《エグゼクティブ・サマリー》
サブプライム問題の拡大による金融市場の混乱は、FRBによるベア・スターンズ救済などの対応を受け、一旦落ち着きを見せています。しかしながら今後は実体経済の悪化が顕著となる可能性が高く、企業収益にも圧迫要因となると考えられます。これに伴い、足元1%台と歴史的にも最低水準で推移するデフォルト率は、過去の平均である5%程度まで上昇する可能性がありますが、一方で、現在の債券市場はそれ以上のデフォルト率を織り込む水準まで上乗せ金利が上昇しているため、今後のファンダメンタルズの悪化を考慮しても割安な状態まで下落していると判断できます。また、債券市場の需給バランスや10%台の利回りが獲得できることを考慮に入れると、金利も含めたトータル・リターンの観点から、現在ハイイールド債券市場の投資妙味が高まっているといえます。
PIMCOは米国が今年、景気後退に陥ると予測していますが、今回はこの予測に基づくハイイールド市場の展望およびポートフォリオ戦略について、PIMCOのハイイールド債担当ポートフォリオ・マネージャーであるマーク・フードフがご説明します。
問:PIMCOは米国経済が短期的、すなわち向こう6~12ヵ月間で景気後退に陥ると予測していますが、この予測を踏まえ、PIMCOはハイイールド市場について、どのように見ているのでしょうか。
フードフ:景気循環の全体像を見ると、2つの異なるサイクルが働いています。その1つが資本市場のサイクル(金融サイクル)であり、もう1つが実体経済サイクルです。通常のケースでは、実体経済サイクルが主で金融サイクルが従となることが一般的です。つまり典型的なサイクル末期には、実体経済の悪化に伴い金融経済が収縮して、それまで拡大してきたレバレッジの解消(投資資金の回収、またそれによる証券価格の下落)が見られます。ハイイールドのスプレッド(国債に対する上乗せ金利)1も、この2つのサイクルの進行に伴う動きが反映されることが一般的です。
しかし、今回のケースはこれまでと異なる可能性があります。過去にみられた実体経済サイクルと金融サイクルの密接な連動性は、ある程度低下したとみられます。サブプライム・モーゲージや証券化商品、レバレッジド・バイアウト(LBO)2融資の行き過ぎにより、従来のように実体経済の影響が完全に拡がる前に、金融機関におけるバランスシート修復3の必要性があるとの認識が急激に高まりました。米連邦準備理事会(FRB)はJPモルガンによるベア・スターンズ買収の支援や、証券ディーラーへの連銀窓口貸出制度の開放4など、緊急手段により、この修復プロセスを支援することを明確に打ち出しています。事実上、これは直接金融機能が完全に崩壊してしまうことをFRBが総力を挙げて阻止しようとしたものでした。これまでのところ、FRBや他国の中央銀行の政策対応は金融システムの安定化に一役買ったと評価することができます。さらに、こうした政策対応は、金融システムが資本の増強などを通じ債務水準を引き下げることも容易にしています。
そこで問題になるのは、今後従来型の実体経済サイクルの悪化が生じた時にクレジット・スプレッドのボラティリティ5が抑制されるように、前もって、金融経済において修復プロセスが十分に進むだけの時間的な余裕があるかどうかです。この点はハイイールド投資においては、投資を開始するタイミングにつながるため、非常に重要なポイントです。過去の例を振り返ると、ハイイールド投資を開始する最適なタイミングは、デフォルトが増加するとの見方が強まる期間ではなく、実際にデフォルトが増加した場面です。今年1~3月には、ハイイールド・セクターで将来のデフォルトが増加するとの見方が強くなったことにより、ボラティリティが上昇しました。しかし、FRBの政策対応により、この1ヵ月間でこうした市場変動はほぼ収束しました。それでも、PIMCOは依然として実体経済がリセッション(景気後退)に陥る可能性があることを懸念していますが、同時に次のような要因がハイイールド市場に影響を与えると考えています。まず、ファンダメンタルズは悪化しており、新規の借入れは依然として制限されています。また、ハイイールド債の需給バランスは、LBOに関連してきわめて大量の売れ残りが発生した昨年と比較すると大幅に改善されたものの、全体としてはほぼ中立といえます。一方で、バリュエーションは大幅に改善されました。そのため、PIMCOはハイイールド・セクターの今後の投資機会について、慎重ながらも楽観的にみています。現在はデフォルトが増加し始める地点に近づきつつあると考えられ、投資を開始するタイミングに関するこれまでの経験から、PIMCOはハイイールド債のリスク対比でのリターンが今後、さらに魅力的になると考えています。
問:企業ファンダメンタルズは悪化途上にあるのでしょうか。
フードフ:現在は悪化の兆しが見え始めたところです。今年上半期の企業収益は前年比でわずかな増加を見込むこれまでの予想から、前年比マイナスの予想に急激に悪化しています。PIMCOは今後も企業収益が圧迫され続け、今年通年の収益は前年比横ばいからマイナスになると予想しています。これは株式市場の上値を抑える要因になるでしょう。
現在の企業ファンダメンタルズは、たとえば1990年代終盤と比較した場合、相対的に良好な状態にありますが、今後もマクロ経済と足並みを揃えて悪化すると予想されます。また、米国の住宅問題は引き続き、景気の足かせとなると考えられます。FRBが近い将来、住宅市場を底入れさせることができるのかどうか、もしくは底入れにはさらに長い期間が必要になるのかは、今後も注視していく必要があります。
問:金融危機が発生するまで、企業のバランスシートは良好な状態にありました。これが衝撃を緩和してくれるでしょうか。
フードフ:この混乱が始まった昨年、企業ファンダメンタルズはそれまでの10年以上で最も良好な状態にありました。急ピッチで進むLBOなど、かなり行き過ぎた部分もありましたが、全体として、企業は大部分の負債について、前倒しで資金調達を進めてきたため、手元流動性は高水準であり、負債の残存年数は低水準でした。
このようにバランスシートが良好な状態にあったために、これまでクレジット危機の衝撃が緩和されてきたことは確かです。しかし、金融セクターにおけるバランスシートの修復、広い範囲で進行するレバレッジの引き下げ、そして、それに伴う融資基準の厳格化が融合し、市場で流動性を確保しなくてはならない企業にとって、流動性の供給源を見つけることが難しくなっています。その結果として、デフォルト率は上昇することになるでしょう。
問:デフォルト率はどの程度まで上昇すると考えられますか。
フードフ:ムーディーズが発表した世界のデフォルト率は1月の段階で1.1%でしたが、4月には1.75%に上昇しました。PIMCOは今後1年間、デフォルト率は上昇傾向を辿り、12ヵ月以内に5%前後に達すると予想しています。
一部のモデルはデフォルト率が5%を上回る可能性があることを示していますが、こうしたモデルでは、現在の市場を過去の市場と異質なものにしている「低コベナンツ6案件」の存在が考慮されていません。投資家が投資資金を潤沢に保有し、激しい利回り獲得競争が繰り広げられたため、きわめて緩いコベナンツが付与された銀行債や資本ストラクチャーが数多く組成されました。実際、S&Pによれば、低コベナンツ案件は2007年の新規発行市場の約25%を占めました。PIMCOはこの低コベンナンツ案件がデフォルトの急増を抑制する役割を果たすと考えています。こうした案件では発行体企業による期限前返済が必要になるか、早期償還事由などのイベントが発生するまで、デフォルトのトリガー7が発動されないためです。
ムーディーズによれば、歴史的にみた場合、5%のデフォルト率は平均的水準といえます。つまり、デフォルト率は、現在の平均を大幅に下回る水準から、今後12ヵ月以内に平均的水準に回帰するということです。

問:市場はデフォルト率が長期平均よりも大幅に高くなることを織り込みつつあるとも思えます。この乖離の原因はどこにあるのでしょうか。
フードフ:市場の不透明感が最も強くなった3月に、ハイイールド市場のスプレッドは、PIMCOが予想する2008年のデフォルト率を3パーセント程度上回る8%程度を織り込む水準まで拡大しました。その最大の理由は経済の行方と、FRBがどのようにして住宅問題とサブプライム・モーゲージ問題の収拾を図るのかが不透明であったことにあります。3月には金融システムに対し、前述のとおり各国中央銀行が歴史上類を見ない救済措置をとりましたが、それ以前に、市場では事実上、先ほど申し上げた実体経済と金融サイクルの関係が完全に織り込まれつつあったといえます。現在、PIMCOのモデルによると、市場は5%台のデフォルト率を織り込んでいます。
問:ハイイールドの新規発行市場はきわめて低調です。現在、需給動向はどうなっているのでしょうか。
フードフ:ハイイールド市場の需給は脆弱と言わざるを得ません。通常、ハイイールド市場では、新規発行および格下げを受け投資適格からハイイールドに転落してくる銘柄がありますが、一方でこの資産クラスに流入する資金と債券の償還金、そしてハイイールド市場から投資適格に格上げされる銘柄がほぼ相殺する形で、おおよその均衡が成り立っています。この均衡を維持できる新規発行額は、平均して年間1,200~1,500億ドルといったところです。理屈の上では、供給がこのレンジを超えると、新規の投資家を引きつけるためにスプレッドの拡大が必要になります。
昨年、この市場が直面した問題は需要をはるかに上回る供給でした。LBOの急増により、2,000億ドルを超えるローンと約1,000億ドルの債券の発行予定が浮上しましたが、証券化商品やその他これまで買い手の一角として需要を担ってきた資金がサブプライム問題の混乱により枯渇していたため、これをハイイールド市場だけで吸収しなくてはなりませんでした。これはJPモルガンによれば通常の年間新規発行額の2倍以上に相当する水準です。
発行のキャンセルや再ストラクチャリング、販売努力により、この余剰部分は過去数ヵ月間で縮小しました。しかし、現在でも、販売先を見つける必要のある債券約650億ドルと銀行ローン約950億ドルが残っていると考えられます。過去の水準と比較すると、この在庫水準は依然としてきわめて高いと言わざるを得ません。
持続的な相場の上昇が起きるにはこの供給余剰が解消されなくてはなりませんが、それにはかなりの時間が必要になります。過去数ヵ月間の大幅な市場変動により、発行はほぼ停止しています。実際にメリルリンチのデータでは、今年1-3月期のハイイールド市場の発行額は10年ぶりの低水準となりました。
需要側に目を転じると、市場の混乱により、銀行ローンの主な買い手である証券化商品の動きは依然として止まっており、証券化商品からの需要がいつ回復するのかは不明です。現在、銀行ローンとハイイールド債の買い手は従来型の投資信託や年金基金など一部の投資家に限られていますが、こうした投資家もこの激しい変動の中、安全性を重視しており、手元流動性を厚くして、様子見を続けています。
問:市場に買い手が戻り、供給余剰が吸収されるまでにはどれくらいの期間が必要になるのでしょうか。
フードフ:それには少なくとも6~12ヵ月が必要になるでしょう。この間、買い手不在のためハイイールド市場のボラティリティが高まる可能性はありますが、ポジティブな側面としては、このような環境下、ファンダメンタルズが良好な銘柄でさえも魅力的な利回り(割安な水準)で取引されている点があげられます。したがって、銘柄選定に際し慎重なアプローチを取ることによって、現在の需給バランスは長期的に魅力ある機会をもたらすものと考えられます。
問:ファンダメンタルズと需給関係双方については不透明感が残りますが、ハイイールド市場に何か明るい材料は何かあるのでしょうか。
フードフ:好材料としては割安感が高まった点があげられます。ハイイールド市場ではリスクを取る見返りとして、国債を上回る利回り(スプレッド)が得られます。スプレッドが拡大し、ある一定水準に達すると、投資家は取得するリスクに見合った、もしくはそれ以上の見返りを得ることができるようになります。こうなると、バリュエーションはファンダメンタルズやテクニカルよりも優勢になります。
問:現在の環境はハイイールド投資にとって良いタイミングでしょうか。
フードフ:非常に良いタイミングに近づいてきたと言えます。これまでに取上げたファンダメンタルズの悪化とテクニカル面での供給余剰は、今後も引き続きスプレッドの拡大圧力となります。そこで問題となるのは、割安感がファンダメンタルズと需給の観点からのマイナス要因を上回り、リスクに対する十分な見返りが得られるようになることで、ハイイールド市場に投資すべきと考えられるのはいつになるか、です。別の言い方をすると、今回のサイクルでスプレッドが天井を付ける(債券価格が底を打つ)タイミングはいつになるか、ということです。

あらゆる可能性を考慮した上で判断すると、その時期は今年下半期になる可能性が高いと思われます。過去を振り返り、1990年代初頭と2000年代初頭の景気後退期の事例を参考にすると、スプレッドは今年下半期に転換し始めると考えられます。
ただし、個人の投資家の方々の観点からは、スプレッドが天井を打つ(債券価格が底を打つ)時期を的確に予測することはきわめて困難であるのも事実です。したがって債券価格と利回りを考慮したトータル・リターンのベースで考えた場合、私は現在の水準でハイイールドに投資することにはかなりの合理性があると考えます。現在、米国のハイイールド市場の利回りは10%を超えており、きわめて魅力的な利回りを獲得することができます。言い換えると、短期的なスプレッド拡大余地はあるものの、利回りを考慮した場合、債券価格の下落分を補えるだけの十分なリターンが得られるということです。
問:ハイイールド市場に関する見通しを踏まえ、PIMCOは現在、どのような運用をしているのでしょうか。
フードフ:現時点では依然としてかなり不透明感が強いため、PIMCOはお客様からお預かりした資金を安全に運用することを重視し、慎重なスタンスを継続します。そのため、セクターであれ、個別銘柄であれ、市場の大幅な変動が追い風となるもの、もしくは市場変動の影響を受けにくいものに集中することを心がけます。
セクターでは公益およびヘルスケア・セクターを選好しており、個別銘柄では相対的にディフェンシブな銘柄を選好しています。一方、耐久消費財など、個人消費の影響を強く受けやすい企業に対する投資比率は絞り込むつもりです。また景気敏感セクター全体について特に懸念しています。これは負債比率の高い景気敏感セクターの企業にとって、景気の減速が大きな足かせとなるためです。
また、下落リスクを限定するため、全般的に、担保価値の高い資産を保有する企業を選好しています。PIMCOが選好する発行体は豊富な債券発行実績を持ち、大規模で、流動性に優れ、信用履歴が良好で、過去の債務の返済実績を確認できる企業です。有望なのはシングルB格上位とダブルB格の証券です。市場の一部は最近になって圧力に晒されていますが、PIMCO