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PIMCOは年に一度、世界に配置した投資プロフェッショナルを招集し、向こう3~5年間の経済見通しと運用戦略を策定する長期経済予測会議を開催しています。今回のインタビューでは、今年の長期経済予測会議で得られた結論について、モハメド・エル・イーリアンがご説明いたします。
問:先日開催されたPIMCOの長期経済予測会議の主な背景と議論の要点について、説明してください。
エル・イーリアン:長期経済予測会議は長年にわたり、PIMCOの発展を支えてきた根幹ともいえるものです。毎年5月、グローバルに展開するPIMCOの運用プロフェッショナルが一堂に会して、3日間にわたり、幅広いテーマについて活発な議論が行なわれます。当初2日間は外部からお招きした専門家の講演を聴き、3日目の会議の冒頭ではMBA卒の新入社員によるプレゼンテーションが行なわれます。この後、さまざまな問題について活発な議論が行なわれ、最終的に3~5年間の経済の基本シナリオについて、検証可能な仮説と、その運用への示唆、そして今後の主要なリスク・シナリオを決定します。
この長期的な見方は、私のいう「ガードレール」になるものです。ここ南カリフォルニアでみかける7車線の高速道路を想像してみてください。長期経済予測会議はどのタイミングでどの車線を走るべきかを規定するものではなく、道路の終点がどこかを示すものであり、さらには、重要な点として、正しい道を進んでいるかどうかを確認する手だてとなるものです。それにより、この会議は運用の指針を提供すると共に、人気が集中した、持続性のない短期的取引に入り込んでしまう危険を未然に防ぐ役割を果たします。
今年の会議は次に挙げる2つの理由により、特に興味深いものとなりました。第一に、世界経済が長期的な再構成のただ中にあることを示す強力な証拠が見られることです。第二に、どんな場合でも、長期的な判断から短期的要因を切り離すことには困難を伴いますが、今年は特にそれが難しかったことです。これは昨年がウォール街の巨額損失や金融機関の破綻、従来とは異なる政策対応など、混乱に満ち、想像を超えた一連の出来事が発生した年となったためであり、こうした出来事の一部は長期的な影響を及ぼすことになるでしょう。
問:では、今年の長期経済予測会議では、どういった結論が得られ、どのように今後3~5年間の見通しが形成されたのでしょうか。
エル・イーリアン:PIMCOは長期的に、経済成長やインフレ、富、制度など、さまざまな側面でバトンタッチが進むと予想しています。ただし、このバトンタッチは必ずしも整然と進むとは限りません。そのため、適切な道を進むことが、適切な目的地を設定するのと同じくらい重要になります。
詳細について申し上げると、今年の会議では4つの検証可能な仮説が得られました。検証可能な仮説とは、今後3~5年間、PIMCOが予想した通りに事態が展開したかどうかを確認することが可能であり、予想と異なった場合には、その原因を究明できる仮説という意味です。
第一の仮説として、短期的にかなり強い逆風に晒されると見込まれるものの、長期的にみると、世界経済は全体として堅調な成長を続けると、PIMCOは予想しています。そして、この過程で、米国の個人消費を始めとする従来の成長の牽引役は、次々に経済の急激な発展段階を迎えているエマージング経済にバトンタッチされていくでしょう。
第二の仮説として、こうしたエマージング経済のシステミックな影響が世界的な生産と消費双方で感じられるようになると考えています。それゆえ、PIMCOは堅調なコモディティ価格、賃金率の上昇、そして先進国と発展途上国双方における一連の政策対応がインフレ圧力を押し上げることになると予想しています。言い換えると、世界経済の長期にわたるディスインフレ局面は幕を閉じ、インフレ圧力が上昇する局面に入りつつあると考えています。ここで注意していただきたいのは「インフレ」ではなく、「インフレ圧力」と申し上げていることです。この2つを区別することは重要です。第3の仮説として、PIMCOは絶対ベースでみても、労働者への配分との対比でも、企業収益の力強い伸びが終わりつつあり、この傾向は金融セクターを起点に、他のセクターにも広がると考えています。
そして、第4の仮説として、長期的な視点から、金融セクターの大規模な再構成があるとみています。その引き金を引くのは、ベア・スターンズ危機のさなかにワシントンで下された一連の危機管理判断であり、これは長期的な影響力を持つことになります。
問:PIMCOの長期経済見通しに昨年と変わった点はありましたか。
エル・イーリアン:長期経済見通しには、新たなデータを踏まえて変更が加えられました。実際、この1年間に発生したあらゆる出来事は、転換点に差し掛かっているというPIMCOの見通しを裏付けるものでした。過去数年にわたり、長期経済予測会議では、「安定的不均衡」というテーマが強調されてきました。これは世界的にみて、経済には巨大な不均衡が存在するものの、これまでにない状況により、この不均衡が一時的に安定しているように見えることを表現したものです。今年の会議では、昨年以降、安定から不安定への変化が起きつつあるとの認識を得ました。
過去の長期的運用テーマは、安定的不均衡から本当の不均衡へのシフトに備えたポジションを取ることでした。そのため、金利デュレーションが重視され、サブプライム・セクターなどを中心に、クレジット・リスクの最小化が図られました。この戦略はお客様のポートフォリオに大きく貢献してきました。
問:PIMCOの長期見通しの基礎となった、過去から現在に至る歴史的背景はあるのでしょうか。
エル・イーリアン:簡潔にいうと、世界経済では脆弱なセクターが順に資本再構成を迫られるプロセスが進行してきました。1997~2001年にはアジア危機とロシア危機が発生し、エマージング経済が資本再構成を迫られました。その後、2002~2003年にはエンロンとワールドコムの破綻により、企業セクターの資本再構成が生じました。現在は金融セクターが資本再構成を迫られており、今後数年以内には、消費者が資本再構成を余儀なくされることでしょう。つまり、PIMCOはこの一連の流れを、規律の欠如や過剰なレバレッジ、もしくは諸外国で発生した事態により、バランスシート外となったセクターをバランスシート内へと戻す、逐次的な資本再構成プロセスとみているということです。
PIMCOのみるところ、こうした資本再構成プロセスが起きるかどうかに疑問の余地はなく、問題はこうしたプロセスが秩序だったものとなるか、それとも混乱を伴うかです。こうした資本再構成が逐次的に発生しているということは、世界経済にとって良い材料です。なぜなら、こうした資本再構成が同時に発生したとすると、世界経済は立ち行かなくなると考えられるためです。
問:金融システムの資本再構成とその次に控える消費者の資本再構成はどのような形で展開していくと予想していますか。
エル・イーリアン:長期経済予測会議では米国の金融セクターについて、多くの議論が繰り広げられました。PIMCOはバランスシートの縮小が続くと共に、経済的所要資本と規制上の所要資本が引き上げられ、規制が強化されると考えています。
そして、金融セクターの後に、消費者の資本再構成が起きることになります。このプロセスの細部は、現在ワシントンで進められている取り組みにより、住宅市場がさらに大きく調整するリスクをどの程度縮小させられるかによって大きく変わることになります。住宅市場の動向はきわめて重要です。住宅価格は住宅在庫に強く影響します。さらに、差押えにより、該当物件の周囲の価格全体が必要以上に下落することにより、住宅保有者に住宅を放棄するインセンティブを与えることになり、混乱を伴う価格効果が生じます。こうした動きが行き過ぎた場合、きわめて深刻な調整が起きる可能性があります。
住宅は米国の消費者が保有する富の最大部分を占めるため、政府の政策が強制的売却や差押えにより加速する混乱を伴う価格下落を食い止めることができるかどうかに、多くのことがかかってきます。政策対応は消費者の資本再構成が秩序だった形で進行するか、混乱を伴うかの決め手となるものであるため、PIMCOは今後も政治の動きを注視していきます。
問:PIMCOの仮説に付随する主なリスクはどのようなものでしょうか。
エル・イーリアン:リスクの多くは、先ほどご説明したバトンタッチに世界経済の主要なセクターがどのように反応するかという観点から見ることができます。
第1の分野のリスクはバトンを受ける側のリスクです。ここには多くのエマージング市場国が含まれ、その中でも特に重要になるのは、世界経済に対する影響力が高まり、過去5年間で多くの注目を集めるようになった中国です。高成長国の中で、交易条件を自国に不利な方向に転換させたのは中国が初めてであるということを忘れてはなりません。中国はこれまで輸出品の価格を抑制してきましたが、中国が輸入しているコモディティの価格は急激に上昇しています。そこで重要になるのが、こうした状態がこのまま続くのか、それとも、PIMCOが予想するように、中国の政策が徐々にシフトしていくかです。
PIMCOはまた、成功を維持するのは容易ではないとの考えに基づき、リスク評価の分野でエマージング経済が直面する各国固有の要因があると考えています。インフレは広い範囲に影響を与え、その変化が決して平穏なものにならない問題の一例といえます。
このバトンタッチに付随する第3の分野のリスクは、金融面、貿易面、政治面など、世界的なシステム全体と、このシステムがこうしたすべての変化に対応できるかどうかに関連しています。具体的にいうと、世界的システムは中国の急激な経済発展に対応できるでしょうか。また、中国やロシアなどの国から米国に還流してくる余剰資金に対応できるでしょうか。格差には対応できるのでしょうか。そして、市場インフラ、すなわち金融市場の正常な機能に対する圧力と政治サイド対する圧力に対応できるのでしょうか。
問:先進国のリスクについてはどうでしょうか。
エル・イーリアン:先進国における主要なリスクの1つが保護主義です。PIMCOの長期的仮説の基盤を形成している変化やバトンタッチ、資本再構成はすべて、資本フローと貿易がもたらす潤滑効果に依存しています。保護主義はさまざまな形態を取りつつ、この潤滑効果を低下させ、秩序立った変化に対するリスクとなるものです。
また、米国に代表される赤字国では、貸し出し基準の厳格化、住宅価格の下落に伴う住宅純資産価値引き出しメカニズムの停止、エネルギー価格と食品価格の高騰、雇用の減少という、強まりつつある4つの逆風に、消費者がどのような対応を取るかが重要な問題となります。全体的に、米国が財政政策を拡大し、消費者のバランスシートに対する圧力は幾分緩和されるとの見方が有力です。しかし、政策当局が現在、財とサービスのインフレ、資産価格デフレ、景気減速同時に対応しなくてはならない、きわめて難しい局面に立たされていることも確かです。そのため、財政政策の対応が遅れ、FRBが引き続き孤軍奮闘せざるを得なくなる重要なリスクがあります。
また、長期経済予測会議では、気温変化や世界的不公平、地政学リスクなど、経済以外の要因についても話し合われました。
こうした要因もリスク要因です。こうした点をすべて検討した結果、このバトンタッチは中期的に上手く行くことを示す有力な証拠があるとの結論に達しました。しかし、その道のりは平坦なものではなく、市場では突発的な事態も発生するでしょうし、政治的な失策もみられることでしょう。
問:市場にとって、金融システムにおけるレバレッジは依然として重大なリスクといえるのでしょうか。
エル・イーリアン:会議ではレバレッジについて話し合われましたが、議論の多くは引き続き、「影の銀行システム」が今後どうなるかを中心としたものでした。この「影の銀行システム」とは、裏付けとなる資本が不十分なまま高水準のレバレッジを利用し、規制当局による高度な監視を受けない組織や動きをビル・グロースとポール・マカリーが称したものです。これまでに私たちが目にしてきたのは、影の銀行システムの一部における強制的なデレバレッジ(レバレッジの解消)であり、その原因となったのは、時価の変動と、昨年夏まで金融市場を支配していた、必要な物を、必要な時に、必要な量だけという「ジャスト・イン・タイム」のリスク・マネジメントの考え方に基づき、損失を最小化する必要性でした。
しかし、影の銀行システムの別の部分を占める、トリプルA格でありながら、その格付に値しない商品では、依然としてレバレッジの解消が進んでいません。今のところ、こうした商品が時価評価される頻度は少なく、格付機関の格付けアクションの発生頻度も多くありません。最終的に、こうした商品の再構成は、レバレッジ解消の継続と、新規資本の流入のせめぎ合いに左右されることになります。
長期的にみると、投資銀行にも連銀窓口貸出を開放した3月16日のFRBの決定などが原動力となり、金融セクターの再構成が進むと予想されます。FRBにとって、一度開放した連銀窓口を閉じることは困難です。それよりも、引き続き、貸出窓口の利用を認める代わりに、規制の強化や所要資本水準の引き上げを求めることになるでしょう。こうした例は過去にも見られました。
問:コモディティ価格の上昇を支えているものは何でしょうか。これは短期の循環的な動きなのでしょうか、それとも長期的な傾向でしょうか。
エル・イーリアン:PIMCOはコモディティについて分析する際、長期間にわたり持続する影響力と短期的なモメンタム効果を区別するようにしています。長期的な影響に関していうと、PIMCOはエマージング経済の成長により、コモディティの需要カーブがシフトしたと考えています。このシフトは持続的な効果を長きにわたって及ぼすものです。エマージング諸国は、豊かさが向上するに伴い、先進国の先例に倣い、予防的なストックの積み上げを図っていますが、これは超過的需要をさらに拡大させるものです。
この複合的状況は、足許のモメンタムに乗ろうとする買い手を引きつけ、また国や企業に対応を迫り、きわめて急激な価格変動をもたらす可能性があります。
つまり、現在、コモディティに対する需要の長期的なシフトが起きている一方、このシフトは今、申し上げた短期的な反応により、さらに鮮明になると共に、不安定なものになっているということです。
問:PIMCOは世界的な成長のバトンタッチ過程において、主要なプレイヤーの間でインフレ圧力がどのように配分されると考えているのでしょうか。また、短期的な見通しと長期的な見通しはどのように異なるのでしょうか。
エル・イーリアン:短期的な観点からみたインフレに対する認識は、世界のどの地域の視点に立つかによって変わります。米国についてみると、食料品とエネルギーといった一部の物品を除いたコア・インフレ率はほとんど上昇していませんが、ヘッドライン・インフレ率は上昇しています。しかし、エマージング経済と、特に固定為替相場制を採用している国においては、インフレは大幅に上昇しています。これに