問:住宅市場の状況が悪いと判断しているにもかかわらず、住宅価格上昇率の急減速や価格の下落ではなく、緩やかな減速を予想しているのは何故なのでしょうか。
サイモン:住宅市場について分析する際に、私達は住宅市場をスーパータンカーに例えています。つまり、最大の推進力をかけても、実際に速度が上昇するまでにかなりの時間を要します。事実、四半期別住宅価格上昇率が最も高くなったのは昨年夏と秋の2四半期のことでしたが、これよりも1年と1四半期前にはFRBが既に利上げを開始しています。つまり、住宅市場はFRBがブレーキをかけても、引き続き加速し続けたということです。そして、全力でブレーキをかけたとしても、住宅市場が実際に減速するにはかなりの時間を要します。これはスーパータンカーが巡航速度から停止するまで、23マイルを必要とすることに似ています。
過去数100年間の間に発生した住宅バブルを分析すると、きわめて一貫した1つの傾向があることは明らかです。バブルが弾けるのは、大量の失業が発生した時だけなのです。過去25年間についてみると、住宅バブルが弾けた例は2度ありました。1つの例が1990年代初頭のカルフォルニア州で発生したバブル崩壊です。当時、カルフォルニア州では防衛産業全体で大量のレイオフが行われ、そこかしこで住宅が売りに出されました。もう1つのバブル崩壊の例は、1980年代にテキサス州とルイジアナ州での石油産業が苦境に陥り、この地域の失業率が35%に達したケースです。
いずれの場合も銀行は処分したい担保物件を抱え込むことになってしまい、価格を度外視して、そうした不動産を売却することになりました。住宅価格の下落はこのようにして起きるものです。そうした事態が生じない限り、生活するには住宅が必要であるため、住宅販売件数が実際に大きく落ち込んでも、住宅価格が急激に下落する可能性は高くありません。
住宅市場に関して、動きの遅さに苛立ちを隠そうとしない人は少なくありません。しかし、住宅はモーターボートではなく、スーパータンカーであり、失業の急増などの氷山にぶつからない限り、モーターボートのように短時間で加速したり、減速したりするものではないのです。
問:米国の失業率は数年ぶりの低水準にあることからすると、住宅市場が減速すると予想する理由はどこにあるのでしょうか。金利の上昇が最大の要因ということでしょうか。
サイモン:住宅市場が減速する背景要因として、最も重要なものはおそらく価格です。住宅価格が2倍になったとすると、モーゲージ金利に変化がなかったとしても、毎月のローン負担は多くなります。ここで注目したい点は、ほとんどの人は30万ドルの住宅を買うのではなく、毎月2000ドルのローンを買うのだということです。
モーゲージ金利が9%から5%に低下し、その間住宅価格が25%上昇したとすると、実際には住宅の価格が下がったのと同じ効果を持ちます。これは毎月2000ドルの支払いでより大きな住宅が購入可能になる、もしくは同じ家を毎月の支払額を少なくして購入することが可能になるためです。たとえば、30年固定金利ローンの利率が9%の場合、毎月2000ドルを支払うローンの元金は249,000ドルになります。ところが利率が5%になると、ローン元金は373,000ドルになります。
実際に起きた展開を振り返ってみると、住宅価格上昇率が50%、75%、100%と加速していくにつれ、消費者は毎月2000ドルを支払うだけでは希望する住宅を購入できないという問題に見舞われることになりました。そこで、消費者はインタレスト・オンリー型のローンを利用し始めました。このローンを利用することにより、金利が5%の場合、毎月2000ドルの支払いで、480,000ドルのローンを借り入れることが可能になります。
インタレスト・オンリー型のローンにより、上昇した住宅価格と毎月の支払額のギャップは一時的に埋まりましたが、その後住宅価格は125%もの上昇となりました。そうなるとどうでしょうか。多くの消費者は住宅ローンの利息も支払うことを嫌がるようになり、元本増加型のローンを利用するようになりました。元本増加型のローンを利用すると、金利は元本に上乗せされ、元本が毎月増加します。つまり、ローンの借手は住宅価格の上昇を期待していることになります。
そのようにして、いよいよ住宅ローン市場では魔法の力が消える場面が到来します。ローンの借手が元本を返済しておらず、利息も支払っていないとすると、支払いを回避できるものはもう残っていません。融資してくれる貸付機関がなくなることになります。こうなると、価格が住宅取得能力を現実に圧迫し始めることになります。
同時に、30年の住宅ローン金利はここ3年で最も高い水準となっており、FRBの金融政策の影響を受けやすい変動金利ローンの利率も大幅に上昇しました。つまり、住宅市場では住宅取得能力が圧迫される一方、融資の側で住宅市場を支える力もなくなり、この2つが融合することにより、取引が徐々に冷え込んでいくことになります。
問:住宅プロジェクトの一環として、PIMCOはスタッフを各都市に派遣し、各地の不動産市場に関する情報源を確立し、定期的にデータを収集しているとのことですが、実際の各地の市場データはどういった状況を示しているのでしょうか。
サイモン:当社はスタッフを住宅市場が活況を呈している都市や停滞している都市を含め、全米20都市に派遣し、取引状況や価格動向、取引件数の動向、各地で注目されているテーマ、各地の金融状況にみられる異変、もしくはいずれかの方向の供給ショックなどについて、すべての地域の最新情報を毎月入手し、分析しています。現在、各地のデータは全国レベルでみられる緩やかな減速を裏付けるものとなっています。
各地の市場は価格上昇ペースが徐々に鈍り、販売件数が徐々に落ち込み、売り出し件数が徐々に増加しています。こうした動向は広い範囲で一貫してみられます。減速ペースが緩やかな地域がある一方、かなりの減速を示している地域もありますが、全体としてみると、データは緩やかな減速を示しています。
問:ありがとうございました。PIMCOのハウジング・プロジェクトが掴んだ最新の状況について、今後も定期的にお話を伺っていきたいと思います。