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リスクとリターンの概念は、運用とゴルフに共通するものです。投資家はバリュエーションやファンダメンタルズ、テクニカル要因を検討した上で、どれだけのリスクを取るかを決めることになります。同じように、ゴルファーもショットを打つ際、いくつもの要因を分析します。フェアウェイが狭い場合、ゴルファーには確実性を重視して慎重にショットすることが求められ、フェアウェイが広ければ、大胆な戦略を取ること可能になります。グリーンに向かうボールの軌道は風によりかき乱され、最終的にグリーンにどのようにアプローチするのかは、ピン位置、すなわちカップがどこに切られているかによって変わることになります。 2009年前半、世界の市場が安定し始めたことにより、社債投資家には広いフェアウェイが広がっていました。過去最高の水準に拡大したクレジット・スプレッドと、財政政策と金融政策を総動員した景気刺激により、社債に対して、果敢に資金を振り向けた多くの投資家は、取得したリスクに対して十分な見返りを得ることができました。しかし、現在、フェアウェイの幅は狭まりつつあります。社債には引き続き、投資機会があるものの、攻略法について改めて考える時期が来ていると言えます。 ここから年末までの社債市場における投資機会に着目するには、風(テクニカル)、フェアウェイの幅(バリュエーション)、そしてピン位置(ファンダメンタルズ)の分析が必要になるでしょう。
テクニカル
世界各国における財政出動に加え、各国中央銀行が緩和的金融政策を採用し、イールドカーブ短期セクターの金利をゼロ%近くまで低下させたことにより、社債市場には追い風が吹いています。経済の安定に伴い、多くの投資家は高いリターンを求めて、キャッシュと短期金融商品のポジションを減らす一方(チャート1)、より長期の資産や高リスク資産クラスに移行し、リスクを高めてきました。
今年、マネー・マーケット・ファンドから流出した資金の大半は債券市場に流入しており、投資家がより多くの金利収入を求める中、投資適格社債、ハイイールド社債双方に対する需要が拡大しました(チャート2)。保守的な投資家はデュレーションを延伸させ、クレジット・リスクの取得を増やしていきました。一方で、より積極的にリターンを求める投資家は、社債に株式ベータがありながら、ボラティリティが低く資本構成の上位にあることを認識し、社債を株式の代替として利用し、ポートフォリオのリスクを縮小させました。また、その他の年金基金などの投資家は、金利収入と株式よりも低いボラティリティだけでなく、資産負債管理に寄与する可能性のある長期の社債のデュレーションを求めて、社債への投資を進めました。
総合すると、こうした強力なテクニカル要因により、年前半以降、ほぼ一貫して、社債に対する需要が増大し、クレジット・スプレッドが縮小してきました。
また、今年のクレジット商品に対する強い需要は、多くの企業にとっても恩恵をもたらし、新たな社債の発行が進みました。社債市場と株式市場に「アニマル・スピリット」が戻ってきたことで、企業は資本構成のさまざまなレベルで資金調達が可能になり、バランスシート上の債務期間構成を長期化させました。これによって、低調な経済成長と次々と到来する債務の償還によりもたらされる中長期のデフォルト・リスクが排除されるわけではありませんが、短期的なデフォルト・リスクが大幅に低下したことは確かです。
一方、主として過去に前例のない大規模な政策面からの支援により実現した景気回復は、リスク資産の見通しの改善にも役立っています。世界各国の中央銀行はきわめて緩和的な金融政策を継続させる可能性が高く、これが株式市場を下支えしています。しかし、株価がこれほど大幅に上昇した最大の理由は、企業の短期的なデフォルト・リスクが低下し、V字型回復を見込む多くの投資家の間で資本構成下部に対する物色意識が高まり、株式への資金流入が進んだことにあります。
社債市場のテクニカル要因は今年、一貫して良好でしたが、需給動向は変化しています。低金利と大幅に縮小したスプレッドにより、企業の債券発行意欲は一層刺激される可能性があり、高水準の新規発行予定がさらに膨らんで供給が増加し、スプレッドに拡大圧力がかかる事も考えられます。リスク資産に対する需要も経済成長の持続性に関する懸念により、後退する可能性があります。
このように供給の拡大と需要の後退が見込まれることに加え、過去6ヵ月間の大幅な株価上昇により、バリュエーションが大幅に変化したため、PIMCOは現在、リスクの引き上げに対して慎重になっています。緩和的政策による支援に加え、キャッシュ・ポジションのリターンがほぼゼロ%となるため、投資家は引き続き高いリターンを求めると考えられますが、良好なテクニカル環境にはやや陰りが見られるため、PIMCOでは、目先、より慎重な姿勢での運用を提案しています。
バリュエーション
では、現在、クレジット市場の「フェアウェイ」はどうなっているでしょうか。過去に前例のない世界的な財政金融政策による支援と金融システムの安定化、景気の改善、株価上昇、そしてキャッシュ相当の高格付け短期金融商品(レポ、CPなど)よりも高い利回りを求める投資意欲の高まりにより、クレジット・スプレッドは縮小してきました。バークレイズ・キャピタルによると、投資適格クレジット・スプレッドは年初の段階で493bpでしたが、これまでに301bp縮小し、現在は192bpとなっています1。メリルリンチの調査によると、ハイイールド・スプレッドは年初の1812bpから1014bp縮小して、現在は798bpとなっています(チャート3)2。
フェアウェイの幅は狭まりましたが、相対的バリュエーションに注目することも重要です。キャッシュと社債の利回りを比較すると、今年社債価格が上昇(利回りは低下)したとはいえ、依然として社債利回りはキャッシュや短期金融商品に対し、大幅に有利です(チャート4)。平均すると、投資家はキャッシュから投資適格社債への入れ替えで4.5%ポイント、ハイイールド市場全般への移行により、10.3%ポイントのピックアップの可能性があり、過去の標準的な水準と比較しても、魅力的なピックアップを望むことができます。現在の経済見通しが不透明であり、リスクを取る投資家には、それに見あった十分な見返りがあるべきと考えられることからすると、魅力的なピックアップが得られることに不思議はありません。絶対利回りを見ても、投資適格社債の利回りは5%に近く、一部のハイイールド債の利回りは8~10%と、キャッシュと比較して、依然として高い利回りを期待することができます。
また、社債は株式との比較でも魅力的と思えます。今年の大幅な株価上昇により、厳選した社債投資で期待される1桁台中盤から後半の予想リターンは、株式市場の予想リターンと比較して魅力的であり、向こう数年間、経済が約4%程度で成長すると考える投資家にとっては特に魅力的です。ヒストリカルに見ると、株式の長期実質リターンは購入価格によって決まります(チャート5)。例えば、長期的に見ると、低水準の株価収益率(PER)で購入された株式のリターンは、高いPERで購入された株式のリターンを上回る可能性が高いと考えられます。これはバリュエーションの重要性を物語っています。過去30年間、米国の名目経済成長率は平均6%であり、企業収益の伸びは6.6%3、S&P500の配当は平均2.9%4でした。過去、平均未満のPER(S&P500で16倍未満)で株式を購入した投資家は、名目経済成長率が6%、配当利回りが3%近ければ、株式市場から10年間に2桁の年率換算リターンを得ることが可能でした。
PIMCOは経済成長率を4%程度、配当利回りを2%程度と予想していますが、長期的な企業収益の伸びがこの予想と同水準に留まる場合、株式のリターンがかつての水準に並ぶことはないと考えられます。こうした環境をPIMCOはニュー・ノーマルと呼んでいますが、このニュー・ノーマルでは、資本構成において株式よりも優先される一方、ヒストリカルなボラティリティが株式の1/3に留まっている社債の潜在的リターンが、株式と比較してきわめて魅力的に思えるはずです5。現在の水準からすると、潜在リターンが1桁台中盤から後半となる社債は、投資家に対して、株式よりも魅力的なリスク調整後リターンを提供すると、PIMCOは確信しています。その一方で、スプレッドは今年、大幅に縮小しており、現在のバリュエーションからすると、ほとんどの社債で2桁のリターンを期待することはできないと考えられます。これはクレジット投資に対する選別色を強めたアプローチが必要であることを物語るものです。
ファンダメンタルズゴルフでは天候とフェアウェイの広さもきわめて重要ですが、最終的に目指す目標はピン位置、すなわちカップが切られている場所です。同じように、社債投資の場合、適切な銘柄を選択するには、経済ファンダメンタルズとそれが個別の企業にどのような影響を与えるのかを正確に見抜くことが必要になります。
世界各国が大々的に実施した財政金融政策による景気支援は、世界経済の安定に寄与しており、その影響で、大半の企業の短期的なファンダメンタルズが安定しつつあり、一部では改善も見られます。株価は現在、2009年3月につけた最安値から50%以上上昇しており6、これが資本市場におけるリスク取得意欲の回復を後押ししています。多くの企業は現在、債券市場でも株式市場でも資本調達が可能であり、それが正のフィードバック・ループを生み出し、企業はバランスシートのレバレッジ削減を進めています。この効果は新興国市場を始めとする経済成長率の高い地域の動向が最終需要に大きく影響する企業で特に顕著に見られます。
フリーキャッシュフロー、すなわち資本支出から内部留保を差し引いたファイナンス・ギャップは、企業がコスト管理を積極的に進めるに伴って改善しています(チャート6)。一部の企業は収益の低い伸びや高水準の家計債務、高い失業率を理由に、雇用と資本支出双方に対して引き続き、慎重な姿勢を崩していません。これが特に顕著に見られるのが、主に米国の消費者に対し、裁量的支出の対象となる商品を販売している企業です。企業経営陣は慎重な姿勢を崩しておらず、債務の返済を進め、キャッシュを囲い込み、レバレッジの削減を図り、バランスシートを安全性を重視した形にしています。こうした点はすべて、短期的な企業ファンダメンタルズの改善をもたらすはずです。しかし、大胆なコスト削減によりキャッシュフローが改善する一方、PIMCOは長期的な企業の収益性とフリーキャッシュフローの持続性を依然として慎重に見ています。これは米国経済が最終需要と消費者ファンダメンタルズの弱さを打ち消すことを目的とした政策的支援への依存を高めているためです。
融資基準は依然として厳しいものの、景気が回復し、リスク取得意欲が徐々に高まるにつれ、バランスシートの修復に取り組んでいる企業向けの融資基準は緩和されつつあります。融資基準の緩和は、現在高水準にあるデフォルト率の低下に寄与するはずです(チャート7)。投資家と融資機関は個人向けよりも、企業向け融資基準を緩和していると見られます。これは企業による資本市場における資金調達が容易になっていることからも明らかであり、最近の株式市場のパフォーマンスが住宅に比べて良好なことも、そこに影響している可能性があると考えられます。企業の資金環境は個人よりも速いペースで改善しています。それでも、融資基準を左右するのはリスク取得意欲であり、リスク取得意欲は資産価格の水準と直接連動しています。資産価格が上昇している時には貸し手の融資意欲が高まり、資産価格が下落している時には、融資意欲が冷え込みます。このように、リスクを取ろうとする貸し手の意欲は、住宅価格と株価、そしてボトムアップのクレジット・ファンダメンタルズと密接に連動しています。
企業の資金環境とフリーキャッシュフロー、融資基準は改善しており、短期的な経済成長を緩和的財政金融政策が下支えしていることにより、企業ファンダメンタルズはほとんどの企業で安定しつつあり、一部には改善している企業もあると考えられます。政策面からの積極的な支援が続いていることにより、資本市場と経済の改善の結果、この傾向は向こう数ヵ月間、持続する可能性が高いと考えられます。しかし、現時点においてクレジット・リスクを管理するには、個別企業のファンダメンタルズに関する徹底したボトムアップ分析を通して、個別の機会を特定し、ボールをピンに寄せることが必要です。
投資家は何をすべきか
目先の良好なテクニカルと、まずまずの相対的バリュエーション、安定しつつある企業ファンダメンタルズにより、クレジット市場に対する厳選した投資は依然として魅力的です。しかし、これまでのスプレッド縮小規模を考えると、投資家は慎重になる必要があります。それはなぜでしょうか。最終需要、特に先進各国における最終需要が弱いままとなるリスクを考えた場合、現在の景気回復の持続性に関して、依然として強い不透明感を拭えないためです。
米国では、高水準の家計債務残高と低水準の貯蓄、所得の低い伸び、弱い雇用動向といった要因により、個人消費が引き続き圧迫され、向こう数年間、名目成長率は低水準に留まると見られます。個人消費は米国経済の70%を占めるため、個人消費が弱ければ、名目経済成長率は向こう数年間、標準的水準を下回ることになるでしょう。これは重要です。なぜなら、名目経済成長は企業全体のデフォルト率に大きく影響するからです(チャート8)。企業のデフォルトはピーク時より減少したものの、名目経済成長が弱い中、トップラインの売上高の伸びが低調なことにより、高レバレッジ企業を中心に、高止まりする可能性が高いと考えられます。
現在のハイイールド市場では、投資家が利回りを求めてきたことにより、ほとんどの銘柄で、優先債から劣後債のスプレッド縮小が行き過ぎている可能性もあると考えられます。PIMCOは資本構成の優先部分を選好しており、最近のラリーとスプレッドの縮小を考慮し、引き続き投資対象を慎重に選別しています。ハイイールド債市場はベータが高いため、資本構成の下部ほど大幅にラリーしましたが、それにより、現時点ではリスクに見合った十分な見返りを期待できない水準になっているケースがほとんどです。
リスク・リターンの観点からクラブを選択フェアウェイが狭くなったことを踏まえ、PIMCOは主に、銀行、パイプライン、エネルギー、金属、通信、ヘルスケア、ケーブルテレビといったセクターの高格付優先債のリスク・リターンを最も魅力的とみています。以前に『満ち潮から波立つ局面に』7で指摘した通り、こうしたセクターは政策面の支援やエマージング市場国の相対的に強い経済成長、資産価格リフレを図る大胆な財政および金融政策、そして企業によるリスクとレバレッジの削減に伴う業務レバレッジと金融レバレッジの低下により、長期的なアウトパフォーマンスが期待することができます。
最近のスプレッドの縮小からすると、厳選した投資適格企業とハイイールド企業双方の高格付優先債に魅力的な投資機会があると思われます。利回りが0%に近いキャッシュの魅力は低く、株式は企業の資本構成で最も劣後した地位にあります。厳選した投資適格およびハイイールド社債から得られる1桁台中盤から後半の利回りは、キャッシュや株式と比較して、際立っていると考えられます。
フェアウェイの縮小に伴い、対象を厳選クレジット市場に対するPIMCOの強気な見方の起点となったのは、1年前に発表した『今は社債、株はその後に』8です。当時、クレジット・スプレッドは過去最高に近い水準にあり、投資家はリスクと不透明な状況に対する十分な見返りを得ることができました。そこで、PIMCOはグリーンを目がけ、渾身の力を込めてショットを打つゴルファーと同じように、グリーンに向かってフォローの風が吹いており、フェアウェイは広く、ピン位置も良好であり、大胆なクレジット戦略を取ることができると判断しました。PIMCOは今年前半、クレジット市場に対する強気の見通しを維持し、『高格付社債投資の好機』9と題したレポートにおいて、クレジット市場、特に銀行および金融セクターに、絶好の機会があると指摘しました。一部の企業が株主資本の調達と資産売却により、バランスシート上のレバレッジとリスクを低下させることに成功したことから、銀行を中心に風向きが変わろうとしていると感じられました。政策による支援と極端にスティープなイールドカーブにより、このセクターのテクニカルとファンダメンタルズ双方の方向性が変化しようとしており、厳選した銀行や金融会社に関して、ドライバーを使って渾身のショットを打つべき状況が到来していたのです。現在、短期的な風向き(テクニカル)、ピン位置(ファンダメンタルズ)はクレジット市場にとって引き続き、有利な状況にあるものの、クレジット・スプレッドの縮小に伴い、フェアウエイ(バリュエーション)の幅は以前よりも狭くなっています。難しさを増したこの環境で、PIMCOは社債に対して、選別色を強め、より慎重なアプローチを取っています。こうした状況では、個別の銘柄と、それに付随するリスクを1つ1つ厳格に分析することが必要になります。クレジット・スプレッドは過去の水準と比較すると、依然として広く、クレジット市場に対して目先、堅調な資金流入が続くと考えられます。しかし、最終需要は弱く、所得の伸びが横ばいであり、失業が高水準となる中、景気回復の長期的な持続性は依然として不透明です。ゴルフに例えて言うならば、1年前にはほとんどのホールでドライバーを使ってティーショットを打っており、半年前には、いくつかのホールで大胆な戦略を取りましたが、現在は、リスクを軽減し、より戦略的に臨むため、アイアンで刻んでいるところです。 現在の狭くなったフェアウェイとクレジット・スプレッドからは慎重さが求められます。現在の経済環境からすると、フェアウェイを外した場合、スプレッドが縮小してしまった後だけに、そのつけは一層大きなものとなります。現在、PIMCOはドライバーを使わず、ボールの正確なコントロールを重視しています。プレイを続行する限り、スコアは低く抑えたいものです。PIMCOはコースの状況変化に応じて、お客様に対して高水準のリスク調整後リターンをご提供するための取り組みを続けています。
マーク・キーセルマネージング・ディレクター
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