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Investment Outlook
ビル・グロース | 2009年11月
真夜中のともしび
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未来からの寒風が私の寝室に吹き込んでくるのは、多くの場合、恐れが支配し、希望が黄泉の国へと沈んでいく真夜中のことです。この風は背筋を凍らせ、闇と死がいつか訪れることを知らせるものであり、簡単に振り払うことはできません。かつてはかすかに聞こえるだけであったこの風音は、歳を重ねると共に大きくなってきました。いずれ、この死神の風音が唸りを上げる夜に、その力に抵抗し、私に構わずに去れと叫び、すべては悪い夢であったのだと考えようとすることでしょう。しかし、これは夢ではありません。シェークスピアのマクベスにこれを見事に説明した一節があります。「消えよ、消えよ、束の間の灯火!」。しかし、優れた言葉も慰めにはなりません。最終幕は常に同じなのです。

60代以上の読者の方であれば、私の言わんとするところがお分かりでしょう。夜でなくても、同世代の仲間がこの世を去ったことを告げる記事や告知を目にしない日はありません。もっと若い世代の方々は、いったい私に何があったのか、不思議に思われていることでしょう。私にもかつて若かりし頃がありました。死ははるか遠く、いずれ直面する現実というよりも、哲学的な論点と感じるほどであった10代の頃、満天の星空の下、キャンプ場で友人達と死の不思議について、大いに語り合ったことを覚えています。また、肉体的に最盛期を迎えた30代の頃、鏡の前に立ち、そこに映る自分に向かい、私は決して歳を取らず、どうにかして死とは無縁であり、私の魂は永遠であると語りかけたことを覚えています。今、鏡をのぞき込めば、動かし難い現実を目の当たりにすることになります。それは、過去のすべての人や、これから生まれ来るすべての人と同じく、私もごく普通の人間だということです。私はいつかこの世を去り、その後もこの世界は続いていくのです。

では、どうすればよいのでしょうか。この老年期を楽しみ、私に与えられたすべての贈り物を最大限に活かすこと、すなわち健康な65歳の体を使い、まだまだ重要な貢献ができる、この素晴らしい仕事に打ち込み、そして明るく輝き、深夜の風音をかき消してくれる素敵な妻との暮らしを満喫することです。マクベスのような「塵泥の死」は依然として受け入れることはできません。真夜中には恐れと怒りだけがあります。いずれすべての人を連れ去る風を吹かせる闇夜に対する怒りです。

今月、スムーズな運用は容易ではありません。市場は強がって怖くないふりをしながら進んでいるのでしょうか。ヴァンパイアのような、生きも死にもしない経済が出現するのでしょうか。この先に薄気味悪い調整が待ち受けているのでしょうか。かなり厄介な状態であるため、ニューノーマル経済ではなぜ(1)長期的な視点からは、すべての資産が過大評価されているように見え、(2)経済を必要な巡航速度以上に維持するため、政策当局は人工的に低い金利と景気支援のための緩和措置を維持する必要があるのかについて、直接斬り込むことにしましょう。

最初に、長い間のPIMCOの命題を一言でまとめてみましょう。それは、過去数十年間にわたる資産価格の上昇により、米国や他のほとんどのG7経済が人為的で過大な影響を受けてきたということです。株価と住宅価格は上昇し、消費者は財布のひもを緩め、キャピタル・ゲインを裏付けに資金を借り入れるか、売却によってキャピタル・ゲインを実現し、それを支出してきました。言い換えると、レバレッジと証券化、そして富の創出は財とサービスの生産ではなく、資産価格の上昇により決まるという確信の3つが、経済の伸びしろに影響したということです。米国民や、米国民と同じように熱狂した世界各国の国民は、かなり以前に市場の裏側にある経済的な基盤ではなく、市場そのものに注目することを覚えました。ニューヨークのタイムズ・スクエアに掲げられた巨大スクリーンで、最新のGDP統計や雇用の創出に関する発表に拍手喝采している人々の姿が映し出されるのを目にしたことがあるでしょうか。もちろんないでしょう。一方、ニューヨーク証券取引所やナスダックの寄りや引けのセレモニーとして、満面に笑みを浮かべた資本家が、市場の方向性にかかわりなく、その値動きをはやしている姿は日々目にします。私が言わんとするのは、資産価格は私たちの魂に刻み込まれているだけでなく、実際の経済成長率の基盤にもなっているということです。資産価格が上昇しなければ、経済は低調となり、資産価格が下落すれば、経済は著しく落ち込む可能性があります。

経済と市場は必然的に連動するものであるため、これは鶏が先か卵が先かの問題に近いと思われるかもしれません。実際、ほとんどの場合、経済と市場は連動しており、またそうあるべきです。先日のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された“Dow Bubble(ダウ・バブル)?”という記事で指摘されていた通り、企業利益と名目GDP成長率は連動するものであり、それゆえ株価と名目GDP成長率の間にも相関が見られるはずです。PIMCOのサーミル・パリークが作成した、50年間を網羅したチャート1をご覧下さい。確かに決定係数R2は0.305と低水準ですが、それは当然予想されたことです。企業収益も、企業や労働者、政府、諸外国など、GDPの成長を糧としている個々の存在の関数であり、企業が好調で、その利益が拡大している局面では、GDP成長率を上回る利益が達成され、反対の局面では、チャートの回帰線を下回っています。同じく指摘すべき点として、名目GDPが6~7%の成長を遂げている、正常に機能している経済では、利益が同じ率で伸びています(成長分配のテール部分では、重大な歪みがあります)。そして、長期的な企業収益が名目GDP成長率と一致するのであれば、理論上、株価も一致するはずです。

しかし、必ずしもそうなってはいません。実際に起きていることは、現代の「ペーパー資産」経済により、株価だけではなく、あらゆる資産価格が、正当化されるために必要な経済成長率を上回る水準に押し上げられているということです。確かに、いかなる場合も、理論的な「証明」においては、データの起点と終点をいつにするかについて慎重になる必要があります。ジェレミー・シーゲル博士の『株式長期投資のすすめ』アプローチの誤りもこの点にあります。博士のアプローチは、株価収益率がきわめて低水準であった時点を起点とし、ほとんどの長期の期間の終わりを株価収益率が大幅に高い地点に取り、過去75年程度の米国株式の実質収益率6.5%のシーゲル定数を正当化しています。また、ニューヨーク・タイムズ紙の“Dow Bubble”記事の著者らは、1995年の4,000ドルを起点とし、それ以降、株価と名目GDP成長率とが完全に一対一の相関関係にあったとすると、ダウ平均は現在の10,000ドルではなく、7,800ドルという妥当なバリュエーションになっていたと主張していますが、この主張にも同様の弱点があるかもしれません。

そこで、株式だけでなく、幅広い種類の資産の年間上昇率と名目GDP成長率を比較したPIMCOの長期(半世紀)のチャートをご紹介しましょう(チャート2)。株価だけをやり玉にあげるのではなく、債券や商業用不動産を始め、価格のついたあらゆる資産に対象を広げ、これまでの経済成長から見て、現在の価格が正当化されるかどうかを見ていくことにします。

ここでは、米国の全資産の平滑化5年トレーリングで見た1956年以降のバリュエーションの伸び率と、前年比で見た経済成長率という異なるフォーマットの数字を比較しています。この分析からは複数の興味深い点が浮かび上がります。第一に、資産は常にGDPを上回るペースで上昇してきたわけではありません。分析対象とした期間のうち、最初の数十年間は、「ペーパー資産(証券)」よりも、経済成長が支配的な力を持っていました。米国はペーパー資産ではなく、モノを作ることにより、豊かになっていきました。しかし、1980年代を境に、金融デリバティブの発達やレバレッジの活用の拡大を含め、市場崇拝の力が優勢になり始めます。1990年代初頭と2001~2002年、そして2008~2009年だけは、景気後退の悪影響により、中断されたものの、それ以外の期間では、一貫して資産価格が名目GDP成長率を上回る上昇となり、50年間全体でみた場合、資産価格上昇率と名目GDP成長率の格差は平均して年間1.3%に達しています。言い換えると、工場や機械、教育水準の高い労働力といった必要不可欠な要素に投資するよりも、ペーパー資産に投資していた方がはるかに高いリターンを得られたということです。要するに、この間、米国民はサブプライムやIT企業などの価値のないペーパー、また一部優良株や投資適格債や国債などに資金を投じ、一方で生産的な未来を空洞化させていたということです。50年間、年1.3%のアウトパフォーマンスを複利計算すると、当初の約2倍になり、すべての資産からのリターンは、理論的に妥当と考えられるよりも100%(すなわち年間GDPに相当する15兆ドル)多くなったという結論が得られます。結局のところ、少なくとも1956年当時と比較して、株式や債券、住宅、ショッピング・センターの価格を極端な水準に押し上げたのは金融レバレッジであり、このレバレッジが積み上げから削減に転じ、名目GDP成長率が再び主流になるに伴い、今後この反動が生じる可能性が高いと考えられます。

もちろん、最近の価格の天井から、この100%の過大評価部分が修正されるとの判断は乱暴かつ単純で、現実離れした悲観論です。この考え方からすると、ダウ平均は7,000ドルに、住宅価格は2007年の水準のなんと半分になるはずであり、商業用不動産価格(ラスベガスのホテルや、空室率が2割に達する大都市のオフィスビル)も同じようにレバレッジ削減による大打撃を受けることになります。こうした価格調整の一部はすでに起きており、公平を期すために言うと、社債やハイイールド債も、米国流ペーパー資本主義と言うよりは、むしろブラックホールのような高すぎる価格からの修正の渦に放り込まれることになるはずです。しかし、ここで問題を複雑化させる要素が登場します。それは米連邦準備理事会(FRB)や財務省、連邦預金保険公社(FDIC)などの政策当局がこの状況を認識していることです。利用するモデルや認識の度合いに違いはあるかもしれませんが、将来の名目GDP成長率を過去の標準的水準に近づけるためには、資産価格の下支えが必要なことを、当局は理解しています。経済のあまりに多くの部分が、あまりに長くウィルスに冒されてきたため、依存習慣を断ち切ることが難しくなっているのです。過去15年間の日本がよい例です。日本の量的緩和と0%近い短期金利は最終的に株価と不動産価格の下落を阻みましたが、その損失は多大であり、経済は最悪の事態は免れたものの、力強い拡大を見せることはほとんどありませんでした。世界各国の政策当局は現在、同様の手を打つこと、すなわち、資産価格を下支えすることにより、病んでいる資本主義を生き長らえさせることを目標にしていますが、可能であれば、「オールド・ノーマル」における成長ペース、すなわち米国の名目GDP成長率で6%程度のプラス成長を達成しようとしています。

いうまでもなく、そのためにさまざまな形で支援が実施されています。具体的には、金融システムの保証、不良資産救済プログラム(TARP)による銀行の資本増強、ターム物資金入札(TAF)、ターム物資産担保証券ローン・ファシリティ(TALF)、官民投資プログラム(PPIF)などであり、欧州と英国では、低金利でのターム資金供給、銀行の準国営化、米国同様の資産買い取りが実施されています。米国の場合、政策当局が実施した暗黙の資金支援と明示的な資金支援は、総額で最大5兆ドルに達しており、これがPIMCOのモデルで理論的に算定された15兆ドル程度の資産の過大評価を部分的に下支えする役割を果たしています。興味深い点として、中国は別のアプローチを採用しており、ペーパー資産を支援するのではなく、モノを作る実体経済に、同じように多額の資金を投入しています。これは輸出が中国経済の成長の原動力であるためであり、さらには中国が米国ウィルスに冒されておらず、ペーパー資産の予期せぬ損失の打撃を受けていないからに他なりません。

これに対して、米国の政策的支援の中核は「極端に低い」ゼロ%の政策金利にあります。FRBが政策金利をどれだけの期間、この水準に据え置くかは、名目GDP成長率の回復ペース、そしてこの名目成長率が実質成長率とインフレ率とでどのように構成されているかによって決まります。直感的に言うと、FRBが利上げのリスクを取ろうとするのは、名目GDP成長率が4%近い水準で安定していることを示す現実的な兆候が見られるようになってからになるでしょう。現在の米国の債務市場の実質的なコストは6%近くであり、政策当局が企業と家計のバランスシートにおいて、債務デフレが続くことを回避しようとすれば、名目GDP成長率はこの水準に近くならなくてはなりません。米国経済の2009年下半期の名目成長率は4%近くなる可能性が高いと思われますが、在庫調整の反動と財政支出効果が一巡した後も、この水準を維持できるかどうかは疑問です。FRBは4%以上の名目成長率が12~18ヵ月間続くことをゼロ金利政策の解除の条件にすると考えられます。

それを分析するためのもう1つの方法を紹介しましょう。過去18ヵ月間に生じた資産市場の価格下落により、FRBが将来の実質金利と名目金利をきわめて低水準に維持しなくてはならないことは当然と思えます。401Kが「201K」に成り果て、ようやく「301K」に戻ってきた現在、経済における民間部門の機能を回復させるためには、負の資産効果に歯止めをかける必要があります。株式や投資適格債、ハイイールド債などのリスク・スプレッドの再正常化は、将来の成長の基盤が出来上がったのではという期待を、別の形で表現したものです。PIMCOはこのプロセスが80~85%完了したと推定していますが、このプロセスはニューノーマルの中にあっても、明るい「あるべき」帰結をもたらす可能性を与えてくれるものです。しかし、投資家はFRBや財務省、FDICの政策的保証と、種類を問わず、何らかの資産の購入を投資家に強要する懲罰的な0%の短期金利の継続がなければ、リスク・スプレッドは安定せず、再び拡大する可能性があることを認めなくてはなりません。

多少、細部にまで入り込んだ、このFF金利に関する分析を経ることにより、FF金利が低水準に留まらなくてはならない理由に関する最初の命題、すなわち、米国や他のG7諸国の資産価格は長年、過剰に押し上げられてきた、という命題に戻ることになります。株式や住宅、商業用不動産や特定のハイイールド債で平均30%になる最近の下落トレンドを下回って価格が下落することを回避するためには、中央銀行が長期にわたり、政策金利を歴史的低水準に維持することが必要になります。政策金利が必要以上に低いとすると、債券投資家は、量的緩和プログラムや中国の為替ペッグなど、恣意的な債券購入により、ほぼすべての金利水準が抑制されていることを認める必要があります。これにより、短期から中期の米国債を始めとする資産価格は下支えされているかもしれませんが、将来のインカムはきわめて低水準になります。言うまでもなく、0.15%の短期証券、1%を割り込んでいる2年債、わずか3.4%の10年債を見れば、この避けがたい結論は一目瞭然です。デフレに向かわないとすると、米国債の投資家が期待できるリターンはこれですべてです。債券市場では、目に見える利回りと投資家が実際に手にするリターンが同水準になることが少なくありません。この概念を米国債券市場全体(モーゲージ証券+投資適格社債)に拡げても、債券市場全体の利回りはわずか3.5%に過ぎません。それ以上を手に入れようとすると、V字型の回復と「オールド・ノーマル」の市場標準への期待にますます惑わされた投資家はハイイールド債やディストレスト・モーゲージ、株式に引き寄せられることになります。しかし、こうした期待が現実化する可能性は低く、現時点ではリスクがリターンを上回っています。資産が名目GDP成長率と足並みを揃えて上昇するとした場合、政策金利が異例に低い中でも、投資家が期待できるのは4~5%のリターンに過ぎないことを認識しなくてはなりません。この結論には怒りを禁じ得ないかもしれません。しかし、FRBと財務省による下支えが続く中での6ヵ月にわたるリスク資産のラリーは、今がその頂点にあると考えられます。束の間の灯火は今、消えようとしています。

ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター

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