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Secular Outlook
モハメド・エラリアン | 2008年5月

二都物語

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PIMCO2008年長期経済予測会議では、全世界から招集されたPIMCOのプロフェッショナルと、お招きした4名の素晴しいゲストの方々、そしてアラン・グリーンスパン氏により、3日間にわたって、白熱した議論が繰り広げられました。今年の会議を終えるにあたり、ビル・グロースから私に、この議論を一言でまとめる方法として、ディケンズの古典『二都物語』を使うのはどうだろうかという提案がありました。今思うと、彼のこの提案は適切なものだったのですが、恥ずかしながら、私はこの提案に対して、きちんと対応することができませんでした。

 

この会議の最後で述べた通り、私はこの有名な古典を読んだことがありませんでした。さらに悪いことに、この本に対する私の生半可な印象は、広く賞賛されるディケンズの作品の本質とその豊かさを表現しているかどうか疑問に思える、あるエピソードによって、強く影響を受けていました。

 

読者の中には、私の最も好きな1980年代のテレビドラマ・シリーズ『チアーズ』に、この『二都物語』が出てくるエピソードがあったことを覚えている方がいるかもしれません。私の記憶が確かだとすると、バーで働く1人の女性が、店での会話の知的水準を上げようとして、この本のグループ読みを企画します。しかし、彼女の試みは成功しませんでした。「それはおよそ善き時代でもあれば、およそ悪しき時代でもあった」。彼女がこの有名な書き出しを読み始めるや否や、周りから邪魔が入ります。バーにいた他の人々はこの一節を笑い飛ばし、口々にディケンズはひどく混乱していたに違いないと言い出すのです。その場を収めようとしたこのグループは、騒ぎにお構いなく先に進みます。「知恵の時代でもあれば、愚痴の時代でもあった。信念の時代でもあれば、不信の時代でもあった」。既に騒然としていたバーの雰囲気はこれでさらにおかしくなり、大騒ぎとなってしまうのでした。

さて、私は今回、外部からお招きしたゲストの方々(囲み参照)の卓越したご意見とMBA新卒のPIMCO社員のプレゼンテーションから得られた見解を踏まえて精力的に行なわれた、刺激に富む議論をまとめるという大役を仰せつかりました。この任はきわめて重要です。2年間、東海岸で過ごした間、私はハーバード大学とのビジネスを希望する数多くの運用マネージャーと会う機会がありました。この経験を通して、私は、新たな投資機会を察知するとともに、流行りの取引に誤ったタイミングで引きずり込まれてしまうリスクを低減する、規律ある長期プロセスを確立しているマネージャーがいかに少ないか、改めて知ることができました。

PIMCO2008年長期経済予測会議

ジョン・プレンダー氏:フィナンシャル・タイムズ紙の上級編集委員兼コラムニスト。氏の見識豊かなコラムと2003年に発表した著作(『Going Off the Rails - Global Capital and the Crisis of Legitimacy』)で氏が指摘した多くの傾向は世界的な市場にとって重大な意味を持っていたことが証明されました。

ラグ・ラジャン シカゴ大学教授:現実の世界における金融の動きを学問的な理論と融合させた教授のアプローチは高い評価を受けており、金融市場における規制上の取り組みとインセンティブ構造を分析する触媒の役割を果たしています。

マイケル・スペンス氏:2001年にノーベル経済学賞を受賞した氏は独立系の「成長と開発に関する委員会」(Commission on Growth and Development)の議長を務められるなど、この2年間、エマージング経済の成長動向に関する分析を積極的に進めておられます。

ナシーム・タレブ氏:ベストセラーとなった氏の著書『Black Swan』では、取り返しのつかないところまで行かない限り、誤りに対する疑問が生じないという、市場行動の一部の側面に備わる本質的な脆弱性に光をあてた氏の卓越した才能の片鱗が示されました。 

 

教養がないと思われてしまうことを承知の上で、最近ヒットしたディズニー映画『魔法にかけられて』に例えて、今回の長期経済予測会議における議論の中核部分をご説明しましょう(同時にこの映画が大好きな5歳の娘にいい所を見せてやろうという魂胆もあります)。この映画では、夢のような結婚を目前に控えたおとぎの国の美しいお姫様(ジゼル)に嫉妬した魔女が、このお姫様を底なしの魔法の井戸に突き落としてしまいます。この井戸が繋がっていた先はなんと現代のマンハッタンであり、ジゼルにとっては、マンハッタンで出会うものすべてが非友好的であり不快なものでした。しかし、時を経るに従い、ジゼルは自分のなすべきことを知るようになり、その後は紆余曲折を経て、最終的には別の場所に落ち着くけれども、幸せに暮らすというストーリーです。

 

世界経済もこのストーリーと同じような過程をたどっています。「大いなる安定」、そして「ゴルディロックス」というおとぎ話は、過剰なレバレッジと金融錬金術、甘いデューデリジェンス、抜け穴だらけの監視と規制といった要因が生み出す帰結に対する調整が必要という現実に取って代わられました。こうした要因については、ビル・グロースが過去何年間かのInvestment Outlookで的確に指摘してきました。そして、こうした変化の結果はジゼルが当初、マンハッタンで経験したように、決して愉快なものではなく、ウォール街の金融機関の巨額損失や市場でのアクシデント、そして必然的に繰り返し発生し、不完全なものとなってしまう政策と規制のいたちごっこなどが起きることになります。




この会議における重要なテーマとなったのは、こうした破壊性のある循環的要因が長期的な見通しにどの程度、悪影響を与えるかでした。世界経済はこの障害を乗り越え、紆余曲折を経て、最終的に異なる環境となっても、ジゼルのように平穏を取り戻すことができるのでしょうか。これに対して、PIMCOはこの過程と最終的な到達点の情勢に影響を与える付随的な要因が加わったものの、昨年の長期経済予測会議で得られた長期見通しが依然として有効であるとの答えを導き出しました。  


PIMCOの長期的展望

会議での議論はエコノミストのいう「初期条件」を明確に特徴付けるところから始まりました。米国の消費者や金融レバレッジ、そして立証されていない錬金術に長い間、大きく依存してきた世界的システムは袋小路に入ってしまいました。不均衡が大きくなり過ぎたため、債務に依存した経済活動は立ち行かなくなりました。そして、内部の流動性に新たな層を作り出し、十分な資本の裏付けがない経済活動を支えるこのシステムの能力は限界に達しました。今では、レバレッジの解消が重点となっており、このレバレッジ解消プロセスには必然的に破壊的なオーバーシュートとかなりの二次的被害を伴います。

 

持続性のある平静な状態を取り戻すため、世界的システムは(1)最近歩んできた道のりを一部引き返し、(2)新たな道を進むことが必要です。そのためには、赤字国と黒字国双方が、非常に適切な行動を取らなくてはなりません。また、そこには変化を受容できる世界的システム全体の能力も関係してきます。

 

会議では昨年の長期経済予測会議の結論を検証し、世界経済は向こう35年間、堅調な成長ペースを持続させる可能性が高いとの見方を再確認しました。現実に、米国は昨年よりも強い逆風と景気の循環的悪化局面に直面していますが、エマージング経済はまさに歴史的な脱皮段階をさらに強固なものとしており、世界経済の主要な成長原動力へと変貌する歩みを続けています。

 

また、インフレ圧力の高まりは長期的に続くとの見方も確認されました。すべてではないものの、かなりの部分が需要の拡大によって支えられたコモディティ価格の再形成はエマージング経済における賃金の上昇と、エマージング経済と先進国経済双方における大規模な社会的支出につながります。一般的に、また特に米国の観点からみた場合、国外要因に対するインフレの感応度はさらに高くなることでしょう。

 

この2つの要因は先進国における企業収益の長期的な上昇基調の転換に寄与することになります。さらに、金融セクターは資本増強とレバレッジ引き下げを組み合わせたバランスシートの強化にこれまでよりも多くの時間を割くことが必要になります。事実、PIMCOは最近の危機管理における一連の対応が、より一貫性のある長期的な対応へと姿を変えるに伴い、米国の金融システムでは根本的な再編があると予想しています。

 

FRBはベア・スターンズ危機の最中の316日に、プライマリー・ディラー向けに融資窓口を導入しましたが、これは恒久的な制度となるとみられ、それに伴い、規制が強化され、自己資本比率規制が引き上げられることになるでしょう。今後数年間で、投資銀行はレバレッジ水準の低い商業銀行モデルに適合することを余儀なくされ、それに伴い、投資銀行はM&Aの検討を含め、資金調達コストを低減させる預金ベースを確保する方法を求めることになります。このレバレッジの引き下げプロセスと、それが適正に行なわれた場合のリスク引き下げプロセスは、投資家にとってさまざまな意味を持つものとなります。そして、投資銀行が姿を変えることで、高レバレッジ分野の担い手がいなくなり、新たな参入が促されることになります。参入する可能性の高いプレイヤーとしては、現在のプライベート・エクイティやヘッジファンドが考えられます。

 

リスク要因

会議では、広範囲にわたる意見交換と議論の末に、こうした結論にたどり着きました。言い方を変えると、PIMCOの基本シナリオに対して、注意深く監視する必要のあるリスクが存在すること、特に、蓋然性は高くないものの、可能性を排除することができない分断のリスクがあることを認識したということです。全体として、こうしたリスクは独立しながらも相互に関連する3つのグループに分類することができます。

 

1のグループは世界経済の各部門が先進国の「債務整理」にどう対応するかに関わるリスクです。ここで最も懸念されるのは米国の消費者です。米国の消費者は低調な雇用や高いエネルギー及び食料品価格、借入れの困難さ、そしてきわめて重要になる、到底終わったとは言い難い住宅価格の調整などの圧力が高まっているにもかかわらず、バランスシートの修復が完了していません。

 

このリスクは政策上、重要な意味合いを持ちます。簡単にいうと、政策当局は不安定な状況をもたらす資産価格のデフレとモノのインフレの組み合わせに対して有効な政策手段を持っていないということです。特に、堅調な雇用と物価安定の維持を求める「二重の使命」により、FRBは苦しい立場に立たされています。既存の枠組みや考え方から外れてしまった金融システムに当局が追いつこうとする最中にこうした事態が生じたわけです。一度、魔物を瓶から解き放ってしまうと、簡単に戻すことはできないのです。さらに、住宅セクターを安定化させるための財政政策の導入が遅れるほど、米国の実体経済に対する二次的被害が拡大し、それが政治主導による規制面の過剰反応を招き、経済面で予測不能な結末をもたらすリスクが高くなります。

 

2のグループのリスクは、世界経済の成長が上限に達した可能性があるとの仮定を中心としたものです。具体的にいうと、会議では地球温暖化などマクロ的な悪材料と、機敏で有効な政策スタンスを維持する中国の能力といった個別要因双方の意味合いを議論しました。また、エマージング市場におけるインフレの上昇がどの程度、成長の勢いを削ぐ可能性があるかにについても分析を行ないました。

 

そして最終的に、特に金融セクターではネットワーク化と相関性が大幅に進化した結果、現在の状況は既に「十分に分散された生態系」ではなくなっているという事実が認識されました。このネットワーク化と相関性の進化により、システムの冗長性は低下します。それは効率を向上させるものですが、その一方で、短期間に拡散し、発生源と最終的な影響については予測がつかないショックに対し、世界は脆弱になっています。リスクとなるのは、市場が分断され、既に最良のものがなくなった選択肢の中から、政策当局が不適切な政策手段を選択せざるを得なくなる連鎖反応が生じることです。最近のエネルギー市場と食料品市場の動きは、この現象が金融システムに固有のものではないことを裏づけるものです。

 

固有の長期的安定装置

これまでの説明を踏まえ、こうしたリスク要因の多くがすでに明らかであり、回避不能とみられるにもかかわらず、PIMCOの長期予測が悲観的なものとならなかったことについて、不可解に感じられる方もいることでしょう。その鍵は、現在進行している変化が揺るぎないものであり、これが複数の成長エンジンを備える新たな世界に向けた歩みを確かなものにしていることにあります。この点に関して、会議で取り上げられた数多くの要素の中から、2つを紹介します。

 

1に、これらの大きな変化は、世界主要国の国内でも重要な意味を持つということです。エマージング諸国は、これまでほど外需に依存しない、バランスの取れた成長軌道がもたらす長期的なメリットについて認識しつつあります。この中には、中国も含まれます。中国は、国内の社会経済的要請により、個人消費を刺激し、より柔軟な為替政策を含めた市場ベースのシステムへのより速やかな移行を促す緩やかな政策シフトを必要としています。

 

2に、時に短期的な混乱が生じるものの、きわめて脆弱となった部分の資本増強を長期的に可能にする世界経済システムの力を無視することが賢明ではないとの判断があります。この点に関して、世界はエマージング経済(19972002年。アジアやロシア、中南米における危機が契機)、先進国企業(20022003年。エンロンとワールドコムが契機)、銀行(現在)などの順で、長期的な資本増強プロセスをくぐり抜けてきました。米国の家計が次にこのプロセスに加わることは間違いありません。

 

投資における意味

PIMCOはこのような数年先を見通す枠組みを基盤に、お客様のポートフォリオを運用する領域を明確に定義し、その中で慎重なリスク管理を重視しながら、PIMCOの伝統であるアウトパフォーマンスの継続に取り組んでいます。今年、PIMCOは珍しく金融専門紙に広告を掲載しましたが、この広告で明確に打ち出した通り、PIMCOは「長期運用にフォーカスし、決してリスクを見失わない」ことを重視しています。そして、これは債券に限ったことではなく、増え続ける運用の選択肢やソリューションにもあてはまります。

 

では、PIMCOの長期見通しは具体的に、今後のポートフォリオの短期的ポジショニングにどのような影響を与えるでしょうか。4つの例を挙げましょう。

 

パフォーマンスの適切な牽引役として「スプレッド・デュレーション」を重視します。ただし、無差別にそうする訳ではありません。足元の状況と長期的趨勢の組み合わせからすると、まず経済の資本構造の優先部分を強く重視すべきと考えられます。これには現在、体系的にリスクの引き下げが進められている機関や商品が含まれます。

 

規制主導によるリスクの引き下げが強い影響を与える金融システムの再構成に投資価値を求めます。規制上の対応により、「制度の失敗」のテール・リスクが部分的に排除されることになりますが、その代償として、予想される資本収益率は明らかに低下することになります。これにより、相対価値は株主有利から債券保有者有利に傾くことになります。

 

意外に感じられるかもしれませんが、PIMCOは米国、特にその短期セクター以外で「金利デュレーション」リスクを取ることに対し、慎重です。確かに、これまで長期的にベア・スティープ化が進行したケースは多くありません。しかし、米国が現在、直面している状況は異例ずくめです。PIMCOは、FRBの政策が懸念される雇用情勢を重視したものになり、それゆえに最近の利下げサイクルを反転するにあたっては、過去の利上げ局面よりも慎重になると予想しています。一方、イールドカーブの長期セクターに対するFRBの影響力は限定的であり、長期セクターは拡大する財政赤字のファイナンスや既に米国に対する多大なエクスポージャーを保有する外国人投資家を引きつけておくために必要なコストに影響されることになります。

 

ドル安の再燃に備えたポジションを取りますが、前回とは大きな違いがあります。 向こう数年間、ドル安の裏側で上昇する通貨は変動相場制を採っている通貨(例:ユーロ)よりも、為替制度の柔軟性が低い通貨(例:アジア通貨)が中心となるでしょう。

 

こうしたテーマはPIMCOの長期展望がポートフォリオのポジション構成に与える影響の一部に過ぎません。そして、そこには『魔法をかけられて』で見られたような、重要な二重性があります。すなわち、昨年の会議で特定された長期的要因が存続している一方、強烈な短期的歪みがあり、それが長期的な到達地点の情勢に影響を与えることが間違いないということです。

 

チャールズ・ディケンズは先ほど紹介した有名な一節に続けて、こう書きました。「光明の時でもあれば、暗黒の時でもあった。希望の春でもあれば、絶望の冬でもあった」。若い頃に『二都物語』を読んでおけばよかったと後悔することしきりです。もっとも、よく言われるように、いくつになっても古典を読むのに遅いということはないのです。

 

モハメド・エラリアン

共同CEO兼共同CIO



PIMCOの長期的テーマの要点

  • 世界経済の堅調な成長は持続。ただし、それに対するG3の寄与度は低下し、急激な発展段階にあるエマージング諸国の寄与度が上昇。
  • 世界的なインフレ圧力は上昇基調。この背景として、コモディティに対する世界的需要の高まり、エマージング経済における緩やかな賃金上昇、先進国およびエマージング諸国双方における雇用および社会的支出に重点を置いた政策対応、さらに、国内的には適切であっても、国際的にインフレを招く可能性のある米国の金融政策がある。
  • 先進国の企業収益は、全体としても、労働者への配分と比較した場合でも、長期的拡大傾向が転換。
  • 世界の金融セクターの再編成:先進国では規制の変化と危機後のバランスシート管理がこれを主導。エマジング経済では資本市場の一層の成熟とソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)の進化がこれを主導。

 

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