパー(ABCP)に目をつけました。ABCPは利回りが高い上にトリプルA格であり、まさにこの目的に適っていました。最近まで、ABCPの利回りはマネーマーケット、エンハンスト・キャッシュポートフォリオの中心であった従来型のCPを常に1-2ベーシスポイント上回っていました。ABCPは「短期で資金調達し、長期で運用する」という典型的な例で、つまり、銀行のシステムの外で投資期間の差を利用して裁定を行うものです。ABCPの原資産は透明性を欠いていましたが、高格付を得ていたために投資家は精査しませんでした。また、原資産は分散化されていると考えられていましたが、実際はABCPの約12-15%がストラクチャード・インベストメント・ビークル(SIV)に組み込まれたサブプライムローン、あるいは債務担保証券(CDO)によって裏付けされていたのです。
2007年の夏にサブプライムローンに関する懸念が高まると流動性が逼迫し、ABCP市場の機能は停止しました。たとえトリプルA格であっても投資家の警戒感は変わらず、SIVあるいはCDOが絡んでいる場合、投資家は信用供与を望まなくなりました。その結果、ABCPのスプレッドは過去最高水準まで拡大し、 マネーマーケットや、エンハンスト・キャッシュ戦略では多額の評価損計上を余儀なくされました。
現状はどうなっているのでしょうか。エンハンスト・キャッシュ戦略は引き続き厳しい状況にさらされる可能性があります。これまでのところ、ABCPのアンダーパフォーマンスの大半は実際の信用悪化ではなく、マーケット主導の価格変動が原因でした。今後も悪材料が出てくるとみられ、レバレッジの解消が続くとともに、ABCPのスプレッド はさらに拡大する可能性があります。マネーマーケット商品を保証する銀行はより大型の関連商品を保護するために、引き続きマネーマーケット商品の価値をサポートすると予想されますが、それが実際に行われる保証はありません。
運用会社は過度にリスクをとっていないか?
一部マネーマーケット、エンハンスト・キャッシュ戦略が予想外の高ボラティリティ局面に遭遇したことで、投資家の多くにキャッシュマネジメントは見かけほど単純ではないという認識が生まれました。これは大きな前進であるとPIMCOは考えています。投資家はポジションを見直し、安定を目指すべき資産が極端なリスクにさらされていないか判断するために、運用会社が投資理念やプロセスに関する基本的な質問に答えられるか確認する必要があります。主な質問は次のようになります。
- キャッシュマネジメントに関する投資理念はどのようなものか。
- 投資プロセスはどのようなものか。
- どのような手法でクレジットの分析・選別を行っているのか。
- 最近の市場でのできごとでどのような影響を受けたか。また、それはなぜか。
- ABCPを保有しているか。信用保証はどの程度か。
- SIV あるいはCDOを保有しているか。保有している場合は、どのトランシェか。
上記質問に対するPIMCOの答え は以下のとおりです。
PIMCOの投資理念は、マネーマーケット商品をキャッシュと同等と考え、元本確保を最も重視し、リスクの回避に努めるというものです。キャッシュの代替物としてのエンハンスト・キャッシュ商品の場合は、リターンを確保するために投資家は運用会社にある程度のリスクをとることを期待するため、マネーマーケット商品とは別物と考えています。とはいえ、エンハンスト・キャッシュ商品についても、PIMCOは流動性と元本確保を非常に重要な目的と位置付け、極端なリスクテイキングは適切ではないとみています。
こうした理念に基づき、PIMCOの投資プロセスではマネーマーケット商品、そしてエンハンスト・キャッシュ商品のリスク管理を重視しています。リスク管理のため、経験豊かなポートフォリオ・マネジャー・チームがマネーマーケット商品と、エンハンスト・キャッシュ商品をモニタリングしています。PIMCOのポートフォリオ・マネジャーは様々な市場サイクルを経験しており、キャッシュと同等の証券とこれに付随するリスクを十分に理解しています。したがって、PIMCOの長年にわたる理念、すなわち長期的な視野に立って安定したパフォーマンスの確保に努め、マネーマーケット商品も含めて証券に内包されるリスクに見合うリターンを投資家に提供する、という考えが市場の変動によって揺らぐことはありません。
また、リスク管理の二番目の手段としてクレジット分析に従事する社内チームを活用しているため、格付機関の評価に頼る必要がありません。原資産の不透明性を原因とするABCPのリスクをPIMCOのアナリストは認識しており、そのリスクを定量化することが難しかったために、ABCPの組み入れには積極的ではありませんでした。実際、かなり前からPIMCOはリスク管理プロセスに基づいてABCPおよびSIV関連債券への大幅なエクスポージャーを回避する方針を決定しています。
さらに、三番目の手段として、ポートフォリオを分散化し、特定のセクターや発行体への極端なエクスポージャーを避けて幅広い商品に投資する方針を採用しています。PIMCOは独自の投資理念とプロセスに基づいて、ABCP、SIV、CDOなどへの大幅なエキスポージャーを避けています。
結論
キャッシュマネジメントは決して単純ではないという認識が広まるにつれ、投資家はキャッシュポートフォリオのリスクを低減し、モニタリングを厳しくしていくと予想されますが、これは歓迎すべき傾向であるとPIMCOはみています。キャッシュマネジメントは高いリスクをとる必要のない分野です。投資家は他のポートフォリオでリスクをとり、キャッシュポートフォリオは流動性と元本確保という主要目的を追求するべきだと考えます。