住宅関連統計
2005年の段階で、PIMCOは2006年の住宅価格上昇率(HPA)が上半期こそ堅調を維持するものの、下半期になると減速し、1年を通してみると、5%程度の上昇になると予想しました。2006年の連邦住宅機関監督局(OFHEO)住宅価格指数は5.9%の上昇になりましたが、上昇は上半期に集中しており、年間上昇率としては1999年以降で最も低い水準となりました。

平均住宅価格の上昇は続いているものの、住宅価格の動向には地域ごとに大きな格差がみられます。カリフォルニア、ハワイ、ノース・ダコタ、ネバダ、ネブラスカなど、一部の州では第4四半期に価格が下落しました。また、自動車産業の雇用の落ち込みにより、ミシガン州は過去数年間で住宅価格上昇率が前年比でマイナスとなった初めての州になりました。

2006年にはほとんどの住宅関連指標が低下に転じました。新築住宅販売件数と中古住宅販売件数はいずれも、1年を通して減少しました。中古住宅販売件数は1年間で7%減少し、2005年のピーク時と比較すると13%の減少となりました。新築住宅販売件数の落ち込みは中古住宅よりも若干顕著となり、一時は前年比23%減まで落ち込みました。その後は回復したものの、2006年末の水準は2005年末よりも11%少ない水準となりました。売りに出されている空家数は34%以上の増加となっており、急増する在庫の管理に関して、住宅建設会社に対する圧力は徐々に強くなっています。住宅供給件数は2007年に入っても増加を続けており、売りに出されている空家数は現在210万戸以上(住宅全体の2.7%)にのぼっています。
新築住宅 対 中古住宅販売件数
2006年の新築住宅販売件数と価格データはいずれも大幅に変動しましたが、PIMCOはその理由が重要であると考えています。1990年にカリフォルニア州の住宅市況が悪化した際、住宅建設上位10社のうち、公開企業はわずか1社に過ぎませんでした。ところが、現在では上位10社のうち、9社が株式を公開しています。この点は重要です。なぜなら、高水準の在庫を抱えた公開企業は株式市場では敬遠されるためです。PIMCOは以前から住宅建設会社が値下げにより新築住宅在庫の軽減を図るとみてきましたが、2006年にはそれが現実のものとなりました。また、実際の販売価格は報告されるデータよりも低いと考えています。住宅建設会社は販売価格を引き下げる代わりに、販売価格データに反映されない数千ドル相当のオプションを無料で提供するケースが多くみられるためです。

住宅在庫の販売実態について、より安定性の高い指標となるのは中古住宅販売件数です。販売に対する意欲がきわめて高い住宅建設会社が所有する新築住宅とは異なり、中古住宅の場合、ほとんどの所有者は価格を大幅に引き下げるよりも、その住宅に住み続けることを選択します。そのため、中古住宅の場合、短期間で成約に至らなければ、単に市場からとり下げられることが多くなります。

より重要な点:販売件数か、価格か?
PIMCOは住宅価格よりも販売件数の方が重要であると考えます。その理由は販売件数が経済全体にかなり強い二次的な影響を与えるためです。住宅市場の減速は住宅建設会社や建設関連セクターの雇用の減少につながるだけでなく、モーゲージ融資機関、鑑定会社、モーゲージ・ブローカー、不動産会社の雇用の減少にもつながります。さらに重要な点として、販売件数の落ち込みは消費の大幅な落ち込みのきっかけになります。住宅販売件数の減少は、新たな家具や家電製品の購入など、住宅を購入した場合に付随的に発生することの多い家財道具やサービスの購入が減少することを意味します。
不動産担保融資:ついにサブプライムが悪化
モーゲージ融資は2000年以降の住宅バブルに火をつけた元凶だと考えられますが、2006年終盤から2007年初頭にはバブルの火を消す消火器として機能しました。
2006年はサブプライム・モーゲージ融資機関にとってきわめて重要な年になりました。こうした融資機関の多くは激化する競争環境の中で融資額を維持するため、リスクの高い融資に大きく傾斜していました。その結果、ローン審査書類の一部に不十分な点がある、借手の信用履歴が良好ではない、融資比率の高いローンの割合が徐々に上昇してきました。過去数年間続いた高水準の住宅価格上昇によって、リスクの高いローンにおける損失の増加が抑制されてきたことは間違いありませんが、2006年に発行されたものは住宅市場の減速とますます甘くなる融資基準とが融合し、パフォーマンスは急激に悪化しました。延滞と損失の増加は融資機関の利益率をさらに低下させ、2006年終盤になると、オウニット・モーゲージ・ソリューションズ、モーゲージ・レンダーズ・ネットワーク、またセブリング・キャピタルといった融資機関がサブプライム融資事業からの撤退を余儀なくされました。
今年になってローンの延滞率が2001年につけた直近の最高水準を上回ると、サブプライム市場の状況はさらに深刻さを増しました。HSBCは不良債権を償却するための引当金を17.6億ドル増額すると発表しました。これはアナリストのコンセンサス予想を20%も上回る水準です。ニュー・センチュリーは第4四半期の業績が赤字に転落した可能性が高く、2006年決算の修正が必要になります。フレモントは第4四半期決算と2006年通期決算の発表を延期しました。アメリクエストはシティグループから事実上の支援を受け、またシティグループは同社を買収するオプションを保有しています。ノバスター・フィナンシャルが発表した第4四半期決算と2006年通期決算は予想を下回り、向こう5年にわたり、課税所得を計上することがないと予想されます。多くの融資機関の株価は大幅に下落し、ローンの買い戻し件数急増に関する情報開示を怠ったとして、数多くの集団訴訟が起こされています(融資機関は初期の支払いが不履行となったローンについて、買戻し義務を負っています)。
3月上旬にはサブプライム融資に対する規制当局による重要な動きが初めてみられました。フレモントは米連邦預金保険公社(FDIC)の業務停止命令を受け入れ、サブプライム融資事業から撤退すると発表しました。ニュー・センチュリーは会計処理と自社株のトレーディングに関して刑事捜査の対象になっていることを明らかにしました。また、同社は事業資金の融資を受けてきた複数の金融機関との間で合意していた借入れ条件を満たすことができず、清算、もしくは破綻に追い込まれる可能性が高いとするアナリスト予想が多くなっています。
2006年終盤以来、破綻、もしくはサブプライム融資事業から撤退したオリジネーターは30社以上に上ります。
サブプライムの低調なパフォーマンスは金融市場に反映されてきました。ホーム・エクイティ資産担保証券(ABS)のバスケットに対するプロテクション・プレミアム(CDS)市況が反映されるデリバティブとして新たに誕生したABX市場では、投資家がサブプライム・セクターに対する見方を表現することが可能ですが、延滞とサブプライム・オリジネーターの撤退が共に急増したことを受けて、BBB格およびBBB―格のホーム・エクイティABS案件のプレミアムは2006年終盤から急激に上昇しました。市場は著しく一方向に傾いており、数多くのプロテクションの買手(CDSのショート)に対して、プロテクションの売り手(CDSのロング)がほとんどいない状況になっています。2007年初頭になると、サブプライム問題が報道で盛んに取り上げられるようになり、弱気なセンチメント主導の売りが続いたため、市場の偏向傾向はさらに強くなっています。

2つのモーゲージ市場:プライムとサブプライム
2000年以降のサブプライム融資の急激な成長と、それによりモーゲージ市場に登場した新たな商品について、気掛かりな記事が数多く書かれてきましたが、実際に米国のモーゲージ・ローンの大部分を占めるのはプライム市場であり、この市場には住宅市場減速の影響が及んでいません。
プライム・ローンとサブプライム・ローンはどのように異なるのかについては確固たる定義がなく、モーゲージの専門家10名に聞けば、10通りの答えが返ってくるでしょう。最も広く定義すると、サブプライム・ローンはリスクの高い借手への融資ということができます。これは通常、信用力を表すFICOスコア、すなわち信用力を示すスコアが650以下の借手に対するローンを意味し、一般的には住宅資産価値の上昇を利用した資金借入れや、借手の月間返済額を可能な限り引き下げる形で負債をまとめることを目的としたローンになります。


これに対して、プライム・ローン市場は何世代にもわたって住宅所有者に利用されてきた伝統的な市場であり一般的にはFICOスコアが700以上の借手に対する30年か15年の固定金利で、頭金が20%のローンです。こうした高クオリティ・ローンの大部分はMBS(モーゲージ担保証券)の担保資産として売却され、ジニーメイやファニーメイ、フレディマックといった政府住宅機関による保証を受けることになります(ほとんどのサブプライム・ローンは政府機関への売却の基準を満たしていない)。政府系MBSには住宅市場減速の影響が及んでいません。
高格付のMBSおよびAAA格のABSのスプレッドは依然として過去最低に近い水準にとどまっていますが、より格付の低い債券のスプレッドは大幅に拡大しました。投資家の間ではオリジネーターおよびサービサーのクオリティやローンのクオリティを始め、モーゲージ・クレジットのさまざまな側面について差別化、あるいは階層化する動きが強くなっています。PIMCOでは以前からこうした取り組みを進めています。モーゲージ・クレジットは個々の担保資産の規模が小さく、信用集約的であり、銘柄間の固有性が強くなります。そのため、一般論が通用することは殆どありません。
現在の厳しい環境から抜け出す可能性の高い融資機関は、サブプライムの落ち込みを補うことができるプライム・モーゲージ事業を大規模に展開しているカントリーワイド、ウェルズ・ファーゴ、チェース、バンク・オブ・アメリカといった金融機関になるでしょう。
2007年の見通し
PIMCOは2007年も住宅市場の減速は続き、住宅販売件数の落ち込みは住宅価格よりもさらに深刻になると予想しています。住宅価格の上昇局面では新築住宅の価格が中古住宅以上に上昇したため、下落局面では新築住宅の下落幅が中古住宅よりも大きくなるでしょう。また、住宅建設会社による高水準の在庫削減の動きも新築住宅価格の下落圧力となるでしょう。住宅の中間価格を測定しているNAR(全米不動産協会)指数は2007年に4.5%下落すると予想されます。また、PIMCOでは同一物件の中古価格をトラックしているOFHEO住宅価格指数が2007年に1%以上下落すると予想しています(新築住宅販売はこの指数にほとんど影響を与えません)。
住宅市場の減速は今後数四半期にわたり、GDPを1%程度押し下げることでしょう。住宅市場の減速が消費に与える乗数効果により、経済全体に与える影響はより重大になると考えられます。
PIMCOはサブプライム市場の悪化により、融資機関の再編が続くことになると予想しています。体力のない融資機関はローン発行額を維持することや、現在進行している融資基準の厳格化に対応することが難しいためです。融資機関の再編により、サブプライム発行額は2007~2008年に大幅に減少することになるでしょう。発行額はすでにかなり減少しており、年初来の発行額は2006年の同時期に比べてほぼ10%近く減少しています。PIMCOは与信基準の甘さに慣れている、FICOスコアが低く、融資比率の高い一次取得者に対する信用逼迫が生じると予想しています。
サブプライム・ローンで現実化したパフォーマンス悪化は、その中でもっとも質が高いとみなされる「オルトA」市場の中で最も融資基準の緩いローンにある程度波及することになり、またジャンボ・プライム市場にも影響が及ぶ可能性もあります。PIMCOはプライム・ローンに重大な影響が生じるとはみていませんが、その一方でこのサブプライム市場で顕著な問題は長く尾を引き、場合によっては数年を要する長期的な正常化プロセスになるとみています。
PIMCOは住宅市場をスーパータンカーにたとえることが少なくありません。スーパータンカーは巨大であり、制動をかけてから停止するまでに40km近い距離を必要とします。現在はまだ、後退局面が終わったわけではなく、中間に差し掛かったところであり、高額な住宅、消費者の過剰借入、長期にわたったFRB利上げといった要因によって生み出された問題の影響は依然として住宅市場に完全には反映されていないというのが、PIMCOの見解です。
