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政策的取り組みは債券投資家に有利
民間部門の支出意欲の喪失は所有者よりも貸し手に有利他にも、現在の経済環境では貸し手(債券投資家)が所有者(株式投資家)よりも有利になると考えられる理由があります。銀行システムの資本増強を支援する政府の取り組みが機能するまでには、ある程度の時間がかかる可能性があります。現在の景気サイクルでは、信用と資金の逼迫が景気の大幅な減速の原因となってきました(チャート 5)。民間部門が縮小する一方で、景気支援のために公的部門が果たす役割は増大しています。それでも、民間部門における支出意欲の喪失は重大な問題です。公的部門には十分な資金(wallet)があるかもしれませんが、支出、もしくは投資する意思(will)が民間部門から失われると、景気は潜在成長率を回復できず、結果として、債券保有者が株式保有者よりも有利になります。
現在の景気サイクルで重要になるもう1つの要因がレバレッジです。現在の状況はどうなっているでしょうか。景気が減速する中、民間部門では企業と消費者が共に、レバレッジの削減を余儀なくされています。政府が銀行部門の資本増強に手を貸しているものの、銀行は依然として、マネーを実体経済に還流させていないとみられます。それはなぜでしょうか。経済がさらに悪化すると、追加的な評価損の計上が必要になる可能性があるため、銀行は警戒感を強めており、その結果、融資基準を厳格化しているからです。さらに、U.S. Credit Perspectives 2008年10月号“Trick or Treat”で指摘した通り、企業は資本市場からの資金調達が難しくなったため、銀行からの与信枠を活用しており、それに伴って、銀行の意思とは関わりなく、また予期せぬ形で、リボルビング与信枠が利用される例が増えつつあります。経済が悪化し、銀行の与信枠の引き出しが進むに伴い、銀行は経済に資本を還流させることに消極的になりつつあります。つまり、「支出意欲の喪失」は民間部門におけるレバレッジ解消の原因でもあり、結果でもあるというわけです。現在の経済において、消極的な経済主体が銀行だけではないことは明らかです。消費者も失業の増加や信用の逼迫、住宅価格と株価下落に直面して、消極的になり、消費者の信頼感は低下しています。資産価格が下落しているため、銀行は消費者向け貸出基準を引き締めています。そのため、消費者は支出意欲だけでなく、支出の原資も失いました。資産価格の上昇を裏付けに消費者が支出を続けた以前の状態から、資産価格の下落に伴って、レバレッジの削減を迫られている状態に移行したことは、最終的に消費者の支出額が減少することを意味します。消費者がレバレッジと支出を削減すれば、企業利益の伸びと経済全体の成長率を低下させます。この点は重要です。直近の景気サイクルでは資産価格の上昇がリスクを取る意志を支え、企業の「アニマル・スピリット」を育み、銀行による融資と消費者による支出につながったためです。支出の増加に伴って、企業収益が拡大し、雇用が生み出され、設備投資が増加し、それが民間部門の支出意欲をさらに高めることになりました。 しかし、資産価格が下落に転じたことで、銀行は貸し渋りを始め、モーゲージ債務の伸びは急激に減速し、経済成長は著しく悪化しています(チャート6)。資産価格の下落とリスク取得意欲の低下、バランスシート上のレバレッジ縮小に伴い、民間部門の支出能力(資金提供能力)は低下しつつあります。この過程で、消費支出は既に減速しており、企業の利益は低下傾向にあり、それが雇用と設備投資の縮小につながります。このレバレッジ削減への転換で、消費者と企業双方の支出意欲は大きく低下しました。そこで、銀行システムにおける債務の履行を確実にするため、政府の資金が利用されているのですが、民間部門の支出意欲が失われたことで、経済成長は引き続き圧迫されることになります。
融資は株式保有よりも魅力的民間部門が萎縮してしまい、公的部門による支出に頼らざるを得ない経済環境に移行したことは、運用上、株式投資家よりも債券投資家に有利な状態が続く可能性が高いことを意味します。要するに、現在の環境では、資本構成の最上部に対する融資が、資本構成最下部となる株式の保有よりも有利だということです。前述の通り、レバレッジの削減は経済成長の低下を招き、その結果、企業の利益は低水準にとどまると考えられます。企業利益は雇用創出に9ヵ月から1年先行する傾向がみられます(チャート7)。そのため、過去数四半期に生じた企業利益の急激な落ち込みは、失業率が向こう1年間で大幅に上昇するとみられることを示唆しており、失業率が大幅に上昇するのであれば、結果として、個人消費の回復は見込めません。したがって、来年は雇用環境の悪化に伴い、対GDP比でみた企業利益にはかなりの圧力がかかることになると予想されます(チャート8)。
失業の増加に加え、高い資本コストも企業の懸念材料となります。クレジットと資金環境の逼迫により、新規資本を確保するためには投資適格企業で8~12%、ハイイールド企業では最大20%の支払いが必要になる可能性があり、高い資本コストは企業の利益率を一層圧迫することになります。資本コストが低下し、社債市場が回復するまで、株価の回復も見込めないでしょう。また、この景気サイクルで、銀行はハイイールド企業のデフォルト率が顕著に上昇する前に、既に融資を絞り込んでいます(チャート9)。銀行と投資家が資本市場で融資基準を大幅に厳格化させているという事実は異例のことながら、レバレッジ水準が高く、バランスシートが脆弱な多くの企業が最終的にデフォルトに至ることを意味しています。ムーディーズはハイイールド企業のデフォルト率が向こう12ヵ月間で10.4%を超えると予想しています。
現在のファンダメンタルズ環境とテクニカル環境を考えると、投資家は引き続き、レバレッジ水準の高い企業の株式を敬遠するでしょう。ファンダメンタルズでは、実体経済における逼迫した信用環境と更なるレバレッジの削減は、レバレッジを利用した資産の保有者が引き続き打撃を受ける一方で、優先債務の貸し手にとっては有利に働くことを意味します。優先債の保有者と銀行はコベナンツによる保護の形で資産に対する追加的な安全性を確保することができるでしょう。一方、最優良企業、もしくは政府による支援が受けられる可能性の高い企業以外は資本市場を利用できなくなっている状況で景気の減速が深刻化することは、株式保有者にとって、企業が必要な流動性を維持するため、減配に踏み切る可能性が高くなることを意味します。結論として、現在の状況ではレバレッジ水準の高いあらゆる資産や企業が引き続きリスクにさらされているということです。不動産価格の下落は続く可能性が高く、レバレッジ水準の高い企業の株価には引き続き、強い下落圧力がかかるでしょう。これに対し、高格付企業の社債利回りは8%に達しており、さらには長期的な企業収益の伸びは名目GDPに連動するため、現在の状況では株式と比較して、高格付社債が特に魅力的と考えられます(チャート10)。資本構成の下位に投資している投資家は、優先債務への上位移行を進めるべきであり、株式投資は、社債市場の回復を確認してからでも遅くはありません。最終的に株式投資は魅力的となるはずです。しかし、金融市場と消費者のレバレッジ削減が進む一方、逼迫した信用環境が続いていることを考えると、現段階ではリスク調整後でみて、株式投資よりも債券投資の方が魅力的です。
今は社債に投資し、その後で株式にクレジット市場はこの景気サイクルの悪化局面を先導してきました。そのため、最終的な改善局面でも先行する可能性が高いでしょう。資産価格の上昇が高い債務水準を支えた過去の世界は今、変化の途上にあります。しかし、資産価格が下落しているため、民間部門、すなわち消費者と企業はレバレッジの削減を余儀なくされており、そのために、今後も資産価格には下落圧力がかかるでしょう。現在と将来の政策的取り組みは債券保有者に有利になる一方、株式の希薄化を引き起こし、株式の魅力を低下させるものです。逼迫した信用環境により、企業は配当を支払い、設備投資を拡大するのではなく、バランスシートの健全性を維持せざるを得ないため、現在の環境は株式を保有する投資家にとって、特に厳しいものといえるでしょう。こうした状況に加え、元本保護を重視し、信用力に優れた投資対象の安全性を選好する長期的な人口動態に伴う傾向が融合して、株式よりも債券が有利になっています。政府による政策的取り組みにより、経済成長を下支えするため、公的部門の資金が投入されています。しかし、民間の支出意欲と投資意欲が失われた状態では、景気後退が長期化する可能性が高く、それは株式投資家にとって悪材料となります。民間部門のリスク取得意欲が著しく低下している現在、デフレ環境における株式の非対称なリスク特性が特に懸念されます。財政政策と金融政策により、デフレ・リスクは縮小するものの、民間部門が萎縮し、信用が逼迫した状態では、資本構成最下部、すなわち株式投資のパフォーマンスは、高格付債と資本構成最上部に対する投資のパフォーマンスを下回る可能性が高いといえます。つまり、投資家が今、検討すべきは高格付社債への投資であり、株式投資はその後に回しても、遅くはありません。
マーク・キーセル2008年11月22日
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