スコット・サイモンはPIMCOのモーゲージ債および資産担保証券チームの統括責任者を務めています。今回のインタービューでは、モーゲージ債市場と住宅市場全体の混乱が続く中、PIMCOが魅力的と考える政府系機関モーゲージ債の投資機会について、サイモンがご説明します。
問:ビル・グロースは先日、これまでの米国債に対するアンダーパフォーマンスにより、政府系機関モーゲージ債(MBS)を現在はきわめて魅力的な投資機会を提供している高格付セクターの1つとして挙げています。この点について、現在の市場環境と政府系住宅機関の状況を踏まえ、ご説明ください。
サイモン:現在、政府系機関MBSの利回りスプレッドは米国債だけでなく、スワップや政府機関債に対しても、過去20年以上で最大となっています。政府系機関MBSの信用力はきわめて高く、一戸建て住宅で担保されている上に、政府系住宅機関(GSE)が保証しており、ジニーメイの場合には米国政府による明示的な保証が付与されています。ファニーメイとフレディマックからは信用損失や資本状況に関する悪いニュースが相次いで発表されましたが、PIMCOはこの2つの機関のMBS保証能力を懸念する必要はないと考えています。最近のモーゲージ債市場の下落による政府系機関MBSと米国債のスプレッド拡大は、主として銀行や投資銀行が年末越えのリスクを大幅に引き下げるに伴って生じたシステミックな信用危機と流動性の低下によってもたらされたものです。この状況は対米国債で政府系機関MBSに投資する絶好の機会であるといえます。
問:ファニーメイとフレディマックが第3四半期に赤字を発表したにもかかわらず、政府系機関MBSの信用力に悪影響を及ぼすことはないと考える理由について、説明してください。
サイモン:ファニーメイとフレディマックが保証する住宅ローンの大半は信用力の高い借り手に対する質の高いローンであり、民間が発行するサブプライム・ローンの多くとは一線を画しています。そして、そもそも政府系機関MBSは政府系住宅機関のバランスシートではなく、物件によって担保されています。住宅市場の悪化が政府系住宅機関の収益にとってマイナスであることは間違いなく、すでに政府機関債スプレッドは拡大しています。しかし、住宅市場のリセッションがさらに深刻化しても、MBSに対する保証が危うくなるわけではありません。
政府系住宅機関はMBSに対する保証を支えるために、何層もの信用保護手段を導入しています。ファニーメイとフレディマックが保証するモーゲージ債の場合、現在の融資比率、すなわち物件評価額に対する与信額の比率は平均で59%です。つまり、借り手は十分な純資産価値を保有していると考えられ、これが住宅価格の大幅な下落に対する重要な緩衝材になります。また、それぞれの機関は概算で80億ドルの資本剰余金を保有しており、無担保債市場における追加的な資金調達を現在も比較的容易に行うことができます。
ファニーメイとフレディマックは最近、住宅市場の下落によって2007年の年初来実現信用損失が増加したことを発表しています。ファニーメイでは損失が0.04%に上昇し、フレディマックでは0.02%となりました。これまで、政府系住宅機関の信用損失はゼロに近い水準で推移しており、過去10年間の平均は0.0014%にとどまっています。そのため、信用損失の増加率はきわめて高いと思えるかもしれませんが、両機関とも絶対的な損失は依然として対処可能な水準にあります。両機関は損失が2009年にピークに達する見込みであると発表しており、それまでに損失率は最大0. 11%まで広がる可能性があるとしています。この見通しが正しいとすると、両機関の収益は低水準にとどまることになるでしょうが、損失によって両機関の存続が脅かされるわけではなく、両機関によるMBSの保証能力に影響を与えるものでもないと考えられます。同時に、両政府機関は保証手数料として、平均して0.23%を得ていることを忘れるべきではありません。これは歴史的に見て信用損失をカバーするのに十分な額といえます。
また、最後に指摘すべき点として、ファニーメイとフレディマックのMBSには連邦政府による明示的な保証が付与されていませんが、いずれかの機関がデフォルトした場合、米国経済にとって壊滅的な影響を及ぼすことが想定されます。多くの投資家が連邦政府はこれら機関の破綻を許さないだろうと信じる根拠はここにあります。
問:政府系機関モーゲージ債の信用力が低下していないとすると、スプレッドはなぜ、これほどまで拡大したのでしょうか。
サイモン:現在、スプレッドはさまざまな要因によって拡大していますが、それらはすべて信用危機と関連しています。中でも特に、世界的に銀行システムにおいてバランスシートが制限されていることがあげられますが、ほかにも政府系機関MBS発行額の増加、資本水準を引き上げることを目標とした政府機関によるMBSの売却、そしてインプライド・ボラティリティの上昇などによるものです。
政府系機関MBSの供給が過去の標準的水準を上回ったのは、主として次の2つの理由からです。第1に、MBS金利カーブが現在よりもフラットな形状であった2007年前半に、固定金利ローンに比べて変動金利住宅ローン(ARM)の魅力が低下し、結果、固定金利MBSの組成が増加しました。第2に、民間MBS証券の新規発行がほぼ休止状態となっており、その影響から政府系MBSの発行額が増加したことがあります。サブプライム・セクターが悪化したことに加え、市場参加者がリスク回避姿勢を強めたため、民間MBSの販売は困難になり、発行スプレッドは大幅に拡大しました。そこで、以前であれば民間モーゲージ市場で証券化されたであろう基準内ローンの多くが、政府系住宅機関を経由して証券化されることになりました。
供給が増加する一方で、需要は低下しています。それではスプレッドは縮小しない、ということになりますが、PIMCOではこれは一時的な現象であり、だからこそ投資機会だと確信しています。
金融機関は現在MBSへの流動性供給に二の足を踏み、バランスシートに影響を与える資産に対しての投資意欲は低下しています。手数料を目当てにしたLBO、ストラクチャード投資ビークル(SIV)、資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)、そしてCDO市場に深く関わりすぎたため、現在、ほかの資産に資本を向ける余裕がありません。そして、銀行が保有する証券化資産がいずれ格下げされると、自己資本比率にも大きく影響することになります。
また、信用資産に対する現在までの損失により、政府系住宅機関の自己資本は2001~2004年に明るみに出た会計問題を機に導入された厳格かつ懲罰的な資本規制水準を満たすことができなくなりました。政府系住宅機関は自己資本水準を引き上げるため、政府系機関MBSを含め、利益の出ている資産を売却しました。影の銀行システムの機能停止、FRBの危機認識に対する信頼の欠如、そしてヘッジファンドによるレバレッジの引き下げは、いずれも高格付のキャリー商品に対する需要の低下を招く要因です。
付け加えると、世界各国の中央銀行は現物米国債と政府機関債の最大の投資家に数えられますが、これまではリターンの引き上げを図ることを目的とした政府系機関MBS投資に対して消極的な姿勢を取ってきました。しかし、PIMCOは今後数ヵ月間で、そうした姿勢に変化がみられるようになると予想しています。
問:2008年にはこうした需給要因によって、MBS市場の方向性が変化し、パフォーマンスが下支えされるようになると予想しているのでしょうか。
サイモン:その通りです。PIMCOは2008年のモーゲージ市場における最大のテーマが信用力に基づく差別化になると予想しています。モーゲージ・クレジット市場では現在よりもはるかに注意深く、差別化が行なわれることになるでしょう。言い換えると、信用力に優れる資産が信用力の劣る資産をアウトパフォームする可能性が高いということです。政府系機関MBSはサブプライム市場の崩壊と世界的なクレジット・クランチの後に生じた全般的なモーゲージ市場の停滞から抜け出すことになるでしょう。
供給に関していうと、米国住宅市場の深刻なリセッションにより、住宅買い替え件数は大きく落ち込んでいます。今後、PIMCOが予想するように、金利の低下が続いても、住宅買い替え件数が落ち込むことで、期限前償還リスクは低下します。そして、イールドカーブが既にかなりスティープ化しているため、ARMの相対的な魅力が高まり、ARMから固定金利への借換えは減少すると考えられます。そのため、PIMCOは現在の高水準の供給が近いうちに減少に転じると予想しています。
また、需要側の要因をみると、外国中央銀行が政府機関が保証するMBSのスプレッド拡大を有効活用するようになるでしょう。近年、各国中央銀行は政府系機関MBSの対米国債名目スプレッドが拡大すると、政府系機関MBSを購入してきましたが、PIMCOは2008年にこうした動きがさらに活発化すると予想しています。
問:先ほど、米国の住宅市場の「深刻な」リセッションについての指摘がありましたが、PIMCOは2008年の米国住宅市場をどのようにみているのでしょうか。また、住宅販売が政府系機関MBSにどのような影響を与えると考えられるでしょうか。
サイモン:PIMCOは最近ほどの急速なペースではないにせよ、2008年も米国住宅市場の落ち込みは続くとみています。貸し渋りは特にノンプライムの借り手や基準外ローンの借り手を中心に、2008年も続くことでしょう。モーゲージ金利のこれまでの低下幅はわずかであり、唯一、プライム金利だけが低下しています。このため、住宅取得能力は依然として低いままであり、住宅市場の動きを引き続き停滞させるでしょう。
2008年には延滞率とデフォルト率が上昇するとみられます。住宅在庫は既に記録的な高水準に達していますが、こうした状況下でデフォルト率が上昇すると、住宅価格の下落は持続することになると考えられます。住宅価格は2007年に平均約5%下落しましたが、PIMCOは2008年にはさらに5~10%程度、下落すると予想しています。