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先週、世界各地からPIMCOのスタッフがカリフォルニア州ニューポートビーチに集い、年に一度の長期経済予測会議が開催されました。活発な議論が交わされ、数多くの参加者が心待ちにしているこの会議は、PIMCOの長期的な運用の位置づけを左右します。具体的に言うと、この会議ではPIMCOの長期(3~5年)展望が定義され、これが四半期に一度の短期経済予測会議や週に4回開催されるインベストメント・コミッティーの会合で得られる、より頻度の高い運用分析の指針となります。 今年の会議はかなりの困難に直面しました。世界各地から参加者がやってくるため、新型インフルエンザのリスクへの対応が必要でした。そこで、これほど多くの参加者が2日半にわたり、1つの会場に集うことの是非を事前に十分討議した上で、きわめて不透明な経済面、金融面、社会面、政治面の状況を読み解く困難な作業に取りかかりました。
しかし、3月にPIMCOがお客様向けに開催したイベントにおいて、ご参加いただいた皆様にビル・グロースが申し上げた通り、「難しい課題に正面から取り組むのがPIMCOの流儀です」。この会議に参加した全員が個人としても、全体としても、長期見通しとその潜在的な変動レンジを定義づける、多くの不確定要素に積極的に取り組み、整然と対応することができました。
言うまでもなく、参加者の多くは事前に分析を行い、自らの考えを携えて、この議論に臨みました。結局、最近の動向で特徴的であったのは、これまで市場におけるさまざまな関係を固定してきた各種の要因が、かつてない変動を見せたことでした。世界は新たな目的地に向かう厳しい道を進んでいる最中であるとするPIMCOの見解を耳にされた読者もいることでしょう。PIMCOはこの新たな目的地を「ニュー・ノーマル」と名付けました。数年前、ビル・グロースが考案した「安定的不均衡」やポール・マカリーの「シャドー・バンキング・システム(影の銀行システム)」と同様に、この「ニュー・ノーマル」という考え方も、政策当局や市場参加者の間で徐々に市民権を得つつあります。
この背景には、市場や家計、制度、公共政策における最近の急激な変化は、向こう数年間で全てが元の状態に戻る訳ではないとする認識の高まりがあります。世界経済はしばらくの間、低調な状態が続き、失業は高水準になり、複数のセクターで、政府の強い影響力が顕著になることでしょう。グローバル・システムの中核は以前ほどの密接性はなくなり、アングロ・サクソン・モデルの求心力が低下するに伴い、金融がかつてのように、脱工業化経済において傑出した役割を担うことは期待できなくなります。さらに、時間経過と共に、ソブリン・リスクとインフレ期待の上昇、そしてスタグフレーション方向にリスク・バランスは傾くことになるでしょう。おや、若干先を急ぎすぎたようです。結論の前に、さらにいくつか申し上げる点があります。
先ほども申し上げた通り、参加者は事前に分析を行い、自らの考えをもって、この議論に臨みました。したがって、見識豊かな外部の方々の見方をお伺いし、それぞれの考えを検証することが一層重要になります。それゆえ、以前からの伝統を踏襲し、今年も外部の有識者をお招きし、それぞれのお考えと先見的な分析をお聞かせいただきました。そして、彼らは期待を裏切りませんでした。
ウィレム・ブイター教授:イングランド銀行金融政策委員会委員、欧州復興開発銀行チーフ・エコノミストなどを経て、現在、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス欧州研究所欧州政治経済担当教授。
ピーター・コステロ下院議員:元オーストラリア財務長官。財務長官としての任期は豪史上、最長(1996~2007年)。自由党副代表。
ウィリアム・ホワイト博士:国際決済銀行元経済アドバイザーおよび金融経済局局長
ファリード・ザカリア氏:ベストセラー作家であり、ニューズウィーク誌インターナショナル版編集者。CNNの番組『Fareed Zakaria GPS』で司会を担当。
お招きしたウィレム・ブイター氏、ピーター・コステロ氏、ビル・ホワイト氏、ファリード・ザカリア氏のご意見を伺ったことにより、PIMCOのスタッフによる議論は一層実り豊かなものになりました(各氏の略歴は次のページを参照)。また、グリーンスパン前FRB(米連邦準備理事会)議長とノーベル賞経済学賞受賞者のマイケル・スペンス教授には、今年も会議に同席していただき、それぞれのお考えや見解を聞かせていただきました。また、同じく幅広く意見を募るという観点から、才能豊かな新卒MBAグループによる分析が披露されました。彼らはそのPIMCO入社以前の経験が色濃く反映された考え方を議論に提供してくれましたが、実に、見事な分析でした。
状況分析
第二に、前回の長期経済予測会議以降、9月中旬に発生したリーマン・ブラザーズ破綻に伴う混乱を経て、世界の経済と市場はエコノミストが「突然の停止」と呼ぶ事態に見舞われたとの認識です。長期経済予測会議には、大量のデータが掲載された資料が用意されましたが、そのすべてのセクションが、突如として発生したこの「心停止」の深刻さを如実に示しており、必然的に基礎的な被害の根深さとその持続期間に関する疑問を呼ぶことになりました。
第三として、最近のさまざまな出来事により、債務削減の動きは長期的な影響を持つ、広範囲にわたる現象に拡大したとの判断があります。この現象を、ビル・グロースは先日発表したInvestment OutlookでDDRと称しました。これはレバレッジ削減(De-leveraging)、ディグローバリゼーション(De-globalization、グローバル化の後退)、規制強化(Re-regulation)の融合が自己増強していくことを意味した言葉であり、この強力な組み合わせは必然的に、経済面と政治面から、市場と世界経済の正常な機能に障害をもたらすことになります。
こうした諸要因が一体となり、ほぼすべての経済の根幹に予期せぬ強力な一撃を加えたのです(チャート1および2を参照)。ダメージを受けた経済のほとんどは現在でも呼吸を整えようと床に横たわったままです。実際、お招きしたゲストの一人が指摘された通り、もしあなたが世界経済そのものであったなら、ここから新たな歩みを開始したいとは思わないでしょう。しかし、以前の状態に戻ることもできないのです。
世界経済の状態をそのまま放置したとしたら、より苦痛を伴う浄化プロセスが起きていたことでしょう。失業は現在よりも高水準となり、破綻する企業や機関は増え、国内的にも国際的にも、より多くの市場セグメントが機能を停止していたことでしょう。
民主的に選出された政府は、有権者である国民がこうした状況に直面すると、それを黙って見過ごすことができません。政治的な信条とはほぼ関係なく、さらに重要なことには政府が状況を的確に判断し、適切な対応手段を持っているかどうかにかかわらず、政府は否応なく、公共の福祉に対する被害の拡大に対処せざるを得ない状況に追い込まれることになります。この過程で、政府は従来とは異なる対応に活路を見出すことになります。そうした対応は定義上、有効性が証明されておらず、いくつかの長期的な関係に障害を生じさせることになります。これを膨大な数の患者に対して実施される経済的治験と考えると、この薬品を使う根拠はあるものの、その効果や効果を発現するまでの時間や、副作用については依然としてかなり不透明です。
各国政府による最近の介入は、その規模の大きさや対象範囲の広さの点で、異例と呼べるものですが、別の対応が取られていた場合、さらに悪い結果を招いていた可能性が高いと考えられます。それでも、特にIMFにおいて、制度金融や物価統制、輸入代替、産業政策などの分野のさまざまな試みに関わった経験を持つ私のような人間の目には、公的部門が特定の市場における支配的な価格決定者になることが好ましくは映りません。そして、通常であれば民間企業の手に完全に委ねられており、本来そうあるべき生産と取引、流通の一部を政府が保有・管理していることは、さらに好ましくないと考えられます。また、公的部門が信用の供給と配分の主たる役割を担っていることも混乱を招きかねません。
グローバル・システムの初期環境と政府による強力な投薬治療を考えると、PIMCOの長期経済予測会議において参加者の知恵を集約して分析すべき最大の課題は、この「床から起き上がる」プロセス、つまり経済の底入れと回復の過程が長期的にどのように進行するのかを見出すことでした。これは同時多発的に起きるのでしょうか、それとも逐次的に起きるのでしょうか。底入れを果たした国は他国の底入れと回復を助けるのでしょうか、それとも、他国の状況を一層悪化させることになるのでしょうか。そして、底入れを果たした経済が再起するにはどれだけの時間が必要になるのでしょうか。
このプロセスにおいて、会議では必然的に、以下のような複合的要因がどのようにバランスをとっていくのかについて、話し合うことになりました。
今後の動向PIMCOではこのような判断に対し、常にきわめて高いハードルを適用していますが、それでも、向こう数年間のうちに反転する見込みが低いと考えられる形で世界が変化したことは明らかでした。別の言い方をすると、市場は実際に負った循環的ダメージよりもはるかに強いショックからの回復途上にあるということです。 これは単に、金融システムの大規模な再編成や、市場の機能不全を補完するための政府による介入の大きさだけについての判断ではありません。また、システム上、重要なほぼ全ての国において、財政赤字と政府債務の大幅な増加が見込まれることに留まるものでもありません。(そして債務動向の大幅な悪化を反転させるために必要なプライマリー・バランスの黒字化に対し、信頼に足る形であらかじめコミットできる国はほとんどありません。) これは国内的および国際的な貯蓄の活用と配分における構造変化に関する問題でもあります。また、公的部門と民間部門のバランス・シフトの問題でもあります。さらに、契約義務や財産権の尊厳、法の支配、資本構造の安定性など、市場システムの基礎的なパラメーターに対する信頼低下の影響が、長期間持続する可能性についても無視することはできません。信頼を失うことは容易ですが、その回復には長い時間が必要になります。 結果的に、市場では当然と考えられてきた特定の概念が長期にわたり通用しなくなり、場合によっては劇的に反転することになります。会議ではこれを、民間レバレッジ、資産と信用を基盤とした権利、自己規制、政策の軽減、政府の直接的関与の縮小に彩られた「偉大なる時代」の終焉と呼びました。私物化された利益と社会化されつつある損失の規模からすると、この終焉が大衆の怒りと困惑、そしてゲストの一人が世界中の議会における「道徳劇」と呼ぶ事態が進行する中で起きていることに、意外性はありません。 但し、世界経済に防御手段がないと言っている訳ではありません。防衛手段はあります。政策当局は大恐慌の再現を回避することに全力を挙げて取り組んでいます。長期的な生産性上昇をもたらす力と企業家精神にあふれたダイナミズムは消えません。そして、経済面、社会面での高い柔軟性と高度な自家保険、そして世界的な政策協調も見られます。 こうした要因がデフレ的な恐慌に陥るリスクの軽減に寄与することは間違いありません。しかし、2002年から2007年に見られたような高成長・低インフレ局面への回帰を実現させられるだけの力はありません。単純にいうと、世界経済が同時に持続性のある回復を実現させるには、需要のバッファーと即効性のある構造改革が不足しているということです。 それゆえ、PIMCOはこの金融危機をグローバル・システム内部で発生した危機でなく、このシステム自体の危機と位置づけました。内生的なサーキットブレーカーが存在しないため、このシステムが短期間で、恒久的変化なしに修復されることはありません(たとえそれが可能であったとしても、そうすべきでないという意見もあるでしょう)。直近まで続いてきた「正常な状態」に強く慣らされている市場には、これが「ニュー・ノーマル(新たな正常)」であると感じられるはずです。特に、過度に強い旧態依然とした考え方から抜け出せない人々にとって、これは強いショックになるでしょう。 ニュー・ノーマル向こう3~5年について、PIMCOは経済成長が低調となる中、G3から、中国を始めとするシステム上、重要なエマージング諸国へのシフトが続くと予想しています。また、公的部門が民間部門に属する財の提供者として、長く居座ることになります(講演者の一人が指摘した通り、民間部門が公共財を提供する世界から、公的部門が民間材を提供する世界へと変化したのです)。また、中央銀行と財務省にとっては最近導入した緊急的手段の一部を円滑に解除することが困難になるでしょう。これは短期的な政策的要請が中期的な目標と著しく相反する英国や米国で特に問題になります。 銀行システムは見る影もなくなり、形態と範囲、双方の点で規制が強化されるため、銀行セクターではリスクとレバレッジが引き下げられ、さらに多くの負担共有が求められることになります。統合と縮小の力は銀行の垣根を越えて拡がり、銀行以外の金融機関や資産運用業界の多くに影響を与えるでしょう。 このニュー・ノーマルの世界でインフレはどのような動きを見せるでしょうか。世界的需要の深刻な落ち込みと、その結果として発生した大規模な需給ギャップを考えると、インフレが近い将来、急激に上昇する可能性は現時点では低いでしょう。世界的需要のうち、民需部分が短期間で完全に回復することはありません。但し、視点を短期から長期へと変えると、注目すべき対象は需要だけではなく、供給も重要になります。 向こう数年間、潜在成長率の伸びが従来のペースを達成できないいくつもの要因が浮上することでしょう。過剰な規制、増税、政府による介入は、(非インフレ的な)潜在成長率の伸びを圧迫する代表的要因となります(ラミン・トルーイが作成したチャート3はこのプロセスを概念化したものです)。当面の間、投資活動は抑制されるため、資本ストックの減耗ペースが上昇するでしょう。また、特に2004~2007年の信用バブル期に、レバレッジを基盤とした経済活動の拡大に持続性があると、人々を誤解させた内生的な信用創出も失われています。 今年の会議で最も白熱したのは、ニュー・ノーマルにおけるインフレの動きを決定づけるもう1つの側面に関する議論でした。それは、米国当局が実施したきわめて大規模な財政面および金融面での景気刺激により、米国が諸外国に提供してきた公共財、すなわち、世界唯一の準備通貨としてのドルに対する信頼と、過剰貯蓄を仲介できる厚みと高い予測可能性を併せ持った金融市場に対する信頼が損なわれるかどうかです。 米国の力は弱まっており、ドルや金融市場といった公共財を提供することで手にしてきた「暗黙の地代」ともいえる利益の減少を受け入れる余裕はありません。そのような事態になれば、インフレは最近の歴史が示すよりもはるかに早い段階で上昇することになります。さらに、米国は長期的に、経済面および金融面の先行きを制御する力を失うことになり、経済学者の言う「小規模開放経済」の特徴を徐々に備えることになります。米国だけでなく、その他のほとんどの国にとって、こうした可能性は根本的に歓迎できないものです。地域機関や多国籍機関はもちろんのこと、こうした国々にはグローバル・システムの中心で責任を果たす能力はなく、その意思もありません。 ニュー・ノーマルでは、ボトムアップの諸問題がトップダウンのテーマと激しく拮抗することになります。脱産業化局面の繁栄を膨張し続ける金融システムに依存し、自由化と規制緩和により構成される神秘的なアングロ・サクソン・モデルの求心力は低下しました。しかし、現段階で、これに代わる他のモデルはありません。そのために発生する部分的な空洞により、各国の状況は近年の姿とは異なったものになることでしょう。 次のような形が考えられます。 低成長と最終的にはインフレ・バイアスに向かう中、米国においては金融再生が起きると予想されます。 英国も低成長から抜け出せず、さらに国内および国外の金融の不安定さに対する脆弱性が一層高くなるでしょう。 欧州主要国も歴史的なインフレ恐怖症とEUの統合性に対する懸念が影響し、低成長となるでしょう。 日本は財政面と人口面で大きな問題を抱えているために、引き続き経済成長に対して逆風が吹くでしょう。 エマージング諸国ははっきりと2つのグループに分かれることになります。一方のグループは初期環境が脆弱で、緊縮政策と金融不安が交互に入れ替わる旧来の新興市場パラダイムに回帰することになります。これに対し、初期環境が良好なグループは近年に比べて若干減速するものの、急激な発展段階が持続することでしょう。 リスク・シナリオこうした要素は長期投資に関して、興味深い疑問を投げかけてきます。長期的に見た場合、世界的な低成長は一層好ましくないスタグフレーションへと変貌するのでしょうか。現在、通常よりも広い年限を対象に、実質金利の抑制を図っている複数の中央銀行の取り組みは、インフレ期待の上昇とソブリン・リスク・スプレッド拡大の闇に屈服し、崩れ去ってしまうのでしょうか。 現在、この変貌はPIMCOの長期的基本シナリオに対する重大なリスクとなっています。しかし、残念なことに、「リスク・バランス」が下ぶれ方向に傾いている状況は他にも見られます。 2度の大戦の狭間の時代に経済的議論で主導的役割を果たし、現在も多くの政策当局者に影響を及ぼしていることが明らかなジョン・メイナード・ケインズは次のように語ったと言われています。「事実が変化すれば、私の見方も変わる。あなたはどうなさいますか」。この精神に則り、今後数ヵ月間、PIMCOが注意深く見守ってゆく他のリスク要因について、紹介しましょう。 第一に、政治がきわめて重要になります。向こう数ヵ月間、経済的な望ましさよりも政治的な実現性が経済政策対応をほぼ決定づけることになります。グローバル・システムの脆弱性を考えると、世界は新たな政策的失敗と政治的な視界不良を容認することができません。保護主義的対応は特に有害であり、他の国の貯蓄の信頼できる管理者としての米国のイメージが損なわれることになります。 政治的側面は向こう数ヵ月に限られるわけではありません。その先には、緊急流動性をシステムから吸収するために政治的なコミットメントが必要になりますが、米国、そして特に英国では、失業を減らすことに対する圧力が高まる中でトレンド成長率の低下に直面する可能性が高く緊急流動性の吸収は困難な作業になります。近年の実績が物語るように、各国政府は長期的な利益のために短期的な犠牲を強いることに消極的です。 第二のリスク要因は、市場(そして社会全体)の健全な機能が一連の暗黙の契約に左右されることです。この契約をPIMCOの新卒MBAは社会契約と称しました。緊急事態では珍しいことではありませんが、こうした契約は重大なショックに晒されています。多くの人々にとって主たる行動の拠り所となっているパラメーターのうち、不安にさせるほど多数が不確定なものになっています。常態を回復するまでに要する時間が長くなるほど、金融不安が繰り返されるリスクも高まります。 第三に、先進国において公的債務管理が細心の注意を要するようになるでしょう。公的債務の金額は今後、ストック、フロー双方ともきわめて巨額になります。米国の発行済み債務の平均残存期間が過去25年間で最も短い、すなわち最も脆弱であるというという事実を含め、現在の状況は楽観を許さないものです。また、今後数年の間には、依然として資金手当ての目処が立っていないきわめて巨額の支出(社会保障と高齢者向け医療保険)が予算に強く影響し始めることも忘れてはなりません。 第四に、FRBや、FRBほどではないにせよFDIC(米連邦預金保険公社)などの主要経済機関の独立と使命がさらに損なわれることがあれば、それは深刻な問題となります。政府はこうした機関に対し、透明性の不十分な財政活動を課して予算プロセスに組み込み、政府の支配を強めようとする誘惑を断ち切らなくてはなりません。この点について、歴史が残した教訓は明確です。主要機関の弱体化は多くの市場でリスク・プレミアムの上昇を招くことになります。 第五として、PIMCOの控えめな世界景気予想の上でも、本質的に困難であり、時間的不調和である大きな課題に直面するであろういくつかの重要なバトンタッチが想定されています。前述の通り、PIMCOは一部の主要新興国、特にブラジル、中国、インドで堅調な経済成長が持続し、それがG3および英国の低成長を部分的に相殺する役目を果たすと仮定しています。また、こうした国々の成長は、拡大するミドルクラスによる消費の大幅な拡大によって、牽引されると想定しています。 投資における意味 今回の長期経済予測会議は、参加者に考え抜くことを求めるプロセスとなりましたが、投資の長期的な位置づけを始め、商品設計や顧客サービス、ビジネス・マネジメントにわたるまで、数多くの戦略的なアイデアがここから生み出されました。 長期的な運用の指針としては、基調として多くの国のイールドカーブの短期セクター(当局がマイナス実質金利を長く維持するため)と、インカムを生み出す商品(こうした商品は純粋な株式プレミアムに勝ると見込まれるため)、そして脱米国に象徴されるような、よりグローバルな投資指向(米国はソブリン・リスクの水準変更が見込まれる上、高水準のインフレ期待が復活すると予想される)を選好します。具体的には以下のような戦略が考えられます。 国内外における拙劣なバトンタッチに付随して繰り返し発生することが見込まれるアノマリーを活用すること。 これまで以上に国際的な観点、つまり米国中心的な考えから離れた見方を重視しつつ、経済的構造と資本構成上位のクレジット・スプレッドを選好すること。 多くのリスク要因や市場のプレミアムに、契約の絶対性や資本構成、主要経済機関の独立が脅かされる局面の到来が、恒久的とも思われる形で反映されるようになることを忘れないこと。 他通貨に対するドルの下落幅以上に、実物資産に対するドルの下落が大きくなる可能性があることを踏まえた上で、最終的にドル安が再燃することに備えたポジションを取ること。 株式のリスク・プレミアムには劣後に対する懸念の恒久的な高まりが反映されるようになることを忘れないこと。 向こう数週間、世界各地に配置されたPIMCOのスペシャリスト・デスクは個別の戦略や資産クラス、商品にとって、こうした要素がどのような意味を持つか、評価する作業を進めることになります。 結論市場は平均回帰するでしょうが、この平均は近年のそれとは大きく異なったものになるでしょう。元の状況と比較して、金融システムではレバレッジ水準が低下し、ディグローバリゼーションと規制強化が進むでしょう。先進工業国から新興国経済へと向かうダイナミズムの循環が続いているにもかかわらず、世界経済の成長率は低下し、失業は増加します。多くの市場で、政府の直接介入の負の遺産や一部のケースではそうした介入の持続が、価格形成に影響を与えます。負担共有はより顕著になり、経済分野おける政府の影響力の拡大を特徴的に示す要因となります。 過去をすぐに忘れること(そしてそれに関連したインフラと行動)で定評のある金融業界にとって、こうした状況はニュー・ノーマルと感じられることでしょう。リスクとリターンの構成が変化し、政府債務が急増し、資本構成は株式とシニア債務だけで構成される単純化されたストラクチャーに移行する可能性がある中、順応が求められます。ビジネス・モデルには修正が必要であり、投資運用手段は反応性と強固さを更に高める必要があります。 PIMCOがお客様からお預かり資産の運用を進めるにあたり、こうした問題は最重要課題となります。そこで、最後に、ボブ・ディランの曲「Forever Young(いつまでも若く)」の歌詞を紹介しましょう。これはお客様と共に、このニュー・ノーマルにつながる険しい道のりを進むPIMCOの歩みに影響を与えるシンプルな考え方を的確に表現できる曲です。 常に忙しくし、いつも走り続け足元を固めよう。風向きが変わるその時に。 ありがとうございました。 モハメド・エラリアンCEO兼共同CIO
これは単に、金融システムの大規模な再編成や、市場の機能不全を補完するための政府による介入の大きさだけについての判断ではありません。また、システム上、重要なほぼ全ての国において、財政赤字と政府債務の大幅な増加が見込まれることに留まるものでもありません。(そして債務動向の大幅な悪化を反転させるために必要なプライマリー・バランスの黒字化に対し、信頼に足る形であらかじめコミットできる国はほとんどありません。)
これは国内的および国際的な貯蓄の活用と配分における構造変化に関する問題でもあります。また、公的部門と民間部門のバランス・シフトの問題でもあります。さらに、契約義務や財産権の尊厳、法の支配、資本構造の安定性など、市場システムの基礎的なパラメーターに対する信頼低下の影響が、長期間持続する可能性についても無視することはできません。信頼を失うことは容易ですが、その回復には長い時間が必要になります。
結果的に、市場では当然と考えられてきた特定の概念が長期にわたり通用しなくなり、場合によっては劇的に反転することになります。会議ではこれを、民間レバレッジ、資産と信用を基盤とした権利、自己規制、政策の軽減、政府の直接的関与の縮小に彩られた「偉大なる時代」の終焉と呼びました。私物化された利益と社会化されつつある損失の規模からすると、この終焉が大衆の怒りと困惑、そしてゲストの一人が世界中の議会における「道徳劇」と呼ぶ事態が進行する中で起きていることに、意外性はありません。 但し、世界経済に防御手段がないと言っている訳ではありません。防衛手段はあります。政策当局は大恐慌の再現を回避することに全力を挙げて取り組んでいます。長期的な生産性上昇をもたらす力と企業家精神にあふれたダイナミズムは消えません。そして、経済面、社会面での高い柔軟性と高度な自家保険、そして世界的な政策協調も見られます。
こうした要因がデフレ的な恐慌に陥るリスクの軽減に寄与することは間違いありません。しかし、2002年から2007年に見られたような高成長・低インフレ局面への回帰を実現させられるだけの力はありません。単純にいうと、世界経済が同時に持続性のある回復を実現させるには、需要のバッファーと即効性のある構造改革が不足しているということです。
それゆえ、PIMCOはこの金融危機をグローバル・システム内部で発生した危機でなく、このシステム自体の危機と位置づけました。内生的なサーキットブレーカーが存在しないため、このシステムが短期間で、恒久的変化なしに修復されることはありません(たとえそれが可能であったとしても、そうすべきでないという意見もあるでしょう)。直近まで続いてきた「正常な状態」に強く慣らされている市場には、これが「ニュー・ノーマル(新たな正常)」であると感じられるはずです。特に、過度に強い旧態依然とした考え方から抜け出せない人々にとって、これは強いショックになるでしょう。
ニュー・ノーマル向こう3~5年について、PIMCOは経済成長が低調となる中、G3から、中国を始めとするシステム上、重要なエマージング諸国へのシフトが続くと予想しています。また、公的部門が民間部門に属する財の提供者として、長く居座ることになります(講演者の一人が指摘した通り、民間部門が公共財を提供する世界から、公的部門が民間材を提供する世界へと変化したのです)。また、中央銀行と財務省にとっては最近導入した緊急的手段の一部を円滑に解除することが困難になるでしょう。これは短期的な政策的要請が中期的な目標と著しく相反する英国や米国で特に問題になります。
銀行システムは見る影もなくなり、形態と範囲、双方の点で規制が強化されるため、銀行セクターではリスクとレバレッジが引き下げられ、さらに多くの負担共有が求められることになります。統合と縮小の力は銀行の垣根を越えて拡がり、銀行以外の金融機関や資産運用業界の多くに影響を与えるでしょう。 このニュー・ノーマルの世界でインフレはどのような動きを見せるでしょうか。世界的需要の深刻な落ち込みと、その結果として発生した大規模な需給ギャップを考えると、インフレが近い将来、急激に上昇する可能性は現時点では低いでしょう。世界的需要のうち、民需部分が短期間で完全に回復することはありません。但し、視点を短期から長期へと変えると、注目すべき対象は需要だけではなく、供給も重要になります。
向こう数年間、潜在成長率の伸びが従来のペースを達成できないいくつもの要因が浮上することでしょう。過剰な規制、増税、政府による介入は、(非インフレ的な)潜在成長率の伸びを圧迫する代表的要因となります(ラミン・トルーイが作成したチャート3はこのプロセスを概念化したものです)。当面の間、投資活動は抑制されるため、資本ストックの減耗ペースが上昇するでしょう。また、特に2004~2007年の信用バブル期に、レバレッジを基盤とした経済活動の拡大に持続性があると、人々を誤解させた内生的な信用創出も失われています。
今年の会議で最も白熱したのは、ニュー・ノーマルにおけるインフレの動きを決定づけるもう1つの側面に関する議論でした。それは、米国当局が実施したきわめて大規模な財政面および金融面での景気刺激により、米国が諸外国に提供してきた公共財、すなわち、世界唯一の準備通貨としてのドルに対する信頼と、過剰貯蓄を仲介できる厚みと高い予測可能性を併せ持った金融市場に対する信頼が損なわれるかどうかです。
米国の力は弱まっており、ドルや金融市場といった公共財を提供することで手にしてきた「暗黙の地代」ともいえる利益の減少を受け入れる余裕はありません。そのような事態になれば、インフレは最近の歴史が示すよりもはるかに早い段階で上昇することになります。さらに、米国は長期的に、経済面および金融面の先行きを制御する力を失うことになり、経済学者の言う「小規模開放経済」の特徴を徐々に備えることになります。米国だけでなく、その他のほとんどの国にとって、こうした可能性は根本的に歓迎できないものです。地域機関や多国籍機関はもちろんのこと、こうした国々にはグローバル・システムの中心で責任を果たす能力はなく、その意思もありません。
ニュー・ノーマルでは、ボトムアップの諸問題がトップダウンのテーマと激しく拮抗することになります。脱産業化局面の繁栄を膨張し続ける金融システムに依存し、自由化と規制緩和により構成される神秘的なアングロ・サクソン・モデルの求心力は低下しました。しかし、現段階で、これに代わる他のモデルはありません。そのために発生する部分的な空洞により、各国の状況は近年の姿とは異なったものになることでしょう。
次のような形が考えられます。
リスク・シナリオこうした要素は長期投資に関して、興味深い疑問を投げかけてきます。長期的に見た場合、世界的な低成長は一層好ましくないスタグフレーションへと変貌するのでしょうか。現在、通常よりも広い年限を対象に、実質金利の抑制を図っている複数の中央銀行の取り組みは、インフレ期待の上昇とソブリン・リスク・スプレッド拡大の闇に屈服し、崩れ去ってしまうのでしょうか。
現在、この変貌はPIMCOの長期的基本シナリオに対する重大なリスクとなっています。しかし、残念なことに、「リスク・バランス」が下ぶれ方向に傾いている状況は他にも見られます。
2度の大戦の狭間の時代に経済的議論で主導的役割を果たし、現在も多くの政策当局者に影響を及ぼしていることが明らかなジョン・メイナード・ケインズは次のように語ったと言われています。「事実が変化すれば、私の見方も変わる。あなたはどうなさいますか」。この精神に則り、今後数ヵ月間、PIMCOが注意深く見守ってゆく他のリスク要因について、紹介しましょう。
第一に、政治がきわめて重要になります。向こう数ヵ月間、経済的な望ましさよりも政治的な実現性が経済政策対応をほぼ決定づけることになります。グローバル・システムの脆弱性を考えると、世界は新たな政策的失敗と政治的な視界不良を容認することができません。保護主義的対応は特に有害であり、他の国の貯蓄の信頼できる管理者としての米国のイメージが損なわれることになります。
政治的側面は向こう数ヵ月に限られるわけではありません。その先には、緊急流動性をシステムから吸収するために政治的なコミットメントが必要になりますが、米国、そして特に英国では、失業を減らすことに対する圧力が高まる中でトレンド成長率の低下に直面する可能性が高く緊急流動性の吸収は困難な作業になります。近年の実績が物語るように、各国政府は長期的な利益のために短期的な犠牲を強いることに消極的です。
第二のリスク要因は、市場(そして社会全体)の健全な機能が一連の暗黙の契約に左右されることです。この契約をPIMCOの新卒MBAは社会契約と称しました。緊急事態では珍しいことではありませんが、こうした契約は重大なショックに晒されています。多くの人々にとって主たる行動の拠り所となっているパラメーターのうち、不安にさせるほど多数が不確定なものになっています。常態を回復するまでに要する時間が長くなるほど、金融不安が繰り返されるリスクも高まります。
第三に、先進国において公的債務管理が細心の注意を要するようになるでしょう。公的債務の金額は今後、ストック、フロー双方ともきわめて巨額になります。米国の発行済み債務の平均残存期間が過去25年間で最も短い、すなわち最も脆弱であるというという事実を含め、現在の状況は楽観を許さないものです。また、今後数年の間には、依然として資金手当ての目処が立っていないきわめて巨額の支出(社会保障と高齢者向け医療保険)が予算に強く影響し始めることも忘れてはなりません。
第四に、FRBや、FRBほどではないにせよFDIC(米連邦預金保険公社)などの主要経済機関の独立と使命がさらに損なわれることがあれば、それは深刻な問題となります。政府はこうした機関に対し、透明性の不十分な財政活動を課して予算プロセスに組み込み、政府の支配を強めようとする誘惑を断ち切らなくてはなりません。この点について、歴史が残した教訓は明確です。主要機関の弱体化は多くの市場でリスク・プレミアムの上昇を招くことになります。
第五として、PIMCOの控えめな世界景気予想の上でも、本質的に困難であり、時間的不調和である大きな課題に直面するであろういくつかの重要なバトンタッチが想定されています。前述の通り、PIMCOは一部の主要新興国、特にブラジル、中国、インドで堅調な経済成長が持続し、それがG3および英国の低成長を部分的に相殺する役目を果たすと仮定しています。また、こうした国々の成長は、拡大するミドルクラスによる消費の大幅な拡大によって、牽引されると想定しています。
投資における意味
長期的な運用の指針としては、基調として多くの国のイールドカーブの短期セクター(当局がマイナス実質金利を長く維持するため)と、インカムを生み出す商品(こうした商品は純粋な株式プレミアムに勝ると見込まれるため)、そして脱米国に象徴されるような、よりグローバルな投資指向(米国はソブリン・リスクの水準変更が見込まれる上、高水準のインフレ期待が復活すると予想される)を選好します。具体的には以下のような戦略が考えられます。
向こう数週間、世界各地に配置されたPIMCOのスペシャリスト・デスクは個別の戦略や資産クラス、商品にとって、こうした要素がどのような意味を持つか、評価する作業を進めることになります。
結論市場は平均回帰するでしょうが、この平均は近年のそれとは大きく異なったものになるでしょう。元の状況と比較して、金融システムではレバレッジ水準が低下し、ディグローバリゼーションと規制強化が進むでしょう。先進工業国から新興国経済へと向かうダイナミズムの循環が続いているにもかかわらず、世界経済の成長率は低下し、失業は増加します。多くの市場で、政府の直接介入の負の遺産や一部のケースではそうした介入の持続が、価格形成に影響を与えます。負担共有はより顕著になり、経済分野おける政府の影響力の拡大を特徴的に示す要因となります。 過去をすぐに忘れること(そしてそれに関連したインフラと行動)で定評のある金融業界にとって、こうした状況はニュー・ノーマルと感じられることでしょう。リスクとリターンの構成が変化し、政府債務が急増し、資本構成は株式とシニア債務だけで構成される単純化されたストラクチャーに移行する可能性がある中、順応が求められます。ビジネス・モデルには修正が必要であり、投資運用手段は反応性と強固さを更に高める必要があります。 PIMCOがお客様からお預かり資産の運用を進めるにあたり、こうした問題は最重要課題となります。そこで、最後に、ボブ・ディランの曲「Forever Young(いつまでも若く)」の歌詞を紹介しましょう。これはお客様と共に、このニュー・ノーマルにつながる険しい道のりを進むPIMCOの歩みに影響を与えるシンプルな考え方を的確に表現できる曲です。 常に忙しくし、いつも走り続け足元を固めよう。風向きが変わるその時に。 ありがとうございました。 モハメド・エラリアンCEO兼共同CIO
過去をすぐに忘れること(そしてそれに関連したインフラと行動)で定評のある金融業界にとって、こうした状況はニュー・ノーマルと感じられることでしょう。リスクとリターンの構成が変化し、政府債務が急増し、資本構成は株式とシニア債務だけで構成される単純化されたストラクチャーに移行する可能性がある中、順応が求められます。ビジネス・モデルには修正が必要であり、投資運用手段は反応性と強固さを更に高める必要があります。
PIMCOがお客様からお預かり資産の運用を進めるにあたり、こうした問題は最重要課題となります。そこで、最後に、ボブ・ディランの曲「Forever Young(いつまでも若く)」の歌詞を紹介しましょう。これはお客様と共に、このニュー・ノーマルにつながる険しい道のりを進むPIMCOの歩みに影響を与えるシンプルな考え方を的確に表現できる曲です。
常に忙しくし、いつも走り続け足元を固めよう。風向きが変わるその時に。
ありがとうございました。
モハメド・エラリアンCEO兼共同CIO
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