今回のタイトルである「投資の将来」は、目先はもちろんのこと、今後何年にもわたる変化を経て、ようやくその姿が明確になるテーマです。しかし、難しい課題に対して積極的に正面から取り組むのがPIMCOの流儀です。この疑問の答えが今後の世界経済の動向に大きく左右されることに異論はないでしょう。そして、PIMCOは長期経済予測を活用し、こうした疑問に取り組み、秀でた実績を残してきました。PIMCOの長期経済予測は30年以上にわたり、お客様に利益をもたらす原動力となっており、それは現在も変わりありません。事実、投資の将来は、世界経済の長期的未来、すなわち、世界経済がどの程度の名目成長を達成でき、そしてその成長を公的部門と民間部門とがどのように分け合うかによって決まります。そこで、まずPIMCOのトップダウン・プロセスの起点となる世界経済の将来から見ていくことにしましょう。
1. 世界経済の将来世界経済の将来はレバレッジの削減、ディグローバリゼーション(脱グローバル化)、規制強化に支配されることになると考えられます。但し、そうだとしても、最初に指摘すべき重要な点として、PIMCOは平均回帰する循環色の強い未来を展望しているわけではありません。新たな世界では、経済主体がこれまでとは異なる役割を負うことになり、過去のデータを基に、釣鐘形でテールの薄い帰結を想定したモデルの有効性は低下します。ヒストリカル・モデルは過去を振り返るものですが、現在の金融は急速に変化しており、今、こうしている間にもその姿が変わりつつあります。
次に、将来の世界的経済成長に対するトップダウンの枠組みから、投資の将来が進化なのか、それとも革命なのか、PIMCOの展望をご説明します。
2. 投資の将来
それが進化であれ、革命であれ、認識すべき重要な点として、経済と投資におけるバブルの終焉に伴い、レバレッジは積み上げから削減に、グローバリゼーションはディグローバリゼーションに、そして規制緩和は規制強化へと転換し、それがリスク・プレミアムの全面的な拡大とボラティリティの上昇につながり、結果として、大半のアセットクラスで資産価格が下落することになります。新たな均衡状態に向かうこの過程は、かつて人々が保有していると認識していた富に影響を与えるという点で、破壊的な性質を持ちます。概算すると、今回のレバレッジ削減過程が始まって以来、世界の富の最大40%が破壊されたことになります。資産価格とは本質的に、創出される富の将来価値を割引いたものに過ぎず、富の創出が減速するだけでなく、その不確実性が高まるだけでも下落します。そうした環境では、株式や不動産、そしてハイイールド債などの形式の資本持分についても、再評価が進みます。資本主義が現在も、そしてこれからも引き続きゴーイング・コンサーンであり、リスク・テークにより、長期的にそれに見合ったリターンが得られると信じるのであれば、そうしたリターンが世界経済の将来の成長過程とボラティリティを適切に予測した初期価格とバリュエーションから生み出されることを認識しなくてはなりません。これを「安く買って高く売る」という原則にあてはめると、資産価格の見直しが進むこの期間に、投資家は最低限、「安く買う」ことが必要になります。そこで、適切に計算されモデル化されている場合でも、リスク・テークに対する投資家の選好を考慮することが必要になります。ピーター・バーンスタイン氏はこの数年にわたり、過去のリターン統計を基に長期的な観点から組成された政策ポートフォリオについて再考する必要があると、忠告しています。バーンスタイン氏は標準的な年金や基金の政策ポートフォリオに対するアプローチが難しい局面を迎えていると指摘しており、PIMCOもその通りと考えます。長期で見ると株式が有利であるとか、住宅価格は下落しないであるとか、無リスク資産対比で、2倍、もしくは4倍のリターンを達成するためには、レバレッジを使った資産構成が不可欠であるとか、こうした、古くからの決まり切った考え方を、現在は疑問視しなくてはなりません。実際のところ、2009年3月現在、リスク資産のリターンは多くの人々が考えるほど、良好ではありません。例えば、過去10年間、25年間、40年間のトータル・リターンを見ると、いずれも債券が普通株を上回っています 。住宅価格は2006年終盤のピーク水準から30%もの下落となり、ケース・シラー統計によると、過去100年間でインフレとようやく肩を並べるに過ぎません。向こう数年間で商業用不動産が最終的に時価評価されようになると、同じような結果が示されることでしょう。要するに、何が利益をもたらすかに関する既成概念が試されているのです。バーンスタイン氏が指摘している通り、確定的な収益率はありません。そして、PIMCOは将来の収益率が初期価格と将来の成長率、そして過去のモデルから必ずしも導くことができないリスク選好に左右されることになると考えます。政府の政策も、長期間の財産権と資本構成に影響を与えるという点で、重要な役割を演じます。今後、知能指数(IQ)や定量分析よりも、かつて私が主張したCQ (Common Sense Quotient)、すなわち「常識力」が主役になる可能性があります。たとえば、PIMCOの主な競合相手の中にはリスク・モデリングで名を馳せる企業もありますが、過去数年間に、債券ファンドとデリバティブ関連商品の分野で、こうした企業はPIMCOと比較して、どれだけの高いリターンを生み出したでしょうか。リスク・モデルは勿論、会社全体のCQの点でも、PIMCOは喜んで比較分析の俎上に乗りましょう。 では、常識から考えると、将来の資産のリターンはどうなるのでしょうか。この点に関する手がかりを得るため、変化する足元の状況について、PIMCOが以前に下した結論を再度紹介します。具体的には、レバレッジの削減、ディグローバリゼーション、規制強化が世界的に低調な経済成長と、リスク回避の高まり、通常の投資モデル・ポートフォリオへの不信、繁栄よりも生存を重視する姿勢につながるというものです。この見方が確かだとすると、投資家、もしくは投資家の意思決定機関は、不確実な利益よりも確実な利益、不安定なキャピタル・ゲインよりも安定した確実なインカム・ゲイン、革新的であるもののリスクの高いベンチャーキャピタル投資よりも、政府が規制する公益モデルを重視することになると考えられます。例えば、現在の価格水準からすると、社債の直接利回りは株式の配当利回りよりも高い上に確実です 。株式が、負債構成の中で優先部分を占める債券を上回る利回りをあげる、劣後したインカムの源泉と考えられた20世紀前半に似た状況が出現する可能性も排除することはできません。もっとも、リスクの高い資産クラスには未来がないとまで言っているわけではありません。最終的に適切な値付けされると考えれば、こうした資産クラスにも未来は開けています。事実、PIMCOはこうした資産クラスの多くの運用に参加するつもりであり、以前にも指摘した通り、それを無理なく、充分に遂行できる態勢を整えています。PIMCOが最近、運用を開始したテール・リスク保護を組み込んだグローバル・マルチ・アセット・ファンドはその一例に過ぎません。TALFを始め、政府の肝煎りによるレバレッジ・ストラクチャーに参加する可能性も、その1つです。但し、潮は引いていると思われ、バフェット氏の言葉を借りると、水着を着ているか、着ていないかに関わらず、水中に居たはずの海水浴客は皆、その真の姿を白日の下に晒すことになります。間近に迫ったPIMCOの長期経済予測会議で正式に承認されたものではありませんが、主観的に、この引きゆく波から、投資上のさまざまな意味を導き出すことは可能です。もっとも、私に言わせれば、レバレッジの積み上げと規制緩和、グローバリゼーションという過去の長期的サイクルがどの投資対象の追い風となってきたのかを考えれば、こうしたトレンドの逆転に伴い、どの投資対象のパフォーマンスが低調になるか、容易に想像がつくはずです。それは次のような商品になると考えられます。
言うまでもなく、こうしたトレンドの多くはこれまでにその進路や方向性、強さが反転しています。そして、いずれは以前よりも低下した価格水準と、政策効果による治癒の可能性により、現時点では敬遠されている資産に対する需要が高まる地点に達します。しかし、単純化して言うと、現時点ではトレンドに逆らうべきではなく、政府による場当たり的でまとまりがなく、活気のない対応は小さすぎであり、遅すぎると感じられます。したがって投資家は、投機的な成長やほとんどの民間市場における劣後債務構造とは対極に位置する、安定したインカムを選好するはずです。PIMCOはこれまでも、そして現在も、政府の行動を先読みし、その恩恵を受けられる分野に投資すべきと考えていますが、限界部分では政府が差し伸べる手の信頼性が疑問視される可能性のある分野が徐々に増えています。 また、最近のバートン・ビッグス氏の発言を引用して、PIMCOの警告を端的に表現することも可能です。ビッグス氏は「私は上昇相場の申し子だ」と言っています。この発言を分かりやすく表現すると、氏は右肩上がりの形状を示す繁栄のトレンド・ラインに向けた平均回帰が起き、最終的には高値を更新すると見込み、循環的な押し目で買うと言っていることになります。成長度合に違いこそあれ、ある意味で、私たちは誰もが上昇相場の申し子です。それは自由企業の生産性と技術革新の上昇相場であり、それを育んできたのは、今やその行き過ぎた状態が持続不可能であると証明されたレバレッジと規制緩和、グローバリゼーションの浸透です。現在、私たちは長じてその報いを受けているのであり、場所はどうあれ、再構築された新たな最終目的地に到達するために、下落相場におけるレバレッジの削減と債務の清算に依存している新たな現実を認識することを余儀なくされています。それゆえ、歴史家はこうした局面を進化ととらえるかもしれませんが、その中で日々暮らす私たちにとって、これが革命と感じられることは確かです。1929年にアービング・フィッシャーが「高水準の繁栄が永遠に続く」と断じた直後、株価の暴落が発生しましたが、「低調な状態が永遠に続く」との予想も、これと同じように的外れとなる可能性があります。これまで慣れ親しんだ上昇相場が終わり、革命が進行していることは間違いありません。投資は以前のように、簡単に成果を上げられるものではなくなったのです。ウィリアム・H・グロースマネージング・ディレクター
関連レポート
A Lot of Bucks, But How Much Bang? - リチャード・クラリダGlobal Perspectives, 2009年3月