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In Focus
2009年3月
スコット・サイモン、米国住宅市場とモーゲージ市場の展望を語る
スコット・サイモン
マネージング・ディレクター
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住宅市場の状況は引き続き、米国経済全体の見通しを大きく左右しています。今回のインタビューでは、PIMCOのマネージング・ディレクターであり、モーゲージ債および資産担保証券ポートフォリオ運用の統括責任者を務めるスコット・サイモンが、現在の住宅市場と住宅ローン(モーゲージ)市場の状況、政府のさまざまな対策とローン条件の変更が市場に与える潜在的な影響、モーゲージ金利や住宅価格、住宅在庫、差押えの見通し、そして、米国債と比較した現在の政府系モーゲージ担保証券(MBS)の価値についてご説明します。 

米国ではこれまで、不良資産救済プログラムTARPや住宅総合対策、ファニーメイとフレディマックの政府管理、米連邦準備理事会(FRBと財務省による政府系MBS直接購入など、モーゲージ市場を活性化させ、住宅を下支えすることを目的に、政府がさまざまな対策を実施してきました。こうした対策は想定された効果を上げているのでしょうか。

サイモン:こうした対策はいずれも有効であり、特に全体として見た場合に効果を上げていると言えます。モーゲージ金利は11月の水準に比べて、約1.5ポイント低下しました。これはやはり成功であると言えるでしょう。

 

このモーゲージ金利の低下により、住宅取得能力は約15上昇しました。これは同じ月間返済額で15高い住宅を購入できるようになったということでもあり、希望する住宅を15安く購入することができるようになったということでもあります。いずれにしても、金利低下が住宅取得能力を向上させたということが重要です。それは借り換え金利よりも購入金利の方が重要だからです。

 

例えば、2兆ドルのローンが1パーセント低い金利に借り換えられる場合、消費者の金利負担は約200億ドル軽減されるに過ぎません。確かに、それは個々の借り手にとって重要です。しかし、経済全体でみた場合、たとえばガソリン価格の下落と比較すると、消費者の負担を軽減する効果はわずかでしかありません。ガソリン価格が最高値から下落したことで、消費者の負担は合計約4,000億ドル軽減されました。

 

住宅市場にとっても、経済全体にとっても、住宅が割安になった、もしくは、月間返済額が少なくなったから住宅を購入すべきだと消費者が感じられる水準まで、金利が低下する必要があります。それにより、住宅の在庫が整理され、住宅価格の下落に歯止めがかかることになります。また、差押えへの対応も必要であり、防ぎ得る差押えについては、発生させないことが必要です。しかし、最終的には住宅価格の下落に歯止めをかけることが不可欠であり、それを実現する最も簡単な方法は、消費者の住宅取得能力を高めることです。

 

 

その他にはどのような手を打つ必要があるでしょうか。

サイモン私は次の2点がきわめて重要であると考えています。それは1住宅純資産価値がローン残高を下回る問題への対応と、2購入用住宅ローン金利の引き下げを図ることです。

 

負の住宅純資産価値はきわめて大きな問題です。住宅ローンの借り手の30近くで住宅純資産価値がマイナス、すなわち、ローン残高が住宅の価値を上回った状態になっています。そのため、多くの住宅市場で、借り手の「返済能力」以上に「返済意思」が重要になっています。合理的な消費者は負の純資産価値を解消するために、住宅を放棄し始めることになります。

 

議会に当初提出されたフランク・ドッド法案の原案は、対応としては適切な方向に向かっていたといえます。ジニーメイGNMA、ファニーメイFNMA、フレディマックFHLMCによる政府支援ローンへの即時借り換えとローン元本の減免を組み合わせたものであり、いくつもの実質的な利点を備えています。例えば、(1)負の住宅純資産価値の負の部分を縮小させることにより、住宅保有者による住宅の放棄を抑制し、(2)借り換えにより、銀行や投資家のバランスシートから「問題資産」を排除し、銀行や投資家を支援することになります。また、複雑な証券の価値ではなく、住宅と住宅ローンの価値にのみ着目したものであるため、証券のバリュエーションを巡る問題を回避することが可能です。これは住宅市場とモーゲージ市場双方を支援し、差押えを減少させると共に不動産価値を下支えします。また、証券のバリュエーションに関する不透明性を低下させ、銀行資産に対する不安を取り除き、銀行のバランスシート上の問題資産をさほど物議を醸すことなく減少させるものとなります。

 

もう1つ、考え得る単純な対策として、政府が住宅購入者に限定して、ローンを支援する方法があります。住宅在庫を減少させるのは借り換えではなく、購入です。それゆえ、購入ローン支援は借り換え支援よりも大きな効果を持つことになります。すべての消費者に住宅購入が「必要である」と感じさせる金利水準は不明ですが、住宅ローン金利が4~4.5%になれば、新たに住宅購入に踏み切る人々が増えると考えられます。

 

 

問:銀行を始めとする融資機関の貸出意欲は高まるでしょうか。もしくは投資家のMBS購入意欲は高まるでしょうか。

サイモン現在、政府系住宅公社GSEが発行するMBS以外に、MBSへの投資意欲はほとんど見られません。実質的な投資需要が見られるMBSは政府が明示的に保証しているジニーメイ発行のMBSか、政府の明示的な支援を受けているファニーメイおよびフレディマック発行のMBSに限られます。

 

これは、プライムに分類され、頭金水準の高い借り手であっても、借入れ額の大きいジャンボ・ローンを借り入れる場合には、住宅公社の規定を満たす基準内ローンよりも12パーセント高い金利での借り入れになることを意味します。ジャンボ・ローンと基準内ローンの金利格差は異例な高水準になっています。この一因には、民間モーゲージ市場におけるローン条件の変更プログラムが契約法に反し、財産権を侵害するのではないかという市場の懸念があります。

 

そもそも、銀行など融資機関が住宅購入者に融資しようとする最大の理由は、そのローンが住宅によって担保されていることにあります。住宅購入者は頭金として住宅代金の一部を支払い、問題が生じると融資機関が住宅を差押えます。しかし、この前提が疑問視される場合、すなわち、ローンの条件変更により契約法や財産権が侵害される可能性がある場合、融資機関はこの追加的リスクに対するプレミアムを要求することになります。

 

投資家の観点からすると、担保を確保できないリスクがある中で住宅ローンを供与することは、基本的にクレジットカード証券などの無担保債に投資することと同じです。5.25の金利でクレジットカード・ローンに50万ドルを融資しようとする投資家は多くありません。民間モーゲージ市場の状況が悪化し、有担保市場からクレジットカードのような無担保市場に変容しつつあると認識される限り、こうした規模のローンの借入れは一層難しくなり、そのコストは上昇します。

 

 

問:モーゲージ金利は直近の最高水準から低下しており、政府は引き続きモーゲージ市場支援策を進めています。今後もモーゲージ金利は低下を続けると予想していますか。

サイモン考えなくてはならない点が2つあります。その1つは、経済が紛れもなく軟調だという点であり、もう1つは現時点でインフレが存在しないことです。

 

FRBは住宅市場を刺激することはできても、景気サイクルをなくすことはできません。また、個人の債務は限度を超えているため、FRBが貯蓄率の上昇度合を変化させることもできません。ですが、FRBは金利を当面の間低く維持し、それにより、経済の弱さをある程度改善させることができます。政策金利は低く、差し迫ったインフレ懸念はないため、ここからモーゲージ金利が大幅に上昇する可能性は低いと考えられます。モーゲージ金利が単発的に上昇する場面はあるでしょうが、政府がさまざまな対策を打ち出す前の水準に戻るとは予想していません。その一方で、経済ファンダメンタルズが現在の状態よりも大幅に悪化し、FRBと財務省がより大胆な対策を導入してモーゲージ金利の引き下げを図ろうとする事態に陥らない限り、ここから金利が大幅に低下する可能性も低いと考えられます。

 

 

一部の政策当局者はモーゲージ金利の目標を4.5に置いていることを示唆しています。これは現実的な目標でしょうか。

サイモン:4.5%と低水準のモーゲージ金利は、住宅取得能力の押し上げという点で、有効でしょう。ただし、政策当局は借り換えを希望する借り手ではなく、住宅購入ローンの借り手に狙いを絞るべきであり、特に、1年のうちで住宅販売が季節的に低調になるこの時期にはそれが重要になります。

 

現在、モーゲージ・ローンの約90が借り換えローンであり、購入ローンは10に過ぎません。先ほど指摘した通り、こうしたプログラムに利用できる資金には限りがあることを考えると、住宅市場を下支えするための手段としては、購入ローン支援のほうがはるかに効率的です。借り換えと異なり、住宅購入は住宅在庫を減少させ、住宅価格を下支えし、それが残存するすべての住宅ローンの担保価値低下に歯止めをかける役割を果たします。

 

 

問:次に、住宅価格の動向ですが、最悪期は去ったと考えられるでしょうか。それとも、住宅価格は今後さらに下落する可能性が高いと思われるでしょうか。

サイモンPIMCOの見方は、基本的に2005年から大きく変わっていません。すなわち、住宅市場にとって、2007年は良い年にならず、2008年と2009年はきわめて厳しい状況に陥り、2010年になって、住宅価格が底入れするという見方です。現在は下落局面の約3分の2を終えたところだと言えるでしょう。

 

政府が導入しているさまざまな対策により、希望の光が差し始めていると考えることができます。借入れコスト引き下げにしろ、借入れを容易にする手立てにしろ、ローン条件変更の取り組みにしろ、こうしたプログラムの効果により、底入れする価格水準はこれらが実行されなかった場合に比べて高くなり、底入れする時期も早くなると考えられます。

 

そのため、今後数ヵ月間で政府が打ち出す政策によっては、住宅市場が2009年末にも底入れする可能性があると考えられます。先ほどご指摘のあった4.5の目標を政府が採用した場合、あるいは信頼し得るローン条件変更プログラムを導入した場合、その可能性は高くなるでしょう。しかし、住宅価格は依然として下落しています。2009年末までに底入れしても、その後の回復には時間がかかるとみられ、住宅価格は底入れ後、横ばいを続けるでしょう。それでも、住宅価格の下落に歯止めをかけることが重要なのです。

 

 

問:現在、住宅在庫は依然としてきわめて高い水準にあるのでしょうか。

サイモン:住宅在庫は依然としてきわめて高い水準にあります。しかし、中古住宅と新築住宅双方とも、在庫は大幅に減少しました。住宅建設業者は着工を停止しており、着工許可申請も見合わせています。実際、住宅着工許可件数は商務省が約50年前にこの統計を集計し始めて以来、最も低い水準に落ち込んでいます。

 

世帯数に対する建築着工許可件数の割合は、過去これまでにつけた最低水準のさらに約半分まで落ち込んでいます。在庫の観点からすると、住宅建設の停止は在庫調整に有効です。一方で、差し押えが続いており、これが売り出し物件数の上昇圧力となっています。

 

 

問:差し押え率はどのような傾向を示しているでしょうか。差し押えは依然として天井を打っていないのでしょうか。

サイモン:差し押えは増加を続けています。差し押え件数も統計を取り始めて以来、最高の水準にありますが、今後も増加は続くと予想されます。だからこそ、ローンの条件変更が重要な問題になるのです。ローン条件の変更を巡ってはさまざまな政治的駆け引きが行われていますが、住宅保有者にとっては、きわめて現実的かつ重要な問題です。

 

PIMCOは最大の価値を生み出すことができる政策を実行すべきと考えます。それは元本の減免や利率の引き下げかもしれませんし、差押えかもしれません。しかし、何より重要になるのは、ローン条件が変更された場合にローンの返済を続ける意思があり、それが可能な住宅保有者のローンの条件変更を認めることです。これまでに実施されたローン条件変更のうち、半数以上は5ヵ月以内に再びデフォルトを起こしています。これは誰の利益にもなりません。つまり、ローン条件変更プログラムで肝心なのは、回避可能な差押えを発生させないことだと考えられます。

 

残念ながら、回避不可能な差押えも発生するでしょう。それゆえ、ローン条件変更プログラムが信頼し得るものであるためには、個別のローンと個々の住宅保有者ごとの差押えに注目し、所得や費用、住宅価値、旧ローンの条件を評価することが必要になります。

 

ローンの条件変更は慎重に進める必要があります。もしローンの条件変更が契約法に反し、財産権を侵害するとみなされたら、モーゲージ市場を崩壊させかねません。ローンの条件変更が価値を高め、回収率を向上させるものである限り、ローンの条件変更を認めることは契約法と財産権の侵害にならないと考えられます。

 

 

問:足元では失業者数が大幅に増加しています。失業率の上昇は住宅市場に顕著な影響を与えているのでしょうか。そして、PIMCOの見通しでは、失業率の上昇が想定されているのでしょうか。

サイモン:低迷する景気と失業の増加は住宅市場の回復に対して、重大な障害となります。PIMCOは経済と雇用のこうした傾向が続くと考えています。しかし、現在、政府はいかなる歴史的基準からみても、大恐慌以来、最大かつ最も大胆と呼べる政策を打ち出しています。

 

ワシントンが状況を理解していることは明らかです。もちろん、政策の実行に関して意見の対立はあるでしょう。しかし、議会の中に、この問題は重要であり、政府の対応が必要だということに異議を唱える議員はいないと思われます。

 

 

問:現在の状況には、引き続き数多くの不確定要素があると思われます。現時点で、PIMCOの見通しに対して、どういったリスクがあるでしょうか。リスクは回復が予想よりも早まる方向に傾いているのでしょうか。あるいは、予想よりも遅れる方向に傾いているのでしょうか。現在のリスク分布をどのようみているのかをご説明下さい。

サイモン:私は回復に予想以上に時間がかかるリスクの方が大きいとみています。政府があらゆる手を尽くして景気刺激を図っても、1990年代の日本のように、経済が長期にわたり低迷から脱すことができない可能性が考えられます。最終的に、消費者が財布の紐を緩め、住宅やさまざまな商品を購入することが必要であり、それが雇用を生み出すことになります。

 

今回の危機により、多くの人々が精神面で打撃を受けました。人々は自らが富を手にしたと考えていました。しかし、その富の源泉は住宅にあり、脆くも消え去ってしまいました。相対的にみると、影響が狭い範囲にとどまったNASDAQバブルと異なり、米国には7,000万人の住宅保有者が存在します。だからこそ、この住宅を通じた富の喪失は米国経済全体で実感されているのです。

 

 

住宅市場とモーゲージ市場でみられるこうしたトレンドは、PIMCOの運用見通しにどのような影響を与えているのでしょうか。MBSについては、依然として価格水準が魅力的とみているのでしょうか。ビル・グロースは自身のMBS購入は一定水準で落ち着いていると言っています。

サイモンPIMCOきわめて高い水準で一定のMBS購入を続けています。PIMCOがモーゲージ債を強く選好していることに変わりはありません。政府が保証するMBSや、政府が明示的に支援しているMBSは、特にリスク特性が似ている米国債と比較して、依然としてきわめて割安であると考えています。政府系MBSは対米国債でも、対スワップでも優れた投資価値があり、投資家に対して最高水準のリスク調整後リターンをもたらすと考えられます。


PIMCOの政府系MBS投資は今後の景気動向や住宅市場の成り行きに依存したものではなく、クレジット投資でもありません。つまり、PIMCOは住宅市場の好転、あるいは急激な悪化を見込み、それを前提に投資している訳ではないということです。現在、PIMCOは政府によるさまざまな対策を追い風にできる運用戦略を多く採用していますが、基本的にMBSでもそれは変わりありません。

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